村の場所を決める。
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
俺とノーラは王の部屋からノルデン侯爵の執務室に戻った。
「まあ、こんな感じで王との話は終わり」
フルフルと手を握るノーラ。
「私が居なくても良かったじゃない!」
口調代わってるねぇ。
大分怒っていたのか俺のボディーを殴るノーラ。
痛くないので無視してノーラの頭を撫でておく。
「まあ、許可も出たし、融通もしてくれそうだからよかったじゃない」
「それはそうだけど……」
渋々納得したようだ。
「この後どうしますか?」
「とりあえず村を作る場所を決めて、その場所に建物を建てる平地を作る。まあ、あとは追々だな」
「村を作る場所と言っても、国境なんて見えないし……」
困った顔のノーラ。
森の中、国で測量なんてしたことないだろうからその辺は曖昧なようだ。
「適当でいいんじゃない? 合っていたらノルデン侯爵の土地で、間違っていたら俺の土地だ。どちらにしろ問題はないと思うよ」
俺はニコリと笑って安心させる。
「俺の土地は自治領になるわけだ。だから、オースプリング王国からの圧力は少ないはず。まあ、圧力があったら、マティアス王に直接言って何とかするから気にするな」
その場合、もっと腫れもの扱いになるかもな
「はい」
ノーラは安心したようにうなずいた。
道の上空は飛んだが新しい道は実際に走っていなかった。
確認の意味も込めて、
「実際に出来上がった道を走ってみるか? 俺の高速移動を使うことになるが……」
俺はノーラに言うと、
「えっ、あの高速移動?」
ノーラは期待をした目で俺を見る。
「どの高速移動かは知らないが、お前を抱き上げて移動する高速移動だが?」
意外と彼女らの話題に高速移動の件はあがっているようだ。こっちに来たころは頻繁に使っていたが、最近はリードラに手伝ってもらったりしてあまり使っていない。
「だったら行きます」
だったらって何だ?
他の方法だったら行ってくれないのだろうか。
俺は道の出口へ扉を繋ぐ。
「じゃあ、行こうか」
ノーラと二人で森の出口に行った。
「抱いて連れて行ってくれるんですよね?」
「そうなるだろうな。何ならおん……」
「おんぶででも」と言うつもりだったのだが、
「いや、『抱いて』でお願いします」
食い気味に否定された。
結局「抱いて」での移動となる。
目の前に広がる道を見て、
「あなた、何ですかコレ!」
ノーラが怒っていた。
クレイが作った一本道は前の世界の幹線道路の幅より十分に広い。
「人が歩いている状態で馬車がすれ違っても十分な幅を確保したつもりなんだけど」
「地方の街道でこの幅は無いです……」
ノーラのジト目が刺さる。
「物流を考えたら道は広いほうがいいだろ?」
「セリュックからここまでの道幅を考えてみてください。あなた、セリュックからここまでの道と、あなたが作った道の幅が全然合わないでしょ?」
土を固めただけの馬車が二台ギリギリすれ違えそうな道が思い浮かぶ。
「広すぎるね」
「石敷きの道ですから、馬車による運搬には効果があるとは思いますが、ここまで大きいとちぐはぐです」
「まあ、そこはセリュックまではこの幅にしてもいいし」
ノーラは頭を抱えると、
「はあ、あなたの事です、そうやって辻褄を合わせると思っていました」
溜息をつきながら言った。
「さて、実際に道を走ってみるか」
「はい」
俺は、ノーラを抱き上げる。
高速移動の最高速を出す。起伏も無く平らな道のためいつもより速いような気がする。
ノーラは怖がっているのか、目を瞑り俺の首にギュッと抱きついてきた。
「前を見てみろ……と言っても森しか見えないがね。ただ、こういう景色はノーラは見たことないんじゃないかな?」
恐る恐る目を開け、進行方法を見るノーラ。
木々が近づきすぐに後方に去っていく。
ノーラがこの速さを体感することはほとんどないんだろうな。
「これがあなたの見てる世界?」
「世界って訳ではないが、俺が見せられるものの一つ」
「あなたはいろいろな世界を知っているのでしょうね。そんな世界を私にもっと見せていただけますか?」
そう言いながらノーラは俺を見上げる。
「ああそうだな、一緒に見て行こう」
俺は笑って言った。
俺のマップで位置を確認。国境線などわからないが、大体のところで止まった。
「この辺が国境より少し手前だと思う」
速度を落とすと、俺はノーラを降ろす。
「クリスさんが言っていましたが、最初は力が入りますね。肩が凝ってしまいました」
軽くストレッチをするノーラ。クリスもこんな感じだったな。
「すまないな、あまり考えていなかった」
「いいえ、あなたの目線に立てた気がしたから気にしないで。しかし、あなたに『国境がこの辺』と言われてもわかりません」
丁度クレイの作った橋の一つがある辺り。
ノーラは周りを見渡すと、
「でも川もあり水源には事欠かないかと」
と言っていた。
まあ、周りは森だから、木々を取り払わないと周りは見えないかな。
「じゃあ、この辺で一度平地を作ってみるよ。今日はクレイが疲れてるから、土木工事は明日からかなぁ」
クレイに言えばやってくれるだろうが、無理はさせられない。
「あとは、農地も作ったほうがいいか?」
ノーラは再びため息をつくと、
「あなた、急ぎ過ぎです。開拓に関しては岩塩鉱山が成り立ってからでもいいのではないでしょうか? まずは人を集め鉱山を軌道に乗せることが先決です」
俺を諭すように言った。
俺は急ぎ過ぎていたのかな。
「そうだよなぁ、ウルフにいろいろ言っちゃったからなぁ」
「そうです、あなたができるって事をウルフ殿下に見せてやらないといけません! 鼻っ柱を折ってやらないと」
俺がウルフに言われた言葉を根に持っているようだ。
「ありがとな」
「いいえ、私も腹が立ちましたから。二人で頑張って村を成功させましょう!」
「おう、了解!」
何もない森の前で気合が入る俺とノーラだった。
そんな俺とノーラの前に銀狼と狼のわんこ部隊が森の中からのっそりと現れる。
銀狼が俺を確認すると横一列に並び、そして尻尾を振りだした。
「あなた、これは?」
「ああ、言ってなかったか? 新しい仲間だよ。街道を守る狼たちの部隊だ。悪さをしない限り襲ったりはしない」
「狼が並ぶ姿は壮観ですね」
「そうだな」
すると、
「ご主人様、リルです。新しい道を凄い速さで走る者を見つけたと、小隊から報告がありました」
リルから念話が届いた。
「ああ、それは俺だな。ノーラと出来上がった道を確認していたんだ」
「そうだったのですか?三部隊ほどそちらに回したのですが、無駄足でしたね」
「リル、すまない。報告しておけばよかった」
「いいえ、何もなければ問題ないのです。この森の中を守るのがご主人様から与えられた私たちの仕事です。御主人様から部隊の者へ感謝の言葉を言ってもらえますか? 喜びますので……。彼らは人の言葉はわかります」
「了解したよ」
するとリルの念話は切れた。
しばらくすると残り二隊のわんこ部隊が並ぶ。
おお、三十匹以上の狼が尻尾を振っている。
ノーラが苦笑いしていた。
俺は頭を掻きながら、一匹一匹の狼頭を撫でる。狼たちは気持ちよさそうに目を細める。
あとからリルに聞いたが、俺の手から漏れる魔力が一番多いそうで、大層気持ちいいんだそうな……。
んーわからん……。
「俺のせいで、みんなすまなかった。そしてありがとう」
俺が、わんこ部隊の前で礼を言うと。
狼たちが一斉に遠吠えを始める。
そして立ち上がると、森の中に消えていった。
「あの狼たちが旅人を守るのですね」
ノーラは去っていった狼のほうを見る。
「だな、俺たちだけじゃ目が届かない。だから人だろうが魔物だろうが手伝ってもらわないとな」
すると、
「でしたら、ノルデン侯爵の領兵も……」
とノーラが言ってくる。
でもな、
「その時は頼むよ。でもな、ノーラに言われた通りまずは岩塩鉱山だろ?」
俺は、そう言い返した。
ノーラはちょっと驚いた顔をする。
「はい、そうですね、頑張らないといけません。ですから、そのために少し甘えさせてください」
そして、俺を見上げると、体を預けてくるのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




