開拓の権利申請
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
久々にドロアーテの冒険者ギルドへ入った。
結局揉めたから、俺の冒険者ランクは上がってないんだよなぁ……。
まあ、それはよしとして。
昼近い時間のため冒険者もチラホラしか居らず、暇そうにしていた受付け嬢のリムルさんへ声をかけた。
「お久しぶりです」
「ああ、マサヨシさん。開拓はどうですか?」
「ああ、前回の申請部分は終わりましたよ。それで、西方向に魔族領まで伸ばしたいのですが。よろしいでしょうか?」
「えっ、ちょっ、ちょっと待ってください。あの広さをもう終わっているのですか?」
「ええ、終わりました」
そんなやり取りが奥にも聞こえたのか、ギルドマスターのグレッグさんが現れた。
「マサヨシ、ちょっと来い」
「はい?」
首根っこを掴まれ、猫のようにギルドマスターの部屋へ連れて行かれる俺。
「強引ですね」
「ああ、強引にやらせてもらった」
部屋に入ると、ソファーに座る。
するとグレッグさんが口を開いた。
「一つ聞きたいんだがお前自治領を作るのか? 王から通達が来た。これは本当か?」
早く確認したいのか唾を飛ばしながら大きな声で聞いてくる。
「ちょっと、唾が……まあ、落ち着いてください」
「ああ、すまん」
「本当です。王に許可を貰いました。オウルでいろいろ頑張ったので」
「頑張った内容は、オークレーン侯爵家が潰れたことと関係があるのか?」
グレッグさんは探るように聞いてくる。
その通りなんだが、
「それは言えません」
と返した。
「言えないって事は何か絡んでいると考えるぞ?」
「調べればわかることでしょうから、それはご自由にしてください。俺は『ドロアーテの未開の土地であれば開拓して自治領にしていい』という許可を貰って行使しに来ただけですよ」
「まあ、通達内容には文句はない。どうせ、マサヨシの家の周囲は森だけの未開の土地だ。そこが開発されるのは国としてもいい事だろうからな。」
グレッグさんは俺を見て言った。
「ということで前回指定した場所の開拓が終わった報告と、現在の場所から魔族領までの西側の開拓場所の選定です。ルールにのっとって場所を決めに来ました。ちゃんとお金も払います」
グレッグさんはギルドマスターの部屋の扉を開けると、
「リムル、ちょっと部屋まで来てくれ。開拓用の地図も持ってだ」
そう言って、リムルさんを呼んだ。
しばらくすると、リムルさんが地図を持ってやってくる。
「マスター、結局、開拓の話するなら向こうでも良かったじゃないですか」
と、文句を言うリムルさん。
「お前、こいつは領主様になる。その辺の話は受付ではできないだろ?」
「へ? 何でマサヨシさんが、領主様?」
「オウルで何かやらかして、マティアス王から許可が出たそうだ」
やらかした部分ははぐらかしてくれるようだ。
「で、それと開拓がどう繋がるんですか?」
「マサヨシが開拓した場所がこいつの領土になる」
「えっ、凄いですね」
「それだけマティアス王に認められたということだ」
「だから領土を作るためにマサヨシさんは申請に来たんだ」
リムルさんがテーブルに地図を広げる。実際に地図を見るとノルデン侯爵領にある国境線までは結構あった。
道は比較的簡単だが、開拓となると大変だろうな。
「お前は西側方面に開拓地を広げると言っていたがなぜその方向へ?」
「それは、ドロアーテ側に広げたらベルマン辺境伯に危機感を与えるかもしれないからですよ。だから離れる方向に開拓します。『あなたには敵対しません』ってね」
俺がイングリッドやノーラと婚約していることはここまで伝わっていないらしい。まあ辺境伯は知っているかもしれないけどね。
「じゃあ、お前のところから、どのくらいの幅で国境まで引っ張る?」
「そうですねぇ、まずは俺んちを中心に白金貨一枚分の一辺で、魔族領に一番近い方向に引っ張ろうと思います」
羽を当て、確認するグレッグさん。
「そうだな、白金貨三枚分ぐらいか……。前に聞いたかもしれないが、はみ出た分は後で払っても問題ないぞ。多い分は返さないがな」
ニヤリと笑ってグレッグさんが説明した。
以前リムルさんから聞いたことのある話だ。
「という事は申請をある程度しておけば、後出しでも問題ないということか」
「そういうことになる。でも、気をつけろ、わざとそう言う場所を狙う奴も居るぞ」
ふむ、「開拓している」と気付かれる前に認めてもらっていないといといけない訳か……。
そうしないと、開拓の権利を申請されて開拓した部分を取られてしまうと……。
「わかりました。できるだけ早くに片をつけます」
リムルさんは詳細を確認すると、
「あまりに大きすぎて概略になりますが、権利が二百七十三万リル手数料が二万七千三百リルで、合計二百七十五万七千三百リルです」
机の上に白金貨二枚、金貨七十五枚、銀貨七十三枚を置いた。
枚数を確認すると、リムルさんは権利書を書き始める。
「マサヨシ、一度でこれだけの金額を払って開拓権を買った奴は初めてだ」
「まあ、俺も欲が出てきたって事です。五年以内に何とかしなければいけないんですけどね」
リムルさんが権利書を作り、俺の前に差し出す。
「これが今回の権利書です。そう言えば前回の分の確定もしておかなければいけませんね。いつ頃行きましょうか? 本人が居なくても確認だけなので問題ありませんが」
「時期は任せます。確定したら書類はここで預かっておいてもらえれば、次にこの街に来る時にでも寄るようにします。来るのは俺ではなく使いの者になるかもしれませんがいいですかね」
リムルさんは少し考えると、
「クリスさん、フィナさん、アイナちゃん、マールさんであれば問題ありません。他の人だと、私がわからないので」
と言った。
そうか、家を買った時以降に増えた者の顔を知らないのか。
「了解。別の者が採りに来る時にはその四人のうちの誰かが来るようにします」
「お願いします」
話は終わり、ギルドマスターの部屋を出る。
さあ、これで道を作る準備はできた。
移住用の農地も作らないとな。
マジックワームのこともある。
しばらく忙しくなりそうだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




