表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
255/328

エリス

誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。

「おとーさん」

「ん?」

 最近慣れ始めた「お父さん」の言葉。

 振り返るとエリスが嬉しそうに立っていた。

「弟か妹はいつできるの?」

「へ?」

 直球な質問に俺がきょとんとしていると、

「最近お母さんの雰囲気が変わったから……」

 とエリスが言ってきた。

「何かあったと思ったのか?」

「うん、お母さんが安心した顔になってた。それでお父さんがお母さんに手を出したのかなと……」

「そうか……言っていいのかわからないけど、お母さんには手を出したよ」

 子供にこんなこと言っていいのかな? 

 周りで「手を出した、出さなかった」言い過ぎなのかもしれない。

「だったら、弟か妹はできるんだね」

「弟か妹かぁ……。できてたらできてるだろうし、すぐにはできないかもしれない。こればっかりは授かりものって奴でね……」

「うーん、わかんないや」

 頭をガシガシと掻くエリス。

「そう、俺にもわかんない」

 俺も頭をガシガシと掻く。

「一緒だね」

「ああ、一緒だ」

 二人で顔を見合わせて笑うのだった。


「楽しそうですね」

 マールが声をかけてきた。

「うん、お父さんと居ると楽しい」

 ニコリとするエリス。

「マサヨシ様、紅茶でも出しましょうか?」

「ああ、頼むよ。だったらマールも休憩してはどうだ?」

「お言葉に甘えますね」

 そう言うと、マールは紅茶の準備に調理場へ向かった。


 そして、ティーポットとティーカップを持って帰ってくる。

 俺は紅茶の淹れ方は知らないが、マールが淹れる紅茶からはいい匂いがした。

「はい、エリス。熱いから気を付けてね」

 マールがエリスの前に入れたての紅茶を置いた。

「エリスは紅茶をストレートで飲めるか?」

「んー、ちょっと苦い」

 俺はジャムの入った壺を出すと、

「これで、甘くしてみな」

 なんちゃってロシアンティーを勧めてみた。

 そのあと、収納カバンからホイップクリームのケーキを取り出し、エリスとマールの前に置く。

「それじゃ、食べようか」

「うん」

「はい」

 そうしてケーキを食べ始めた。


 不意に

「お父さん、マール姉さんには手を出さないの?」

 と、エリスが聞いてきた。

 ゲホッゲホッ……。

 いきなりの質問にむせる。

「エリス、急にどうしたんだ?」

「だって、マール姉さんもお母さんと一緒でしょ?」

 まあ、そりゃそうなんだが……。

 真っ赤になって俯いているマール。

「そうだな、そりゃ考えてはいるが……でも人に言われたから手を出すって言うのもおかしいだろ?」

「言わなければ手を出した?」

 首を傾げてエリスが聞く。

「言われなくても手を出した……と思う」

 手を出してないだけあって自信がない。

「私も、無理に急いでほしいとは思っていません」

 俺のフォローをしてくれるマール。

「でも、マール姉さん、みんなの話羨ましそうに聞いてた」

「それは……」

 マールは目を伏せる。

 ニヤニヤしているエリス。

「エリス、わざと言っただろ?」

「えへ、お父さんはもっと急がないと」

 急かすエリス。

「『えへ』じゃない。まあ俺が急がないのも問題があるのかもしれないが、それでもエリスに言われるとは思わなかったよ。でもな、俺は俺なりに考えてはいるんだぞ? まあ、言わなきゃわからんことも多いが……。雰囲気も何もなく『さあ、しようか』でもないだろうに……」

「マサヨシ様、子供にする話ではありません」

 マールが指摘する。

「おっ、おお、確かに」

「エリスちゃん、マサヨシ様は考えているとおっしゃっています。ですから、私は待ちます」

 少し強めに言うマール。

「ごめんなさい」

 ちょっとシュンとするエリス。

「いいえ、怒っているわけではないんですよ? エリスちゃんが心配してくれているのもわかっています。だから、気にしないで。ありがとうエリスちゃん」

「うん」

 エリスの頭を撫でるマールだった。


 紅茶とケーキを食べ終わると、

「私、アクセルとテオドラの所に行ってくる」

 そう言って、俺とマールを残しエリスは家を出ていった。

 残された二人、ちょっと意識してしまう。

 いたたまれなくなったのか、

「わっ、私はマサヨシ様のことを待ちます」

 そう言うと、マールは片付け物を持って小走りに調理場へ行った。

 カチャカチャと食器を洗う音が聞こえる。


 エリスにはやられたな……。

 ソファーに凭れ天井を見て思うのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ