エリス
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
「おとーさん」
「ん?」
最近慣れ始めた「お父さん」の言葉。
振り返るとエリスが嬉しそうに立っていた。
「弟か妹はいつできるの?」
「へ?」
直球な質問に俺がきょとんとしていると、
「最近お母さんの雰囲気が変わったから……」
とエリスが言ってきた。
「何かあったと思ったのか?」
「うん、お母さんが安心した顔になってた。それでお父さんがお母さんに手を出したのかなと……」
「そうか……言っていいのかわからないけど、お母さんには手を出したよ」
子供にこんなこと言っていいのかな?
周りで「手を出した、出さなかった」言い過ぎなのかもしれない。
「だったら、弟か妹はできるんだね」
「弟か妹かぁ……。できてたらできてるだろうし、すぐにはできないかもしれない。こればっかりは授かりものって奴でね……」
「うーん、わかんないや」
頭をガシガシと掻くエリス。
「そう、俺にもわかんない」
俺も頭をガシガシと掻く。
「一緒だね」
「ああ、一緒だ」
二人で顔を見合わせて笑うのだった。
「楽しそうですね」
マールが声をかけてきた。
「うん、お父さんと居ると楽しい」
ニコリとするエリス。
「マサヨシ様、紅茶でも出しましょうか?」
「ああ、頼むよ。だったらマールも休憩してはどうだ?」
「お言葉に甘えますね」
そう言うと、マールは紅茶の準備に調理場へ向かった。
そして、ティーポットとティーカップを持って帰ってくる。
俺は紅茶の淹れ方は知らないが、マールが淹れる紅茶からはいい匂いがした。
「はい、エリス。熱いから気を付けてね」
マールがエリスの前に入れたての紅茶を置いた。
「エリスは紅茶をストレートで飲めるか?」
「んー、ちょっと苦い」
俺はジャムの入った壺を出すと、
「これで、甘くしてみな」
なんちゃってロシアンティーを勧めてみた。
そのあと、収納カバンからホイップクリームのケーキを取り出し、エリスとマールの前に置く。
「それじゃ、食べようか」
「うん」
「はい」
そうしてケーキを食べ始めた。
不意に
「お父さん、マール姉さんには手を出さないの?」
と、エリスが聞いてきた。
ゲホッゲホッ……。
いきなりの質問にむせる。
「エリス、急にどうしたんだ?」
「だって、マール姉さんもお母さんと一緒でしょ?」
まあ、そりゃそうなんだが……。
真っ赤になって俯いているマール。
「そうだな、そりゃ考えてはいるが……でも人に言われたから手を出すって言うのもおかしいだろ?」
「言わなければ手を出した?」
首を傾げてエリスが聞く。
「言われなくても手を出した……と思う」
手を出してないだけあって自信がない。
「私も、無理に急いでほしいとは思っていません」
俺のフォローをしてくれるマール。
「でも、マール姉さん、みんなの話羨ましそうに聞いてた」
「それは……」
マールは目を伏せる。
ニヤニヤしているエリス。
「エリス、わざと言っただろ?」
「えへ、お父さんはもっと急がないと」
急かすエリス。
「『えへ』じゃない。まあ俺が急がないのも問題があるのかもしれないが、それでもエリスに言われるとは思わなかったよ。でもな、俺は俺なりに考えてはいるんだぞ? まあ、言わなきゃわからんことも多いが……。雰囲気も何もなく『さあ、しようか』でもないだろうに……」
「マサヨシ様、子供にする話ではありません」
マールが指摘する。
「おっ、おお、確かに」
「エリスちゃん、マサヨシ様は考えているとおっしゃっています。ですから、私は待ちます」
少し強めに言うマール。
「ごめんなさい」
ちょっとシュンとするエリス。
「いいえ、怒っているわけではないんですよ? エリスちゃんが心配してくれているのもわかっています。だから、気にしないで。ありがとうエリスちゃん」
「うん」
エリスの頭を撫でるマールだった。
紅茶とケーキを食べ終わると、
「私、アクセルとテオドラの所に行ってくる」
そう言って、俺とマールを残しエリスは家を出ていった。
残された二人、ちょっと意識してしまう。
いたたまれなくなったのか、
「わっ、私はマサヨシ様のことを待ちます」
そう言うと、マールは片付け物を持って小走りに調理場へ行った。
カチャカチャと食器を洗う音が聞こえる。
エリスにはやられたな……。
ソファーに凭れ天井を見て思うのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




