鉱山の利益
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
採掘を始めた後、支店長のカールからドワーフの炉が見つかったと報告があり即座に移設した。
炉の炎は火の精霊を入れることで対応する。
エン曰く、
「中位だから炎の温度高いわよ」
と言っていた。
耐熱煉瓦ってあるのかね?
炉に火を入れ、実際に試験することになった。
炉の中にるつぼに入れた粉体のオリハルコンを入れると、精霊が起こす白い炎が上がる。
オリハルコンが赤熱、融解、液体になった。
溶けたオリハルコンを延べ棒の型に入れるとインゴットの形になる。
それを水に入れ冷やす。
カールは冷えたインゴットを取り出し色々な方向から確認した。
「この炉は成功ですね。この質なら問題ありません」
カールは頷きながら納得する。
「何でオリハルコンを?」
気になったのでカールに聞いてみた。
「オリハルコンが一番液体になる温度が高いんです。オリハルコンが融ければ、他の金属も融けると考えられます。ですから、貴金属を融解するための試験ではオリハルコンを使うことが多いのです」
融点の関係ね。
十分に金属を溶かすことができる炉だとわかると、今までに溜めておいた貴金属を、金、ミスリル、ヒヒイロカネ、オリハルコンの順番で溶かしインゴットを作った。
これが融けやすさの順番らしい。
そしてカールが出来上がったインゴットを俺の目の前に並べる。
金塊なんて見たことない。宝島の世界かと思っていた。
「金を金貨の型に入れると、偽金になります。実際に流通している金貨には銀が少し混ざっていますから、この金を金貨にするのは勿体ないですね。比重のせいで偽金だとバレます。純度の高い偽金など聞いたことは無いですけどね」
「でも、俺んとこの金は、カールのところに七掛けで納めている。その事を考えれば、そのまま流したほうが、お金になる。まあ、俺も偽金で揉めるのは嫌だから、カールに任せるけどね」
「マサヨシ様ならやりかねませんね。でもやらないようにお願いします。お金の価値が下がって物を買えなくなります。この世界で暮らす人々が迷惑しますからね」
出来上がったインゴットをカールの支店に納めた。近いうちに本店へ持っていくそうだ。
中途半端に残った塊はドランさんに見せに行く。
武器防具用の金属も要るかもしれない。
「ドランさん、やっと鉱山から貴金属を取り出せたよ」
そう言ってドランさんの前に貴金属の塊を並べた。
「マサヨシ、これは全て純粋な塊じゃないか!」
「そうみたいだな」
「クゥ、俺は幸せ者だ。伝説の金属で打てる。お前んとこの孤児たちも頑張ってるぞ。クロだっけ? あいつは筋がいい。剣を打つのに、向こう槌が打てるようになった」
ミケ、クロも頑張ってるようだ。
「ただな……これを売れる相手がいない。できても高すぎる。作っても使ってもらえないとな」
ドランさんの顔が陰る。
「冒険者が居れば、買って貰えるか?」
「高ランクの冒険者でないと無理だろうな。だったら、鉄から始めて、銅、銀、ミスリルまでにして数を打つ。質が良ければ人も集まるだろうし、その方が孤児院の子供たちの勉強になる」
思い付いてヒヒイロカネやオリハルコンを採掘したが、この二つは注文が入ったときだけにしたほうがいいのかもな。
そして、数週間後。
俺は机に積まれた白金貨と金貨の前に居た。
「これが今回の売り上げになります。お納めください。白金貨で四十枚、残りが金貨で七十枚となります。これだけで、そこそこの貴族の年間収入ぐらいにはなります」
おう、四十億以上。
「ミスリルの価格が高騰しております。ドワーフの国の鉱山でミスリルの鉱石が枯渇気味だったのが大きいですね。ミスリルの増産をしてみてはどうでしょうか?ブロル様も売るだけで三割の利益ですから『笑いが止まらん』と喜んでおりました。ただ、オリハルコンとヒヒイロカネについては希少価値が高すぎるため、売れませんでした。この二つを別の貴金属に変更することをお勧めします」
事情を知っているカールは鉱山の鉱石の変更を進言してきた。
ふむ、オリハルコンとヒヒイロカネは、ドランさんトコ行きだな。
俺は少し考え、
「白金と銀でどうだ?」
とカールに聞いてみた。
「私もそう言おうと思っておりました。白金と銀ともに貨幣、装飾品などで使われます。需要が高い貴金属ですね。何と言っても白金は金よりも価値が高い。この二つに変更すれば、利益は数倍になるかと……」
ウンウンと頷くカール。
「わかった、調整しておく」
あとでアグラに連絡だな。
そして、カールが俺の方を向くと、
「ひとつ忠告しておきます。今後この場所が知られるようになると、この場所を襲う輩が出てくると思います。者によっては、この場所を手に入れようとする者さえ出てくる可能性が。国でさえ手を出すかもしれません。そのための防衛手段をお作りください」
と言った。
「軍隊のようなものか?」
「はい、自衛部隊とでも言いましょうか」
確かにそのうち必要になるだろうな……。
「わかったよ、考えておく」
俺んちの面々は過剰兵力だとは思うが、数が少ないからな。その辺のことも考えて数を増やす必要があるか……。
ヘルゲ様を頭にラウラをその下って感じで部隊を作るかね。
「私としては以上です」
カールが話を終えた。
ふと、
「カール、人を集めるにはどうしたらいい? この場所を発展させたい。」
俺はカールに聞いてみた。
カールは少し考えると、
「商人である私が思いますに人は自分が成り上がるチャンスに集まります。ダンジョンにしろ、ゴールドラッシュにしろ、開拓にしろ……商人でしたら商機ですかね」
と言ったあと再び考える。
「マサヨシ様は『この辺を全て開拓できる力がある』と聞いております。そして、マサヨシ様は種族にこだわりがない様子。でしたら種族分け隔てなく誰にでも農地を安く解放してはどうでしょうか? 『カネの無い者でも働いて返すことができるのならば土地が貸与され、ちゃんと支払いをすれば土地が手に入る。そのうえ、種族による差別がない』と聞けば、『いつか自分の土地になる』チャンスを求めここに多くの者が来るでしょう。それこそ家族を連れて。全ての者が居着くとは言えませんが大多数は残るのではないでしょうか? 人が集まれば家が要る。家を建てるには職人が要る。職人たちもここに来れば仕事があると知ったら集まってくる。それこそ、孤児院の練習台にしてもいい。人が集まれば物が要る。商人が物を売りに集まってきます。商人が集まれば宿が必要です。人が増えれば娯楽も……。この筋書き通りになるとは限りませんが、人というものは、その場所に足りないものを補うたびに増えていくんじゃないかと思いますね」
と、カールは言った。
「まずは人が集まるきっかけとして、土地を得るチャンスを与えろと?」
「土地には家を建てたりする必要はありません。目の前にあるよく肥えた土地が芽吹き作物が育てば人は夢を見れます。自分が成り上がる姿が思い浮かぶのです。ただし、その作物を売る販路を準備し、お金にしなければいけません。しかし、そこは私めにお任せください。支店長としてマサヨシ様の手伝いをしてみせます。そして、私には部下など要りません。マサヨシ様の孤児院の子のほうが読み書き計算ができますからね。私のところに連れてきてもらえれば仕込みましょう」
「カール、お前、今ちょっと暇だろ?」
「それもあります」
苦笑いしながら頭を掻くカール。
カールが言う「種族分け隔てなく」という言葉が気になった。ランヴァルド王に言われた言葉と同じだ。
「カール、参考になったよ。ヘルゲ院長に話して、できそうな子供をお前の下に付けるけどいいか?」
「はい、よろしくお願いします」
カールは深々と頭を下げた。
チャンスを与えろか……。この俺が……どんだけ上からなんだ。
でも、カールの言うこともわかる。
夢を見るための土地か……。
俺は金を仕舞うと、支店を出ていくのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




