その後
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
王城での件は瞬く間に広がったが、詳細は伏せられたようだ。
公爵家は外戚から養子を取り、存続させると聞いた。
嬢ちゃんは公爵家で幽閉になったと言う。
操られていたとはいえ、踊っちゃったからね。
「二重人格」と思われたようだ。
他の貴族も跡継ぎがいれば存続は許されたようだ。
「俺にちょっかい出したら、家が潰れる可能性がある。ただ、俺や俺絡みの者がどこに居るかわからないので恐れられている」
とミスラから聞いた。
俺は地雷か?
そしてミスラは、
「俺は保険なんだろうな。また陞爵の話が来たよ」
と言って呆れていた。
殺した貴族の件はオウル全体に顔が知られた訳でもなく、特に気にすることもないと思っている。
つまり現状維持である。
でもラウラには風の精霊を護衛につけた。
それより結婚式かぁ……。
俺は面倒だと思うが、女性陣楽しみにしてるみたいだし……。
いろいろ考えながらリビングに居ると、
「マサヨシ、ゼファードの領主、ペック辺境伯からお呼びがかかったわよ?」
と家に帰ってきたカリーネが話しかけてきた。
「何の奴?」
「ランヴァルド王が来るってやつよ」
ああ、そんなこともあったな。
「忘れてた」
「もう……」
ため息交じりのカリーネ。
「だから明日の夜、領主の館に私と一緒に行ってよね」
「ん、了解。でもメンバーは? 俺だけ?」
「あなただけでいいでしょ? 王はあなたの事知ってるんだから」
「はいはい。それじゃあ、いつもの装備で夕方ごろにゼファードの冒険者ギルドへ行けばいいんだな」
「『はいはい』は余計よ」
ありゃ、ちょっと怒ったかね。
「でも、そのとおり。夕方ぐらいに迎えに来て」
「わかった。ってことは二人っきりか」
「そう、二人っきり」
ちょっと嬉しそうなカリーネだった。
そして次の日の夕方、ゼファードの冒険者ギルドのギルドマスターの部屋へ行く。
そこには着飾ったカリーネ。赤のチャイナドレスのような服。横のスリットが長く、歩くたびにチラチラと太ももが見える。
「どう、きれい?」
「…………」
俺の沈黙に困った顔のカリーネ。
「大丈夫?」
「綺麗だから見とれてた。迷惑だったか?」
「いいえ……嬉しい」
いつもと違うカリーネ、どうした?
微妙な雰囲気になり言葉が途切れたところで、
「馬車が迎えに来ました」
と職員の声。
再び会話が始まる。
「マサヨシ、それじゃ領主の館へ行きましょう」
カリーネが扉を開け俺を誘う。
そして裏口へ停めてあった馬車に乗ると領主の館へ向かうのだった。
領主の館の玄関で俺たちは降りる。
俺が先に降り、カリーネの手を持ちエスコートした。
玄関に入ると恰幅のいいオッサンが居る。
「ペック様、お招きに預かりありがとうございます。我がギルドの精鋭、マサヨシと共に参上しました」
こいつがベック辺境伯ですか……。親近感有り。
「お初にお目にかかります。冒険者のマサヨシです」
「お前がマサヨシか? オーククイーンの件、助かった。お陰でランヴァルド王に美味い肉を出せる」
ガハハという感じで笑いながら辺境伯は俺に言った。
「一冒険者の私が辺境伯様のお役に立てて光栄です」
一応へりくだっておく。様子見だな。
挨拶が終わると、広間へ向かう。
カリーネを見て招待者が息を飲む。それだけ美しいのだ。整った顔、長い髪、頭には狐耳、ふわふわの尻尾、見事なボディーライン。
まあ、見惚れるよな……。
その美女に付属するメタボな俺にも少々の注目があった。俺の場合は恨み辛みの視線だが……。
ワインが提供され軽く飲んでいると、辺境伯と共にランヴァルド王が現れた。
「本日は魔族の王であるランヴァルド様がいらっしゃった。皆で歓迎してほしい。そして今日提供する肉はオーククイーンの肉だ。滅多に食べられるものではない。味わって食べてほしい」
と、辺境伯が言ったあと、
「私のためにこのような催しをしていただきありがとう。魔族と人の交流ができると嬉しい。存分に楽しもう」
と、ランヴァルド王が言うと音楽が流れ始めた。
パーティー開始のようだ
俺とカリーネは端っこの方で話をしていた。
「こっちの結婚式ってどんなの?」
「ああ、この前の話ね。そうねぇ……種族によっては結婚式用の服があったりする。普通の結婚式だと、上等な服を着て司祭の前で祝福をしてもらうって言うのが通例ね。でも、クリスやイングリッド、クラーラはどうなるのかしら……。二人とも一応王女様だから何かあるかもしれないわね」
「俺は面倒なのは得意じゃないが、それでも結婚式って区切りだと思ってるんだ。だから、皆が喜ぶようなことをしたいな」
「みんなが喜ぶ事ねぇ。私はあなたが居てくれればいいわよ? エリスも一緒にね……」
「それは、毎日の事だろ? 俺が言いたいのは結婚式で思い出に残るもの」
「私は結婚式をしたことないから、わからないわね。でも結婚式ができるのは嬉しい」
そんなことを話ししていると、ランヴァルド王と辺境伯が現れた。
「おう、マサヨシ。久しぶりだな」
「オッサンも元気そうで何より」
俺がいつもの挨拶をしていると、
「王に対してそのような口の利き方をして!」
と辺境伯に怒られてしまった。
「よいよい、このマサヨシは儂の娘の婿になる予定でな。いつもこのような話し方なのだ」
「えっ、ただの冒険者が……」
辺境伯が驚く。
ただの冒険者が国王とため口なんだから驚くか……。
「ああ、公の場だから『オッサン』はやめておいたほうが良かったか?」
「いいや、お前のように話す者が居ないと肩が凝って困る」
王様も大変なようだ。
「お初にお目にかかります。カリーネと申します」
カリーネはランヴァルド王に頭を下げる。
「これは美しい」
本音かお世辞かわからないが、カリーネを誉めた。
「まあ、お上手」
カリーネは頬を染め俺の腕に抱きつく。
「イングリッドの父親をしているランヴァルドだ。で、マサヨシ、この女性も?」
「ああ、俺の婚約者」
「これはイングリッドもうかうかできないな」
苦笑いのランヴァルド王。
「お前、カリーネも婚約者なのか?」
驚いて辺境伯が聞いてきた。
「まあ、そういう事です」
そう言うと、
「『男寄らずの跳ねっかえり』がねぇ……」
辺境伯は、カリーネをジト目で見ていた。
「何よ?」
「いいや、お前も女だったんだなぁってね」
「いいじゃない」
仲がいいのかカリーネと辺境伯の二人で言い合っていた
「妻が多いのは大変だぞ?」
ランヴァルド王がニヤニヤする。
「今でも実感しているよ」
と、苦笑いしながら俺が言うと、
「一人でも大変だ。とりあえず、挨拶が終わったらまた来る」
そう言って他の招待者のほうへ向かった。
「王様が『美しい』だってさ」
ニヤニヤしているカリーネ。
「ああ、『美しい』といつも思ってるぞ? でも俺は今よりは仕事している時のほうが頑張ってる感があって好きかなぁ」
肯定されると思っていなかったのか、カリーネは驚いていた。
「どうした?」
「飾ってる時じゃなくていつもの私がいいって言ってくれたから」
「そう?」
「うん、嬉しい」
取り留めもない話をして時間をつぶす。
まあ、雰囲気のせいか誰も寄ってこなかった。
適当に食事をつまみ、出されてある酒を飲む。
と言うか、ペースが速いぞカリーネ。
程々飲み食いした後、
「マサヨシ、待たせたか?」
ランヴァルド王が現れた。
「ちょっとイチャイチャしていたから別に待っちゃいない」
「もう……」
カリーネがちょっと赤くなる。
国王と冒険者、ギルドマスターの取り合わせが珍しいのだろう、周りから視線が集中した。
まあ、気にしないが……。
「で、おっさん、何の用だ?」
「そうだな、さっき小耳に挟んだが結婚式をするのか?」
「聞かれてたか……。区切りとして結婚式をしておいたほうがいいかな……とね。ちなみに魔族って結婚式はどうするんだ?」
「普通に司祭の前で宣言するだけだぞ? その後の披露宴のほうが大変だな」
遠い目をするランヴァルド王。思い出しているのかな?
「服装は?」
「特に取り決めは無い。まあ、あいつの時は紫色のドレスだったが……」
「ふむ……結婚式の披露宴はあったほうがいい?」
「無くてもいいが、あったほうがいいんじゃないのか? 人族、エルフ、ドワーフ、魔族が揃ってるからな。それぞれの体面もある」
「呼んだら来る?」
「儂は参加するぞ?妻も連れてくる。あいつは多分食事が目的になるだろうがね。ウルフは留守番だな。移動はどうせ、扉を使えばすぐなんだろう?」
「まあ、そういう事だが……。国賓級がゾロゾロだなあ」
参加者に連絡するのが大変そうだ……。
「儂らは気にするな。好きにすればいい」
「好きにねえ……」
少し考える。
ウエディングドレスってあるのかね。統一感出るか……。
「何考えてるの?」
カリーネが聞いてきた。
「結婚式用の服を作ろうかとね……」
「もったいないわねぇ。でも一生に一回って言うのならいいかもしれない。私が言うのもなんだけど」
「お前も一回目だからいいだろ?」
「もう……」
カリーネが拗ねた。気にしているようだ。
俺にもたれかかってきたのでカリーネの頭を撫でて機嫌を直そうと努力する。
そうしながらランヴァルド王に
「オッサン。糸をつむげる者の伝手は無いか? 機を織って布が作れる者も居るといい」
と聞いてみた。
「糸をつむぐ? 機を織る?」
ランヴァルド王は急に言われて訳が分からないようだ。
「ああ、マジックワームで結婚式用の服を作ろうかと……。皆を守れる服としてね。マジックワームは既に見つけてあるんだ。それを糸にして布を織る。あとは仕立てだな」
マジックワームはダンジョンで発生させればいい。
「おまえ、絶滅したというマジックワームが居るのか?」
ランヴァルド王は身を乗り出して俺に聞いてきた。
「ああ、居る。俺なら何とかできる。これも俺ん所の特産品にできればいいかなと……」
「販売は?」
「数ができれば問題ないだろうね」
「だとしたら、どこで販売する?」
「商人の伝手は無い……。そうだな、ノルデン侯爵のところで売るようにするかな。あそこの商人に世話になったから」
「それならいい。我が魔族の領内であればな」
ホッとするランヴァルド王。
「他領だと困るのか?」
「手に入れづらくなるだろう?」
「ほかならぬ、舅殿の頼みならどうにでもするさ。まあ、その前に糸にして布を作らないとな」
「任せろ、魔族領で探してみる。見つかったらどうすればいい?」
「イングリッド辺りに連絡してくれればいい。ああ、菓子の納品に行った者でもいい。見つかったと聞いたら俺が行くから」
「早速、明日の朝、早馬を飛ばす」
そう言って、側近を呼んだ。
「オッサン、帰るだけなら俺が連れて行くぞ?」
「お、そうだな。おい紙とペンを」
側近は近くから紙と羽ペン、インクを持ってくる。
ランヴァルド王は近くの机に行くと、サラサラと手紙を書き、封をした。
「お前、奥の部屋に行って。マサヨシの言う通りにしろ、そうすればオセーレの王宮に戻れる。すぐにこの手紙をウルフに渡せ! 王が『マサヨシ絡みで高価な特産品ができるかもしれない』と言って渡せばわかるだろう」
そう言って、側近に手紙を渡した。
「じゃあ、頼む」
俺は奥の人気のない部屋に行くと扉を出しオセーレの王宮に繋ぐ。
「えっ、これは?」
「俺の言うとおりにするんでしょ? この扉を開ければ王宮だから、ウルフに連絡しておいて」
そう言って王宮側に送り出した。
扉を仕舞うと再びランヴァルド王のところに戻る。
「そう言えばマサヨシ、お前の開拓地がどこにあるのか把握しているのか?」
いきなりランヴァルド王が聞いてきた。
「んー、わからない。ドロアーテが近くにあるのはわかるんだけど……。どうしても人側の地理しか知らないな」
マップはあるが繋がりは全て理解していません。
「俺が手配して調べた結果だが、西へ広げていけばノルデン侯爵領だ。距離はあるがね……」
ほう。
「オッサン、この情報を俺に提供してどうするつもりだ?」
「どうせお前の開拓地は自治領だ。マティアスもあまり文句は言えないのであろう? だったら、ノルデン侯爵領と道を繋げろ。お前の開拓地はドロアーテとセリュックの中継地になればいい。そうすれば、人の行き来も活発になる。まあ、あの辺のノルデン侯爵領も森だけで人など居ない場所だろう。だからノルデン侯爵領に食い込んでも問題ない。その辺はお前からノーラ・ノルデンにも言っておけ」
「その意図は?」
「そうだなあ、建前は、お前はノーラ・ノルデン侯爵の後見人だ。ノルデン侯爵領の発展はお前のためになる」
わざわざ「建前」言うか?
「で、本音は?」
「魔族寄りにしておきたいからだな」
「まあ、今のところ魔族寄りだがね」
俺がそう言った後、
「最終はお前に国を作ってもらいたい。あの場所に誰もが住める場所をな。結局のところ、人族、エルフ、魔族、ドワーフの国しかない。単一種族が作った国ばかりなんだ。多種族が自由に住める場所などない。頑張っても種族が邪魔をするんだ。お前んとこはそう言うのが無い。何なら魔物まで一緒に住んでいると聞いた。面白そうじゃないかそんな国」
酔っているのか饒舌なランヴァルド王。
「面白いからって……」
「『面白いからやる』はちゃんとした理由だ。お前も『美味いものを作りたい』からいろんなお菓子や調味料を作ったんだろ。それと一緒だ!」
あっランヴァルド王酔ってる。顔が赤い。イングリッドはザルだがランヴァルド王は少し弱いんだな。
「だから、お前は自分の国を作れ。俺はお前の後ろ盾になるぞ? そのぐらいの力は持ってるからな」
「だったら、私は冒険者ギルドを作ってそこのギルドマスターになろっと!ダンジョンの入口もゼファードからうちに動かせばいいじゃない!」
被せてくるカリーネ。
と言うか、それ言っちゃっていいの? ゼファード潰れるよ?
まあ、ダンジョンの入口を増やすのも考えていいかな。ダンジョン通れば、ショートカットなんて道も面白そうだ。
ふと見るとカリーネの顔も赤い。
あっ、カリーネが出来上がってる。知らない間に酒持ってるや……。
できてもいない俺の国の話でランヴァルド王とカリーネは盛り上がる。
俺は適当に頷くだけだった。
はあ、国かぁ……。人手が足りんよ……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




