根城討伐
フィナは、「高速移動」という言葉を疑問に思ったのか、
「マサヨシ様が言っていた高速移動って何ですか?」
と、聞いてきた。
「高速移動って俺の魔法のこと。地面を滑るように走る魔法なんだ」
しかし、説明の途中でクリスが割り込んでくる。
「もう、すっごく速くて、私も掴まるのがやっとで大変だったんだから。あの時は抱っこしてもらえたし……」
クリス、「ポッ」って感じで赤くなるんじゃない!
そこの二人、羨ましげに指を咥えて俺を見ない!
「いや、無理だから。三人を抱っこなんて無理だから。今回は俺の右腕にクリス、左腕にフィナ、肩車はアイナで移動して、現地に向かうから。わかった?」
俺が言うと、
「抱っこ無しです」
「抱っこ……無い」
残念そうにしているフィナとアイナだった。
「さて、皆おいで」
まずは、アイナを肩車。次に、クリスとフィナが俺の手に掴まる。高速移動の魔法で浮上アンド移動開始!! 時速九十キロメートルを味わってもらおう。
「すごい風ですぅ」
フィナが言う。
「風強いか、ちょっと待って」
そこで、俺の前に風防をイメージし、魔力を使った。
「マサヨシ、快適」
アイナは、気持ち良さそうだ。
ん? そういえば、この編成、どっかで……。あっ、某○ツノコプロのヤッ○―マンの出動シーンっぽい?
俺のレーダーには敵対するような光点が映っていない。あとは、ナビゲーションに従って、根城へGO! 直線距離で三十キロメートルほどだが、実際には一時間半程度で根城の洞窟が見える位置までたどり着く。最後の数キロを隠れながら歩いた分、結構時間がかかってしまった。
根城に着き、レーダーで盗賊の数を確認すると、敵対表示の光点、つまり赤が二百三十一個表示されている。その数を数えてる時を皆に変に見られてしまった。宙を見ながら、数を数える、結構間抜けだったようだ。笑われてしまった。
レーダに、光点の数を表示できんのかね。って思ったら。普通に視界の端のほうへ数字が出た。実際は二百二十八人だったらしい。数え間違えているとは……。
「マサヨシ、どうやって、盗賊たちを討伐するの?」
クリスが聞いてきた。
「ん? 根城の酸素を抜く」
「酸素って何?」
「俺らが生きていくのに必要な空気の成分。詳しいことは話す時間が無いんだ、ごめんな。でも、酸素を抜くことで、中に居る人間は死んでしまう。というか、酸素を吸って生きてるやつ全部だな」
ただし、気になることが一つ。
「クリス、盗賊って人質とかとるんだよね」
「そう、身代金をとるために捕らえられている者も居るかもしれない」
赤色しかなかったから、そういうのは居ない。誤認が怖いから、再度確認……ん、無いな。
魔力を使い、洞窟の中の酸素を抜く。
一応レーダーで監視していたが、十分もすれば二百以上あった光点が、数個以外すべて消えた。残った光点は櫓に居る奴見張りだ。
「はい、洞窟の中は終わり。あとは、見張り台の人間だけなんで、クリスを助けた時のように、魔法を使うね」
ライフルを意識して、構えて撃つ。見張りは全て倒した。レーダーで探りを入れるが敵対を表す光点は現れなかった。
「さて、終わった。でも、洞窟に酸素を戻すまでは入ってはダメだ。死んでしまうからね」
そう言うと俺は、洞窟内に酸素を戻す。満遍なく酸素を行き渡らせる感じで酸素を満たし、洞窟の入口に換気ファンをイメージして風の流れを作った。
「本当に終わったのですか?」
フィナは信じられないようだ。
「うん終わった。この方法は、目に見えないから怖いんだ。だからちゃんと無くした酸素を戻して、中に入れるようにしないと」
フィナに説明した。
とりあえず、二十分ほど待機する。酸素濃度計をイメージしたら二十・九パーセント、異常無しだね。
「クリス? 死体って放置しておくとアンデッドになったりする?」
定番の質問だ。
「そうね、条件もあるらしいけど、アンデッド化するとは聞いたことがある」
「私ターンアンデッド使える」
アイナは役に立てそうなのが嬉しいのか、グイと前に出てくる。
「その時は頼むぞアイナ」
コクリ
「さてそれなら、中に入るかな。俺は死体をこの収納カバンに入れる。みんなは待ってていいぞ?」
「「収納カバン?」」
フィナとアイナは首を傾げてる。
「ああ、このカバン、収納カバン。知らない? 容量無限のカバン。未来から来た、青い猫型ゴーレムからもらったんだ」
もちろん嘘である。
「聞いたことがありません」
フィナが言う。
「猫型ゴーレムは?」
珍しくアイナが反応。
「アイナ、俺にこのカバンを渡した後、未来へ帰った」
「残念」
アイナが本当に残念そうなので、俺はちょっと罪悪感を覚える。
「まあ、だから死体でも何でも中に入るってわけだ。だから、死体回収してくるよ」
俺一人で盗賊の根城に行こうとした時、
「ちょっと待ってよ! 私は死体なんて見慣れているんだから手伝うわ」
クリスが手を挙げて言う。
「私も手伝う」
フィナも手を挙げて言う。
「死なないなら、何でもする」
アイナは背伸びして手を挙げる。
そして、お互いを見る三人。
恥ずかしいのか、三人で苦笑いしていた。
「それじゃ、みんなで行こう」
俺たちは根城へ向かった。
おっと、酸素抜いたから照明のたいまつも消えたか。俺は指にライターをイメージして小さな灯を灯す、そしてたいまつを点火。周囲がぼんやり明るくなる。
あー条件が違うから、マップに何も表示されていないか。
死体のある場所を青い光点表示に変更すると、凄い数の光点が表示された。
「さあ、近くからしらみつぶしにやっていくぞ?」
俺がそう言うと、
コクリ×3
三人は頷く。部屋に入っては松明を点け、転がっている死体をカバンに入れる。単純作業だが、それをずっと続けた。中には喉を掻きむしっているような死体もある。
こりゃ滅入る奴だな。
「アイナ、嫌じゃないか?」
フリフリと首を振る。
「私、マサヨシと居られるなら大丈夫」
愛されてるなぁ。ちょっと嬉しい。
「ありがとな。クリスもフィナも悪いな、嫌な仕事させて」
「大丈夫。もっと酷い所見たことがあるしマサヨシと居られるから」
「私もマサヨシ様と居られるなら、大丈夫です」
「ありがとうな、二人とも」
4人で黙々と死体をカバンへ回収。しばらくするとレーダーに映る光点は消えた。
「これで、洞窟内の死体は回収できた。あとは、掘り出し物の回収だ。何かいいモノ無いかねぇ」
曖昧だが、宝物を緑の光点で表示させると3つほど表示された。お金を青い光点で表示させると、10ほど表示される。一つの部屋に固まっている、そこが宝物庫か?
「一か所、宝物とお金の反応が固まっている所がある。そこに行ってみよう」
「「「わかった!」」」
皆で宝物庫へ向かった。
宝物庫らしき部屋に着き内部を確認すると、大中小の宝箱が1つずつと、硬貨が入った袋が10袋あった。クリスはそれを見て舌なめずりする。
「ねえ、開けていい?」
開けたくて仕方ないのだろう、クリスはうずうずしている。
「待て! 罠があるかもしれない。というか外せるのか?」
「任せて!! ステータスも上がってるから、このくらいなら問題ないと思う」
クリスはピックのような物を持ち、鍵を開け始める。見事なものであっという間に鍵が開く。
宝箱の蓋を開ける。大と中には武器や防具が、小には指輪や宝石が入っていた。硬貨の袋も銀貨が入った物が六つ、金貨が入った物が三つ、白金貨が入った物が一つあった。
「クリス、盗賊の持ち物って、どうなるんだ?」
「討伐した者に与えられる。魔物の時と一緒。通常は結構な数のパーティーが一緒に攻略するから、分け前は少ないんだけど、私たちの場合は単独だから凄いわね」
「大金持ちです」
フィナがびっくりしている。
「愛の巣が買える」
ん?
「アイナ、お前どこでそんな言葉を」
アイナはチラリとクリスを見る。
「『宿屋もいいけど、家で自由にっていうのも良いわね。マサヨシとの愛の巣って奴?』ってクリスが言ってた」
「バカ! ばらさないで」
クリスは真っ赤である。
赤くなってフリーズしているクリスを放置し、俺とフィナとアイナで手早く全ての物を収納カバンに入れる。
ふと気づくと、カバンの中に入った武器や防具、指輪、宝石が種類や魔法の有無できっちり仕分けられていた。そのデータが頭に浮かぶようになっている。何なら死体も名前付きで仕分けられている。
すっげー便利だな、このカバン。
最初に奴隷商人から分捕った分も合わせると所持金が白金貨が七十三枚金貨が千六百三十六枚、銀貨が六千七百十五枚、銅貨が八十枚になった。九十五億三百十五万八千円也。少々の会社の売り上げ並みの所持金になってしまった。
しかしクリスが言うことも一理あるんじゃないだろうか。クリスもフィナもアイナも自由を感じたことがあるのかな? 特にフィナやアイナは自由よりも生きることが優先か。だったら、愛の巣とは言わないまでも家を買って自由に暮らすのもアリだと思う。今度、冒険者ギルドで聞いてみようと思った。




