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オウルからの呼び出し

誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。

 俺がリビングに居ると、

「マサヨシ、今更なんだけど、王都オウルの冒険者ギルドからの呼び出しがあったわよ?」

 カリーネが転移の扉を置いてある部屋からそう言いながら出てきた。

「ああ、そう言えばそんな話もあったなぁ」

 モールス信号さえない世界。手紙を届けるのは本気で人力か馬らしい。

 ワイバーンも使えるらしいがコストのせいなのか数のせいなのか知らないが通常の配達では使わないようだ。結局ゼファードからオウルの往復で結構な時間がかかってしまった。

 ダンジョンを攻略したのも、もうかなり昔に感じてしまう。

 その間に、結構増えたし……。


「オウルの冒険者ギルドにはいつ頃出向けばいいんだ?」

「出向くのは適当でいいみたいね。段取りとしては、冒険者ギルドに到着の報告を行う。そのあとマティアス王の都合がついた時に謁見らしい。でもね、王の都合がつくまでに十日程度は待たされるんじゃないかと手紙に書いていたわ」

 んー、王との謁見といっても勝手に訪問してるしなぁ。

「その後お披露目と言う名のパーティーもあるらしいから……」

「へ? パーティー?」

「仕方ないじゃない、顔見せだし」

「服装は? 畏まった服なんて持ってないぞ」

「冒険者はいつも身に着けている装備でいいみたい」

 まあ、貴族のヒラヒラ衣装とかじゃなくていいなら問題ない。

「ああ、貴族によっては、仕官させようとする人も居るみたいだから気を付けてね。揉めないように」

 変なフラグ立てるなよ。揉める気は無いが揉めそうじゃないか。

「カリーネも行くんだろ?」

「当然、ゼファードのギルドマスターである私も行くわよ」

 カリーネは腰に手を当て胸を張る。

「ふむ、宿泊場所はミスラ・バストルの家ということにしておけばいいと思うんだ。あそこなら転移しても問題ないだろう」

 ミスラの同意もないまま勝手に決める。

「そうね、バストル家ならあなたの魔道具の事を知っているから、あまり問題にはならないでしょう」

「ちなみにゼファードの冒険者ギルド的には、目立ったほうがいいのか?」

「そりゃ、そのほうがいいわよ。『オウルになんて負けない』って見せたいし……」

「神馬四頭でオークレーンの馬車を引いてみるか? 周囲をポチの部隊に守ってもらうかな」

「それはいいわね。逆に王都騎士団が出てきそうだけど、ラウラも居るしラウラのお兄さんにも言っておけば問題ないか……」

「ドランさんに馬車用の馬具も作って貰わなきゃいかんし、急いで動かないと」

 完全に失念していたギルドからの呼び出し。

 準備だけで時間がかかりそうだ。


 そんなことを思いながら、俺がドランさんに事情を話してみると、

「神馬で四頭立てなんかにしたら、馬の力が強すぎて馬車がもたんよ」

確かに簡単なサスペンションさえ無いんだ。四頭立てで馬車なんて引いたら、車体に負荷がかかりすぎて壊れても仕方ないだろうな。

「二頭立てで十分。二頭立ての馬具は作っておいたからそれを使えばいい」

 とドランさんが二頭立ての馬具を取り出した。

 さすがドワーフである。重そうな馬具を軽々と持ち上げて持ってきた。


「いつの間に……」

「お前にサイクロプスの皮を貰っていた残りだよ。戦馬を使っていた時のものでは合わないのはわかりきっていたからな。作っておいたんだ」

「ありがとうございます」

「ベンヤミンに言って、馬車の紋章も消してある大手を振って行ってこい」

 こうなることを予想していたかのようなドランさんの行動……助かります。


 玄関前に狛犬のように鎮座するポチに聞いてみる。

「ポチ、馬車の護衛をしてもらいたいんだ。できるか?」

「できます。小隊数は? 全部隊が必要でしょうか?」

 尻尾をブンブン振りながら俺に言ってきた。三つの頭は舌を出し「ハッハッ……」と言っている。

「そうだなあ、見せるだけなんでポチがいてくれればいい。一小隊居ればいいんじゃないか?」

「私と一小隊ですね。了解です」

 すると、三つのわんこ小隊が集まって「ワウワウ」言い始めた。

「何やってんだ?」

「私が呼びました。どの部隊が行くか相談しているようです。放っておいていいですよ、時間かかりますから」

 ポチが言った。

 俺はポチを見て気付く。

「あー、お前デカすぎて扉通れないな」

 そう言うと、

「大丈夫ですよ? ほら」

 ポチのデカかった体が馬ぐらいの大きさまで縮小された。

「おぉ、小っちゃくなれるのか」

「魔力を消費するので『ずっと』というのは難しいですが、扉を通る間だけというのなら問題ありません」

「凄いんだな。さすがケルベロス」

「はい、犬系の頂点の一つですから。いろいろできるんです」

 そう言いながらポチは元の大きさまで戻った。

「出発が決まったら、もう一度声をかける」

「わかりました。お待ちしています」


 ミスラへの連絡は直前でいいな。どちらにしろ、カリーネが休めないと行けない……なんて考えていたら、

「業務だから休みじゃないの。でね『オウルに行くから、二ヶ月ギルドを空けるわよ。業務だから仕方ないわね』ってサブマスターに言ったら。『マサヨシさんの魔道具で移動できるんだから、必要最小限で』って言われちゃった。だから、オウルの冒険者ギルドに行くときに二日間、謁見の時に二日間しかオウルに行けないの。便利な魔道具も考えものよねー」

 と、軽く言われてしまった。

 要は、「バレて無きゃ業務でサボれたんだけどねー」って言っているのかな? 

「すまんね、申し訳ない」

 というと。

「何言ってるの? 馬車に揺られて一か月間じっとしてるよりも、短い時間でちゃっちゃっと終わる方が気が楽よ? だから、気にしないの」

「だったらいいけど……」

「私が『業務を理由に長い間休んじゃおう』としたからサブマスターに怒られただけ。というわけで、あなた達にいつでも同行できます」

 と言うふうに、適当な日でいいようだ。


 パーティーメンバーにも事情を話した。

「あー、面倒ねぇ」

「面倒です」

「ん? 面倒」

「面倒ですね」

「面倒じゃのう」

 クリス、フィナ、アイナ、マール、リードラの五段活用で「面倒」だと言われてしまう。

「最近活動してないとはいえ、呼ばれたんだ。いいとこ見せようぜ。これ終わったらお菓子作るから」

 俺がそう言うと、

「お菓子? 誰よ面倒だって言ったの。私はちゃんとやるわよ?」

「お菓子があるなら頑張ります」

「ん? いつでも行ける」

「その時は美味しい紅茶も出しましょう」

「おお、それはいいのじゃ」

 と五人は言ってきた。

 結局、俺の「いいとこ見せようぜ」よりも「お菓子」に反応したようだ。

 まあ、何でもいいけど。

「ああ、『貴族によっては、仕官させようとする人も居るみたいだから揉めないでね』とカリーネが言ってたから、気を付けてな」

 カリーネが立てたフラグにフラグを重ねる。まあ何があっても俺とこいつらなら何とかできるでしょう。


 そして、オウルの冒険者ギルドへ行く前日、直接王都騎士団の団長室に行った。

 ミスラは執務用の机で、書類と格闘中のようだ。

「おーい、ミスラ」

 俺が声をかけると、

「うわっ、なんでマサヨシがこんなところに」と驚き椅子ごと引っくり返りそうになっていた。

「悪い、驚かせた」

 さすがに今回が初めてだから驚くか。

「まっ、まあいい。それで何の用だ?」

「明日、俺たちのパーティーとゼファードの冒険者ギルドマスターが乗った馬車がオウルに着く。馬車は神馬の二頭立て、護衛は神馬二頭と四匹ほどの犬たちで編成されている。一応騒ぎになるかもしれないので、連絡しておこうと思ってな」

 ケルベロスとオルトロス、ヘルハウンドは犬でいいよね。

「神馬は物珍しがられるとは思うが、犬で騒ぎが大きくなることはないだろう。まあ一応心しておくよ」

 オッケーらしい。

「あと、俺たちがミスラ・バストルの屋敷に宿泊していることにしてもらえないか? 実際には、扉で俺んちに帰るから、バストル家には迷惑はかからないと思う」

「なんと言っても、義理の弟になる男の頼みだ。存分に使ってくれ。すでに我が館など『勝手知ったる……』だろうに」

 というふうに許可も出た。

 これで準備完了かな。

 カリーネのために派手に目立ちますかね。


 ギルドへ行く日、パーティーメンバーで出発の準備をする。

 そんな時、ラウラが現れた。

「ミスラ兄様から聞いたのですが、今日はオウルに外から入るとか……」

「ああ、そうなんだ。ゼファードでダンジョン攻略したのは知ってるだろ? それで呼び出しがかかったんだよ」

「聞いた話だと、犬四匹に神馬四頭って事でしたが……。まさかポチも行くとか?」

「『犬は問題ない』ってミスラが言っていたが」

「マサヨシ殿、『ケルベロス』や『オルトロス』、『ヘルハウンド』が護衛につくとちゃんと言いましたか? それに犬ではなく魔物です」

 呆れたように俺に聞いてきた。

「いいや、言ってないけど……。ポチもわんこ小隊も人は襲わないぞ? ちょっとしたイタズラで良いんじゃないか?」

「マサヨシ殿、このような巨大な魔物を王都に入れるとちょっとしたイタズラではすみません。混乱を招きます」

 ラウラの言うことは正論だと思う。でも、

「俺が、ポチを暴れさせると?」

 と、聞いてみた。結構意地悪な質問だと思う。

「マサヨシ殿がそんなことをしないのは知っていますが……」

 イラっとしたらするかもしれないのは言わない。

「今回だけだよ、ゼファードの冒険者ギルドを目立たせるためだ。ポチが人を襲わないことをラウラも知ってるだろ?」

 ラウラは少し考える。そして、

「わかりました。でしたら私も一緒に行きます」

 と言ってきた。

 混乱をできるだけ小さくしたいのだろうな。

「それだったらフォランカ側から行くから迎えに来てくれよ。ラウラ先導で王都に入ろう。ラウラが来てくれると嬉しいし」

 ちょっと赤くなるラウラ。

 本当は「手続きも早くなりそうだなー」なんて思っていたのも言えない。

「わかりました、私が先導することにします」

 嬉しそうに同意した。


 馬車の設定ヨシ!

 御者はフィナ。

 カリーネ、アイナ、マール、リードラは馬車に乗る。

 クリスと俺は神馬に乗り護衛。

 その周囲をわんこ小隊とケルベロスが守るという感じになった。

挿絵(By みてみん)

 そんな俺たちにラウラが馬に乗り合流する。

 馬車の編成を見て、

「壮観ですね」

 と、ラウラが言った。

「少々の軍隊が来ても勝てそうだろ?」

 と俺が言うと、フィナが、

「これだけ居たら国潰しができますよ」

 と言う。

「そうね、本当はマサヨシが居るだけで国潰しができるんだけどね」

 とクリスが同意する。

「物騒な話はしない」

 と、俺が言うと、

「「「はーい」」」

 三人は笑いながら言った。

 そんなに楽しげに言われてもな……国なんか潰しても面倒なだけだろうに。恨まれても嫌だしな。


 そして、オウルの入り口に着くと馬車の速度を落とす。

 そこにはいつも通り入街の手続きのための長い列ができていた。

 待っている人々は異様な編成の馬車を見る。

「あの馬車、デカいな。どこの貴族だ?」

「あっ、あれ、オルトロスだよな?」

「えっ、後ろのはケルベロス。何だあのデカさ」

「でも、暴れたりしないの?」

「テイムされているんだろうな。ちゃんと馬車の速さに合わせついてくる」

「あいつらにとって人なんてエサみたいなものだろ? でも俺たちを見向きもしない」

「あの馬車を引く馬。デカすぎないか? 何で足が八本?」

「バカ、あれは神馬だよ。でも伝説なんだがね。本当にいたとは」

「その前を颯爽と行く騎士、あれって鋼鉄の処女? ラウラ様じゃない?」

 口々に噂をする声が聞こえてくるのだった。


 ウンウン、目立ってる目立ってる。俺とカリーネの思惑通りだが、ちょっと目立ち過ぎた? 

 ラウラの先導に従い入街列の傍を進むと、別の入り口に着いた。

 ラウラが門番に何かを見せると門番が頷き門が「ギーッ」という音がして開かれる。

 俺はラウラのそばに寄り、

「貴族用の入り口か?」

 と聞いてみると、

「ミスラ兄様に言って、この門を使えるようにしておいたのです。列で待つと混乱を招きます」

 ラウラはそう答えた。

 ラウラ、さすがです。

 そして、俺たちはオウルの街に入った。


 街の中の人々は、異様な馬車を見て驚くが、先導するラウラを見て安心する。

 ただ、街の外以上に目立つようだ。

 歩く程度に速度を落とし街を進む俺たちの周囲に人が増えていった。

「マサヨシ殿、ここが冒険者ギルドになります」

 ラウラが馬を止める。

 そこにはゼファードなど比にならないほど大きな建物が立っていた。

「これがオウルの冒険者ギルド……」

 俺もその大きさに驚いてしまった。

 正面から見ると五階建ての建物で幅が五十メートルほどある。

「私は何度か来たことがあるけど、相変わらずデカいわね」

 広い入口からはアリのように冒険者が出入りしていたが、そこに現れた俺たちの馬車を見て冒険者たちが固まる。


 フィナが馬車をギルド前の広場に着ける。

 すると周りを住民や冒険者たちに囲まれた。

 わんこ小隊とポチは馬車の傍にわんこ座りで座ると、尻尾を振りながら待機。

 馬車の御者台からフィナ。そして中からカリーネ、アイナ、マール、リードラが降りてくる。

 俺とクリスも神馬から降りる。

 ラウラはポチと留守番をしてくれるそうだ。

 ヘルハウンドたちもオルトロスもラウラに撫でられ目を細めていた。

 すると周りの冒険者たちから声が……。

「何だあれ、何のパーティーだ? あの魔物テイムしているのか?」

「すっげー美人ばかりじゃないか」

「あの装備も凄い。あんなの売っちゃいないぞ?」

「何だあの男、あの中に一人だけだよな」

「あれが、このパーティーのリーダー?」

 そしていつもの……。

「あのデブがリーダーなのか?」

「違うだろ。でも、何だよあのハーレム。デブのくせに」

 などと声が聞こえてくる。

 多けりゃ多いで面倒なんだぞ……。

 まあ、居ないよりは居るほうがいいけどね。

 ちなみに俺はリーダーじゃない。アンタ当たってるよ。

(ぬし)よ何を考えている?」

 リードラが聞いてきた。

「『いつもの言葉が聞こえてきたなあ』ってね」

「そうじゃな。冒険者ギルドに来た感じがするのう。いつもの弄りじゃ」

 リードラがニヤリと笑った。

「さあ、皆行くわよ」

 と、カリーネが声をかける。

 おっとカリーネ、気合が入っているねえ。

 先導するカリーネの後ろから俺たちはオウルの冒険者ギルドの中に入るのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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