説教
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
いつもは夜が明ける頃に起きる俺が夕方まで寝ていた。
まあ、寝なくても大丈夫なのはわかるが、さすがに五日間の完徹は堪えていたようだ。
疲れているのを気遣ってか、誰も俺を起こさなかった。
覗きには来ていたようだが……。
俺は起きるとカリーネとアイナを部屋に呼んだ。
アイナの身長は俺より少し低いぐらいになって、一応出る所は出て引っ込むところは引っ込むようになっていた。服はクリスのを借りているようだが胸が合わないのかモゾモゾしている。
まあ、そこらへんは今後に期待じゃないかな? 強制成長で胸まで栄養が行かなかったのかもしれない。
「えっ、二人でするの?」
「今から?」
で、呼び出されてワクワクと期待している二人。
「お前等何勘違いしている? 説教だよ」
はあ、疲れる。
この世界に正座は無い。
「そこに座れ」
と言ったら、体育座りだった。
仕方ないか……。
「エイジングの薬の件?」
アイナが俺を見上げながら言った。
「そういう事」
そう言うとアイナがシュンとする。
あれで終わりにしてもよかったのだが、一応ね……。
「アイナ。体は大丈夫か?」
「うん、大丈夫。でも体が大きくなって感覚が違うせいかぶつかっちゃう。慣れないといけない」
まあ、一気に四十センチぐらい伸びてるからなぁ。体の感覚は狂うか……。
「でもね、当たっても痛くないの。ステータスも上がっているみたい」
大きくなった分、STRやVITなんかが上がってるのかもしれない。
「それで、アイナ、カリーネお前エイジングの薬を飲んだらどうなるか知っていたのか?」
プルプルと否定するアイナとカリーネ
幼さが無くなったことに違和感があるなぁ。途中が無いから、親戚の子供に久々に会ったら背が伸びていた感じだ。
「あれ、アグラが居なかったら、お前死んでたぞ?」
「うん、この前聞いた」
「でもな、俺、反省しているんだ。もっとアイナと話をしておけば良かったかなと。俺が説得してエイジングの薬の事をちゃんと諦めさせたり、俺がアイナにちゃんと説得されていればこんな事にはならなかった。『諦めろ』と『大人になりたい』の意見しか言い合わなかったからな。薬を使うにしろ使わないにしろ薬によって起こることや対策をアグラに聞いておけば、あんなことにはならなかったはずなのに……」
「でも、私が勝手にやった事だから」
とアイナは言う。
「んー、何だろ。これは俺の勝手なんだがね、俺にとってアイナは娘で俺はお前の保護者だと思っているんだ。保護者ってのは子供が勝手に何しようが責任を取らなきゃいけない。だから俺はアイナに『もっと何かできなかったか反省しなきゃいけない』と思う。申しわけないことに行動じゃなくて反省しかできないんだけどね……。ごめんな」
俺はアイナの頭に手を置き話しかけた。
「私こそ……ごめんなさい」
「カリーネも何でアイナに付き合った? 俺に嘘をついてまでエイジングの薬を手に入れたりして」
「それは……」
口ごもるカリーネ。
「あのね、私もね、アイナちゃんみたいに『大人になりたい』と思った事があったのよ。まあ、私の場合は早く大人になって冒険者になって独り立ちしたかったんだけど……。そういうのもあってちょっとね……」
「でもなぁ、相談して欲しかったぞ」
「私が、マサヨシに言わないでって言ったの」
アイナがフォローしてくる。
カリーネが思い立ったように、
「あのね、アイナちゃんはそれだけあなたが好きなのよ? わかってる? 子供だって思って放っておかないの。大人として扱ってあげて」
「それはな、アイナがエイジングの薬を飲む前に言ってもらいたかったよ。まあ、今さら何言っても仕方ないが……」
俺は少し考え。
「でもまあ、アイナの相談相手になってくれたのはありがとな。男の俺じゃわからないこともカリーネだったら言いやすかったのかもしれない」
「私は母親だから母性が強いのよ!」
胸を張りドンと叩くカリーネ。
「調子に乗らない」
「はい……」
カリーネ、テヘじゃないぞ。
「昨日も言ったが、アイナの体は女性そのものになってしまった。俺も女性の考え方なんてのはわからない。そういう教育は俺には難しい。だからカリーネ、フォローをよろしくな」
「任せて!責任は取るから」
再び胸をドンと叩いた。
「さて、最後に……」
俺は一呼吸おいて、アイナとカリーネに話す。
「薬ってのは用法を間違えたら毒にもなるんだ。特に金箱から出るような稀な薬は今回のように本当の効果はわからないものが多いようだ。今回アイナが助かったのは、たまたまエイジングの薬の効果を知っていたアグラが居てくれたこと、たまたま俺の奴隷になったせいでアイナの魔力が多かったこと、たまたま魔力の供給源である俺が居たこと、この部分が大きいと思う。いくら俺が『たまたま』と言っているとはいえこんな『たまたま』はもう勘弁してくれ。いくら魔法があるとはいえ、どんな条件が必要なのかもわからないリザレクションを使いたいとは思わない」
そりゃ、どうしても必要ならば使うが……。
「頼むから俺の目の前で何もできずに愛する人が死ぬのはやめてくれ。頼むから……」
俺の原点。
思い出さないと決めていたんだがね……やはり元妻を思い出す。
そして、あの時の無力感を思い出す。
知らない間に泣いていたようだ。
ああ、カッコ悪いな……。
すると、アイナが飛びついてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、………………」
謝りながらアイナが泣きじゃくる。
俺はアイナの頭を撫でる。
しゃがんで目線を合わせなくても撫でられる身長になったんだな。
本当はもっとこういう話をしておかなきゃいけなかったんだと思う。
おざなりにした結果。親の反省。
「いいよ、お前が元気ならいいんだ」
それしか言えなかった。
「ごめんなさい。私ももっと考えればよかった」
カリーネが俺に謝った。
「いいや、謝るのは俺の方。アイナを子ども扱いしすぎたのかもしれない。そこはカリーネが居てくれて良かったんだと思う。親ってどうすればいいのか正直わからない」
「そんなの、私もわからないわよ? 最近なんてエリスはアイナちゃんやアクセル君、キングやポチと勝手に遊んでる。孤児院の学校にも行ってるしね。帰ったら寝てるなんてよくあることなの。でも家の中で私が帰るまで一人で待っていた頃に比べたらエリスはとても楽しそう。エリスが楽しいのなら私はそれでいいと思ってる」
そんな風にカリーネが言った。
俺は目線を下げ、
「お前は楽しいか?」
と、アイナに聞いてみる。
「うん、楽しい!マサヨシと出会ってから楽しい!」
まだ、心が体に伴っていないアイナ。
大人になった体から子供のような言葉が出た。
そうだな、まずはアイナが楽しければいいか。あとは追々で……。
こうやって説教(反省)会は終わった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
第245部分 追い込みきれなかった(旧 丸め込まれてしまった)は大幅変更してあります。再読していただけると助かります。




