使用上の注意。
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
カリーネが俺の部屋に飛び込んできた。
カリーネの顔は真っ青で焦りが見える。
何を言っているのかがわからないが、急いでいるようだ。
「何が『ごめんなさい!』なんだ? おい、カリーネ、しっかりしろ!」
俺はカリーネの肩を持ち、目を見て聞いた。
「あっ、ああ。アイナちゃんが……大変なの。部屋に居るんだけど……」
まともな説明じゃないが、アイナが大変なのはわかった。
急いでアイナの部屋へ行く。
そこには、体が大きくなりつつあるアイナが苦しそうに身を丸めていた。呼吸も荒い。
傍らにはエイジングの薬が転がっていた。
後から入ったカリーネはオロオロするだけだ。
なんでこんなところにエイジングの薬が……。思い付くのはあの時のこと。
それよりも、今の状況を何とかしないと……。
しかし、どうすれば良いのかがわからん。
こういう事を知ってそうなやつって言えば……。
「ちょっとアイナの部屋まで来てくれ」
アグラを念話で呼んだ。
「はいーー!」
近くにいたのか、すぐに声が聞こえたが、「ドン」と言う音がする。扉に当たったようだ。
そういや開けていなかった。
すぐにアイナの部屋の扉を開け「痛いですう」と言っているアグラを抱え、アイナの傍に置いた。
「アグラ、アイナをちょっと診てくれ」
「マスター、どうしたんですか?あれ、アイナ様が……」
「アイナがエイジングの薬を飲んだみたいなんだ」
眼鏡を押さえる仕草をしたあと、
「マスター、これは魔力不足ですね」
落ち着いた声でアグラが言った。
「どうすればいい?」
「とりあえず、アイナ様の胸に手を置いて魔力を流してもらえますか? ゆっくり少しずつ増やすように……。これで症状は緩和されると思います」
俺は言われるがまま、アイナの胸に手を置き少しずつ魔力を流した。
「マスターの魔力量は膨大ですから一気に流すとアイナ様が死んでしまう可能性があります。気を付けてください」
死の危険性があるほどとは……。
「はい、そのくらいで……。マスターがアイナ様に流す魔力量がこれで成長による魔力の消費量よりも少し多いぐらいになりました。この状態を成長が終わるまで維持していただきます」
アグラは何が起こったのか理解しているようだ。そこで、
「これは、エイジングの薬の副作用なのか?」
と、アグラに聞いてみた。
「いいえ、これがエイジングの薬の薬効です。魔力を消費して成長を促すのです。あっ、魔力量が増えてます、少し減らして」
知ってて当たり前のように言われてしまった。
俺は魔力の量を調整する。
「魔物の進化に使うときいていたが、こんなので大丈夫なのか?」
「マスター、魔物が進化する前には体内に魔力を溜め込みます。その魔力を使って進化するのです。本来進化させる魔物は進化できる量の魔力を持っていることが前提となるのです。魔力を持っていないと、死にますね」
「つまり、進化して別の種族にならない人は、魔力を溜め込んでいない。だから、魔力の不足を起こした訳か」
「はい、そういうことになります。アイナ様の場合は、アイナ様の魔力量が多かったことで、マスターが来るまで魔力がもったのでしょう。普通の人なら死んでいましたね。マスターによる魔力の補給も行っていますから、三日もすれば成長は終わると思いますよ」
「えっ、俺ずっとこのまま?」
トイレ行けんじゃん。
「トイレの間は私が替わりましょう。食事は片手で摂ればいいかと」
ちゃんと考えてくれていたようだ。
「でもアグラが出来るなら……」
「私が魔力の補給をしてしまうと、ダンジョンの管理ができなくなります。ですから、最小限でお願いします」
そんな話をしているうちにアイナの呼吸が落ち着いてきた。
「マサヨシ、ごめんなさい」
カリーネは泣きながら謝ってきた。
「この薬は冒険者ギルドで渡したエイジングの薬の一本だな?」
コクりとカリーネは頷いた。
「あなたは、こうなるのがわかって?」
「いいや、わからないよ。わかるはずもない。ただな、子供の頃の思い出って必要だと思うんだ。アイナにはもっと相応の事をして貰いたかった。小さな時に苦労した分ね……まあ、俺の説得力がないからこうなった訳だが……」
ふう、結局アイナのオヤジにはなれなかったのかな。
「エイジングの薬の事はどっちからどうしたと言うのはあとで聞くとして、カリーネ、マールに俺の朝昼晩の食事をアイナの部屋へ持ってくるように言ってくれないか」
「えっ、ああ、わかったわ」
カリーネは部屋の外へ出ていった。
今は怒っても仕方ない、アイナへ集中だ。
アイナの部屋で食事をとり、トイレの間だけアグラと替わる生活が続く。
アイナの体の清拭はカリーネがやっていたが、疲れて倒れそうになったので、カリーネは休ませ、皆に交代でしてもらった。
俺はステータスのお陰か何とかなる。
アグラは三日と言っていたが、結局五日の間アイナの部屋へ籠ることとなった。
そして五日目……アイナが目を覚ます。
「何でマサヨシがベッドの横に……」
胸をさわっている俺を見て、キョトンとしたアイナが居た。
状況がわからないようだ
「よう、イタズラ娘め。今回は結構疲れたぞ。薬を飲むときは使用上の注意を読まないとな」
「あっ」
思い出したのだろう、ばつが悪そうな顔になるアイナ。
「勝手に大人になろうとしやがって……。五日間眠り続けたんだぞ?」
「ゴメン」
目を伏せるアイナ。
さて、報告を……。
「カリーネ、アイナが目を覚ましたぞ」
俺は念話で伝えるとすぐ、ドタドタという足音が近づき、バーンと扉が開く。そこには涙を流すカリーネが居た。
話を聞くと、アイナの相談を受けたカリーネが実際にエイジングの薬を求める依頼が来たのを利用して俺からエイジングの薬を手に入れたようだ。
俺がおかしいと思ったのも。フィナが「緊張の汗の臭いがした」と言ったのも正解だったわけだ。
「怒らないの?」
アイナが申し訳なさそうに言う
「今さら戻れんだろ? アンチエイジングの薬もあるらしいが、こんなことが何回もあったら困る。でも、そうだな……」
アイナとカリーネのおでこにデコピンを軽くすると「パチン、パチン」というきれいな音が響く。
「「いったーい!」」
二人ともおでこを押さえ涙目だ。
「アイナ、勘弁してくれよ。俺は目の前で身内が死ぬのを見たくない。だから、無理はするな」
俺はアイナの頭を撫でながら言った。
アイナはコクりと頷く。
「カリーネ、アイナの体だったらもう月のものも来るだろう。そういう教育は任した」
「任せて、得意だから」
んー、変な方向にいかなければいいけど……。
皆に念話でアイナの回復を連絡し、サラには軽い食事を持ってくるように頼む。
アグラにも、
「ありがとう。助かったよ」
と、連絡しておいた。
「私は使えるでしょう?」
とのことだ。アグラのどや顔が思い浮かぶ。
するとすぐに皆がアイナの周りに集まった。
そしてワイワイと話が始まる。
俺は、
「アイナ、これ以上急がないでくれ。はあ、疲れたよ……」
ボソリと独り言を言うと、アイナの部屋を出て俺の部屋のベッドへ向かうのだった。
ちなみに、冒険者ギルドカードは十五歳になっていたそうな……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
第245部分 追い込みきれなかった(旧 丸め込まれてしまった)は大幅変更してあります。再読していただけると助かります。




