追い込みきれなかった。
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
次の日、ヘルゲ様のところに行く。
ラウラも一緒である。
「どうした? 子供でもできたか」
軽くヘルゲ様が聞いてくる。
「えっ、いや、そうじゃないんですけど……」
俺はヘルゲ様にここまでの経緯を話した。
「マサヨシ、ラウラの事は感謝する」
ヘルゲ様が俺に頭を下げた。
「いいえ、俺は普通より力があることに慢心していました。俺から離れたラウラが危機に陥った時、何もできないってことがわかりました。今回たまたまラウラが話ができる魔道具を身に着けていたので場所がわかりましたが、もし無ければと思うとゾッとします」
俺も反省だ。
「私は、助かったので気にしないでください。それに……」
ヘルゲ様が何かに気付いたようだ。
「ふむ、きっかけにはなったようだな。で、マサヨシとしてはどうする?」
「今回は王族が絡んでいるようですが、勝手にしますね」
王の名を聞きピクリとするヘルゲ様。そして諦めたように、
「お前なら何とかするか……。好きなようにすればいい」
と言った。
「ラウラ、ミスラへの報告は?」
ヘルゲ様がラウラに聞いた。
「まだです。今日行おうかと」
「マサヨシ、ラウラと一緒に騎士団へ行ってもらえないか?」
そういや、ミスラが団長を務める王都騎士団へは行ったことがなかった。
ふと見ると、ラウラが俺をじっと見ていた。
「わかりました。ラウラの方から今回の話をするのは難しいでしょう。俺も一度騎士団のほうへ行ってみたかったですから」
俺の答えを聞いてパッとラウラの顔が明るくなる。
「ふむ、ラウラもそんな顔をするんだな」
ヘルゲ様がニヤリと笑う。
バストル家への扉を開け、ラウラの部屋を通って館の中に入った。ラウラが確認すると、ミスラは昨日帰ってきてないと言うことだ。
「私が失踪したと言うことで、指揮を執っているのかもしれません」
ありゃ、やらかしたな。報告ぐらいしておけばよかった。
ラウラは騎士団の詰め所内に入り
「ラウラ・バストル。帰りました」
と報告を行うと、
「ラウラ様が戻られた。早くミスラ団長に報告を!」
と言って、騎士が奥に走る。
付き添いの俺は「こいつ何者」と言う感じで見られる。
報告を聞いたのか、ドタドタと靴の音を響かせミスラが現れる。疲れた顔、目の下には隈ができていた。ミスラはラウラを見ると、
「ラウラ、無事だったか?」
一番にと聞いた。ラウラも、
「はい、無事です」
その声を聞いて安心したのか、ミスラの顔が少し和らぐ。
「ラウラの捜索に出ている者を『無事見つかった』と言って呼び戻せ」
ミスラが指示を出す。騎士たちは「了解」の声と共に、外に走り出した。
「お前の馬だけが町の入り口に帰ってきたと聞いて心配していたのだ。それで何があった」
騎士団の馬は、何かあったときにオウルの町へ戻るように調教してあると言うことだった。
「マサヨシが来ておるのだ。その辺のことも聞かないとな」
「ミスラ、ここではちょっと言いづらいこともあるので、三人で話したい」
というと、察したのか、
「わかった」
ミスラは俺達を連れ奥にある団長室に入る。
「ここなら、聞かれることもあるまい。何があった?」
俺はミスラに経緯を話した。
すると、
「小隊二名の他にラウラの補佐についていたノートと言う騎士の死体が発見されている。ノートの遺体は他の二人から離れたところにあったと言う。口封じに殺されたのかもしれないな。その王族の件はこちらでは難しいかもしれない」
苦々しい顔でミスラは言った。
「ヘルゲ様にも言ったんだが……」
「オヤジは何と?」
「『好きにしろ』と言われたよ」
「なら、俺も言うことはない。好きにしろ」
そうミスラも言うのだった。
「ラウラ、砦を調べに行こうと思うんだが、どうする?」
「私が居ると足手まといになると思います。ここでお兄様と一緒に待っています」
ラウラは俺のもとを離れミスラの横に行った。
「ミスラ、悪いんだけどラウラを頼んでいいか?」
「ああ、妹の事は任せておけ」
とミスラは言ってくれた。
俺は扉を出し盗賊のアジトであった砦へ向かう。
俺が殺した盗賊たちの死体は放置のまま転がっていた。
すこしすえた匂いがする。
あれ? レーダーに白い光点が三つ。
なぜ人が居る?
何か探しに来た?
俺が床に落ちていた何かを踏んで「カチリ」と音がすると、光点の色が敵対する赤へ変わった。
俺の居る部屋を囲むように光が動く。
こういう時は各個撃破だよね。
一番近くに居た黒装束背後に回る。
気付いていない?
首筋に手刀を入ると「ボキッ」という音がした。
糸が切れるように崩れる黒装束。
あちゃ、生かしとこうと思ったのにやり過ぎたかな?
赤い光点が一つ消える。
すぐに次の光点へ向かった。
向こうは何が起こったのかわからないようだ。
素早く正面に立ち、今度は鳩尾を殴る。
うわー汚いなぁ。テレビだったらキラキラが出るか……。
黒装束はおもむろに吐きそして気絶する。
光点は消えない。一応生きてるかな?
最後の黒装束と目が合う。
懐から何かを投げると周囲が煙で見えなくなった。
煙玉か? 忍者かよ……。
光点は俺から離れ始めた。
「フウ、悪いんだが、無力化で頼む」
「ん、了解」
フウが抜けしばらくすると光点は動かなくなる。
「終わった」
フウが戻る。
「あと、この中の煙を風で追い出してくれよ」
フウは何も言わず風の流れを作り煙を外に追い出した。
「終わった。戻る?」
「ああ、ありがとう。戻っていいよ」
フウは俺の体に戻った。
黒装束の死体を収納カバンへ入れ、残りの二人から情報を聞き出すことにした。
「エン、手伝って欲しいんだがいいか?」
「お安い御用だよ」
エンが飛び出してくる。
生きている黒装束の手足を縛り、猿轡をすると気付けをイメージした魔法をかけた。
「「!」」
俺を見て驚く黒装束たち。
「エン、こいつらに催眠術かけてよ。俺に全部話すように」
「わかった」
黒装束たちの目の前にぼうっと炎が現れる。
食い入るように見る黒装束。
その炎に誘われるように体が揺れた。
催眠状態になる黒装束たち。
猿轡を外しても自害はしなかった。
舌を切って自害ってよくあるからね。
続いて質問をする。
「お前等は何物だ?」
「「レーンバリ子爵の密偵」」
二人が同じことを言うって事は事実なのかね?
「誰がこの場所を探れと?」
「「レーンバリ子爵」」
「なぜ?」
「「ローズシルバーの回収…………と盗賊たちの殺害。そして、手紙の回収」」
「手紙の回収とは?」
「「依頼した手紙にはレーンバリ子爵の紋章……ルーマン公爵家の紋章。見つかると困る」」
「それはどこに?」
「「わからない。見つからなかった」」
どこを見ているのかわからないような目で黒装束たちが話す。
「エン、少し見ていてくれ」
「わかったよ」
俺は手紙なるものを探しに行った。
レーダーに手紙を表示させると……おっと、あったね。
そこに行くと、壁? しかなかった。
何か仕掛けがあるのかね? しかしわからん。
鉈代わりのダガーを出すと光点の周辺を掘る。
箱が現れる。
あっ、あそこの戸棚を弄ると、扉が開くようになっていたのね。
強引に見つけたけど……。
その箱を開けると、金貨や銀貨に混じって手紙が二通。封蝋に紋章がされてあった。
「これが見つかるとヤバい手紙なんだろうな」
読んでみると、一通は
「騎士団に内通者を作った。時間を合わせてラウラ・バストルを襲う。場所はオウル北の森の中。ラウラ・バストルを拉致しローズシルバーを奪え。その後のラウラ・バストルは好きにしていい」
という感じの内容。
もう一通は、
「お前たちの働きでローズシルバーが手に入る。娘も喜ぶだろう。成功の暁には報酬は思いのままだ。ラウラ・バストルの件はこちらで何とでもする。好きにしてくれればいい」
って感じの内容。
ふむ……腐ってるね。
一応全てを収納カバンへ入れた。
エンのところに戻ると、再び黒装束たちに猿轡をすると、エンに体に戻ってもらって扉を出し、ミスラのところへ戻った。
「ラウラ、帰ったぞ?」
「ああ、お帰りなさいマサヨシ殿。お怪我は?」
「無いよ。心配してくれてありがとうな」
俺はラウラを軽く抱いた。
「おう、帰ったか。いきなり見せつけてくれるな」
心配だったのか立っているラウラとミスラ。
「で、何かわかったか?」
ミスラが聞いてくる。
「手紙を見つけた。この封蝋の紋章はわかるか?」
俺は収納カバンから二通の手紙を出す。
「これは、レーンバリ子爵の紋章だな。こっちは……」
二通目の紋章を見て固まる。
「マティアス王の弟君、ルーマン公爵家の紋章じゃないか!」
「まあ、手紙を読んでみろよ」
俺はミスラに手紙を読ませる。
レーンバリ子爵の手紙を読み始めると体が震えだし、二通目のルーマン公爵の手紙に至っては投げつけた。
「ただの鎧の事だけでこんなことを……ラウラの事はどうでもいいのか!」
「おいおい、証拠だからな」
俺が床に落ちた手紙を拾いながら言うと、
「すまん」
とミスラが頭を下げる。
「で、どうする?」
「ん? 俺一人で動くよ。伯爵様が動いては面倒だろ?」
「しかし……我が家の事でもある」
「いいや、ラウラは『俺の』婚約者だ。『俺が』痛い目に合わせる。負ける気は無いが何かあった時、お前が動いていては言い訳はできないからな。聞いた話では『貴族は家を守るのが仕事』だろ? 安全側で居ればいい」
「しかし」
「手を出すなって言ってるんだ!」
ミスラはため息をつくと、
「俺は義兄になるはずなんだが」
と言った。
「不肖の義弟を見守ってくれ。さてと、レーンバリ子爵の所へ行ってくるよ」
「まだ明るいだろ?」
「目立っていい。ラウラはもう少しミスラと居てくれ」
「はい、お待ちしています。御武運を」
「御武運を」このフレーズを聞くようになるとは……。
マップにはレーンバリ子爵の館が表示されていた。
黒装束たちを小脇に抱え俺は屋根の上を跳ね館へ向かう。
「目立っていい」とは言ったが「目立ち過ぎる」のもな……。
そして、上空からレーンバリ子爵の館の庭に着地した。
精霊たちを展開、蹂躙を始める。一応無力化である。
玄関を蹴破ると、周囲に居たメイドたちの「キャー」という悲鳴が聞こえた。
結構デカい音が聞こえたのか飛び出すように若い男が出てきた。
「アンタがレーンバリ子爵か?」
出てきた男に聞く。
「そうだ!」
俺は、縛り上げた黒装束二人と、死体をレーンバリ子爵の前に投げ捨て、
「この二人とこの死体、アンタが指示を出したのか?」
と聞いた。
「そのような者は知らん!」
「じゃあ、この手紙は?」
「ぐうっ」
心当たりがあるのかレーンバリ子爵は言葉が詰まる。
しかし数十対一の数の強さに余裕があるのか、
「この人数に一人なのだ、無事に帰れると思うなよ」
と、俺に言う。
ふう、と一息して
「あっ、そう……」
というと、一気にレーンバリ子爵に近寄った。
「お前気付かないか? 周囲に居た兵士やメイドたちがどうなっているのか」
何十も居た兵士が一人、また一人と崩れ落ちる。
そして、レーンバリ子爵一人になった。
「えっ、あっ。なぜ?」
「悪いな、俺、魔法使いだから、色々な魔法が使えるんだ。で、この手紙に書かれていた内容は本当か?」
「そんなはずがないだろう? 証拠などない。手紙があったからといって何なんだ」
「エン、頼むよ」
「了解でーす!僕にお任せを」
再びエンに頼み催眠術をかけてレーンバリ子爵に話してもらう。
手紙の内容は間違っていなかったようだ。
追加で子爵から侯爵への陞爵も約束されていたらしい。
今度はレーンバリ子爵を縛り上げ、脇に抱えた。
ふむ、一応マティアス王には報告しておくか。
俺は王宮へ向かった。王の居る場所へ向かう。
執務室のようなところの前に兵士が二人。当身で気絶させた。
扉を開け中に入る。
「こんにちは、マティアス王」
「マサヨシか? どうしたんだ」
俺の訪問を当たり前のように答えた。
「普通、『曲者!』とか言われて攻撃されそうですが……」
「オークレーンが死ぬ前に『マサヨシを怒らせるな! 手を出すな! 国が滅びる』と言っておったのでな。それを実践しただけだ」
そんなこと言い残していたのね。
そんなに腫れものを触るように言わんでも。
それじゃ、俺がバケモノみたいだろ?
あっ、俺バケモノ扱いされてたわ……。
「はあ、そうだったんですか……」
オークレーン侯爵め……。
「それで、他の貴族にその事は?」
「いいや、言ってはおらんが……」
マティアス王は俺が小脇に抱えたレーンバリ子爵を見て溜息をついた。
「まさか、お前に手を出したのか?」
「いいえ、私の婚約者に手を出しました。そして小隊の部下も……余計にひどいです。証拠はこれになります」
レーンバリ子爵の手紙をマティアス王に渡した。
手紙を読むと苦々しい顔をするマティアス王。
「わかった、レーンバリ子爵の事は任せてもらえないか」
「いいですよ。ちなみにもう一枚手紙があります。読んでみますか?」
マティアス王はルーマン公爵の紋章が付いた封蝋を見ると、一瞬手が止まった。
そして手紙の内容を確認する。
そして、
「ルーマン公爵をどうする?」
と聞いてきた。
「わかりません。とりあえず公爵の枕元に立ってみましょうか。他には娘を裸にして盗賊の中心に置くってのはどうでしょう。ラウラは俺が助けに行った時、その状態でしたから。何ならうっすらと傷をつけたりしてもいいですね」
「儂が手を出してはいかんか?」
「兄弟で緩い仕置きですか?」
「ぐっ」
言葉が詰まるマティアス王
「俺は地位も名声も金も要りません。それを手に入れる方法もやり方も知っていますから」
「では、儂はどうすればいい?」
「どうもしなくていいです。手を出さないでください。その上で俺らに手を出したら反撃します。その報告に来たまでです」
「どうにもならんか?」
「はい」
そう言いきると俺は扉を出した。
向こうは兄弟だ、本当は何とかしたいんだろうな。
再び建物の上を飛び今度はルーマン公爵の館を目指す。
さて、どうしようか……。
「クレイ、館を壁ごと崩壊させるのってできる? 建物全部」
「できるわよ?」
「中に居る人を全部生かしておくのは?」
「まあ、今の私なら可能ね」
おっと自信満々だね。
レーダーでルーマン公爵と娘を探すと館の中に居る。
さて、行きますか。
俺は庭に飛び降りた。
さすが公爵、無駄に広いな。
再び玄関を蹴破る。
「ルーマン公爵は居るか? ローズシルバーの件で話がある」
おっと、警備兵登場。数も子爵とは大違いだ。数百?
「公爵家と知っての狼藉か!」
ルーマン公爵とその後ろに娘が出てくる。
俺を見下すような娘の目。
勘違いして飛び込んできたデブってトコかな?
「ああ、公爵家だと知ってきた。あんた、マサヨシって名前知らないか?」
少し考えるルーマン公爵。
「オークレーンの時に名前が出ていた気がするが……」
「オークレーンを潰したのは俺だよ。つまりここも潰しに来た」
「王である兄が黙ってはいまい」
「王には言ってある『勝手にする』ともな」
「この数で一人だぞ? どうにかなると思っているのか?」
おっと、兵士がニヤニヤだ。
「公爵様、私にお任せを、このようなデブ、私が一撃のもとに葬り去りましょう」
そう言って、俺よりデブな男が斧を手に俺の目の前に現れた。
おお、デブだ。
俺が言うまでもなく俺を上回るデブだ。
「おお、兵士長、お前ならこのような小物どうにでもできるだろう」
「お前のような子デブが俺に勝てるとでも思っているのか、俺はSTRがSだぞ?」
デブがデブに威張る姿。
公爵も勝利を確信しているのかニヤニヤだ。
どうでもいいや。
俺は手のひらをクイクイと動かし挑発すると、気に障ったのか。
「なめるなー!」
と言ってデブな兵士長が斧を振り被り振り下ろしてきた。
俺は振り下ろした斧を片手の指で挟んで止めた。
俺を支える床がベコンと凹む。
その後斧を取りあげ片手で兵士長に振り下ろすと、縦に割れて倒れた。
兵士たちが、公爵が、娘が、唖然として俺を見る。
「死にたい奴は来たらいい、相手するから」
数十人の兵士が飛び込んできたが、全てを瞬殺する。
顔の形など残さない。
血しぶきが公爵のところまで飛ぶと「ひぃ」と言って腰を抜かした。
「もう一度言う。死にたい奴は来い!」
そう言って構えると、兵はゆっくりとあとずさり、俺が威圧すると武器を放り投げ逃げて行った。
「で、公爵のオッサンは、俺に何か言うことはあるかい? この手紙に書いてあるラウラってのは俺の婚約者なんだ。どうにでもしていいってのは聞き捨てならないなぁ。まあ、実際助けに行った時は全裸のうえそこかしこに刀傷をつけられていた。あんたはそういう事を娘にしていいということだよな?」
俺が後ろで震えている娘を指差し言うと。
「そっそれは……」
「だったら、公爵の娘はダメで俺の婚約者はどうにでもされてもいいと?」
「うっ」
ローマン公爵は言葉が詰まる。
「たった鎧一つのために、俺の婚約者は犯されてもいい訳だ」
「…………」
そしてルーマン公爵は何も言わなくなった。
「あんた、公爵だから誰も文句言わないとか思っていたんじゃないのか? なめんな、お前の爵位なんて俺には関係ない」
そう言うと、クレイに建物崩壊の指示を出す。
「人を巻き込まないように」との指示も込みで。
「ゴゴゴゴゴゴゴ……」という音がすると、砂のように石造りの館が砂に変わった。
そのあと、そこには砂まみれのルーマン公爵と娘が居た。
「お前が生きているのはマティアス王のお陰だ。お前を殺したくないと思っていたから殺さなかっただけ。マティアス王に感謝するんだな」
何もなくなった館の跡に、兵士やメイドと執事が立つ。何が起こったのかわからないようだ。
「今回はこれで許してやる。文句があるならドロアーテの辺境に兵士を連れて来ればいい。皆殺しにしてやる。そして、次、俺に……俺の仲間に手を出したら殺す。わかったか!」
俺は吐き捨てるように言う。
「申し訳なかった」
崩れ落ちるようにルーマン公爵は俺に謝った。
これでいいかな。
俺は勝手にラウラのところへ扉で戻る。
「再びただいま」
「お帰りなさい、マサヨシ殿」
ラウラが迎えてくれる。
「どうなった、マサヨシ」
ミスラが聞いてきた。
「ああ、ルーマン公爵の館を崩してきた。今後あいつらどこに住むんだろうな」
ちょっとスッキリでニヤニヤしてしまう。
「えっ?」
「館を砂に変えてきた。殺してやろうかと思っていたが、マティアス王の事もあるからその程度で抑えた」
「それで抑えたって……」
ミスラは変な汗をかいていた。
「ちなみにマティアス王には言ってあるから気に入らなかったら俺んち攻められるかもしれないな。まあ、その時はどうにでもするさ。過剰戦力は家にいるんでね」
「お前んとこはどうなってんだ?」
呆れ気味のミスラだった。
一か月後、一つの子爵家が消えた。消えた子爵は盗賊に繋がりがあったと言う噂だ。
そしてもう一つの噂……バストル家が陞爵して伯爵から侯爵になると言う。
さらにルーマン公爵の館が崩れたのは基礎が崩れたということらしい。
さて、ミスラはどうするのやら……。
「マサヨシ『侯爵にならないか? 』という話が来てるんだが……」
ある日、ラウラを連れ騎士団へ行くとミスラが聞いてきた。
「好きにすればいいだろ? それは当主であるミスラが決めることだ」
と、俺は言う。
「俺はお前の抑え役にはなれんよ」
ミスラはヤレヤレという感じで俺に言った。
「だったらやめればいい。俺もミスラの言うことを聞く気もないしな」
「だな、そう言うなら断っておくよ」
そう言って、ミスラは去って行った。
「ラウラ、悪いな。俺は公爵を最後まで追い込めなかった」
「いいんです。マサヨシ殿は私のために怒ってくれた。だからいいんです」
嬉しそうにラウラの方から俺に抱きついてきた。
その後
「ちょっと相談があるのですが」
とラウラが言ってきた。
その話によると、ラウラの件で死亡した騎士たちには遺族年金がつき、残された家族たちが食うに困らない金額を支給されるという。
ただ、一人の騎士の息子は孤児となり、行くところがなくなったと言うことである。
そして、
「あの子をどうしたらいいのでしょうか?」
と、ラウラが聞いてきた。
「ラウラはもう決めているのだろう?」
「……はい。よろしければ、マサヨシ殿の孤児院にいれようかと思っています。騎士になるのであれば、父上や私が指導できますし、従者として育てることもできます。他の道に行くにしろ、勉強や職業訓練が可能です」
ラウラは言いづらそうに考えを言う。
「そうか、ラウラがそう言うのなら、うちの孤児院に入れればいい。ヘルゲ様も文句は言うまい。ただし、その子の意思確認はちゃんとして。嫌々では意味がない」
ラウラは俺の言葉を聞くとホッとしていた。
もしかしたらラウラはすでに孤児院の話もその子にしていたのかもしれない。
三日後には孤児院に真面目そうな男の子が一人増えていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




