何で泣く?
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
ゼファードの冒険者ギルドから帰るとフィナが俺に抱きついてきた。
「ん? どうした?」
「ただ、嬉しいんです」
フィナは泣いていた。
「なんで?」
「抱いてもらえましたから。わたしはご主人様に抱いてほしかったのです。だって、私はただの戦闘用の獣人。ただの護衛だけで居てもおかしくない獣人です。だから、ご主人様に抱かれるなど思っていなかったのです」
「お前、アホだろ。今までフィナに護衛してもらおうなんて思っていなかったぞ? 『護衛してくれ』なんて言ったこともないだろうに。俺はな、お前に勝ったとき、こんなかわいい獣人を俺の奴隷にできるって嬉しかったんだ。俺は『フィナを守れればいい』かなって思ったんだ」
「アホ」って言うのは言い過ぎかもしれないが、フィナを戦闘用の獣人なんて思ったことは無い。
まあ、ダンジョンでは戦ってもらったけどね。
「嬉しい」
フィナが俺に抱きついてきた。
ありゃ、エリスとアイナが覗いてる。
あっ、二人とも怒ってる。
「いいなぁ、フィナさんはお父さんに抱っこしてもらってる」
「フィナだけ抱っこされてる。それも嬉しそうに」
エリスとアイナから不満が出た。
「わっ、私はご主人様とダンジョンに行って楽しかったから……」
フィナが恥ずかしそうに俺から離れた。
「ダンジョンに行っていい事があったの?」
エリスが聞いた。
子供の素直な質問は残酷な時がある。
フィナがモジモジして答えられないようだ。
「フィナ、子供たちを見なくていいのか? 着替えて行ってきてくれ」
と言ってこの場を去ってもらう。
「それでお父さん、ダンジョンでいい事があったの?」
エリスが再び聞いてくる。
「ん? いいことあったぞ?」
と俺が答えた。
「マサヨシ、何があった?」
アイナが疑うような目で聞いてきた。
「ん? 頑張ってサイクロプスを狩ったから、今後のドロップはシルバーメイプルの木になる。これも砂糖の原料になる木でな。シュガーアントの砂糖生産量が上がるだろう。ってことは?」
「あっ、お菓子が増えるかもしれない!」
エリスが子供らしい反応をした。
アイナは違うと思っているようだ。目線が厳しい。
まあ、カリーネから性教育的なものを受けたって聞いたことがあった。なんとなくわかってるんだろうなぁ。
「じゃあ、ちょっと行くな」
俺は二人から離れた。
しかし、アイナが近づいてきた。
「大人は誤魔化す」
「よく知ってるなアイナ」
「素直に言えばいいのに。フィナを抱いたのでしょ?」
「ああ、抱いたぞ?」
俺が素直に言うとアイナがピクリとした。
「俺が抱きたいと思ったから抱いた。いかんか?」
半分襲われたようなものなのは言わなくてもいい。
アイナは目を伏せる。
「駄目じゃないけど、ちょっと悔しい」
「年齢か?」
「ん、そう」
「もうしばらくは俺の娘で居てもらえないかね。『おとうさん』のち『夫』だろうに」
「みんなは『夫』に近づいているのに私だけ『おとうさん』のまま」
「焦っているのか?」
「みんな美人だしスタイルいいし、クリスとクラーラ以外の性格もいい。後からじゃ追いつけない。だから何とかする」
クリスとクラーラの性格も良かろうに。めんどくさくはあるが……。
「何とかするっていってもな……そんな方法簡単には……。ああ、エイジングの薬か」
アイナはコクリと頷いた。
「俺は嫌だけどな。無理に大人になる必要はないと思う。小さい時の経験は必要だ」
俺は、アイナの心がわからず、適当にはぐらかした言葉を言った。
縋るようにアイナは俺を見るが、俺はエイジングの薬を出さなかった。
「もういい!」
と言ってアイナが泣きながら離れていく。
俺はわからない、あいつが年齢のせいで候補たちと同じことができず辛い思いをしたのかもしれない。でも、だからといって大人になる必要はないと思う。
大人だからということで制限が解除される分、大人だからという責任も増加するんだがねぇ。
まあ、アイナはその辺は大丈夫だろうけどな。
「大人ってそんなにいいモノかね……」
俺は去って行くアイナを見ながら呟いた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




