フィナとデート?
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
久々に何もなく、玄関でボーッと空を眺めていた。
「お暇ですか?」
フィナが俺に聞いてきた。
「お暇ですねえ」
俺はそう答える。
「デートしませんか? この前のデート権を使いたいです」
「デートか、どこに行く?」
急なのでノープランだ。
「ご主人様と一緒ならどこでもいいです」
「でもな、それが一番困る」
ふと考えた。
「ふむ、二人でダンジョン行くか。シルバーメイプルの木を確保するために、モンスターを狩らないといけないんだ。ドロップアイテムの更新のために必要らしい」
「二人で」という言葉を聞いてフィナの尻尾がピクリと動いた。
「お手伝いします。ご主人様と二人っきりは嬉しいのです」
俺はいつもの装備ではあるが、フィナは保母さんモードの服であるため、部屋へ着替えに行った。
フィナは久々にフェザードラゴンシリーズの防具と血桜を身に着けた姿で、
「お待たせしました」
と言って俺の目の前に現れた。
「おお、久々に見たが似合うな」
まじまじと見る俺に
「そんなに見られると恥ずかしいです」
フィナはモジモジしながら言った。
さて、三十一階以降に行けばいいのだがどうしよう。久々のダンジョンなので何か要らないかカリーネに聞いてみるかな?
というわけで、ギルドマスターの部屋に行く。
「あら、久々の登場ね。今日はフィナも居るのね。二人でどこ行くの?」
最近は俺の登場に驚きもしなくなったカリーネが居た。
「ん、砂糖の関係でダンジョンに潜ることにしたんだ。ついでにギルドとしてでもカリーネとしてでも何か必要な物がないかなと……」
「そうねえ、ギルドに依頼が来てるんだけど……エイジングの薬を欲しいと言っている人が居るの。二瓶ほど譲ってもらえないかしら?」
とカリーネが言う。
エイジングの薬はその名の通りの歳をとる薬ということだ。飼っている魔物のなど進化の条件に年齢がある場合、強制的に歳をとらせるために使うと聞いた事があった。
ん? カリーネはいつもの堂々とした言い方じゃないな。甘える感じでもない。何か汗をかいているが何かあるのかね? んー、わからん。
「カバンの中で使われずに置いてある。二瓶でいいんだな」
俺は収納カバンからエイジングの薬を二瓶出すと、カリーネに渡した。
「ええ、ありがとう」
カリーネはホッとした顔をして、エイジングの薬を仕舞った。
「他には何がある?」
「そうね、オーククイーンの肉を欲しがっている人が居るわね。この街の領主よ。相手もあなたがこの町で活動しているのを知っているみたいで、指名できてるわ」
あれ? いつもの言い方に戻った。
「十階経由で行けば問題はないな。他のパーティーが狩っていたときは諦めてもらおうか」
再配置まで待つ気もない。まあ、最悪アグラに再配置依頼すればいいのだが……。
「ダンジョンでオーククイーンを狩ってきたなら依頼を受ければいいわ。後付けでも問題ないから」
「了解、そうするよ。じゃあ、行くよ」
「あなた、いつもの入口から行ってね。ゼファードにまだマサヨシが居るって事をアピールしないと」
「アピール必要?」
恥ずかしいだけだろ。
「最近あなたこの町で活動してなかったでしょ? あなたが居るということがわかれば、色々な依頼も舞い込むのよ。あなたがやる必要のない事は振り分けて、他の冒険者に回すの。そして、ギルドは依頼料を得るって寸法」
「ギルドの営業みたいなもんか」
「そういうこと。あっ、フィナちょっと来て」
カリーネはフィナの耳元で何かを囁く。
目に見えて赤くなるフィナ。
何か余計なことを言ったのかな?
「じゃあ、フィナ、がんばってねー♪」
俺とフィナはギルドを出ていくのだった。
普通に街を歩きダンジョンの入口へ向かう。
「カリーネ様、変でしたね。緊張の匂いがしました。人は緊張すると汗をかくので匂いが変わるんです」
「俺に何か隠しているかな?」
「まあ、カリーネ様のことです、ご主人様に良くないことはしないでしょう」
そうだな……。
そんな話をし終わると、フィナがすり寄ってきて俺の腕に抱きつく。
カリーネが言ってたのはこういう事?
冒険者たちが俺をチラ見して言う。
「マサヨシが帰ってきた。きょうの連れは一人か?」
「あいつダンジョン踏破したんだろ? ダンジョンが無くならなかったのは、あいつがコアを壊さなかったからだって聞いている。まあ、このダンジョンが無くなれば、俺たちのおまんま食い上げになっちまうけどな。この町も寂れるだろうし」
「あいつの連れている獣人、綺麗だよなぁ。あいつデブなのになんであんなの連れてるんだ?」
「ダンジョンを踏破した時も侍らせてたぞ?」
最後には
「デブなのに……」
という連呼が聞こえ始めた。
クスッ。
フィナが笑う。
「あの人たちは本当のご主人様を知りません」
「まあ、俺の場合はバカにされているのが花なんだろうな。いろんな真実を知られたら誰も相手してくれなさそうだ」
「私は大好きです。相手して欲しいです」
フィナは尻尾をブンブン振っている。
ちょっと違うような気がするが、
「ありがとな」
と言って、俺はフィナの頭を撫でながら転移の魔法陣へ向かった。
背後から冒険者たちの
「いいよなーあれ」
「俺も彼女欲しい」
って声が聞こえた。
んー、ちょっと優越感。
転移の魔法陣から扉で十階のボス部屋まで行くと目の前に扉があり、中には五個の魔獣の黄色い光点。
ボス居るねぇ。
「さあ、行こうか」
俺とフィナが扉の前に立ち内側に引っ張ると「バン」という音とともに扉が開いた。
二人でボス部屋に入ると、背後で「バタン」という音がして再び扉が閉じる。
「グヘヘヘヘェ……」
喜ぶオーククイーン&プリンセス。
「おぉ、久々だねぇ。ああ、あのビキニアーマー見たくないねぇ。ぶよぶよで食い込んでるじゃないか。フィナとかが着てたら似合いそうなんだが」
独り言が聞こえたのか、
「卑猥な鎧ですよね。ご主人様がどうしてもというのなら着ましょうか? 多分、今の私なら三十階以降でも回避だけで戦えると思うので……」
「おっ、おう」
「怪我したら治してくださいね」
「おっ、おう」
さっさと倒す!
一分とかからず五匹のオーククイーン&プリンセスを撃破しカバンに入れる。
ん? よく見ると前のと違う。仕分け表示が「卑猥な鎧・改」になっていた。
ビキニアーマーを二つ並べて比較している怪しい風景。
胸とトライアングルゾーンの防御力が小さくなっていた。
ポッチンも茂みも見えそうだ
丸裸……隠れるのかコレ?
フィナが二つを見比べ、あえて改を選ぶ。
なぜに改!
フェザードラゴンの防具を脱ぎ、鎧下や下着まで脱ぐ。
まあ、でもそのくらい脱がないと改は着れないだろうな。
全裸のフィナを見る俺。
改を恥ずかしそうに着るフィナ。
おぉ、見えそうで見えないのが余計にエロい。
あー、いかんタガが外れそうだ。
「さっさと三十一階以下行くぞ!」
誤魔化さんと俺が暴走しそうだ。
三十一階へ扉で向かう。
念話でアグラに報告しておくか。
「おーい、アグラ!」
「何でしょう、マスター!」
「前に三十一階以降の掃除しろって言ってただろ?」
「掃除? ああ、シルバーメイプルの木をドロップさせるためですね」
「全滅させるから、再配置後のドロップはシルバーメイプルの木にしといてくれよ」
「了解しました! で、卑猥な鎧・改はどうです?」
「どうって、なんでお前が知っているんだ!」
「カリーネ様に言われて私が改良しましたから」
「へ?」
「カリーネ様と話をしたときに『しばらくしたらマスターがシルバーメイプルの木を得るためにダンジョンに入る』ということを言いました。すると『マサヨシに指名でオーククイーンの肉の回収依頼が来てるのよね。あれって卑猥な鎧って手に入ったでしょ?』って聞いてきたんです。元々、あのリッチの趣味で作った鎧でしたから嫌がるのかと思いきや、『あれ、もっとギリギリにできない?』誰かのきっかけになればいいと思うのよって言っていました。『妹たちのために、自分のために、お姉さんは頑張るのです』って最後には笑っていましたよ」
あいつめ……。
だから、少しいつもと違っていたのか?
だから、あの時フィナに声をかけた?
自分のそれこそ卑猥な姿が気になるのか、きょろきょろと恰好を確認するフィナ。
あんだけ頑張ってるのに、今更着替えろとは言えないか……。
このまま、カリーネの策に嵌っておくことにする。
「アグラ、何にしろ再配置のあとの変更は任せたよ」
「マスター、了解しましたー!」
俺とフィナは狩りを始める。
「私が戦います」
とフィナが言うので任せた。素早い動きでサイクロプスの頸動脈を切り絶命させていった。
うーん、隙間から色々見えて目のやり場が困る。
丁度いい所で尻尾が重なるのもちょっと困る。
三十七階の川は扉でショートカット。
元々各階に居るサイクロプスは少ないので階層での戦闘は少ない。
俺は今後の足しとしてサイクロプスの体の回収と宝箱の回収を行っておいた。
そして、四十階まで辿りつく。
「どうする? やってみる?」
「やってみるとは?」
「サイクロプスのメス。この階層のボスがこの先に居るけど」
「やります。私も強くなったんですよ。それに何があってもご主人様が居ますから安心です」
そういうフィナと共に四十階のボス部屋に入った。
フィナがサイクロプスのメスと戦う。
全裸に近い姿で戦うフィナ。
どこか現実と違うような気がした。
舞うようにサイクロプスのメスを翻弄し的確に足首を狙う。少しづつ痛めつけるフィナ。
当たらないことにイライラしているのか、サイクロプスのメスの攻撃は余計に大振りになっていた。
しかしその攻撃は、一度当たればフィナの体力を一気に奪う物だろう。
魔物の血とフィナの汗が舞う。
そして、「ブチリ」という音とともにサイクロプスのメスの足首に破綻が起こる。
立ち上がれなくなったサイクロプスのメスは片手で体を支え剣を振り回した。
フィナはその剣を避け飛び込むとすれ違いざまに頸動脈を切りつけ着地する。
残心……。背後で首から噴水のように血が出る。
その血がフィナに降り注いだ。
やりきって笑うフィナ。
とても綺麗に見えた。
「やりました!」
フィナが喜ぶ。
「お疲れさん」
俺はサイクロプスのメスを回収した後、フィナに洗浄魔法をかけ綺麗にした。白い肌も銀色の毛もピカピカだ。
フィナが抱き着いてきた。
目が潤んでいるフィナ。
「ご主人様、獣人は、特に私のような銀狼は血の匂いに敏感です。そして興奮してしまいます。それも大好きなご主人様と居られるのです。駄目です興奮が抑えられません」
押し倒してくるフィナを俺は抑えた。
フィナは俺に抱きつきフンフンと匂いを嗅ぐ。
そういや、匂いフェチだったな。
俺は扉を出し、ダンジョンマスターの部屋に繋ぎフィナとともに移動する。
「覗くなよ」
念話でアグラに釘を刺す。
「ひぃ。すみません」
アグラの声が聞こえた。
あいつやっぱり覗いてたな。
「悪い、お前等も一度離れてくれ」
というと、
「またぁ?」などという声が聞こえると、部屋の中から精霊の気配が消え俺の体が元に戻った。
気配が消えると、フィナは自ら鎧を脱ぎ、俺に抱きつき押し倒す。俺を脱がすと肩に噛みついた。
目が赤い。
初めて見るフィナの野生の部分。
痛くはあるが、まあ我慢できなくはない。
フィナは背に爪を立てる。
そして俺、マグロ。
しばらくすると噛む力が弱くなり、俺の顔を舐め始める。
一度顔を離すと口づけをしてきた。
しばらくして、疲れ果て眠るフィナ。
スースーという寝息を立てていた。
俺もフィナも洗浄しておく。
フィナにマジックワームの上着をかけ寝顔を覗き見る。
「フィナ、せめてマットが欲しかった。まあ、この世界には治癒魔法があるから大丈夫だがね。それでも痛みは有るんだぞ」
などと独り言を言っていると、
「すみません、抑えられませんでした」
と言ってしょぼんとしているフィナ。
「ああ、聞こえてたか? 気にするな。」
「はっ、はい。わっ私、二人になれて気持ちよかったです」
恥ずかしそうにフィナが言う。
多分、皆に囲まれるんだろうなぁ。カリーネ辺りが知ってるだろうから。
「ホイ、これ着とけ」
今度は改ではなく回収しておいた下着、鎧下、フェザードラゴンの防具と血桜を渡す。
「あれ?」
フィナの腰が抜けていた。立ち上がれないようなので治癒魔法をかけておく。
「あっ、動けます」
フィナが着換えを始めた。
その間に精霊を呼び戻し、元の体格に戻る。
「じゃあ、帰るか」
「はい」
俺とフィナは扉で家に帰るのだった。
……ダンジョンマスターの部屋、ベッド置いておこう……。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




