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依頼と扉

 俺たちは掲示板に行く。色々あるのだが、貼り付けられた紙が黄色く変色しているものがあった。焦げ付いた依頼だろうか? 「炎の風討伐 一千万リル」と書いてあった。十億円の依頼って……。


「クリス。これって、長期間達成されていない依頼?」

俺は、気になってクリスに聞いてみた。

「そう、危険性が高い依頼はどうしても残ってしまうわね。この依頼だけど、この盗賊団、二百人以上の手下を従えてこの辺の街道を荒らしてるの。根城は洞窟を利用している。結構入り組んでいる洞窟らしくてね、ここの領主による討伐も結局失敗したみたい。討伐隊に勝利して以降は、我が物顔で暴れているらしいわよ? 王都の騎士団に依頼はしているみたいだけど、なかなか来てくれないみたい」

 クリスもやれやれって感じで、教えてくれた。

「それで領主は、あわよくば冒険者に何とかしてもらおうかな? って、ギルドに高額報酬で依頼しているわけか」

「そういうこと」

 領主様も大変だ。


「で、こういうのって、大体何チームのパーティーで攻略するんだ?」

「んー、三十~四十チーム? 数が多いと結構面倒なのよ。食料や武器の損耗、けが人が出たらその費用はどうするとか」

 一応、「一つのチームからでも」って書いてあるから俺たちだけでも討伐依頼は受けられるようだ。根城が洞窟? 殲滅するなら酸欠、毒ガス、色々考えられる。やり方があるなら、これを受けてもいい気がした。

「よし、これをやろう」

 俺が言うと、

「わかったわ、あなたなら何とかしそうね。受付に行って手続きしてくる」

 クリスは受付へ向かう。


 しばらくするとクリスが怒りながら戻ってきた。

「私たちをバカにして、依頼を受けさせてくれなかったの。ちょっと揉めたけど、手続き終わったわよ」

「揉めた?」

「ええ、Bランク冒険者一人と、Cランク冒険者一人と、Fランク冒険者二人じゃ、二百人の相手にならないと言われたのよ」

「うん、普通なら無謀だ」

 ギルドが正しい。

「ギルドを納得させるために、『ダメそうなら帰ってくる!』って言って、無理やり手続き終わらせたの」

「面倒押し付けて悪かった、ありがとな」

 クリスの頭を撫でた。

「もっもう、何するの? ああ、武器とか食糧買わなくていい?」

 クリスの顔が赤い。

「木漏れ日亭で弁当貰っただろ? 思いついたことが可能なら日帰りで済む。クリス、根城までの地図ってあるか?」

「さっきもらったコレでいい?」

 クリスは冒険者ギルドに貰った地図を渡してくれた。

「後はこの街を出てからだな。それでは町の外に行こう」

 俺は三人を連れ門へと向かう。


 街の出口へと進んでいると、家の解体作業に出くわした。頑丈そうな木の扉が無造作に捨ててある。木枠もまだついており真鍮製の取っ手まで。なんなら扉をピンクに塗れといわんばかり。まっ……まさか? 未来の猫型ゴーレムのネタを使えって? 確かにあれは有ると便利だ。まさに創魔師としての出番である。

「この扉ってどうするんだ?」

 解体中のおっさんに声をかけた。

「そりゃおめえ、使える金具だけ取って、あとは燃やすのよ」

 おっさんは流れる汗をタオルで拭きながら答えてくれた。

「売ってくれるならいくらだ!」

 解体の音が大きく、どうしても大声になる。

「二百リルでどうだ?!」

「買った! 銀貨2枚でいいな」

「まいど! 扉なんてなんに使うんだ?」

「魔法の研究! あとは内緒だ!」

 俺は手早く扉を収納鞄に扉を入れると、その場を去った。おっさんはビックリしていたが無視である。俺は「いいもの」を手に入れたと思った。


 さて俺は、子供の頃、未来の猫型ゴーレムのアニメが好きだった。俺の中の未来の猫型ゴーレムの声優は、大山さんのままだ。ついに未来の猫型ゴーレムが持ってるアイテムのうちの、二つ目に手を出すことにした。すでに、四次元なポケットも俺の収納カバンとして活用されている。次はどこにでも行ける扉の番だ。どこにでも行ける扉にはすでにマップがインストールされているようで、黄色いシャツを着た子や、ネコ型ゴーレムがイメージして言えば大体の場所に移動することができる。しかし、俺の頭の中のマップは、一度その場所へ行ったり見たりしたことがあるか、手書きでもなんでも地図のようなものがあるとか、人が教えてくれたとか、何らかのアクションがないと場所が表示されない。それでも間違いなく便利なので、劣化版でどこにでも行ける扉を作ってみることにした。


 人の通りが少ない裏通りに入ると、俺は立ち止まる。三人は怪訝な表情をしている。

「なんで扉なんて買ったんでしょうか」

「あなたが聞いてくれば?」

「フィナ、お願い」

 てな感じで、話題を最初に振ったのを理由に、代表にされたフィナが俺に聞いてくる。

「マサヨシ様、何で扉なんかを?」

「新しい魔道具を作ろうと思ってね。どこにでも行ける扉」

「どこにでも行ける扉ですか?」

「んー正確に言うと一度行ったことがある場所や、地図を持っているところに行ける扉。現場が遠い場合、行くのが面倒でしょ? だから、この扉で行ったことがある場所や、地図で場所がわかる場所を繋いで、行き来できるようにしようかと思ってるんだ。移動の時間がもったいないような気がしてね……」


 俺は、収納カバンから扉を取り出した、そして例の扉をイメージし扉へ魔力を流し込む。

「パタン」

 おっと扉が自立しやがった。そういえば、未来のネコ型ゴーレムのやつも自立していたな。

「もうできたのですか?」

 フィナが聞いてくるが、

「正直、使ってみんと分からん」

 成功したかを確認するために、実際使ってみる。

 場所は、木漏れ日亭のリビングをイメージ。劣化版どこにでも行ける扉に正対しノブを持つ。魔力を流しノブを捻って扉を開けてみた。すると何ということでしょう! そこには見慣れたリビングがあるじゃありませんか! 

「お前ら、こっち来てみ」

 恐る恐る3姉妹がやってくる。

「「「えっ」」」

 クリスとフィナは口を開け、アイナは目を見開き驚いていた。

「これで遠くても木漏れ日亭まで帰ることができるな」

 ちょっと誇らしい。ここまで簡単にできるとは。

「マサヨシって、意外とすごかったのね」

「小さい子が好きなのかと思ってました。でもすごいです」

「マサヨシは、私がちょうどいい。でもすごい」

 少々モヤモヤ感があるが三人に誉められた。


 次は俺は冒険者ギルドにもらった地図を、俺のマップとをリンクさせ根城へ直接行くことに挑戦することにした。地図はクリスが貰ってきてくれた奴だ。地図を見るとちゃんとマップに根城の位置が表示されている。

 扉に正対しノブを持つ。魔力を流しノブを捻って扉を開けてみた。すると、何ということでしょう? そこには変わらずう裏通りが広がっていた。失敗した? 通り抜けても扉の裏に出ただけだった。

 あれ? 俺のマップと扉がリンクされない。視界にあるマップをよく見て確認すると、色の違いが微妙だが、行ったことがある場所と無い場所の色が違う。結局一度行かないと扉は使えないわけなのか。


 今度も問題ないと思い、大々的に三人の前で扉のデモンストレーションをしたので、結構バツが悪い。3姉妹にジト目で見られている。

「まあ、抜けているところもいいんだけどね」

「抜けてる部分が可愛いです」

「マサヨシ、抜けてる。でもいい」

 慰めの言葉が辛い。

「はいはい、ここまでは読めませんでしたよ。申し訳ない」

 仕方がないので扉を仕舞った。


「失敗しちゃったんで、悪いけど、門の外から移動だ」

 俺たちは門へ向かった。

 門番が居たので、ついでに仮の身分証を返しておく。

「おーい、あんた。仮の身分証返しに来たんだが、どこに返せば?」

「ああ、私が預かっておこう」

 門番が仮の身分証を回収してくれた。


 門を出ると少し街道から離れ、人通りが少ない場所に向かう。

「高速移動で現地に向かう。いい?」

 俺が言うと。

「ああ、あれね。いいわよ」

 すでに経験済みのクリスは楽しみなようだ。ただ、今回はお姫様抱っこではない。

「高速移動?」

「ん?」

 フィナもアイナも頭の上にハテナマークが表示された。



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