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親子

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 あれから三週間が過ぎ、アクセルの母ちゃんであるアビゲイル様の誕生日となった。

 アクセルは、何となくソワソワしている。

 さて、アクセルは何をプレゼントするのやら。

 まあ、俺が居ても仕方ないのだが、一応監視兼護衛として行くつもりだ。

 なぜかエリスとテオドラも一緒に行くと言って聞かなかった。

「お前、話しちゃったの?」

 そうアクセルに聞くと、

「嬉しくて、ついポロリと……」

 申し訳なさそうに言うアクセル。

 ポロリで嬉しいのは、おっぱいだよな……と、「水着だらけの……」っていう昔の番組を思い出す。

 ありゃ脱線だ。

「エリス、テオドラ、非公式だから見つかったら殺されるぞ?それでもいいのか?」

「お父さんも居るんでしょ?だったら大丈夫」

 おっと、全幅の信頼。それはそれで嬉しいのだが、

「カリーネはいいと言ったのか?」

 と、一応聞いてみる。

「『あの人がいれば大丈夫ね。いってらっしゃい』って笑って言ってたよ?」

「そうなんだ……、それじゃあ仕方ないねえ」

 棒読みになる俺。

 エリスを怪我させないようにしないとな。

「私は主人が行くところに付いていくだけだ」

「ん、テオドラは問題ない。お前強いから逆に暴れないように」

 まあ、テオドラは半龍半人だから、人よりは強いだろうし、なんせ俺がステータスを引っ張り上げている。

 だからリードラとは言わないまでも強いだろうな。


「ちなみに、アビゲイル様への誕生日プレゼントは?」

「僕は、お守りです。ドランさんに手伝ってもらいました」

 アクセルの手には綺麗な石に穴をあけて繋いだ数珠のようなものがあった。

 おぉ、考えてる。

「お父さん、私はお花」

 紙に巻いた小さな花束があった。

 まあ、定番だな……。

「私は、ハネイボガエル」

「ん?ハネイボガエルって何?」

 背中に隠していた手が出てくると、体長七十センチほどもあるカエルが三匹現れる。

「肉が美味しいカエルです。これを三匹確保しました」

 口からは長い舌が垂れ、体液がその舌に沿って床に落ちる。

 さすがテオドラ、きっちりやってくれるね三段オチ。

 アクセルとエリスがグロテスクなハネイボガエルを見て引いていた。

「テオドラ、アビゲイル様にハネイボガエルを生で渡しても食べてもらえないぞ?非公式と言う事はアビゲイル様はテオドラに会っていても会っていないと言わなければいけない。だから、調理したものを持っていくならともかく、狩ったばかりの生はやめておいたほうがいい」

 大きく首を縦に振るアクセルとエリス。

 アビゲイル様が見たら、多分びっくりして気絶するんじゃないかな。

「今度サラかエーリクに頼んで、調理してもらおうな」

「仕方ない、生でもうまいのにな……」

 アビゲイル様は多分生では食べないから。

 危機は去った。

「じゃあ、テオドラは俺の代わりにホイップクリームのケーキを持って行ってもらえるか?」

「わかった」

「揺らさないようにな」

 と言って、テオドラにケーキの入った箱を渡した。


 早速、カーヴのアビゲイル様の部屋に扉を繋いだ。とりあえず俺から先に入る。

 アビゲイル様の誕生日にアクセルを連れてくると言っておいたが、覚えているかな?

 中に入ると、アビゲイル様が立ってそわそわしていた。

 とりあえず周りの確認。看守は近くに居ないようだ。まあ、何かあったら、フウに意識を飛ばしてもらおう。

「アビゲイル様、お久しぶりです」

 とあいさつした後、アクセル、エリス、テオドラを呼び入れた。

「アクセル!」

 アビゲイル様はアクセルに抱き着き涙を流す。

 俺はエリスとテオドラに近くにあったテーブルへプレゼントを置くように言った。

「私のアクセル」

「お母さま、痛いです」

 苦笑いで我慢しているアクセル。

「えっ、ああ、ごめんなさい。もう二度と抱けないかと思っていたから。でも、ちょっとの間だけど大きくなったわね。筋肉が付いた?食事は?病気はしていない?」

 アビゲイル様はアクセルの両肩を持ち聞いていた。

「はい、マサヨシ様もヘルゲ様も良くしてくれます。今、ヘルゲ様に剣を習っているんですよ?『筋がよすぎて儂はもう相手できん』とヘルゲ様に言われました。ですから剣の相手はそこに居るテオドラにしてもらっています。テオドラは強いんです」

 アクセルは楽しげに話していた。

 俺もアクセルの本音は聞いたことがない。アビゲイル様を安心させるためかもしれないが『良くしてくれている』と言われると、俺も安心する。

「初めまして、テオドラです。アクセル様に危ないところを助けていただき、現在ではアクセル様の配下として活動しております」

「アクセルのこと、よろしくお願いしますね」

「はい、お任せください」

 アビゲイル様に頭を下げるテオドラ。


「あらあら、この小さな子は、確かマサヨシ殿のところに居た……」

「お久しぶりです、アビゲイル様。マサヨシお父さんの娘エリスと申します」

 ちょこんとスカートを持ち上げアビゲイル様に礼をするエリス。

「アビゲイル様のところに行くということを聞いて強引に来てしまいました」

「いいのよ、にぎやかなほうが私も楽しいから。あれ?マサヨシ殿に子は?」

 不思議そうにアビゲイル様が聞いてくる。

「居ませんよ。でも、後々義理とはいえ娘になります。だから『お父さん』でいいんです」

「そういうことですか」

「そういうことです」

 エリスはニコニコしながらアビゲイル様に言った。


「お茶にしましょうね」

 アビゲイル様が紅茶の準備を始めた。

 テオドラはケーキを出す。

 このケーキは小さめだ。サラに言って特注で作ってもらった。

 四分割して、皆で食べればいいと思う。



 紅茶の準備が整ったところで、アクセルとエリスはアビゲイル様にプレゼントを渡した。

「まあ、ありがとう。これはブレスレット?つけておくわね。エリスちゃんの花は花瓶に活けましょう」

「これはテオドラの分です」

 俺はそう言って分割したケーキを俺以外の四人の前に置く。

 しかし、テオドラはあまりいい顔をしていなかった。

「アビゲイル様、すみません。私はプレゼントを準備していたのですが、ハネイボガエルだったためマサヨシ様に『料理が必要なものは持ち込めない』と言われ泣く泣く諦めました」

 正直に答えるテオドラ。

「えっ、ええ、気持ちだけでいいのよ。機会があればハネイボガエルを食べてみたいわね」

 名前だけでもアビゲイル様は引いている。

「この時期にしか取れないカエルですから来年になりますが、ちゃんと捕らえて料理してもらって持ってきますね」

 ドンと胸を叩いてアピールするテオドラだった。

「えっええ」

 汗をかきながら返事をするアビゲイル様

 アビゲイル様、一年後テオドラが忘れているといいね。


 ケーキは四人に好評で、あっという間になくなった。

「マサヨシ殿、このお菓子は美味ですね」

「あの獣人の料理人が作ってるんですよ。魔族でしか流通していない希少なお菓子になります。私の故郷では、誕生日にこのようなケーキを食べ、家族で誕生を祝う風習がありましたので、勝手にやらせてもらいました」

「アクセルとちっちゃな娘さんと龍人さんとお話ししながら時間を過ごす。確かに、楽しいですね。私の欲にはなりますが、またこのような機会を作っていただけますか?」

「アクセルがアビゲイル様に会いたいというのなら考えましょう。あっアクセルは甘えん坊だから、また会いたいかな?」

 ちらりとアクセルを見る。

「ぼっ、僕は甘えん坊じゃないけども、お母さまに会いたいです」

 真っ赤になってアクセルは言った。

「まあ、そういうことなので二か月後、七月七日に来るようにするよ」

「「はい」」

 アクセルとアビゲイル様がハモった。

 自然と笑いが起こる。

 しかし、楽しい時間は過ぎていく。


「アクセル、これは私からのプレゼント。最近裁縫を始めたの。あまり上手じゃないけど、あなたの服」

 飾り気がない白いシャツが数枚。

「お母さま、ありがとう。大事にします」

「アクセル、元気でね!」

「はい! お母さま」

 二人の目には涙が浮かぶ。

「テオドラさん、マサヨシ殿、アクセルの事をよろしくお願いします」

「お任せください」

「ああ、わかった」

 テオドラと俺は答える。

「エリスちゃんアクセルと遊んでやってね」

「はい、任せておいて!」

 ドンと胸を叩くエリス。

「じゃあ、帰るぞ。また二か月後」

 テオドラとエリスが先に、そして俺はアクセルの手を引き家に帰るのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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