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鉱山経営の準備

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 クラーラはすんなり婚約者たちの中に入り活動している。

 んー、皆慣れてる? 

 まあ、クリスと仲が良かった(?)ってのもあるのかもしれない。クリス経由で紹介とかあったのかな? 

 まあ、仲がいいのは良い事だ。

 当たり前のように食卓に着席しているクラーラだった。

 サラの飯に撃沈したと言う話も聞く。


 そんなクラーラが俺に声をかけてきた。

「とりあえず鉱山を経営するにしろ鉱夫が必要。そして鉱夫の道具も要る。どうするの?」

 俺に聞かれてもなぁ。

「リンミカで鉱夫の伝手は無いのか? 道具はドランさんに頼めば作ってくれると思うが」

「鉱夫の伝手と言ってもね……私はあまり知り合いは居ないの」

「商人に知り合いは居ないのか?」

「あっ、居る」

 クラーラは思いついたのかトンと手を叩いた。

「その商人の伝手で鉱夫を集めてはどうだ? 鉱石をいくつか持ち込んで、『販売の窓口になってくれないか?』なんて言ったら、結構食いつきそうだがね。少数なら孤児院からも手は貸せると思う。まあ、やりたいという子供が居ればだけど」

「よくそんなこと考えるわね」

 感心したようにクラーラが言うが、

「普通だろ?」

 と俺がいうと、

「普通の魔法使いはこんな事を考えません」

 とクラーラは言い切った。

「ああ、悪い。俺、異世界から来たから。普通の魔法使いを知らないんだ」

「はあ?」

 結構な爆弾発言だったらしい。

「皆から聞いていないのか? 俺、元々この世界の人間じゃないから。元妻の呪いでここに来たから」

「えっ、結婚もしてたの?」

 おお、驚いてるねぇ。

「そう、子供はいなかったがね。端折って言えばこんな感じ。詳細は別の時にでも言うよ。こんな俺に幻滅したか?」

「バカにしないでよ、そんなことで離れるわけないでしょ?」

 クラーラにキレ気味に怒られた。

「まあ、そういうわけで、この世界の人間と少し違う考えをするようだ」

「マサヨシは変な考えをするというわけね……納得」

 言い方変だから……。


「そこまで言うんだから、付き合ってくれるんでしょ?」

 俺を見上げながらクラーラが言う。

「付き合わないかん?」

「あなたが居ないとリンミカに行けないじゃない」

「おう、そうだった」

 トンと手を叩いて、今気づいたように俺は言った。

「わざとでしょ?」

「わざとだ!」

「意地悪」


 というわけで、俺とクラーラはリンミカへ行った。

 雑踏の中歩くのだが、ドワーフの中でも小さいクラーラは人ごみの中は苦手なようだ。

 クラーラはそっと俺の袖を持つ。

 ふむ、

「おい、手を出せ」

 そう言って強引にクラーラの手を握る俺だった。

「まあ、見た目はアレだが。はぐれてもいかんからな」

 アレとは、一メートル八十センチ越えの俺が一メートル五十センチを切っていそうな幼顔のクラーラと歩いたときの『幼児誘拐? 』『あいつロリコン? 』という視線のことだ。

 それでもクラーラは嬉しそうなので、気にしないでおく。


 俺との手を放しクラーラは凄い門構えの店の中に平然と入っていった。

 さすがに恥ずかしいらしい。

「いらっしゃいませ、小さなお嬢様どのような御用でしょう?」

「小さな」の言葉にクラーラがピクリとしたが、まあ放っておくか。

「クラーラだが、ブロルは居るか?」

 おお、上から目線の言葉だ。

 俺はクラーラの後ろから付いていく。

「店主ですか? どのようなご関係で」

「クラーラが来たと言えばわかる」

「お嬢様、事前の連絡もなしで店主に会うのは難しゅうございます」

 ウンウン店員の言うことも一理あるが、相手が悪い。

「お前、この店に入ってどのくらいだ」

 クラーラのこめかみに怒りジワが浮かぶ。

「三週間ですが……」

「話にならない、カールを呼んでもらえるか?」

「どうかなさいましたか、お客様……」

 後から来た店員の顔が焦りに変わる。

「クラーラ様、お久しぶりでございます」

「おお、カール。久しいな」

 クラーラに挨拶したあと、

「君、この人のことを『小さい』などと言っていないだろうな」

 と、小声で店員に聞いた。

「『小さな』お嬢様とは言いましたが……」

 頭を抱えてうなだれるカール。

 クラーラに「小さい」は禁句らしい。

「この方は、クラーラ・ピット。この国の姫だ」

 目を見張り先の店員の表情が変わり

「すみません、すみません……」

 と頭を下げる。

「小さいんだから仕方ないだろ?」

 俺がそう言うと、驚きながら俺を見る店員二人。

 注意するようなやつが居なかったのか?

「私は小さいから仕方ないけど、でもあまり言われるのも好きじゃない」

 下を向いて不服そうにクラーラが言う。

「向こうも謝ったんだ、許してやればいいんじゃないか? お陰で交渉のネタもできただろ?」

「そうじゃな、拗ねては年齢相応じゃない、余計に幼く見える」

「そういう事だ。カールさんって言ったっけ? ブロルさんに会わせてもらいたいんだ。

「はい、少々お待ちください」

 カールという店員は奥に走っていった。


 俺とクラーラは応接室に通され、ソファーに座る。

 おお、紅茶が出てきた。

 一口啜ると、

「んー、マールの勝ち」

 と口に出てしまう。

 茶菓子は無いらしい。

 俺は鞄の中を漁り、ホイップクリームのケーキの残りを取り出す。

 サラたちは真面目なので、毎日常にホールケーキ二つ。つまり十六個分のホイップクリームのケーキを作っており、魔族側に納品するのは十個のため端数の六個が常に俺のカバンに回収されているのだ。

 ホイップクリームのケーキが現れ、驚くクラーラ。

 あれ、初めて?

「お前も要るか?」

 コクリと頷くクラーラ。

 俺はホイップクリームケーキをクラーラの前に置いた。

 一口スプーンで掬い固まる。そして再起動した後は無心で口に運んだ。

 食べ終わった後、スプーンをくわえ俺をガン見するクラーラ。

 無言でもう一個出すとクラーラは嬉しそうに食べ始める。

 それを確認した後、

「これ、太るやつだからな」

 呟くと、泣きそうな目で俺を見るのだった。


「これはこれはクラーラ様お待たせしました。どうしました? 珍しいものを食べておりますね」

 ドワーフの中でも恰幅の良さそうな男が出てきた。ブロルという店主だろう。

 クラーラは涙目でケーキを差し出す。

「食べろと?」

 店主が聞くとコクリと頷くクラーラ。

 スプーンでケーキを掬い、口に入れる店主。

「なっ、これは、美味い」

 店主はあっという間に食べきった。

「クラーラ様、このお菓子はどこで手に入るのですか」

「魔族の国でしか手に入らないのよね? マサヨシ」

「そういうことですね」

「販売代理店は有るのでしょうか?」

「王宮直営になるので代理店は作らないと思います。それにこのお菓子は日持ちしませんからこの国まで持ってくることはできません」

「ではなぜここに?」

「俺の収納カバンの中では時間が進まない。腐食しないんだ」

「あなたでないと運べないということですか」

「そういうことになる」

「残念ですね」

 本当にがっかりとする店主だった。

 金になりそうだもんな。


「ブロル、今日はお菓子の話をしに来たわけじゃないのです」

「そうですね、何の御用でしょうクラーラ様」

 仕切り直しである。

「私はこのマサヨシに依頼されて鉱山を経営することになりました。そこで、必要な人員や機材の手配をしたいのです」

 紹介されたので会釈をしておく。

「鉱山? 豪気ですな」

「豪気にもなります。含有率が高いですから。マサヨシ、あれを」

 俺は、数個の鉱石を机の上に出した。

 店主は、鉱石を手に取り確認を始めた。

「これは金、これはミスリル、これはオリハルコン、えっ、こっ、これはヒヒイロカネ。金属が目に見えるほどだ。なるほど、コレなら少量採掘でもある程度の量の金属を取り出すことができる」

「そういうことなの。だから人手を手に入れたい。数は要らないから、ベテランのドワーフの鉱夫を十人程手配できないかしら?」

 考える店主。

「私が手配したことによる利点は?」

「私を『小さい』と言った店員を許すというのはどう?」

 店主はカールを見ると、カールは頷く。

「あいつめ……」

 と、呟くのが聞こえた。

「まあ、それは冗談として……マサヨシが開拓した場所にあなたの支店を出せるようにしてあげる」

 俺はフォローとして、

「最近は各鉱山の鉱石の質と量が落ちてきていると聞いていますが、運搬や精錬などの費用も上がってきているのでは? 鉱石の採掘量の割に利益が出てないとも聞きます」

「だからどうしろと?」

 店主は俺を睨んだ。

「俺たちは安価に金属を得る方法を知っていますが販路を持っていません。ここまで言えばわかると思いますが?」

「出来上がった金属を買って売れと……」

「我々は採掘し、金属の取り出しまで行います。その後の販売は店主であるあなた次第です」

 考え始める主人。そして、

「今、ドワーフの国での金属の流通は。製造費用が販売価格の八割になるように調整されている」

 と言った。

「でしたら、我々のところから、通常販売の七割で購入してもらえれば問題ありません。鉱夫たちの給料もこちらで払います。差額の一割はお好きなように。それにヒヒイロカネなどは他の商店では扱うところも少なく独占に近い状態になるとは思いますけどね」

 暫くすると、

「わかった、手配しよう。支店も出させてもらう」

 と言って店主のそろばんの結果が出たようだ。


「では、クラーラに『小さい』と言った分で、荷馬車用の荷車を3台。戦馬を三頭、これは全部メスで。鉱夫たちのツルハシ、ハンマーを各人数分。そして長屋になりそうな建物を一棟いただけると助かりますね」

「クラーラ様は冗談だと……」

「クラーラは冗談だと言って許したかもしれませんが、婚約者である俺は許していませんよ?」

 クラーラの表情がパッと明るくなる。

「しかし……ぐっ、畏まりました。手配します。それではいつまでに……」

「一ヶ月以内かな」

「わかりました。しかし、長屋は……」

「建物ごと私が運びます。リンミカでもどこでも問題ありません。何なら支店の建物も店主の方で準備していただければ、私のところまで動かしますからご安心を」

 店主は何も言えなくなっている。

「ブロル、商談成立でいいかしら?」

「はい、早速契約書を作成しますのでお待ちください」

 そう言うと、店主は奥に向かった。


「マサヨシ、さっきの……」

 真っ赤になるクラーラ。

「なんか言ったか?」

「婚約者って……」

「朝っぱらから当たり前のように食卓に座ってるくせに。もう婚約者だって思ってるんだろ?」

「でも口で言って貰ってなかったから、不安だったの」

「だから婚約者でいいだろうに」

「投げやりね、でも言ってもらえて嬉しかった」

 ちっちゃいクラーラが俺にもたれてきた。


 書類を持って戻ってきた店主がクラーラの前に契約書らしきものを置く。

「今日は生憎魔法書士がおりませんので、書面の確認をお願いします」

 クラーラは目を通すと、

「問題ないわね」

 と店主に返した。

「魔法書士なら俺がそうだから、契約の締結をしておこう。こっちとしては早い方がいい」

「えっ、魔法書士なんですか? ちなみにINTは」

「ああ、それはSSだ」

 まあ、嘘だ。

 店主は驚いた顔をしたが、

「でしたら、我々の魔法書士よりもINTが高いので問題ありません」

 と言って納得した。

 ドワーフの魔法書士のINTってどのくらいなんだろ。


 早速契約台を出して契約を行う。まあ、今回は書面の内容の証明で、ペナルティーがあるわけではないので簡単だった。

 クラーラと店主、俺と店主で握手を行い俺とクラーラは、店を出るのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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