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治療と報告

誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。

「何だ、この場所は」

「家の中みたいですね」

 キョロキョロとリビングを見回すボーとトト。

「俺んちのリビングだよ。お前治療要るだろ? 俺よりも治療が上手い奴がいてな。そいつに任そうかと思ってるが……あいつどこに居るんだろ……」


 リビングには居ないみたいだなっと……。

「おーい、アイナ。今、大丈夫?」

 念話でアイナに声をかける。

「マサヨシ、玄関出たところでポチと遊んでる。何かある?」

「んー、一人治療してもらおうかなと……。俺がそっちに行くわ」

「じゃあ、待ってる」


「こっちだってさ」

 俺はボーを連れ玄関から外に出る。

 そこには神馬を越える大きさのケルベロスとその上に乗っているアイナが居た。

「ひぃ……ケルベロス! くっ食われる」

 ボーが腰を抜かした。

「マサヨシ様、これじゃ知っていても驚きますよ。私もケルベロスなんて見たことありませんし」

 トトが冷汗をかきながら言う。

「あっ、これうちの番犬だから。襲わないから安心して」

 俺を見つけたアイナは

「ポチ、伏せ」

 と言った。するとポチは伏せる。伏せていても小山のような背中を滑り降りてくるアイナ。

「ん、マサヨシお待たせ。どうしたの?」

「おう、あの爺さんの足を治して欲しいんだ。俺でもいいんだが、アイナのほうが治療には特化しているからな」

「ん、わかった」

 じっとボーを見るアイナ。

「おじいさん、私が治療しても痛いと思う。関節ごと固まっているから……。関節の硬化を回復する時に激痛が走る。それ、我慢できる?」

 後で聞いたことだが、欠損部位はフルヒールで回復すれば痛みもなく勝手に再生する。中途半端に回復した骨折や関節は元の位置に戻る時に激痛を伴うということだ。

 躊躇せずに

「俺は職人だ。再び槌を振りノコを引くことができるならどんな痛みでも我慢する!」

 ボーは言った。

「じゃあ、やる。フルヒール!」

 アイナの体が青く光り始めた。

「ぐぁぁぁぁぁぁーーー!」

 ボーは膝を抱えのたうち回る。

 痛みを我慢するためか脂汗が出ていた。

 口からはよだれが垂れる。

 それを俺とトトは見ているしかなかった。


 どのくらい続いただろう……アイナの体から光が消えると。

 痛みに耐えかね気絶したボーが横たわっていた。

 あちゃー、気絶しちゃったか。

「体はお酒にやられてるね。『酒は飲んでも飲まれるな』なのに……。キュアーもしとくね」

 アイナはボーにキュアーをかける。

 キュアーをかけられた後のボーの表情が楽になっているように見えた。

 アイナは、

「これで大丈夫だけど、少し休養したほうがいいかも。体力は落ちているから」

 そう言うと俺の横に来て頭を擦り付けてくる。

「ん、ご褒美」

「おっ、了解」

 俺がアイナの頭を撫でるとアイナは気持ちよさそうに目を細めるのだった。

「じゃあ、またポチと遊んでくるね」

 伏せ状態で待機しているポチに「んしょんしょ」とよじ登ると、

「出発!」の掛け声をかけて走り去った。


 俺とトトは気絶したボーを連れクラーラの館に連れて行く。

 しばらくはトトがボーの世話をするということだ。

「ここに居ればクラーラ様の監視もしなくていいでしょうから……ね」

 ニヤリと笑って俺のほうを見るトト。

「何が『ね』だ。まあ任せたよ。何かあったら連絡くれ。クラーラに言ってもらえれば、こっちに連絡が来ると思うから」

「畏まりました。こちらとしてはクラーラ様の事をよろしくお願いしますね」

 俺は手をヒラヒラと振りながら、クラーラの館を出ていくのだった。


 帰り際、ベンヤミンとすれ違う。

「旦那、どうでした?」

「借金まみれで長屋で腐ってたぞ?」

「借金は?」

「俺が払った」

「あのバカ師匠。俺に相談してくれればこんなことにならなかった……。旦那、借金は後で俺が払うぞ」

 なんだかんだ言って、気にしているようだ。

「いいよ、先生としての給料から引いておく」

 まあ、抜く気も無いがね。

「アイナが膝の治療と酒については抜いておいた。アイナ曰く『あとは体力の回復』らしい。まあ、しばらく療養したら、本格的に動いてもらうさ。フォローは頼むよ」

「わかりました、旦那」

「内容は見なかったが、結構きついことを手紙に書いてたみたいだな? 結構怒っていたぞ?」

「あの頑固おやじはそれぐらいのことをしないと動かないんだ」

 ベンヤミンがヤレヤレって感じ言う。

 お互い性格はわかってるんだろうな。


「まあ、確かにそのお陰でボーは動いたな。俺としては、職業訓練の先生として優秀であれば問題ないがね。とりあえずボーはクラーラの屋敷に居る」

「クラーラの屋敷?」

 おっと、知らないか。今日引っ越ししたばかりだしな。

「あそこの館だ」

 俺が指差した先にある小ぶりな舘を見て、

「旦那、相変わらず出鱈目な事を……」

 とベンヤミンは驚く。

「いつものことだろ?」

「まあ、そうですがね……はあ」

 あっ、呆れられた……。

「まあ、暇ができたらボーの見舞いにでも行ってやってくれ。ベンヤミンと喧嘩でもすれば元気になるだろう」

「言われなくても行きますよ。旦那、ありがとうございました」

 そう言って頭を下げるとベンヤミンは離れて行った。


「…………!」

「〇×……!」

 クリスとクラーラはまだやりあっている。

 お互いの性格がわかってるなら、ほどほどにすればいいのに……。

 あいつらいつまでやるんだ?

 まあ、わざわざ面倒に首を突っ込む必要はない。

 放っておこうっと。

 クリスとクラーラの声を背後に聞きながら俺は家へ戻るのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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