ついてくる者
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
クラーラと街を歩くと何か違和感を感じた。
一つの光点が別に敵対心がある訳でもなく等距離でずっとついてきているのだ。
観察って感じかな?
「クラーラ、お前監視されてる?」
「わからないわね。でも監視されてもおかしくないでしょ?」
「まあ、そりゃそうだな。クラーラが遠乗りに出たタイミングで襲撃があるんだから」
でも、敵対心が無いとはいえ気になるね。
「クラーラ、気になるから見てくる」
「えっ」
ステータスをフル活用し、ついてくる光点が誰なのかを確認する。
ありゃ? 見た顔。
まあ、ついでに声かけてみるか。
「何であんたがここにいる? トトさん」
年齢を経たヨボヨボの男に見えるトト。
声をかけたときだけ、雰囲気が変わった。
「私は、たまたまこの街を歩いていただけで……」
まあ、そう言うだろうな。
「まあ、いいや。クラーラん所に行こう」
「えっ、お二人のお邪魔をするわけには……」
「気にしなくていいよ、どうせ見てたんでしょ? クラーラもあんたに話があるみたいだしね」
面倒臭そうな顔をするトト。それでも、俺に敵対心は芽生えなかった。
「じゃあ、行こっか」
俺はトトと一緒にクラーラのところへ戻る。
「ただいま」
「あっ、マサヨシお帰り。えっ、何でトトが?」
クラーラは俺が連れてきた男がトトであることに驚いていた。
「歩きながら話をしようか」
三人で街を歩く。
「俺の推測だけど、多分トトさんはクラーラの保護者に近いんじゃないかな。誰かに頼まれたんだろうね」
「トトは私が小さなころから私の世話をしてくれた者です。お母様が私に付けた従者です。私が外で暮らすと言った時も、一人だけ自分から『下男として屋敷に住みます』と言ってくれました」
変な汗をかいているトト。
「ふむ」
俺は腕を組んで考える。
「トトさん、クラーラの母ちゃんに頼まれたか?」
「…………」
無言で返すトト。何も言わないのは肯定?
「えっ、本当なの? トト。お母様が亡くなったときも何も言わなかった」
クラーラから聞かれたら仕方ないとでもいうように、
「アンネリエ様から亡くなる前に頼まれておりました。『できるならずっと見守ってやってもらえないか』と……」
とトトは言った。
「お母様がそんなことを……それでずっと私の下男となり、見守ってくれたのですね」
恥ずかしそうに頭を掻くトト。
「まあ、私も年老いた。気配りをしていたつもりでしたが、クラーラ様が一人で遠乗りに出掛けることに気付けなかった。結果、ヘルハウンドに襲われたと聞いたときには驚きました」
そしてトトは「クックック……」と笑うと
「助けたというマサヨシ様の馬を一目見て強者だということがわかりました。私も伝説の戦馬を見るとは思いませんでしたよ。でも一番驚いたのは、クラーラ様がマサヨシ様の話をするとき、女になっておられた。あのお堅いクラーラ様がですよ!」
と俺が帰った後のことを話す。
「トト、それは言わなくてもいいことでしょ!」
トトの不意打ちで真っ赤になるクラーラ。
トトは俺をチラリとみると、
「で、クラーラ様、意中の人は落とせたので?」
ジト目でクラーラに尋ねた。
「えっ、落としたというか……落とされたというのか……」
クラーラはモジモジする。
それを見て、
「いい感じにはなったのですね」
と納得していた。
「でもなぜトトは私たちをつけてたのですか?」
「年寄りの楽しみですよ。若い者の恋愛ってのは見ていて面白い。それも、あのクラーラ様が……くっくっくっく……」
「トト!」
声を張り、トトを止めようとするクラーラだった。
「クラーラ様、それで今後の予定は?」
「えっ、ええ。でね、トト、私マサヨシの所に行こうかと思うの。鉱山を経営してくれと言われてね」
「いい話じゃないですか」
「そう、私もそう思う。この国に居ても邪魔物扱いでしょ? だったら新しい土地のほうが面白そうじゃない。それでね、向こうヘはトトも一緒に来てくれないかな?」
トトは驚く。
今度はクラーラが不意打ちかな?
「私もですか?」
「お母様に言われたのでしょ? 『私を見守れ』って……。もしかしたらマサヨシは私をひどく扱うかもしれないし」
俺そんなことせんぞ?
トトは俺を見て苦笑いすると、
「わかりました、クラーラ様に付き合いましょう」
「それで、引っ越しはどうします? どうせクラーラ様はなにも言わずにこの国を去るつもりでしょうし」
王様に何も言わずに去る訳ね。
「マサヨシどうすればいい? 私の住むところはあるの?」
「住むところは問題ない屋敷ごと引っ越しするから」
「「屋敷ごと?」」
まあ、意味がわからないだろうな。
「実際にやってみるかな。クラーラの館に戻ろう」
三人でクラーラの館に戻った。
「トトさん馬を屋敷内から出してもらえないか」
「かしこまりました」
暫くすると、トトに連れられ白馬とセイリュウが出てくる。
俺を見て目をそらすセイリュウ。人なら口笛を吹きそうだ。
手を出したかな?
まあそれは後にして……。
「それじゃあ館ごと引っ越しするぞ」
俺は館の壁に収納カバンの口を押し付けた。
館が光り、俺の収納カバンに入る。
そこには基礎の分だけ凹んだ更地が広がっていた。
建物がないと、土地って以外と広いんだな。
「「…………」」
無言の二人。
「じゃあ、俺んち行こうか」
「『じゃあ』じゃないでしょう! 何これ! 館がなくなったじゃない!」
おっとクラーラ復活。トトは見てるしかないって感じだね。
「うるさいなあ。館を収納したんだよ! とりあえず俺んち行くぞ! そこでわかる」
俺は今回は馬も居るのでおっきい方の扉を出し、俺んちに繋いだ。
「マサヨシ様は魔法使いなのですね」
トトは唖然として言う。
「まあ、そんなところだ」
返事をしたあと、
「じゃあ、この辺でいいかな」
場所の確認。
俺んち、クリスの母ちゃんち、そしてクラーラんちの並びになる。
クリスの母ちゃんところは庭を作るから、間を開けとかないとな。
館を出して、クレイに頼んで高さ調整して……。
「はい、おしまい」
「「…………」」
「終わりだぞ?」
先にトトが復旧。
「マサヨシ様、あなたは何者ですか?」
「さあ? 俺にもわからん。できるからやってる。コレなら片付けもしなくていいから楽だろ?」
「まあ、そうですが……」
「ああ、もう馬を戻しておいてもいいよ。放牧するならあの牛が居る所で、魔物が居るけど襲わないから」
言うか言わないかのところで、セイリュウは白馬を連れ勝手に牛の所に向かった。
デートするのかね……。あっ、神馬の残りの三頭が柵を越えた。
セイリュウ、争奪戦頑張ってね。
オルトロスとグレイハウンドの小隊が俺の前を軽く頭を下げながら横切る。
「マサヨシ、誰なの? そこにいる二人は……」
「おお、クリスか。鉱山開発でこの土地に住むことになった二人だ」
「ん?」
何かに気付いたクリス。
「そこに居るちんちくりんは……クラーラ!」
その声を聞いてやっと復旧するクラーラ。
「えっ、クリスティーナ。何であんたが居るのよ!」
「だって、マサヨシは私のいい人だし」
ニヤリと笑うクリス。
「トトさん、ドワーフとエルフって仲が悪いって聞いてたけど本当?」
「そうでもないですよ、あの二人の場合、腐れ縁って奴だと思います。仲は良いんですけど合うたびに喧嘩で……」
喧嘩するほど仲がいいって奴か?
「えっ、確かに何も聞いていないけど……マサヨシって結婚してたの?」
衝撃の事実?というか違うし……。
クラーラはわなわなと手が震えている。
「いいや、結婚はしてないが婚約はしている」
間違えて無いぞ。
「それも九人! 私も含めて美女ばっかり」
追い打ちをかけるクリス。
「マサヨシは私のことも魅力的だと言ってくれました!」
「でも妻にするって言ったの?」
「そっそれは……」
泣きそうになるクラーラ。
「マサヨシのことだから、あんたもこっちに来るんでしょうけどね。来てもあんたが一番最後だから! わたしたちのいうことをきくのよ!」
クリスが上から目線だ。
「一番だからとか最後だからとか序列を作った記憶は無いんだが……」
「クリスより後なんて、屈辱……」
聞いちゃいねえ。
「いいえ、私が最初にマサヨシの子を産めばいいのよ!」
一人でブツブツ言ってるぞ?
夫婦喧嘩じゃないが、オルトロスとグレイハウンド小隊は二人をチラ見した後、興味無さそうに去った。
こりゃ長いな。
「トトさん、あれ放っといてリンミカへ行こうか。面倒くさそうだ」
「そうですね、ネタが尽きたら口喧嘩も終わるでしょう」
「『ボー』って職人知ってる?」
「ああ、大工のボーですね。知ってます」
「それじゃ行こっか」
「そうですね」
俺とトトはなるべくクリスとクラーラの口喧嘩を見ない振りして、扉でリンミカへ向かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




