寄り道
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
次の日の朝、サラの朝食を取った後、扉で再びリンミカへ向かう。
クラーラの家の玄関にたどり着くと、トトという下男が居た。
「マサヨシ様、いらっしゃいませ」
「ああ、セイリュウは迷惑かけなかったか?」
「はい、問題はありません」
「良かった、暴れていないならいいんだ。で、クラーラは?」
「ただいま食事の準備をしております。マサヨシ様が来ると言う事で張り切っているようです」
「なんで張り切る必要がある?」
「それは、わかっておられるでしょうに……」
「クックックック……」キング的な笑いをする下男。
「何を言っているのかわからないな。で、クラーラはどこに?」
軽く流して場所を聞いてみた。
「はい、玄関を入って右奥です。調理場にいらっしゃるでしょう」
そう言うと、「いやぁ、若いっていいなぁ」などと言いながら下男は離れて行った。
何者だあの下男。
玄関を通って言われるがまま奥に行くと、エプロンをして小さな女の子が食事を作る風景が見えた。
非常にほほえましいのだが……。
言っちゃいかんが、あれ五十一歳だよな……。
「フンフンフン♪ふん?」
鼻歌を歌うほど機嫌がいいクラーラ。しかし俺と目が合うと……、
あっ、固まった。
あっ、すっげー赤くなった。
「顔色変わりすぎだろ」
そう突っこみを入れると、クラーラが復活した。
サラダや肉、スープ、ロールパンのようなものが並ぶ食卓。
「食事は食べてきたの?」
ちょっとぶっきらぼうにクラーラが聞いてくる。
クラーラはついでに作った感を表に出したいのだろう。
ここは食べてきたとは言えない場面か。
まあ、お腹の余裕としては食えないことはない。
「作ってくれたのか?」
「私の食事もあるから、ついでよ、ついで。まあ食べてみて」
「いただきます」
俺は自作のバターが入った小さな壺をカバンから出す。バターは余ったクリームで作ったものだ。
「なっ、何よそれ」
まあバターなんて見たことはないだろうな。
「バターだ、美味いぞ?」
パンに切れ目を入れ中にバターを塗ってクラーラへ渡した。
俺はクラーラの料理を食べる。
「うん、美味いな」
サラのほうが美味い、でもクラーラのも美味い。
「えっ、本当?」
目に見えて喜ぶクラーラ。
「ああ、美味い。塩と香辛料だけでここまで味が出せるのは凄いと思う」
俺がそう言うと、誉められて嬉しいのかクラーラはちょっとモジモジ。
そして、クラーラは俺が渡したバター付きのパンをかじる。
「えっ、何これ。ねっとりとしてるけど美味しい」
バター初体験はそんな感じか。
「うちの農場で作ってるやつね」
「これ欲しい」
「非売品なんだ」
「えー残念」
ため息混じりに本当に残念そうにクラーラは言った。
俺たちは朝食を食べ終わる。
「ありがとう、美味かったよ」
「いいえ、お粗末様でした」
そして、俺たちは街へ繰り出す。
ドワーフがいっぱいの街。一部他種族も居るがその割合は低い。
一メートル八十センチ越えの俺が一メートル五十センチを切っていそうな幼顔のクラーラと歩く。
すっげー見られている気がする。
幼児誘拐?
ロリコン疑惑再発?
その視線を無視して俺は歩いた。
「賑わってるな」
「だけど、どの洞窟でも取れる鉱石も少なくなってきているの」
「鉱石?」
「ドワーフは鉱山から鉱石を掘り出し、精錬して他国に売ったり、さらに加工し売ってお金を得ているの。だから鉱山から産出する鉱石の質や量は死活問題」
ドワーフも大変らしい。
「鉱石かあ、俺も鉱山を作ろうと思うんだが、どこか知り合いは居ないか?」
「鉱山を作る? 鉱山を作るなんて聞いたことがないわ」
そりゃそうだろうな。ダンジョンマスターの俺だからできる芸当。
「産出させるのは、金、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネなんかの金属の予定」
「そんな伝説級の鉱石が当たり前のように出る鉱山なんてあるはずない!」
うわ、全然信用されてないし、ついでに全否定。
「あったらどうする?」
「あなたにこの体を捧げます。無かったらあなたが私に体を捧げてください」
真っ赤になってモジモジしながらクラーラは言った。
何じゃそりゃ?
「体を捧げるってどういうこと?」
「私はあなたの妻に、あなたは私の夫になるということです」
「要は結婚ってこと?」
クラーラは頷く。そして、
「あなたは今まで私に近寄ってきた男たちとは違う。昨日一日だけでも全然違う。だから勝っても負けても、私から逃がしません」
と言った。
こういうところは強引なのね。
「考え直さない?」
「私が嫌なのですか?」
勝ち負けなんかないだろうに。どっちにしろ一緒だし……。
「仕方ないなあ」
頭を掻く俺。
「一応勝負はするよ、ただ体を捧げるとかいうのは無しな。で、誰が鉱石を見てくれるんだ」
「私が見ます。ドワーフだから鉱石はわかります。私情抜きで見ますから信用してください」
「ハイハイ、信用しましょう」
クラーラは俺が言ったことを信用してくれなかったがね。
俺は扉を出しシュガーアントの巣の近くに行く。
皆には見つかりたくないなぁ。
頭のでっかい兵隊アリが現れ、
「まさよしサマ。オ疲レサマデス」
そう言って去っていった。
驚いて腕にしがみ付くクラーラ。
「おう、お疲れさん」
と俺は兵隊アリに手を振っておく。
「あれは何?」
魔物がうろうろする俺の土地。
怖いらしい。
「シュガーアントを使役して砂糖をつくってもらってるんだ。さっきのはその兵隊アリ。この土地に居る魔物は人を襲わないから安心して。さて、鉱山を作らないとな」
「何よそれ」
「共存共栄ってやつだ」
俺は念話でアグラを呼んだ。
「マスター、最近は放っておかれたので寂しかったのですうーー」
突っ込んでくるアグラをかわすと、地面に突き刺さる。
「お前アホだろ。というか楽しんでる?」
アグラを引き抜き体を払うと定位置の右肩にのせた。
「バレましたか?」
魔物と話す俺を見て再び唖然とするクラーラ。
「で、このちんちくりんは?」
アグラがクラーラを指差し言った。
「ちんちくりんじゃないわよ! これでもいい女だってマサヨシは言ったのよ」
「マスター、今度はちょっと毛色の違うのですね。でも、ちょっとクリス様の臭いがします」
「クリスに似てる?あ、それは思ってた。それはいいとして、今度はって何だよ」
「心当たりがあるはずでは?」
「全然ないな」
嘘である。
「で、アグラこの前鉱山が作れるって言ってただろ」
「はい、できますよ。作りますか?」
「クラーラが信用してくれなくてな。仕方ないから作ろうかと……それじゃ、四十五階に金、ミスリル、オリハルコン、ヒヒイロカネの鉱山を四分割で作ってくれる?」
「アイアイサー」
お前どこで仕入れるその言葉。
「そんでちょっとここら辺と繋いでよ」
「マスター、了解です」
アグラがそう言うと目の前に下る洞穴ができた。
「照明、換気は大丈夫だね」
「はい、マスター。ほどほど明るくしてあります。換気も問題ありません」
「ありがとう。クラーラ、じゃあ入るぞ」
「えっ、ああ、行くわ」
あっという間にできた鉱山?に驚くクラーラを連れ、俺とアグラはダンジョンに入るのだった。
デパ地下ぐらいに明るいダンジョン。空気も澄んでいる。
「あれが金鉱石ですね。一番魔力効率のいい二割七分の金含有率にしてあります」
石を見て息を飲むクラーラ。
「何よこの純度。金が目に見えているじゃない」
「あそこの若干緑色がミスリル。奥に黒くオリハルコン。ピンクがかっているのがヒヒイロカネです。高度な鉱石ほど含有率が下がっています。ちなみにヒヒイロカネで二分六厘ぐらいでしょうか」
「鉱山が本当にできた……」
今日は何回唖然としているんだクラーラ。
「嘘は言ってなかっただろ?」
クラーラはコクりと頷いた。
「マスターは教えていないのですか?」
「何を?」
アグラはヤレヤレという顔をすると
「教えていないのですね……クラーラ様、マスターは、つまりマサヨシ様はダンジョンマスターです。そして私はダンジョンコア。ですからダンジョンを改造するなど造作もないことなのです。ちなみに今改造したダンジョンはゼファードのダンジョンの四十五階です」
「まっ、そういうことだ」
「そう言えば、あのダンジョンを踏破した者が居たって聞いたけど……」
「それは俺だな。ダンジョンマスター倒してダンジョンコアを隷属させたらダンジョンマスターになってしまった。一応魔法書士の資格もあります。」
「権力は欲しくないの?」
「別に権力無くてもできることは多いからな。言っただろ、今はここが発展するのがいいって。それじゃクラーラの負けが確定だから……」
「いっ、いいわよ。こんなところでなんて……」
服を脱ぎ始めるクラーラ。
「何やってるの?」
「体を捧げるわよ……」
「おいおい、そういうつもりじゃない。俺に体を捧げなくていいから、この鉱山から利益が出るようにしてほしい」
「体は捧げますし、鉱山からも利益を出してみせます」
「体は……」
「いい」と言おうとすると、涙目になるクラーラ。
うー、捧げると言われてもなあ。
「まあ、とりあえず鉱山経営は任せた」
「わかりました」
「で、どうする?」
「下男のトトに事情を話しておかないと。付いてくるか解雇するのか決めてもらわなきゃいけないから」
「そうだな。まあ急ぐ必要もないから決まったら連絡をくれ」
「どうやって?」
あっ、そうだよな。
俺はちゃちゃっと魔石を組み込み例の髪留めを作った。
数をこなしているから手慣れたもんである。
「じっとしてろ」
そして、髪に付けるとクラーラの顔が赤くなった。
「これで念話が使える」
俺は念話でクラーラに説明した。
「頭に響く」
不思議そうにクラーラが言っていた。
「それじゃ何かあったら念話で……。家とか、家財一式とか、このカバンでこっちに持ってこられるから安心して」
何を安心してもらえばいいのやら……。
「というかその前にリンミカで師匠探しだ。大層な寄り道をしてしまった」
「ごめんなさい。私が信用しなかったから」
責任を感じたのかクラーラは、しょぼんとした。
「クラーラは鉱山に詳しいだろ?」
「ドワーフの王族だから、その辺の知識は持ってるわ」
「だったら、俺んちに鉱山に詳しいクラーラが来てくれるんだ。この寄り道は悪くなかったと俺は思うがね」
「うん」
嬉しそうに頷くクラーラだった。
「マスター、私は?」
「アグラも居てくれて助かったよ。ありがとうな」
「はい、マスター。用事も終わったようなので私は帰りますね。ちんちくりんと、ごゆっくり」
アグラはニヤリと笑って家へ去っていった。
「私はちんちくりんじゃない……わよね?」
クラーラが涙目で俺に聞く。
俺に聞かれてもな……。
「可愛いってことにしておいてやろう」
俺は苦笑いしながら、クラーラに言った。
「さあ、リンミカに戻ってベンヤミンの師匠探しだ。手伝ってくれるか?」
「ええ、行きましょう」
俺とクラーラは扉でリンミカに戻るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




