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リンミカにて

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 洞窟内ということもあり、時間感覚が狂うのかと思ったが夜になれば苔の発光が抑えられるため意外と時間がわかりやすかった。

 夕方ぐらいかな? 


 どの町もそうだが、王都と言うと人が湧いている。

 雑多な街を王城に向かうのかと思っていたが、クラーラは小さな屋敷の前に止まるとその屋敷の中に入った。

 すると、

「クラーラ様、お帰りなさいませ」

 小柄な爺さんがでてくる。

「トト、お客様の馬も厩に繋いでおいて」

 トトと言われた爺さんは、俺からセイリュウを受けとると白馬とともに厩へ連れていくのだった。

「役得役得……」

 念話で、聞こえてきたセイリュウの声。

「手を出すなよ」

 そう言っておいて念話を切った。


 クラーラと屋敷に入る。

 誰も迎えに来ない。

 普通ならメイドぐらい来ても良さそうだが……。

 不思議そうにしていると、

「誰も出てきません。この屋敷は私と下男のトトしか住んでいませんから」

 応接セットのテーブルで紅茶の準備を始めるクラーラ。

「さっきも言いましたが、『姫様』と呼ばれていても私は王位継承を放棄しています。ですから城を出てこのように暮らしているのです」

 俺の前に紅茶を出すと、

「紅茶を飲んで待っていてもらえますか? 手形を作って持ってくるので」

 そう言ってクラーラは離れていった。


 紅茶を一口飲む。

「美味しいな、マールといい勝負」

 ボソリと呟く。

 そういや昼飯食ってなかったな。せっかくサラが「昼に食べてくださいね」と言って渡してくれた弁当なのに……。

 鞄から出すと、コッペパンの中央を切りレタスのようなものとスクランブルエッグにマヨネーズを和えたものを挟んだ大きなタマゴサンドが二つ入っていた。

 それを勝手に食べ始める。

「さすがサラ、シンプルだけど美味いねえ……」

 タマゴサンドをガッツリ口に頬張り、モグモグとしていると、クラーラが紙を持って帰ってきた。

 手で「ちょっとまってくれ」アピールをする。

 俺は急いでパンを飲み込む。

「悪い、待たせた」

 すると、

「手形ができました。渡しておきます」

 クラーラが手形を差し出し、俺はその手形を受け取った。

 ただ俺の身元を保証すると言う内容のものではあるが、あるのとないのとではこの国では大違いなのだろう。


「ところで、どうしてこのリンミカへ?」

「知り合いの師匠に手紙を届けにね。俺のとこの孤児院で大工の先生をしてもらおうかと……まあ、そういう依頼がこの手紙には書いてあると思う」

「思う?」

「俺が書いた手紙ではないから……ただの推測なんでね。ところで、俺も質問していいかな?」

「どうぞ」

「クラーラは人嫌い?」

「嫌いですね」

 ありゃ、相当嫌われてるね。

「何で人嫌いに?」

「ちなみに私は何歳に見えますか?」

 質問に質問で返された。

 さて……ドワーフの寿命は三百歳程度だと聞いた。見た目は少女だが俺よりも上なんだろうなあ。勘にはなるが、

「五十歳前後?」

 そう言ったとたんに、驚くクラーラ。

「えっ、何でわかるのですか? 私は五十一歳です」

「見た目は人間の感覚で十代前半、少女にしか見えない。俺も助けたときはそう思っていた」

「ならなぜ?」

「人嫌いの理由を聞いたあと、わざわざ年齢を聞いてきたから『幼く見られるのが嫌なのかな? 』と、考えたわけだ」

 俺がそう答えると、

「人は寿命が他の種族より短いので、余計に若く言われる。それが嫌だったのです。ドワーフでさえそう、結局外見では私は相応の年齢には見えないのですね」

 クラーラは残念そうに言った。


「そうか? キレイよりも可愛い寄りだが、美人だと思うぞ? 外見が幼いことを気にする必要はないと思うんだが……」

「でも私は大人です」

「王位継承も放棄したのに、大人として見てもらわなきゃいかんのか?」

「それは……」

「俺は元々太っていたからなぁ。今の姿を皆が見慣れているから、精霊に頼んで擬態してもらってるんだ。『太っているから』って戦闘ができないとか勘違いしてくれるからこっちとしては助かっているけどね」

「それはズルくないですか?」

「ズルくて悪い? 身体的特徴を上手く使うのは悪い事じゃないと思うぞ。魔物だって、身体的特徴を生かして戦う。中には弱い者を装って油断させる魔物も居るだろう?」

「それは魔物であって……我々には当てはまらないのでは?」

「クラーラは幼く見えるが、聡明で何でもできる。見た目と逆って印象が強くていいと思う。まあ、体は小さくて幼く見えるが、出る所は出てるしなぁ……」

 あまり意識して見てはいなかったのだが、クラーラは出る所は出てメリハリが効いている。

「ギャップ萌えって奴だな。それはそれでいいと思うけどなぁ」

 俺の視線を感じ、体を隠そうとするクラーラ。

「いやらしい目です」

「おう、クラーラをいやらしい目で見ていた」

「なんでですか?」

「そんだけ魅力があるって事じゃないか?」

 そんなことを言う俺が意外だったのか、

「『魅力的』ですか……」

 ボソリとつぶやく。


 外を見ると苔は光らなくなり街明かりが煌めく夜になっていた。

 手紙を持って行くにはちょっと遅いかな。

「さて、家に帰るかな。セイリュウはどこだっけ?」

「今から、どこまで?」

「ああ、ドロアーテまで」

「あなたの馬でも一週間以上かかる場所じゃないですか。あなたバカじゃないですか? 夜に出発なんてあり得ません」

 バカ認定されてしまった。

「そんなにかからないぞ、あっという間だ。とりあえず、セイリュウのところに連れていってくれないか?」

「いいですけど……」

 クラーラはそう言うと俺を連れて厩まで連れていってくれた。


「セイリュウ、帰るぞ」

 悲しげな目のセイリュウ。

 まあ、気に入った相手から離れるのは嫌だろうなあ。

 白馬の方も悲しげな目をしている。

 意外とうまくいってるのかね?

 仕方ないなあ……。

 俺はいつもの扉を出すと家の前と繋いだ。

 俺が開けた扉の向こうが別の場所だと気づき驚くクラーラ。

「あなた何者?」

「んー、ただの農園経営者兼、孤児院経営者兼、魔法使い」

「何なのそれ?」

 ありゃ、呆れられた。

「事実だよ。さて、人を訪問するには少し遅いので、明日また来るよ。このセイリュウを預かってもらえるか? あと、明日も一緒に動いて貰えないか? クラーラならこの街のことをよく知ってそうだから教えてもらえると助かる」

「そうね、『手伝えることがあれば……』と言ったし、街の案内もどうせ暇だから付き合うわ」

 返事を聞くと、

「じゃあよろしく」

 と言って俺は扉を通って家に帰るのだった。


 家に帰ると、ベンヤミンを探す。

 仕事を終え、一杯引っかけたのか赤ら顔のベンヤミンが居た。

「おう、旦那。師匠は見つかったかい?」

「お前、国に入るために、有力者の手形が要ったじゃないか!」

 ベンヤミンは腕を組んで考える。

「あっ、そうだった……旦那すまねえ。忘れてた。で、リンミカには入れたのかい?」

「ああ、クラーラって姫様に出してもらったよ」

「クラーラ殿下? 何でそんな方と?」

「わからんよ、流れだ」

「じゃあ良かった。中に入れたんだな。後は任せたよ」

 ふらふらと飯場の方にベンヤミンは戻った。

 あいつ酔ったふりして逃げたな。

 ツンツンと突っつかれ、振り返るとキング。

「クエッケッケッケ」と笑って俺を見ていた。

 今キングと念話をすると

「増える?」

 と確実に言われるんだろうなあ……。

 そう思いながら、家に帰るのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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