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リンミカへ

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 次の日、ベンヤミンが書き上げた手紙を受け取りリンミカへ出発することにした。今回は洞窟内を動く必要があるため神馬に乗っていくことにする。

 パルティーモの外に大きな扉で出ると、ベンヤミンに教わった通り、北西へ向かう。大洞窟とリンミカの街は俺のマップに表示されていた。


「今日はよろしくな」

 首を撫でながら念話で神馬に話しかけると、

「ご主人様、よろしくお願いします」

 と、気持ち良さそうな声で返してきた。

「私にも名前をいただけませんか? ポチが私たちに威張るのです」

 神馬の悔しそうな声が聞こえる。

「そんなに欲しい?」

「欲しいですね。名前が付くと個として見てもらっていると思えますから」

 名前ねぇ……。

「うーん神馬は四頭いるからなあ。ん? だったらお前はセイリュウにするかな」

 俺がそう言うと、

「セイリュウ? それはどういう意味ですか?」

「ああ、お前ら四頭だろ? だから、俺が知っている方角の四神で名前を付けることにしたんだ。セイリュウは東を意味する」

「私はセイリュウ。ありがとうございます」

 名付けられたのが嬉しいのか、セイリュウは頭をブンブンと縦に振っていた。


「さあ行こうか。この街道を行けば大洞窟だ」

 俺がそう言うと、セイリュウは駆け始めた。

「やっぱり広い所はいいですねぇ」

 気持ち良さそうに走るセイリュウ。

「厩は狭いか? たまに放牧地にも出ているようだが」

 神馬たちはグランドキャトルに混じって草を食んでいることがある。

「囲まれている所は窮屈です、それが広い放牧地であっても……。まあ、たまに開けた場所を抜け、森のなかで遊んでいますが」

 開けた場所と言うのは、開拓地のことなのだろう。

「まあ、許可はもらってあるから、開拓範囲を広げて、放牧地をもっと広げてもいいのかもな」

「ご主人様、期待しておきます」

 嬉しそうな声が響いた。


 しばらく走り、セイリュウの耳がピクリと動く。

「何かあったのかもしれませんね。子供の悲鳴が聞こえます」

 マップのレンジを変えると。そこには人の白い光点と魔物の光点が重なり、それを追うように魔物の黄色い光点。

 馬かなにかに乗って逃げている? 

「お前よく聞こえるな」

「私は臆病ですから、常に周囲に気を配っているのです」

「状況がわからん。まあとりあえず近寄って様子を見るか」

 セイリュウは速度をあげ、追われている誰かのもとへ走った。


 何とか視認できるところまで近づくと、きらびやかな飾りがついた白馬に乗った人が見える。

 ちと丸っこい。

 ん? ドワーフ? 

 良く統制がとれた犬っころの群れが見る間に追いつき馬に飛び付いた。

「ブヒヒーン」

 馬の腿のあたりを噛みつかれ血が舞う。

 そのまま馬は倒され、その勢いでドワーフは放り出されて転がった。

「きゃあ」

 きゃあ?

 犬っころたちは、倒れた馬を間に挟みドワーフの様子を見る。

 じりじりと一匹の犬っころがドワーフに近寄った。

 勝てないとわかっているのか逃げようとするドワーフ。

 怪我をしているようで足を引きずりながら走って逃げようとする。


 うーん、結構まだ遠いな。

 距離にして百メートル以上はあるだろう。

 犬っころが倒れた馬越しにドワーフを襲おうとしたとき、俺は久々にライフルをイメージして射撃モード、ドワーフに一番近い犬っころを撃った。

「シュン」と言う発射音がきこえるとすぐ「キャイン!」、犬っころは鳴き声をあげたあと、衝撃で転がり動かなくなる。

 ドワーフも犬っころも何が起こったのかわからず、キョロキョロしていた。

 ドワーフから気がそれたな、今のうちに……。

 俺はドワーフに近い順に犬っころを順に狙撃する。

 十頭ほど撃つと犬っころたちは逃げ出し、ドワーフ以外は居なくなるのだった。


 俺はセイリュウに乗りドワーフと白馬に近づく。

 ドワーフは擦り傷と捻挫かな? 

 あっ、やっぱり女の子……。

 セイリュウはとにかくでかい。威圧感があるのか、敵だと思われているのか、何かめっちゃ睨まれてる。

 勝手な意見だが、色黒で気が強そう。

 あの白馬からして、貴族か金持ちの娘ってところか……じゃじゃ馬っぽいな。

 普通は助けた者が味方のはずだが、そういう世界で生きていないのかもなあ。


 白馬はまだ息はあるね。骨は折れていないか……。

 後ろ足の腿のあたりに、犬っころの爪の跡と噛みついた跡が、大きく生々しくついていた。

 傷が深く血が吹き出ている。

 白馬は立ち上がろうとするが踏ん張れずに倒れる。

 俺はまず治癒魔法を使い白馬の傷を癒した。手をかざし、魔力を通して傷を塞ぐ。

 セイリュウが白馬に近寄りフンフンと話をしていた。

「よし終わりだ、立ち上がれるか?」

 俺がそう言うと、白馬は体を震わせ立ち上がる。再びお互いにフンフンと何かを話す。


 気に入らなかったのか、

「何で私よりも先に馬を治療した!」

 と怒られてしまった。すかさず、

「あんたより馬のほうが怪我が酷かったからな。あんたの場合は放っておけば治るだろうけど、白馬はあのままじゃ歩けずに死ぬだけだ。それとも、あの白馬を回復させる術を君は持っているのか?」

 と返す。

「…………」

 言い返せないのか言い返す気が無いのか、無言になるドワーフの少女。

「馬に治癒魔法を使って、私は放っておかれたと言われるのも癪だから、一応治癒魔法を使っておくよ」

 俺がドワーフの少女に治癒魔法をかけると擦り傷やアザが消える。ついでに洗浄魔法で汚れも取っておいた。

「ほい、治療完了。礼も言われず逆に怒られるとは思わなかったよ。まあ、礼を言われるために助けたわけでもないがね」

 セイリュウに乗り大洞窟へ向かおうとしたとき、

「ありがとう……」

 小さな声が背後から聞こえた。

「どういたしまして」

 そう言って振り向かずに手を振ると大洞窟に向け走るのだった。


「あの子は政争に巻き込まれ、大変だそうです。毒殺されかけたことも何度かあるみたいですね」

 セイリュウが走りながら言った。

「ああ、あの白馬に聞いたのか」

 フンフンと言ってたのがそれね。

「はい……教えてくれました。ああ、あの子綺麗だったなあ」

 セイリュウが遠くを見ながら言う。そっちも重要なのね……。

「パートナーが欲しい?」

「あんな子だったらいいですね」

 神馬たちの嫁探しもせにゃならんのかね……。

 そんなことを話していると、大洞窟の入口が見えてきた。


 洞窟の入口には関所、入国審査のようなものがあるようだ。

 んー八本足の巨馬にメタボな俺。目立つよなぁ。

 数人の番人が現れ俺に槍を突き付けてきた。

 番人の中のリーダーらしき者が、

「お前、ドワーフの国に何の用だ!」

 と、高圧的に聞いてくる。

「ああ、俺の所に居るベンヤミンてドワーフに手紙を預かって持ってきたんだ」

「なんだ、そのでかい馬は!足が八本もあるじゃないか!」

「神馬っていう種類らしいぞ? 足の数が多い理由は俺は知らないが、俺の愛馬なのは間違いない」

「手形はあるのか? ドワーフ以外の者がこの国に入る時は、相応の者が発行した手形が必要だ」

 ベンヤミンは手形が必要なんて言っていなかったぞ? 

「悪い、そんなものは持ってない」

「では、この国に入国はできない」

 番人のリーダーにそう言い切られた。

「ふむ、残念」

 さすがに番人の意識を狩ってまで中に入る必要はないよな。

 帰ってベンヤミンに相談してみるか。


 俺が扉を出そうとした時、

「この者を入れてやれ」

 女性の声が響いた。

 ん? 誰だ? 

 振り向くと、白馬に乗ったドワーフの少女。

「姫様、この者は手形を持っていません。国の法として入国させるわけにはいかないのです」

 番人のリーダーは言った。

 気が強い姫様ね……定番。

「そうだな、この人が言うことが正しい。法を曲げるのは良くない」

 俺はリーダーに同意して頷く。

「あなたはこの国に入りたいのではないのですか?」

 気を遣ったはずなのに否定されイライラしているのかな? 姫様は俺を睨みながら言った。

「そりゃ入りたいが、法を破ってまで入る気はないと言ったんだ」

 まあ最悪、無理矢理入るけど……。

「私が手形を発行すればいいのでしょう?」

「姫様、本気ですか? 人嫌いの姫様がどこの者とも知れない人族の男に手形を発行するなど、どうなさったのですか?」

 人嫌いなんだ、この姫様。

「私が発行すると言っているのです。文句がありますか?」

「姫様がそうおっしゃるのなら……」

 番人のリーダーは渋々引き下がる。

「ただ、今この男の手元に手形がありません。ですから姫様がリンミカまでお連れください。でないと他の関所で揉めることになります」

 番人のリーダーは姫様へ忠告をした。

「元よりそのつもりです」

 フンっと鼻息荒く返事をする姫様。

「気が強い姫様だねぇ」

 聞こえないように言ったつもりだが、ジロリと睨まれる俺。

 姫様は馬を進ませ関を越えると、動き出そうとしない俺を振り返り、

「行くのですか! 行かないのですか!」

 と捲し立てるように聞いてきた。

 面倒な感じ……。

「はいはい行かせていただきます、お姫様」

 結局俺は白馬に乗った姫様に従いドワーフの国に入国した。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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