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独り占め

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

楽し気に腕を組み歩くイングリッド。

ドレスから、遊び回れるような軽装に着替えている。

「『ひっとりじめー♪』ですね。今日はお邪魔虫も居ません」

変な歌を歌うイングリッド。まあこの世界にも歌があってもおかしくはない。

そしてエーリク、お前はやはりお邪魔虫扱いだったようだ。

「ここは、この前木製食器を買った通りですね」

イングリッドが気付いたようだ。

「そうだな、確かこの辺だったような……」

すると、

「あ、オッサン」

レスの声が聞こえた。

「おう、元気だったか?」

「ああ、元気だぞ。母ちゃんも元気になった! オッサンのお陰だ」

「良かったな」

「でも、あの嫌味を言っていたオッサンは病気で急に死んじゃったぞ?」

あの店主が呪いをかけたのか……レスの母親にかかっていた呪いが跳ね反ったのだろう。

「仕方ないな。自業自得だ」

「オッサン、難しい言葉使われるとわからないよ。それじゃ母ちゃん呼んでくる」

走り去るレスに、

「確かに、お前が知る必要はないな」

俺はぼそりと言った。

店の奥から、元気になり血色も良くなったレスの母親が出てきた。

「その節はありがとうございました」

「レスが頑張ったからですよ。俺はできることをしたまでです」

「あのときの収入のお陰で、今なんとかやっていけてます。あっ、まさか。イングリッド殿下?」

俺の後ろに居るイングリッドにレスの母ちゃんは気づいたようだ。

「今は忍びの外出です。大きな声を出さないように」

イングリッドはレスの母ちゃんに言う。

「申し訳ありません。イングリッド殿下」

こりゃ、あまり居ると面倒臭そうだな。

イングリッドもそう思っているようだ。

「レス、俺らは行くよ。元気なお前を見れてよかった」

「俺もだよ。また機会があったら、うちの商品を買ってくれ」

「おう、じゃあな」

俺は手をヒラヒラさせながら、イングリッドは軽く会釈をしてレスの店を離れるのだった。


レスの店を冷かした後、程々人が並ぶ食堂へ行った。しかし、

「食堂の料理もあまり美味しくありませんでしたね」

と言うイングリッドの言葉。

サラの飯がどんだけ美味いか再確認してしまった。

「そうだなあ、サラの飯が美味いから、ちょっと他じゃ食えないな。だったら料理の食材探そうか」

「食材?」

首をかしげてイングリッドが聞いてくる。

「俺の知ってる料理を作れそうな食材を探す。魔族の王都なんだから何かあるかも。食料品の市場ってどこだ?」

イングリッドは「こちらです」と俺の手を引いて連れていってくれた。


豚っぽいの、鳥っぽいの、牛っぽいの、なんかの魔獣? 穀物系、香辛料系もあるかな。

おぉ、食材一杯だねえ。

そこになんとも言えない臭いが漂ってきた。

ん? 何の臭いだ? 

そんなことを考えていると、

「お前、なに腐った魚出してるんだよ!こんなの売れるはずがないだろ!それにこの臭い、迷惑だ!」

「やめろ、これは塩漬けした魚だ食べられるはずなんだ」

近くの露店の店主なのだろうか、子供がやってる露店の前に行き、魚の入った樽を倒そうとしていた。

発酵が進んでいるためかかなり周囲は生臭い。

「すごく生臭いです」

イングリッドも鼻を押さえる。

「悪い、ちょっと待ってくれ」

俺は間に入り店主のオッサンを落ち着かせた。

「お前、その樽の中身を見せてくれないか?」

樽を守っていた子供に聞いた。

「ああ、いいけど」

俺は樽の蓋を開け、内部を確認する。

中の魚は発酵が進み、滲み出た液は赤褐色になっていた。

魚醤だ。

と言うか、一年以上塩漬け放置した樽をよく売る気になったな。

まあいい。


「お前、この樽幾らだ?」

魚醤になった魚の樽を買おうとする俺に、

「マサヨシさん、腐ったものを買ってどうするのです? いくら子供が可哀想だからと言ってもやりすぎでは?」

と、イングリッドが注意してきた。

「姉ちゃん商売の邪魔しないでくれよ!」

子供が文句を言う。

「イングリッド、いいんだ。この樽は買う価値があるから買う」

「ですが、腐った魚など……」

「俺は美味しい食材を買いに来たんだ。信用してくれないか?」

「わかりました……」

渋々イングリッドは承知した。

一樽銀貨五枚と言うことだった。

買う者が居ないはずの物が買われる光景に唖然とする店主のオッサン。

「じゃあもらうぞ。お前に言っておく。この樽の価値がわかるのは俺だけだろう。だから、同じものを他の人が買ってくれると思うなよ」

そう子供に言って店を離れた。

そして収納カバンに仕舞う。

臭いからね。


「何であんなもののために……」

納得できないイングリッドに

「イングリッド、あの樽は調味料になるものだ。後処理をしないといけないが、それでも美味しい食事を作ることができる。今度何か作ってやるよ」

「美味しいもの」に反応するイングリッド。

「マサヨシさんが言うのなら間違いないですね期待して待ってます」

イングリッドの機嫌が治る。


露店を見ながら、ウロウロすると籾発見。

「うわぁ、あったよ。日本人の心」

「えっ、なに? どうしたんですか?」

俺の反応に驚くイングリッド。

「米だよ米」

「えっリースの事ですか?」

「リースって言うのか」

「この国の南方の方で作られていたと思います。ただ小麦に比べ田舎っぽいと言うイメージがあって貴族や王族は食べませんね」

俺は精米したものと籾を一袋ずつ買った。一袋三十キロぐらい?

意外といろいろあるな。ドロアーテでは見つからなかった物が多い。魔族の国は南に大きく張り出しているため、ドロアーテと違うものが多いのかも知れない。


「市場の中は活気に溢れていましたね」

イングリッドが言う。

「悪い、デートって雰囲気じゃなかったなぁ」

俺は謝った。

「じゃあデートって雰囲気のところへいきましょう」

イングリッドは俺の手を引っ張ってどこかへ連れていく。

俺たちは活気の有る人の間を駆け抜けた。そして人が少なくなると、

「ハアハアハア……あーきもちいい。久しぶりです、こんなに走ったのは……。そういえば、パルティーモでマサヨシさんに助けてもらう前も走りましたよ。あのときは不安で不安で……」

走り疲れたのか、イングリッドは歩き始めた。

「そういや、そういうこともあったなあ。最初は魔族だってことも知らなかった。ちっちゃなイングリッドがきれいな服着て追われてて、目の前で転んだんだ。そんなイングリッドを抱えて屋根の上に飛び上がったんだっけな。そしてヘドマン子爵の家に連れてったんだ」

そんなことを話ながら歩くと、目の前に大理石製の白い大きな噴水が現れる。周囲には意匠を凝らした賢人? の石像が配置され荘厳な雰囲気を醸し出していた。


「賢者たちの噴水。別名恋人たちの噴水」

イングリッドが言った。

恋人たちの噴水ねえ……。

確かに噴水の周囲には男女のペアが目立つ。

近くにあったベンチにに座ると、イングリッドは俺の肩にもたれてきた。

イングリッドの頭を撫でる。

さて、キスかなぁ……。

あれ? 白かった光点が敵対心を持つ赤色の光点に変わった。

その方を見てみると……ウルフだ。怒り筋を出して、俺を睨んでいる。

それを知らないイングリッドは目をつぶり俺にキスを促してくる。

「このままキスをしてもいいのだが、そこにウルフが居るだろ?」

驚いて目を開けるイングリッド。

俺は目線でウルフが居る場所を教える。

イングリッドは立ち上がり、ツカツカとウルフの前にいくと、

「お兄様、次期国王たるあなたが何をなさっているのですか?」

イングリッドの後ろに怒りのオーラが見えた気がした。

焦ったウルフは、尋常じゃない汗をかきだす

「おっお前のことが心配でな。ちょっと来てみたんだ」

いくらシスコンでも、これは怒られる奴だよな。

「私がマサヨシ様と一緒なら国王であるお父様公認で護衛なしで外出することを許されています。せっかくいいところだったのに……台無しです」

シュンとしたイングリッドをどうしたらいいのかわからないウルフ。あたふたするだけだ。


俺はさっとイングリッドをお姫様抱っこで抱えあげ。

「貸しだからな」

ウルフに言って噴水前を去った。そして、オセーレの中央にあった塔に近づくと、最上階まで飛び上がりそこに二人で立つ。

風も強くイングリッドの腰まである髪が横になびいた。ちょっと怖いのかな? イングリッドは俺にしがみつく。塔の最上階からは高さで丸く見える地平線に沈む夕日がきれいに見えた。

「再び悪者から助けましたよお嬢さん」

「『お兄さんありがとう』でいいでしょうか?」

機嫌が戻ったのかニコニコしているイングリッド。

「ここに来るのは初めてです。塔があるのは知っていましたが、塔の上に行こうとは思いませんでした」

「王都だけあってでかいなあ。どうだ? 上から見るオセーレは?」

「きれいですね、箱庭のようです。オセーレの街も見方によってこれだけ変わる。あなたは私にもっといろんな物の見方を教えてくれるのでしょうね」

イングリッドの抱きつく力が強くなった。

「今後ずっとだな、一緒についてきてくれるか? だったらいろんな物やその見方を教えられる」

「はい、ずっと一緒にいます、だから大事にしてくださいね」

俺はその返事の代わりに俺はイングリッドを抱きしめるのだった。


俺たちは塔の上から直接イングリッドの部屋に戻る。

「さすがにお兄様も邪魔はしに来ないでしょう。鍵もしてあります」

何をするか気付いたのか、精霊たちも俺たちから離れた。


音漏れを防ぐような魔法はあるのかね。

国王(オッサン)やマリーさん、何ならウルフも居るから「昨夜はお楽しみでしたね」は勘弁だ。

音は振動だから、震えないようにすればいい。一時的に真空の層を作ればなんとかなるかな? 

そんな事を考えながら魔法をかけてみた。魔力が減る感じ、上手くいったかな? 

念話を留守電モードにしておく。


「私、夢見ていたんです」

真剣に言うイングリッドに対し「プッ」っと吹き出してしまった。

「何で笑うのですか?」

「いや、あの時の事を思い出してな」

「あの時?」

「昼寝を邪魔したときのことだよ。寝言でいろいろ言ってたし、勘違いもしてたから『夢見てたのかなぁ』って」

思い出したのだろう、真っ赤になるイングリッド。

「はっ、恥ずかしい……」

「意地悪をして済まないな。お前の思うような感じにはならないかもしれないけど……おいで」

イングリッドを誘い二人でベッドへ向かった。


自分から服を脱ぐイングリッド。

そして何かを意識すると背から翼が現れた。

見事なイングリッドの肢体。その背から伸びる黒く大きなコウモリのような翼。魔から派生したのがよくわかる。

「『翼を見せるのは、好きな異性だけ』だったな」

「はい、その通りです。だから責任を取ってください」



薄明るくなる頃にはイングリッドはスースーと寝ていた。

「朝か……」

俺とイングリッド、そして寝具を洗浄魔法でクリーニングしておく。

「んっ、うーん」

「起きたのか?」

イングリッドは俺の顔を確認すると、俺を抱き寄せてキスをしてきた。

「強引だな」

「はい、私は我儘なんです。強引でないとあなたを独り占めできないのならそうします」

まあ、周りに八人もライバルが居るんだ。少々は強引になるか……。

サラサラになったイングリッドの髪をなでる。

「さあ、着替えて帰るか」

留守電は……特に無しか……。向こうは平和だったようだ。

二人は服を着た。


別に国王(オッサン)に挨拶する必要もないのだが、なぜがイングリッドが挨拶したいと言い出したので、王の部屋ではなく食卓へ向かう。そこには国王(オッサン)とマリーさん、そしてウルフが居た。

「おはようさん」

「おはようございます。お父様、お母様、お兄様」

俺とイングリッドは挨拶をした。

「おう、おはよう」

「おはようございます」

「…………」

国王(オッサン)とマリーさんは挨拶するが、ウルフは無視だ。

「あなた、雰囲気が違う」

マリーさんがイングリッドに声をかけた。

「はい、お母様」

イングリッドは普通に答える。

別に驚くでもなく国王(オッサン)

「孫はいつかな? まあ、急かすつもりはないがな」

ニヤニヤしながら言った。

ただ一人、愕然として話を聞くウルフ。

「朝食はどうする?」

国王(オッサン)が聞いてきたが、

「家で食うよ。作って待っていてくれるからね。国王(オッサン)に言うのもなんだけど、うちの飯は美味いから」

と返した。

「イングリッド、お前は?」

「そうですね、私の家はあそこですから。あの家に帰ります」

「そうか、寂しくなるな。お前の部屋は開けておく。妻が多い家ではなかなか二人っきりになる空間などないだろう?」

再びニヤリと笑う国王(オッサン)

「はい、そうしていただけると助かります。私もマサヨシさんを独占したいですから」

ニッコリと笑いイングリッドは言った。


「それでは失礼します」

イングリッドと俺はイングリッドの部屋へ向かった。

「私はお母さまに言われていたのです。『今日モノにしないとだめよ』って……」

モノって……。

「その通りになったって訳か……。だからマリーさんとオッサンはあんなに落ち着いていた訳だな」

「そうかもしれません」

俺は手の上で踊らされていたのかなっと? 

俺も情報を貰っていないウルフと一緒か……。

あいつと同じなのは嫌だが……まあいっか。

俺は考えるのをやめた。

「さあ、帰るか。サラの朝飯を食べよう」

「はい」

イングリッドの部屋に着くと、転移の扉で家に帰るのだった。


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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