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魔物討伐

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 動きやすい服を着てきたノーラ。

 魔物が出没するというオクニ村まで、高速移動で向かう、ノーラはお姫様抱っこだ。

「これが皆さんの言ってた高速移動なんですね」

「ん? 聞いてたのか?」

「クリスさん、フィナさん、アイナちゃんが『密着度がいい』って言ってました。言った通りですね。あなたの体を感じられるし、本当に顔が目の前」

 見あげてじっと見るノーラ。

 移動中にわざわざ俺に抱きついてくる。

「遊びに行くんじゃないんだぞ?」

「遊びじゃないのはわかっていますが、二人っきりと言うのは嬉しいものです」

 流れる景色の中、二人で街道を走る。

 街道を行く人々にすれ違う度、驚かれた。

 まあ見たこともない走り方と、なぜか抱かれている領主様。領主様とわからなくても美女が抱かれている。

 目立つと言えば目立つんだけどね。


「あまり外に出たことが無かったので新鮮です」

「領都から出るのは初めてか?」

「王都への旅などで出たことはありますが、それ以外ではあまり無いですね」

「箱入り娘だったんだな」

「箱入り娘?」

「『フィリップに可愛がられていた』って事だ」

「はい、お父様には可愛がられていました」

 俺はノーラの父親を死に至らしめた男……。

 後悔と言うか、もっと他になかったのかというか……色々考えていると。

「私はあなたを恨んではいませんよ。あのままではお父様はもっと深く悪事に関わっていたでしょう。イングリッド殿下を亡き者にしようとしたのも事実です。お父様は自分の責任を取らねばならなかったのです。それに私はあなたに出会えました。だから、気に病まないでください。」

 そう話しかけるノーラは優しい顔だった。


 しばらく走ると、黄色の光点つまり魔物の反応が見える。そこには鬱蒼とした森があった。

「あなた、あれが魔物が出没する森になります」

「内部に魔物が固まってるな」

「気配でわかるのですか?」

 ノーラは不思議そうに聞いてくる。

「まあ、そんなところだ」

 実際は表示されているからわかる訳で……。

 俺は一度止まり、ノーラを降ろした。

「さて、森の中に入るんだが……護衛をつけておく。スイ、頼むよ」

「はいですぅ」

 すると俺の体からスイが抜けノーラの傍に立った。

「えっ、護衛など居ませんが」

 ノーラは精霊を感じないから気配も声もわからないか……。

「スイ、何か目に見えることをしてみてくれ」

 すると、何もなかったところに水球が宙に浮かぶ。

「えっ」

「ノーラの横には水の精霊が立っている。結構凄い精霊だから、ノーラを守ってくれるから安心しろ」

 驚き過ぎて言葉が無いのかコクコクと頷くノーラだった。


「さて、中に入るか……一つ言っておくけど、見てて楽しくはないぞ? 俺ほとんど何もしないから。物語の戦士や勇者のように剣を振るったり魔法をどんどん使ったりはしない」」

「何でです?」

「ああ、精霊に任せるからだ。さあみんな、魔物を狩ってもらえないか」

 俺がそう言うと、俺の体に纏わりついていたエン、フウ、クレアと精霊騎士から分捕った精霊たちが飛んでいく。

 久々の痩せ姿である。

「ご褒美」

 ノーラが小さな声で呟いた。

 そういや、筋肉好きだったな……。


「キー」

「キャー」

 光点がどんどん消え始め、遠くから魔物の断末魔の叫び声が聞こえる。しばらくすると静かになり、光点もすべて消えた。

「はい、終わりだ」

「あなた、護衛もなにも、目の前で戦闘がありませんでした。あなたの戦う姿が見たかったのに……」

 ちょっと不服そうなノーラ。

「だから、楽しくないと言っただろ? それに、これも戦う姿だよ」

「楽しくはありませんが、安心できました」

「そりゃ良かった。カッコよくなくても安心できる戦いのほうが俺はいいと思うがね」


「一応どんな魔物が居たのかは確認しておくかな?」

 魔物の死体を表示するように設定を変える。

 俺とノーラは森の中に入った。

「えっ、ウォーラット。まさか、ラットクイーンにキングが居るって事?」

 大きなネズミの死体を見て焦り始めるノーラ。

「何だそりゃ?」

「大発生する魔物は色々居るの。ゴブリンが有名だけど、ウォーラットもその一つ。ネズミの魔物だけあって繁殖能力が高いの。ゴブリンよりも上と言われているわ。それとね理由はわからないのだけど病気を媒介する。だから、ウォーラットが居るということは、疫病も気にしないといけないの。できれば死体を焼却処分しないと……」

 黒死病みたいなものかな? 

「わかった。エン、戻ってきてくれるか?」

 すぐに傍らにエンが来る。

「俺に付き合ってくれ」

「わかりました」

 何も居ない場所に声をかけているように見えるのか、ノーラは俺を不思議そうに見ている。

「あなた、そこにも精霊が居るのですか?」

「居るぞ。エンって言うんだが今度は炎の精霊だ。死体の焼却処分を任せようかとね」


 死体に近づくとエンに青い高温の炎で焼き尽くしてもらう。

「汚物は焼却ダー」などと某漫画を思い出しながら作業をしていた。

 数十体を焼却処分した時、ひときわ大きな死体が二体出てきた。

「あなた、これがクイーンとキング。この二体が全ての始まり」

 二メートルはありそうな巨大なネズミ。

「でかいな。まあ、エンの火力なら問題なさそうだが」

 早々にエンに処分してもらった。

 すると、灰の中にスイカ大の輝くものが見える。

「魔石が出ましたね」

「貰っておいていいか?」

「はい」


 一体一体確実に灰にしていくと、結構時間がかかってしまった。

 一応除菌をイメージして俺とノーラに魔法をかけておく。ついでに洗浄魔法もだ。

 村で病気が流行ったという話は無かったが、もしそうなったらアイナに頼むかな。

「とりあえず、この仕事は全部終わったな」

「ありがとう、あなた。騎士団に指示してここまで来るだけでも一週間はかかります。その間にウォーラットが増えてしまえばもっと酷いことになっていたかも……」

「もっと効率を上げるなら、俺一人で来たほうが良かったんだがね」

 ノーラがしゅんとした。

「ただな、ずっと一人で執務室っていうのもなあ……これがノーラの息抜きになったのなら良しだな。無駄もまた良しって事で……」

 俺はポンポンとノーラの頭を叩くと

「はい、楽しかったです。特に移動が……」

 と言ってニッコリと笑い抱きついてきた。

「さあ、帰るぞ」

 そう言って扉を出したが、

「もう少し、このまま……」

「仕方ないね」

 俺は頭を撫でながらノーラの気が済むまで待つと、二人で執務室に帰るのだった。


「あなた、また行きたいですね。今度は周りに綺麗な場所や名物料理がある町や村がいいです。泊まっても良いかも……ね」

 チラチラと期待した目で俺を見てくるノーラ。

「まあ、討伐とかがあったら言ってくれ。後見人だから出来ることはするよ」

「はい、後見人と二人で仕事をします」

 ノーラの思い通りになったようで嬉しそうだ。

「あんまり頻繁にはダメだぞ?」

「それは心得ています」

 俺の独占方法に気付いたノーラはニコニコしながら書類を見ていた。



ここまで読んでいただきありがとうございました。

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