訪問者
誤字脱字の指摘、たいへん助かっております。
俺とリードラでホットミルクを飲んでいると、彼女が起きる。そしてその体で揺られたのかアクセルも起きた。ちょうど彼女の胸の辺りに顔が埋まっていたため、二人とも恥ずかしそうにして真っ赤になる。
「落ち着いたか?」
俺は彼女に聞いた。
コクリと頷く。
「君のことを話してもらえないか」
「…………」
彼女に聞いてみたが、だんまりだ……。
「あのままだと死んでいたかもしれない。だから、俺じゃなくて頑張ったアクセルに事情を話して貰えないかな?」
アクセルはじっと彼女を見ていた。
アクセルのまっすぐな目に負けたのか、彼女はアクセルから目をそらすとポツポツと話し始める。
「私の母は名も無きドラゴン、ただ、人化できる程度には能力が高かった。たまに冒険者のふりをして、パーティーに入ったりしてた。その時仲良くなった冒険者と恋に落ちて私ができた。
十年ぐらい経って私が物心ついた頃、母の洞窟に一組のパーティーが来て、母は私を隠すとそのパーティーと戦った。でもね、私の母を殺したのもその冒険者、つまりお父さん。母は冒険者にドラゴンであることを隠していたみたい。向こうは本気でも、こっちは本気を出せなかったのかもしれない。
人化する方法をちゃんと母に教わっておけば良かったんだけど、そうもいかなくて、人里に出ようと人化してみたら人にも龍にも戻れなくなってこの有り様。
隠れて一人で暮らしてたんだが、噂話が流れ見つかってしまった……。
私のようなこんな姿は珍しいらしい。だから、『奴隷のコレクションとして売り払う』って言っていた」
自嘲気味に彼女は言った。
「ふむ、人化できればいいのか?」
リードラが立ち上がり彼女に近づく。
そして、急に
「服を全部脱ぐのじゃ!」
と言い放った。
「えっ?」
驚く彼女。
「人化したいのじゃろ。なら脱ぐのじゃ」
リードラは腕の一部の人化を解きそして戻す、皮膚に白い鱗が現れては消える。
「あなたもドラゴン!」
「ああそうじゃ。人化を教える。じゃからはよう脱げ!」
そうリードラに言われ、彼女は脱ぎ始める。
「アクセル、目を瞑っておけ」
「はい」
目を瞑り、両手で目を隠すアクセル。
全裸になった彼女の前にリードラは立つと、鱗が残った部分を人差し指で触った。
鱗が消える。
驚く彼女。
「我が触ったときに感じた魔力を残った龍の部分に当ててみれば良い。やってみるのじゃ」
彼女は集中する。
すると一部の鱗が無くなった。
「その調子じゃ」
しばらくするとすべての鱗が無くなる。
「そこの子、人化できた。見てくれないか?」
アクセルはちらりと指の隙間から彼女を覗き、そのままぽーっとすると
「綺麗だ……」
思わず出た言葉なのか言った後に口を塞ぎ。真っ赤になる。
「お前に気に入ってもらえて嬉しい」
全裸のままアクセルの前で喜ぶ彼女。ドラゴンってその辺は気にしない傾向があるよな。
「俺もだが、子供にも目に毒だ、できれば服を着てもらえるかな?」
俺がそう言うと、渋々ながら彼女は服を着た。
「君の名を聞いてなかったな」
俺は彼女に名前を聞いてみた。
「私に名前は無い……」
ふとアクセルを見ると、彼女は
「そこの子よ名をつけてもらえないか?」
と言う。
「私でいいのですか?」
アクセルは驚いていた。
「ああ、命を救ってもらったお前に名前をつけてもらいたい」
腕を組むアクセル。そしてぼそりと、
「テオドラ? 何かの話で聞いたことがある女性の名前です。ふと思い浮かびました。どうでしょうか」
と言った。
「テオドラ? 私の名はテオドラ。うん、気に入った。ありがとう、子よ」
彼女はテオドラになった。
「テオドラさん、私の名前はアクセルです。だから、アクセルと呼んでください」
「アクセル。私の主人の名はアクセル」
「はい?主人?」
アクセルがきょとんとする。
「我が主人。アクセル」
再び呟くテオドラ。
「どこぞの誰かと一緒じゃの。ここに住んでいる間に似たかの?」
ニヤニヤしながら俺を見るリードラ。
「知らんよ。ヘルゲ様にでも似たんだろう」
ヘルゲ様と言えば……。
「そういやアクセル、ヘルゲ様には言ってきたのか?」
今更ながら聞いてみる。
「そっそれは……この人が倒れてるのを見て急いで向かったから……」
アクセルが俯く。
「とりあえず事情ぐらいはヘルゲ様に話しておかないとな。行くぞアクセル」
「はい」
「この子はもう行くのか?」
彼女が不安げに聞く。
「ああ、何も言わずに出てきたから心配してるといけない。アクセルを寄宿舎に戻さないとな」
「私も一緒に行くぞ? 私は主人に付き従わねばならん」
当たり前のようにアクセルに付き従うテオドラ。
まあ、居ればヘルゲ様にも話をしやすいか。
「クエェーーー」
キングの警戒の鳴き声。
マップを確認すると、白い人の光点の周りに黄色い魔物の光点が集まっている。人を襲うでもない魔物たちが不気味だった。
キングの鳴き声で、コカトリスの雄たち、神馬たち、そして兵隊アリたちが集まり、じっと開拓地の入り口辺りを見ていた。
目が覚めたのか、ヘルゲ様も寄宿舎から外に出てくる。
「マサヨシよ、アクセルがおらんのだが……。ああ、マサヨシと一緒におったのか」
「すみませんヘルゲ様。少し事情がありまして」
俺はアクセルに変わり事情をヘルゲ様に話す。
「そういう事だったのか。アクセルよ儂にも一言あると助かるな」
「はい、ヘルゲ様。申しわけありませんでした。今後気をつけます」
アクセルが謝っているのを見て、
「なんであの男に謝るのだ?」
テオドラは俺に聞いてきた。
「お前を助けるのに、もう少し方法があっただろうって事なんだろう」
「私のために我が主人が叱られているのか? それでは私も謝らないと」
テオドラはヘルゲ様の前に行くと。
「我が主人が私を助けるためにした行動。叱るのであれば私を」
と頭を下げる。
「叱っているのではないよ。『もっといい方法があったかもしれない、だから次はもっと考えて行動してほしい』と忠告しているだけだ。アクセルは頭がいいからの、これでわかるだろう」
アクセルの頭をポンポンと叩くヘルゲ様。
「魔物を連れた誰かがここに来たようですね」
「その話からすると、そこの女奴隷の主人というのが妥当かの?」
「でしょうね」
「で、どうする?」
「向こう次第じゃないですか?」
そんな風に話していると、狼のような犬系の魔物を引き連れた黒いローブを着た男が荷馬車に乗って現れた。長い耳が見える。エルフか……。荷台には二つの檻。一つは小さいが中には居ない。そして一つは大きく中に何か居る。
その集団を、うちの魔物たちが囲む。
「すみません、魔物を探しているのですが……」
御者席に居た黒いローブを着た男が聞いてきた。
「さて、どのような魔物でしょう」
「人型でメスです。薄汚れ怪我をしていたと思います。そんな魔物は知りませんか?」
「薄汚れて怪我をした魔物ですか……私は知りませんね」
まあ、間違いなくテオドラだな。
「あやつ、テイマーだな。魔物を操り戦うのだろう。希少な魔物を捕らえ隷属化する事もあると聞く」
ヘルゲ様が呟く。
そんな職業あったんだね。
「そこに居る女に似ているのですが。『おい、出て来い』」
黒いローブの男はテオドラに命令をする。
「ぐっ、あっ、嫌だ」
テオドラは操られるように対峙する俺たちの間に出てきた。
「テオドラ、大丈夫?」
「我が主人!」
二人が声をかける。
黒いローブの男はテオドラを見ると、
「鱗がなくなったのですね。ああ、人化に成功したんだ。良かった。君の価値がもっと高くなる。貴方の枷が無くなっているのが気になりますが、あなたのINTでは私の契約を破棄できませんから問題ありません」
と、喜んだ。
「もっもう、私には主人ができた。お前のような者の奴隷になどはならない」
テオドラは絶縁宣言するが、俺は隷属の契約が意思だけの問題ではないことを知っていた。
「しかし、隷属の契約は、簡単には変わりません。私よりも上の者でないと書き換えはできないのです。ですから、諦めなさい。私から逃れることなどできないのですよ。ああ、あの子が居るからですね。それなら、あなたの手であの子を始末すればいい。『命令します!あの子を殺しなさい』」
黒いローブの男が魔力を乗せテオドラに命令する。
俺は奴隷への命令というものをしたことが無い。というかできない。だから、主人として言う言葉がこれほどまでに奴隷を縛るとは思っていなかった。
「あっ、あっ、ダメ」
テオドラは涙を流し首を振りながら一歩一歩アクセルに近づく。攻撃の意思はないのに意志に反して手の爪は伸びる。切れ味の良さそうな金属色、アクセルに刺さればひとたまりもないだろう。
「テオドラ、悪かったな。俺が早めに行動を起こしていればこんなことにならなかった」
テオドラとアクセルの間に入った俺。テオドラの泣きながらの攻撃を俺は受ける。
ステータスの恩恵で問題ない。
しかし、黑いローブの男の口角が上がったのが見えた。
確実性を優先するため、テオドラの攻撃を受けながらカバンから契約台を出す。
「ああ、貴方も魔法書士だったのですか。戦いながら紋章を書き替えるなど、ましてや私を上回るINTなど考えられません。私は三文字です」
笑いながら黒いローブの男が言った。
「確実性を優先して正解だったみたいだよ。おまえを助けてやる、テオドラ!」
SSSだと契約台無しでは変更はできない。
俺はテオドラの手を持ち強引に契約台へ押し付けると、魔力を流し所有者を俺に書き換える。
解放され呆然とするテオドラ。
同じく呆然とする黒いローブの男。
「あり得ない、わたしのINTはSSSだ。歴史上でもSSSに達した者などエルフの一握りでしかない。人族がそれもこんなデブがSSSに達するはずがない」
人族のデブに主人を変更されたことが信じられないようだ。
「俺の仲間に手を出そうとしたな」
俺は、黒いローブの男に声をかけるが、
「私が負けるはずがない。負けるはずがないんだぁーー!」
聞いちゃいない。
黒いローブの男は荷台の檻へ向かうと鍵を開け放つ。
「グルルルル」
中から、双頭の犬。神馬ほどもある体格。
「行け、オルトロス!」
黒いローブの男の命令を受けオルトロスはゆっくりと俺の方へ近づいてきた。
「INTが有利だから成功した契約だろ? だったら、俺が契約しなおすよ」
オルトロスの頭から火炎、吹雪、のブレスが飛んでくる。しかし俺に当たる寸前で吸い込まれるように消える。
精霊さんいい仕事してくれてます。
オルトロスは前足で俺を払ってくるが、俺は片手で止めた。
その足を契約台に押し付け、再び所有者を変更する。
メリ……。
オルトロスの体が倍化し双頭の間から頭がもう一つ生えてくる。
あっ、やらかした。
オルトロスの次っていうなら、ケルベロスなんだろうな。
元々、オルトロスに従っていた犬の魔物だったのかもしれない。群れの主がケルベロス化したことで引き上げられたのか犬の魔物の一部がオルトロス化した。そして、群れが黒いローブの男を囲む。そして俺が命令するまでもなく、一斉に黒いローブの男を襲った。
INT以外は普通だったのか、次々と犬たちに襲われ傷つく。
「えっ、お前らやめろ! 俺が主人だぞ。俺の命令を聞け!駄目だ、死んでしまう。おい、そこのメス助けろ! いや、悪かった、助けてくれーー!」
ケルベロスはゆっくりと黒いローブの男に近づくと一飲みにした。
「嫌われてたみたいだな」
ケルベロスは振り返り俺のほうを見ると、ひっくり返って腹を出し服従のポーズをする。
腹をワシワシすると。気持ちよさそうに六つの目を瞑った。
神馬よりも大きな犬がひっくり返るのは壮観だった。
群れの犬たちも追従して腹を出す。
そこは頭を下げるとかじゃないのか?
「アクセル、契約者は俺だが、慕っているのはお前だからな。テオドラの事は任せたぞ。一応俺の奴隷になっているが、いつでもお前に変更できるからな」
俺はアクセルに言っておく。
「マサヨシさん。奴隷の奴隷ってできるんですか?」
「できるんじゃないかな。まあ別に俺もテオドラに縛りを入れたり命令したりする気も無いから。お前の心が決まったらでいいと思うぞ?」
「心が決まる?」
首を傾げるアクセル。
「妻にする気になったらって事だ。まあ、だいぶ先だろうが、人が混じっているとはいえ龍だ、お前が大人になっても、あの容姿はほとんど変わらないだろう。あれはお前に惚れてるよ」
「はあ? 私はまだ八歳ですよ?」
アクセルはこんな事を言われるとは思っていなかったようだ。
「はっはっはっは。アクセルよ、変なところをマサヨシに見習わんでもいいのだぞ?」
ヘルゲ様が笑う。
「我が主人よ、嫌ですか?」
畳みかけるテオドラ。
潤んだ目。
テオドラよ、その眼はズルいぞ。
「そんなわけじゃないんだけど……」
真っ赤になるアクセル。
「まあ、とりあえずは朝の戦闘訓練に付き合ってもらったりすれば? 今後付き合う時間はたっぷりある」
「そうだな、アクセルを相手するのはちと荷が重くなってきた。いい相手になりそうだ」
俺とヘルゲ様にからかわれ、さらに真っ赤になるアクセルだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




