逃亡者
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
ある雨の日、まだ夜が明ける前、外で気配がした。マップには光点が二つ。
そのあとすぐに、家の玄関の扉が叩かれる。
「マサヨシさん! マサヨシさん!」
俺を呼ぶアクセルの声が聞こえる。
俺はベッドから飛び出すとリビングへ駆け降り、玄関の扉を開けた。
玄関には、ずぶ濡れのアクセルと血まみれの人? が居た。胸のふくらみから女性のようだ。
手首と足首には枷がついている。
貫頭衣はビリビリに破れ、辛うじて必要なところが隠れている程度。皮膚には斑のように鱗が見えた。そして左肩には隷属の紋章……奴隷か……。
「お前に迷惑はかけられない。私が居れば迷惑をかける。あいつらが来る。」
彼女は拒否しているが、
「何言ってるんですか! こんなに血を流しているのに。死んでしまいますよ!」
と、アクセルはその言葉を跳ねのけ、強引に引きずるようにして彼女を家の中へ入れた。
すると、
「お前は何者だ! この枷があるとはいえこんな子供が私の力に勝るとは考えられない」
と驚いている。
俺のせいなんだろうなぁ。
「マサヨシさん!この人を助けて」
と、アクセルが俺に言ってきた。
酷い傷だ。太ももの辺りがぱっくりと裂け、そこから結構な量の血が出ている。逃亡の際にできたのか、細かい傷も多い。
俺は彼女に回復魔法をかけると、傷は塞がる。ただ、冷たい雨に長い間打たれたせいか震えていた。
アクセルと女性の体の汚れを洗浄魔法で取り除き、体を乾かしておく。
「これは邪魔だな」
俺が枷に手をかけると、
「無駄だ私でさえ無理だったのだ」
悲しげに彼女は枷を見た。
「まあ、見てろ」
枷を引っ張り強引に外す。
意外と簡単だな。
「えっ」
女性は驚きを隠せない。
「どうした?」
「あの子供といい、お前といい何者だ?」
と彼女は俺に聞いてきた。
「何者と言われてもな……あの子は俺が預かっている子供。そして俺はこの家の主としか言いようがない」
「しかしこの枷は触った者の能力に制限をかける。当然お前にもなにか制限がかかったはず。この私でさえ無理だったものを人が外せるとは思えない」
彼女は納得できないようだ。
能力低下なんてあったっけ?
「まあ、色々事情があるんだよ。あんたにだって事情があるんだろ?」
そう聞くと、彼女は黙り込んだ。
俺は彼女をソファーに座らせると、
「それでも上から着ておけ」
と言って収納カバンからリードラの着替えを渡す。
カバンを見て唖然とする彼女に
「早く着替えろよ」
と言って、毛布を取りに行った。
そして、彼女に渡す
「アクセル、お前も一緒に毛布に入れ。二人とも体が冷えきってるから体が暖まる」
俺はアクセルを彼女の隣に座らせ彼女の毛布をかける。
恥ずかしそうなアクセル。
「アクセル、ちょっと温かいものを作ってくるから、彼女と待ってろ」
「はい」
俺は調理場に行き、グランドキャトルの乳を軽く温め砂糖をいれる。軽くかき混ぜマグカップに入れたものを二つ作った。まあ、俗に言うホットミルクというやつだ。
「ほれ、飲むと体が温まる。熱すぎることはないと思うが気を付けてくれ」
俺はそう言いながら、アクセルと女性の前にホットミルクを置いた。
アクセルはグランドキャトルの乳に抵抗がないため、すぐにホットミルクに口をつける。
「温かい、あっ、甘くておいしい」
手をつけない女性に、
「あんたも飲めよ、温かいうちに飲まないと意味がない」
「飲んでください。美味しいですよ」
と二人ですすめた。
勢いに負けたのか、ただ飲む気になっただけなのか、女性はホットミルクに口をつける。
「あっ、美味しい……」
女性はそれ以降何も言わずホットミルクを少しずつ飲み続けた。
脱ぎ捨てられた貫頭衣や、枷を仕舞っている間に寝息が二つ聞こえ始める。
寝てしまったようだ。
彼女はアクセルにもたれ掛かっていた。
姉弟のように見える。
さて、彼女は何者だろう。
奴隷なのはわかるが、なぜここに来たのか。
逃げてきたのかね?
でも鱗がある種族といえば……。
トントントントンと階段を降りてくる音がする。
「いい匂いがするのう」
その種族筆頭であるリードラが起きてきた。
「して、主よ、そこにいるおなごは何者かのう?」
ジロリと俺を見るリードラ。
俺ってそんなに見境ないか?
「アクセルが怪我をしていた彼女を連れてきたんだ」
「ふむ、そういうことか。アクセルもやるのう。誰かに似てきたかの?」
リードラの目線を感じた。
それは誰ですか?
「にしても、このおなご、人と龍のあいのこじゃな」
「ああ、元妻が言ってたっていうやつか」
「その者かどうかはわからんが、両方の血が混じっておるのは間違いないな。お互いの血が邪魔をして、中途半端な体になっておるのじゃろう。それでもこれだけの魔力があるのなら、なんとか人化や龍化はできるはずなのじゃがのう」
んー、ステータスがすごそうな感じ。
「まあ、その辺は起きてから聞くか」
「ところで、その飲み物を我も欲しいのじゃが……」
リードラが甘えるような声を出して俺にねだる。
「仕方ないなぁ。作ってくるから二人をみていてくれ」
俺はそう言って再び調理場へ行くのだった。
ここまで読んでいただき、、ありがとうございました。




