砂糖
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
第208部分~第215部分まで書き直しております。まだお読みでないのならば、そこから読み直していただけると幸いです。
2019・3・21
ある朝目覚めリビングに居ると、
「カリカリカリカリ」
と玄関から何かが引っ掻く音がする。
ん? 何だ?
扉を開けると、デカい頭でデカい顎を持ったアリが居た。五十センチぐらい?
兵隊アリって奴かな。
「ますたー、女王様ガオ呼ビデス」
「ああ、ミヤが呼んでいるんだな」
俺はシュガーアントの女王アリにミヤという名前を付けていた。そしてシュガーアントたちは俺のことをマスターと呼ぶことになっている。
兵隊アリが先導し、その後ろに俺はついて行った。四十一階に繋がる洞窟を抜ける。俺が歩くと働きアリたちは俺を避けるように割れた。そしてその階層の最奥にミヤが居た。
「マスターお久しぶりでございます」
「おう、大分増えたみたいだな」
「ココは魔力に満ちていますから、子供たちの育ちもいいのです。そしてついに倉庫アリを出現させました」
一匹のアリが腹がパンパンに膨らみバスケットボールのようになっている。直径で三十センチ程度? その腹を引きずりながらアリが進み出た。
「これが倉庫アリ?」
「はい、初めてできた倉庫アリのうちの一匹です。シュガー、マスターが砂糖と言っているものを溜めることに特化したアリとなります。ですから戦闘力は皆無、移動も見ての通り鈍くなります。この一匹をお納めします」
「ミア、こいつからどうやって砂糖を貰えばいいんだ?」
「砂糖が欲しいことを言えばお尻の部分から出てきます」
ふむ……。
「すまないが、少し砂糖を出してくれるか?」
「ハイ、ますたー」
蟻の尻の部分に手を持って行くと、サラサラと砂糖が出てきた。それも真っ白。上白糖?
ただ、尻から出てくる砂糖。絵面がよろしくないね。
俺が「少し」と言った量は片手一杯だった。
分量指定は難しいか。これなら一度別の容器にしたほうがいいな。
舐めてみると……甘い。まさに砂糖。
「マスター、三匹の倉庫アリができたら、一匹をマスターの家に向かわせます。それでいいですか?」
「ああ、それでいい。ありがとな」
俺は倉庫アリを抱き、家に戻る。
調理場に入り容器を探した。
うーん、見つからないね。
そんな俺をサラが見つけ
「マサヨシ様、何をなさっているのですか?」
ときいてきた。
「えーっと、入れ物が欲しいんだが……」
俺が振り返ると、
「キャッ」
と言ってサラが驚く。
俺がアリを抱いているとは思わなかったようだ。
「おっと、悪い。この蟻の腹の部分が入りそうな大きさの容器があるといいんだが」
すると、
「こんな感じでいいですか?」
サラはツボを一つとりだした。腹の部分よりちょっと大きいぐらいでちょうど良さそう。
俺はそのツボを台の上に置き、倉庫アリの尻の部分を突っ込む。
「砂糖を出してもらえないか?」
俺がそう言うと、サラサラという音とともに、どんどん倉庫アリの腹が小さくなる。
シワシワになるのかと思ったら、縮んでいくのね。
拳大程度まで腹が小さくなると、砂糖が出る音が止まった。
「ますたー、モウデマセン」
「おう、了解」
俺は倉庫アリを抱き上げた。
「ますたー、外ニ出シテモラエレバ巣ニ戻ル」
倉庫アリを外に出すと、トコトコと巣穴へ戻っていった。
「マサヨシ様、これは?」
「食べてみたらわかる」
サラは指でつまみ、口に入れた。
「甘い。蜂蜜とは違う純粋な甘さですね」
「サラ、グランドキャトルの乳ってあったっけ?」
「ああ、こちらにあります」
「あとは、このコカトリスの卵、砂糖っと」
俺は棚から大きめのボールを取り出す。
「何を作るのですか?」
「プリンって菓子。サラ、悪いんだが鍋にお湯を沸かしておいてくれ。この器がこの辺まで浸かるくらい」
使おうとしていた陶器の器を見せて大体の位置を教える
「はい」
サラはお湯を沸かす。
暫くするとプリンが出来上がった。
冷やすのは魔法だ。
コカトリスの卵ってデカいので二十個プリンが出来上がった。
ついでにフライパンで砂糖を熱しカラメルも作る。
「食ってみて」
サラにプリンとスプーンを渡すと。
「あっ、冷たくてプルンとして甘い。この黒い液の苦みがアクセントになっています。凄く美味しいです」
「そうだろ?」
「こんなお菓子もあったのですね」
見たこともないようなお菓子に感動するサラ。
多分俺は、ちょっと得意顔だったと思う。
病気の妻のために作った俺ができるような簡単プリン。バニラビーンズなんて入っていないものだったが美味かった。
「作り方はわかった?」
「はい、大体は」
「後はサラに任せるよ。俺にはこれが限界」
「でも、冷却が難しいかと……」
「水で冷やしたら?」
「ああ、そういう手もあるんですね。ならできるかも。がんばってみます」
あとはサラに期待である。
こうして我が家のお菓子のレシピが一つ増えた。
ツンツンと突っつかれる感じ。
ん?
青い玉が俺の周りを舞っていた。
精霊騎士から解放した奴かな?
「マサヨシ様、精霊ですか?」
サラも気配は感じるようだ。
「みたいだな」
するとスイが現れ、
「この子は、この小さな料理人が冷やす時にお手伝いしたいと言ってますぅ。だから名前をつけてほしいのですぅ」
と言った。
「お前は水の精霊?」
俺が聞くと、肯定するようにチカチカと明滅を繰り返す。
「『小さな料理人さん名前をつけてあげて』だってさ」
スイが言った内容をサラに伝える。
すると、サラは少し悩み。
「バテンでいい?」
それを聞いた精霊は再び明滅しサラの中に飛び込んでいった。
「冷やすことができるらしいぞ?」
サラはコップに水を入れ、冷やしてみたようだ。
「あっ冷たい」
火力も冷却も思いのままか……。どんな料理人になるのやら。
残ったプリンを収納カバンに入れていると、フィナとミケが覗いていた。
鼻がいい二人。
そして、何で二人が覗いてるのかと確認するマール。
この三人と目が合った。
マールは「コホン」と咳払いをひとつすると、何事もなかったかのように小さめのスプーンを取り出し、フィナとミケに渡す。
意図を察した二人とマールが口に咥えた。
「おねだりってやつか?」
俺がそう言うと、コクコクと三人は頷いた。
ミケに至っては、ヨダレが垂れている。
「仕方ない」
俺は、台の上に三つプリンを置く。
「食べてみ……」
食い気味に三人は食べ始めた。
「御主人様、美味しいのです」
「ここは天国にゃ! こんなの食べたことがないのにゃ!」
「こんな食感ははじめてです。そして冷たくて甘くて苦くて。あー幸せ」
あっと言う間に食べ終える三人。
「じーっ」と言う擬音が聞こえそうなぐらいに俺を見てきたが、
「もうダメだぞ。他の皆に分ける分がなくなる」
三人は残念そうに、スプーンを咥えていた。
「サラにレシピは教えたから、そのうちつくってくれるさ」
三人の視線は俺ではなくサラに移るのだった。
さあ、次は何作ろう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




