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賭け

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 ダンジョンを出ると外は夕方になっていた。

 それでも、意外と早く出られたかな? 

 門の周りには、魔物の襲撃の後始末をする兵士たちが居た。


 俺が門の前に現れたのに気付いたのか、一人の兵士が俺の所に近づいてきた。

「マサヨシ様ですか?」

「ああ」

 俺が肯定すると。

「クリスティーナ殿下からの伝言です。『王城内にて待っています』ということです」

 そういやあいつ、クリスティーナ・オーベリソンって名前だったよな。

「伝言ありがとう。魔物たちは?」

「クリスティーナ殿下が一人で討伐されました」

 大分誇張されているようだ。

「町の入口は通ってもいいのか?」

「門番に声をかけてもらえれば、中に入れます」

「わかった」

 俺はゆっくりと神馬を進ませると、門番に声をかけ中に入った。


 夕闇が迫る。

 人々は家路を急ぐなか足を止め俺を見た。

 見上げるような神馬に乗った俺が町中に入ったせいだろうなぁ。

 そして、少し騒がしくなる。

「あれはクリスティーナ様と同じ神馬」

「クリスティーナ様の傍に一人の人間が居たと聞いたが……」

「入口の門の前でクリスティーナ様の唇が奪われたと言っていたわ」

 いろいろな噂が飛び交う。

 ちょっとやりすぎたかな? 

 そんな噂話を聞きながら、町の入口から伸びる広いレンガ道をまっすぐ行くと城門が見えてきた。

 夕日に真白な城門が染まり美しく輝く。

 赤く染まる城門を眺めていると門番が駆け足で近寄ってくると再び。

「マサヨシ様ですか?」

 と問われた。

「そうだが?」

 俺がそう答えると、門番は目配せする。それを見た兵士が走っていった。

 先触れかな? 

「中でクリスティーナ殿下がお待ちです」

「馬はどうすればいい?」

「馬から降りて、一緒に中に入っていただけますか?」

 言われるがまま俺は馬から降り城門をくぐる。


 クリスの場所をマップに表示させると城のど真ん中。

 意外と奥なのね。

 俺に敵意を持った赤い光点が周りを囲む。

 百人程かな? 

 何があるのかを待っていると、不意に火球が飛んできた。それを合図に火、水、風、土の魔法が俺を襲う。

 俺に当たる直前でバリアのような物が発生し全てを無効化していた。

 ふと見ると、精霊を取り上げた精霊騎士だった男が居る。

 数が多いことで余裕があるのか、ニヤニヤ笑いながら見ていた。

「みんな、あそこに居る精霊たちって強くないよな」

 小声で聞くと。

「僕の相手にはなりませんね」

「舐められてるんですぅ」

「契約を嫌がっている者もいる」

「はぁ、面倒ねぇ」

 と言って擬態を解き四体の精霊が現れる。

 この様子だと別に問題が無いようだ。

「その余裕がどこまで続くかな? その精霊たちは私が貰う。皆さんよろしくお願いします」

 どこぞの悪徳商人かよ! と突っこみを入れたいところだが、

「「「「「エレメンタルバインド」」」」」

 精霊騎士全員が声を揃え魔法を唱えると精霊たちの顔が歪む。

 俺の精霊たちにエレメンタルバインドを重ね掛けしたようだ。

 百人分の拘束力って事ね。

 精霊たちの動きが止まった。

「ちょっとキツイか?」

 顔を顰め皆が頷く。

 かなりヤバそうだな。

 ん? 精霊騎士の後ろに紙を持った男? 

 魔法書士か、準備のいいことで……。

「悪い、俺が相手を甘く見ていた。何とかしてくる」

そう俺が言うと、

「まっ、マサヨシ様、とっ、ところで、僕を隷属化しませんか? このままだと本当に契約されてしまいそう。マサヨシ様は契約破棄できるでしょうが、私はあんなショボい奴の下で一瞬でも一緒に居たくありませんから」

 俺が精霊を奪い取った男を指差し、エンは辛そうな顔をして俺に声をかけてくる。

「知っているんですよ、マサヨシ様に隷属すれば能力が上がるのを……。私は精霊としてあの男に、そして男の仲間たちに負けたくありません」

「でも、俺から離れられなくなるぞ?」

「僕はマサヨシ様の下に居ますから」

「私もいいですぅ」

「ん」

「今更じゃない?」

 四体は苦痛にゆがむ顔を無理に笑い答える。


「仕方ない、じゃあいくぞ」

 俺は隷属契約を始めた。

 契約台無しで四体同時ってできるかなぁ。

 俺は皆に例のユニコーンのマークを魔力で描くと白い紋章ができた。その紋章に魔力を流し込み黒く変色させる。と同時に精霊たちも光りだした。

 うへー、魔力の消費が半端ない。吐きそう。

 急激に減る魔力で俺は意識が飛びそうになる。

 完全に紋章が黒くなると、精霊たちの光も収まる。

「へ?」

 そこには、四人の少女ではなく四人の女性。

「あーあ、僕、こんなになっちゃった」

 ショートカットの赤い髪、筋肉質な長身の女性。スポーツしてましたって感じだな。

「エン?」

「そういうこと」

 二ッと笑う。

「って事はスイか?」

 水色の長い髪、んー出てるねぇ。歩く度にたゆんたゆんしそうだ。

「そうなんですぅ」

 邪魔そうに髪をかき上げながら微笑む。

「なら、お前はフウだな」

 一番若く見える。でも身長は伸びなかったが、胸やくびれが少し主張をしていた。

「ん、そう」

 んー無表情。

 茶色い髪の色黒な女性。丁度いい感じの出具合。

「で……お前は、誰だ?」

「なっ、クレイよ! ク・レ・イ! 知ってて言ってるでしょ」

「よくわかったな」

「わかるわよ!」

 いつも通り腰に手を当て怒るクレイ。

「で、お前らあの魔法の効果中なんだがどうなの?」

 絶賛エレメンタルバインド継続中である。

「ああ、全然」

「そう言えばそうでしたね」

「余裕」

「バカにしてるわね」

 ふむ、能力が上がって関係なくなったかな? 

「精霊が進化しただと?」

 精霊を奪いとった精霊騎士が驚く。

 すると、エレメンタルバインドを使い続けていた精霊騎士たちが魔力枯渇で倒れ始めた。


「あなた達、自分の主が嫌いであれば、このマサヨシ様の下に来なさい。解放してくれるでしょう」

 優しい声でスイが言う。

 俺も魔力枯渇しそうなんだが……。

 すると、喜んで精霊騎士から離れ俺の下に来る精霊と、騎士を心配し横についている精霊に分かれた。

 半々ってところか。

 俺が、残り少ない魔力で精霊たちの契約を破棄していくと、次々と精霊騎士たちの契約書が燃え上がった。

「私の契約書が……」

 頭を抱え嘆く男。

 ああ、あれがエルフ最高の魔法書士って言うバルブロ様ね。

 そして、俺の周りが精霊でうるさくなる。

「静かに!」

 フウの一喝。

「…………」

 おお、静かになった。


 精霊の格の違いのせいか、精霊騎士の下に残った精霊も頭を伏せたり震えたりして、攻撃する気配はない。

「さて、お前。どういうつもりで俺の精霊に手を出した」

 俺は胸ぐらをつかみ、俺が精霊を奪いとった男を持ち上げた。

「王がクリスティーナ殿下と賭けをしたのだ。『我が国の精霊騎士の精鋭を一人で倒すことができるなら、婚約を認めてやろう』と……。お前が倒れた時には、持っていた精霊を自分の物にしていいと許可が出た」

 それを聞くと俺は精霊騎士を投げ捨てる。

 おっと、結構転がったね

「行くか、とりあえずクリスだ」

 俺は王宮の扉を蹴破ると精霊たちを連れ中へ入っていった。


 王宮内で神馬を走らせクリスの下へ最短距離で向かう。

 それでも広いねぇ。

 王宮内ではすれ違う者はあったが襲われることは無かった。

 そう指示されているようだ。

 そしてクリスが居る部屋の前に立つ。

 神馬から降り扉を開けると、そこには装備を外し珍しくドレスを着たクリスと豪華な服を着たオッサン。って言っても見た目は三十代前半ぐらい。それもイケメンだ。

「お待たせ」

 俺はクリスに声をかける。

「遅かったじゃない。苦戦したとか?」

「結構ね。精霊が取られそうになった。エレメンタルバインドの重ね掛けって結構きついみたいだぞ?」

「でも何とかしたんでしょ?」

「ああ、隷属契約して能力を上げた。精霊の方から頼んできてな……。ほらみんな、クリスに姿を見せてやれ」

 四体の精霊が現れる。

 クリスが精霊たちを見ると、

「あーあ、お父様の精霊が震えているじゃない。私の精霊もそう。格が違い過ぎ」

 ヤレヤレ感満載で呆れていた。

 オヤジさんは唖然としている。

 しかし俺にも言い分はある。

 何もなくここに来れたらこんなことは無かったんだ。余計なことをするからこういうことになる。


 オヤジさんが復帰すると、

「お主がマサヨシか?」

 と、聞いてきた。今更だろうに。

「そうだが?」

 と言っておく。

「この度の魔物の暴走を止めてもらい感謝する」

「ついでだからいいよ。もう一つついでにダンジョンも攻略してダンジョンコアも破壊してきた。これで魔物の暴走は無くなるだろう」

 俺がそう答えたあと、オヤジさんの顔が真剣になった。

「ところで、クリスティーナを娶るということだが、なぜだ?」

「ダンジョン攻略の賭けで勝ったというのは知ってるんだろ?」

「そのような嘘を聞きたい訳ではない」

 全否定のオヤジさん。

「ごめん、嘘だって知ってたの」

 クリスが言った。

 おっと、調べてらっしゃるのね。

 ゼファードのダンジョン攻略したのは無駄? 

 契約書があるから嘘ではないんだけど……まあいっか。

「だったら俺が奴隷商人からクリスを解放したのを知っている訳だね」

「ああ、このバカ娘が宿で騙され、性奴隷の教育を受けたことは調べがついている。何か魔物に襲われ壊れた檻と馬車があったのも聞いた」

「だったら大体の調べはついてるんじゃないか。俺の家でクリスが暮らし生活している。俺の下に妻の候補が集まっている。そこも知ってるんだろ?」

「ああ、調べた」

「そうだなぁ、俺がそのバカ娘を貰う理由なんて一つ。俺がクリスを好きだからだ」

「それでは、クリスティーナが『この国の王女』という理由で妻にするわけではないのか?」

「バカにするな! 俺はクリスを王女だから妻にしようなんて思ったことは無い」

 俺はクリスを指差すと。

「あれを見ろ王女なんて我がままだし掃除、洗濯も苦手で料理もできやしない。面倒なところばかりだよ。誰が好き好んであんな面倒な王女を妻にするんだ?」

 おっと、クリスが怒っている。

「王女を妻にすれば権力が手に入るぞ? 子ができれば世継ぎになるかもしれない」

「権力や国なんて要らんよ。面倒だ。それに権力と国を手に入れようとして身を滅ぼした奴を目の前で見た。もしクリスが俺の妻になる事で王族でなくなったとしても関係ない。我がままで面倒。しかし文句を言いながらも俺をフォローし付いてきてくれるクリス……つまりあんたのバカ娘と一緒になりたいんだ」


 クリスはそれを聞いて嬉し恥ずかしって感じである。

 オヤジさんは「ふう」とため息をつくと、

「マサヨシよ儂はもう一つクリスティーナと賭けをした。お前がクリスティーナを妻にする理由の中に国や権力に固執するものが一つでもあれば許可しないというものだ」

 苦笑いのオヤジさん。

「私の勝ちね」

 勝ち誇りニッコリのクリス。

「ああ、クリスティーナの勝ちだ。お前たちの結婚を認めてやる」

 その言葉を聞くとクリスが俺に抱きつき、

「これで晴れて一緒になれるわね。で、マサヨシ、さっきのはどういうことよ」

「『どういうこと』とは?」

「最近は掃除洗濯もできるようになったし……料理は……まだ無理だけど、少しは変わってるのよ?」

 と言ってくる。

 んー、そうだっけ? 

「まあ、そういう事にしておきますか」

 不服な顔で俺を見るクリスの頭を俺は苦笑いで撫でるのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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