人気のないダンジョン
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
俺はストルマンの近くにあるというダンジョンを目指していた。
ふと思う。
ストルマンを囲んでいる魔物に少々のオーガが居たとはいえザコの魔物しか居なかった。
巨人やドラゴン、ゴブリンやオークもジェネラルやキングが居てもいいのではないだろうか。そうすれば簡単にストルマンなど潰されてもおかしくないはずなのに……。
「アグラが居ればそこら辺のことは聞けるな」
俺は扉をリビングに繋ぎ扉を開けてアグラを呼ぶと、
「マスター!」
と言いながら、アグラが体当たりしてきた。
「イタタタタ、今日は避けなかったのですね」
いつも避けるとは限らない。
頭を羽でさすりながら、俺の手の上から定位置の右肩へ移動する。
「で、どんな御用で」
俺は扉を仕舞いながら、
「ちょっと別のダンジョンを攻略したくてな。アドバイスを貰えると助かる」
というと、
「お任せください」
と、羽で胸をドンと叩く。そして
「ただ、ダンジョンの特性はダンジョンコアによって違います。すべてが同じではありませんがよろしいですか?」
と言った。
「参考になればいいよ。さて、駆けるぞ、ちゃんと捕まっておけよ」
「はいぃーー」
神馬の速さに驚くアグラの声を聞きながら俺は再びダンジョンに向け走り始めた。
ボロボロの洞窟が見えてくる。
このダンジョンは本当に魔物を放出しただけのようだ。ストルマンからこの洞窟まで魔物がほとんど居なかった。攻めるなら後続が居ると思うのだが……。
俺は神馬から降りると
「お前どうする? 洞窟内に入れない事もないが」
と聞いてみた。
「ブルルル」と言って、足で地面を掻く。
「来るの?」
ウンウンと神馬は頷いた。
「じゃあ、アグラは神馬の上ね」
「畏まりました」
パタパタと神馬の背に向かうアグラ。
そして俺たちはダンジョンの中へ向かう。
「何階まであるのかね。照明が無いのは不便だから、冒険者たちも入りたがらないだろうな」
真っ暗な洞窟を歩いていた。
俺の場合は暗視モードを使い問題なく歩けるのだが。
神馬は……あれ、普通に歩けてるね……。
アグラはフクロウだから問題ないようだ。
俺は現れる魔物を精霊に任せダンジョンを歩く。
「何階まであるのかはわかりませんが、魔物の数は少なそうですね」
「ああ、さっきこのダンジョン魔物を放出したみたいなんだ」
「魔物を放出? ああ、スタンピードのことですね」
「スタンピード?」
「はい、指定した魔物を暴走させ外に出すことです。ダンジョンとしては増えすぎた魔物を除去するための行動ですね。ゼファードのダンジョンである私は常にダンジョン内の魔物が狩られていますから、スタンピードを起こす必要がありません。現在はマスターによって四十一階以降の魔物を発生させる必要が無くなりましたから、絶対数が減って余計にスタンピードを起こす必要はありませんね」
「袋がいっぱいになったから、中身を減らすって感じか」
「そういうことになります」
「でも、ザコばかりを出していたが」
「それは、ここのダンジョンマスターが臆病なのでしょう。自分が強ければ配下の者を全て出すでしょうから」
「ストルマンはダンジョンマスターが臆病だから助かったって感じか……」
というか優柔不断?
まあ、とりあえずダンジョンマスターに会ってみないとな……。
順調に階層を進む。俺のマップでほぼ寄り道なしだ。精霊たちは戦闘が終わると俺に纏わりつき、魔物を発見すると離れていく。
精霊さんたち助かります。
俺はマップを確認しながらただ歩いているだけ。
十階でボスも出てきたのだが、それほどでもない。
「あれはオークキングですね」
アグラが言った瞬間、フウのエアブレイドで真っ二つになった。
回収回収っと……。
「ゼファードのダンジョンにメスが多かったのはなぜ?」
「ああ、あれは前のダンジョンマスターであるリッチの趣味ですね。ただ、魔力が足りませんでしたから、あんなのしか呼べなかったんです。マスターなら、ヴァンパイアの女性種とかラミアとか強くて美人な女魔物も魔力で呼び寄せられますが……」
「あんなのって」たしかに「あんなの」だったが……。
しかし、この世界にもヴァンパイア居るんだ……。
「いや、遠慮しておこう」
「好きなくせにぃ……」
ニヤニヤしながらアグラが言った。
はいはい……嫌いじゃありませんよ。
特に苦労する事もなく進む。
変異種のような赤いワイバーンも居たが、狭い洞窟の中空を飛べないワイバーンは全く強くなかった。炎を吐いてきたがエンが防ぐ。まあ素材としては高いと思うので、スイに首を飛ばして即死にしてもらった。
回収回収っと……。
「リッチみたいに外からラスボスを連れてきていないみたいですね」
アグラが言ってきた。
「ん? どういうこと?」
「ダンジョンコアが作った魔物だけで構成されているって事です。あっ、マスター終わりました。後はあの部屋の向こうだけです」
アグラが指差す。
「まさか、ダンジョンマスターの部屋?」
「はい、ダンジョンマスターの部屋です」
「早っ、二十階しかないの?」
「このダンジョンは出来上がってからあまり時間が経っていないようです。二~三千年ぐらいでしょうか? ですからこの程度なのかもしれません」
「ちなみにアグラは?」
「私は数万年? 十数万年? もう忘れました。巷ではマスター以外踏破者が居ないと言われていたようですが、あのリッチも一応踏破者です。ただ、私が取り込みましたけどね」
うわっエグイな。
「今なら何階まで?」
「どうでしょう……。百は越えるんじゃないでしょうか。隷属化されたことで全ての能力が上がっています。まあ、マスターが増やせと言わないので増やしていませんけど」
胸を張って威張っているアグラが居た。
結構こいつ凄いんだな。
俺はダンジョンマスターの部屋を開ける。
そこには震えているエルフが居た。
いや、ハーフエルフかな?
ちょっと耳が短い。
「お前を倒しに来た。抗うならそれでもいい」
俺がそう言うと、
「お前なんかに何がわかる。ハーフエルフだからということでストルマンの街で働けない。差別される。そんな街なんかなくなればいいんだ!」
ハーフエルフは俺を見て言った。
ハーフエルフの目は赤く光りエルフへの憎悪が増幅されている感じだ。
「アグラ、やっぱり取り込む時って弱みに付け込むのか? リッチは『魔法の研究がしたい』と言う意思が増幅されていたような気がする」
「そうですね、マスターの言う通りです。ダンジョンコアより能力が低い者の欲望に付け込んで魂と同化します。これがなかなか難しいんですよ。成長していないうちに踏破されるとダンジョンコアは破壊されますから、こっちも命がけなんです。マスターのように隷属化するなんて特例なんですよ!」
そういうシステムなのね。
俺はハーフエルフのほうを見る。
とにかく弱い。
「マスター、このハーフエルフは最初のダンジョンマスターのようですね。人気が無いせいで何とか今までもったのでしょう。まあ、一応ラスボスがワイバーンの変異種ですから普通の冒険者じゃ倒せませんしね。ダンジョンコアは程々育っていますが、ダンジョンマスターがこれではザコばかりだったのも頷けます」
「このダンジョンマスターは解放できるのか?」
「無理ですね、このダンジョンマスターは魂が取り込まれています。リッチに比べINTも低そうですから精神もやられていますね。もう街を潰すことしか考えていないようです。それにダンジョンコアから解放された瞬間に老化が始まると思われます。寿命がきていなければその年齢まで進み、寿命を超えるなら死が待つのみです」
「リッチは? もう老化どころじゃなかったんだけど」
「あのリッチは死んでいますし老化を気にしていませんでしたから、老化防止はしていません」
そういうことね。
俺がハーフエルフの胸を鉈代わりに使っているダガーで一突きにすると、ハーフエルフはそのまま倒れそして灰になった。
そこに現れる金箱。
とりあえず回収しておく。
中身は聖剣ということらしい。
俺の心を覗く何かを感じた。
これがダンジョンコアの意思なのだろう。
ダンジョンマスターを代替わりさせたいみたいだ。
そして俺の中から弱点を見つけたようだ。
元妻……。生きていた時の場面が思い浮かぶ。そして元妻が病死した時とダンジョンで昇天した時の場面が続いた。
そして俺がダンジョンコアの方へ進むと、コアが元妻の姿になる。
俺は一度目を瞑ってダンジョンの意思を脳内から放り出し、再び目を開ける。目の前にはただの大きな輝く魔石があった。
ダンジョンコアは明滅を繰り返す。
俺が抵抗できるとは思っていなかったのかな?
ダンジョンコアを隷属化する気などなかった俺は、そのままダガーを振り下ろし、ダンジョンコアを真っ二つにした。
「コアが死にましたね。しかし、なぜマスターはダンジョンコアにマスターの弱点を見せたのですか?」
アグラが聞いてきた。
「ん? あいつ等には言えんが『上手くやれば元妻の姿が見えるかも』と思ってな。結果いい思い出もあれば悪い思い出も見せてもらったよ。情けないねぇ」
頭をポリポリと掻く。
ただ姿を見たかっただけ……忘れてしまうような気がしたから。
「ブヒヒヒヒーン」と神馬が嘶く。
男ってそんなもんじゃない? ってか?
お前、何者?
そして人差し指を口の前に持って行き、アグラの前で「シー」のポーズを取ると、
「アグラ、あいつ等には内緒だぞ?」
「はい、その代わりお菓子よろしくです」
揉み手で依頼してくるアグラ。
「ああ、任せとけ」
俺は、ダンジョンコアのかけらを回収すると、ストルマンの近くへデカい扉で移動した。
神馬は普通の扉じゃ通れません。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




