二日後
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
翌日、オークレーン侯爵は刑場にて断頭台の露と消えた……とラウラから聞いた。ヘルゲ様が立ち会ったそうだ。
オークレーン侯爵は、
「『昨夜の酒は美味かった。ありがとう』とあいつに言っておいてくれ」
と言っていたと聞いた。
礼なんて要らないんだけどね。俺も楽しめたし……。
オークレーン侯爵は最後の最後まで笑っていたそうである。
「笑った晒し首など、初めて見た」
と、ヘルゲ様は苦笑いしていたらしい。
そして、次の日。ヘルゲ様と俺は謁見の間に居る。
そこにはマティアス王。
そして泣き腫らした顔をしたアクセル様が居た。
「アクセル、お前にマサヨシが訊ねたいことがあるということだ。聞いてみるか?」
とマティアス王がアクセル様に聞くと
「はい。聞きます。マサヨシさん何でしょうか?」
と、胸を張って言う。
俺は
「一昨日聞いた質問を覚えているか?」
と聞いてみる。当然覚えているだろう。
「『美味い飯ぐらいしかないが、マサヨシさんのところに来るか?』とおっしゃった件ですね」
「ああ、そうだ。王子としてではなく孤児として扱い、与えられた仕事の他に、追加で狐の獣人の子の遊び相手もしてもらわなきゃいかん。そんなところに来る気はあるか?」
「僕は行きます。あの子とは友達になりましたから喜んで遊び相手になります」
そう言うアクセル様は笑っていたが、声には強い意思が籠っていた。
「わかった。ただし、俺のところに来るには二つほどしてもらわなければならないことがある。一つは俺への隸属。もう一つがこの国へ歯向かわないと言う契約だ。隸属にしろ、この契約にしろ一生のものとなる。それでいいか?」
「私が自由を得るには、これしかないのでしょう? お爺様とお母様が言っていました。マサヨシに任せろと……。ですからその条件を受けます」
重いぞお二人さん。
俺に責任を押し付けないように。
俺は「ふう」とため息を付くと、
「マティアス王、アクセル様は私のところへ来るようです。ですから先の約束の通りアクセル様の隸属と契約をお願いします」
と王に言った。
既に呼び寄せていたのだろう、魔法書士が出てくる。契約台を出し、アクセル様を呼んだ。
そして左肩を出すと、複雑な紋章を描きはじめる。その紋章が白から黒へ変わり。隸属化が終わった。
続いて俺とアクセル様が契約台に手を乗せると魔法書士によって、俺の奴隷に変更された。
うん、確かに俺の奴隷と感じるな。
最後に、魔法書士は契約専用の紙を取り出し、『オースプリング家へ歯向かわない。歯向かった場合は死をも受け入れる』という内容の契約書を作る。王が確認し頷くと再び契約台でアクセル様は契約を交わした。
「これで終わりですね」
「ああ、終わりだな」
俺とマティアス王は言葉を交わす。
「それでは、アクセル様は連れて帰ります」
俺が言うと、マティアス王は、
「ヘルゲよ、マサヨシよ、アクセルを頼む」
そう言うと謁見の間を去るのだった。
ヘルゲ様と俺はアクセルを連れ謁見の間を出る際、
「ちなみに魔力のランクは」
その魔法書士に聞いた。魔法書士は
「Sだよ」
と言ってニヤリと笑う。
大層な自信だ。
いきなり契約書を燃やしてやろうかとも思ったが、ここでやっても意味がない。
まあ、お陰で契約書は契約台無しでも破棄できることがわかった。
まあ、破棄せずに済めばそれでいいんだが、最悪上書きしようと思う。
「アクセル様、今後私は『アクセル』と呼び捨てにしますがよろしいですか?」
ヘルゲ様はと聞く。
今後の事を考えてもそれがいいのかもしれない。
「私はもうただの奴隷です。どうなりと呼んでください」
アクセルは既に割り切っているようだった。
「では俺も『アクセル』と呼ばせていただきます」
「わかりました」
アクセルと俺の家に帰るわけだが、アクセルの持ち物が鞄一つなのに気付いた。
「アクセル、他の持ち物は無いのか?」
「服と着替え程度が入っています。『もうお前には必要ないので、国の物は国に返す』とお母様がおっしゃっていました」
潔すぎるのも考え物?
まあ、馬車に隠していたトランクに入っていた白金貨や金貨を使えばどうにでもなるか。オークレーンのオッサンめ高い酒代を払いやがって。
「さて、どうする。マサヨシ」
ヘルゲ様が聞いてきた。
「儂もお前のところに行くつもりなのだが、いつぐらいが良いかの?」
「そうだな、準備ができたらラウラに連絡してもらうよ。アクセルの教育はヘルゲ様に任せても?」
「ああ、儂が面倒見よう」
「ではどうしますか? アクセルはしばらくヘルゲ様の家で預かる形で?」
「その方がいいだろうな」
俺はヘルゲ様に近づくと
「ヘルゲ様『奴隷と契約者は強い方に引き上げられる』ということを知っておられますか?」
耳打ちをする。
「おお、そういうことか。アクセルはお前の奴隷だ。アクセルは気づいておらんだろうが、能力が格段に上がっているということか」
ヘルゲ様は気付いたようだ。
「そういうことになります。アクセルが本気でオースプリング家を潰そうと思えば可能だと思います。まあ、その時は俺が全力で止めますが……」
「儂とお主の育て方次第でこの国を揺るがす男が出来上がるということか……責任重大だな」
「俺の所は権力とは関係ない場所ですから。その辺は気にしませんけどね」
話が終わると ヘルゲ様とアクセルは馬車に乗り屋敷へ戻った。
次の朝からは朝の鍛錬を課されるようだ。
ヘルゲ様なら「健全な精神は健全な肉体に宿る」を地で行きそうだが。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




