中年貴族二人
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
俺はリビングに帰る。
そこにはソファーで寛ぐオークレーン侯爵とその娘アビゲイル様。
ん? 王子は?
監視する者は……クリスか。
寝てやがる。
まあ、殺気を感じたら起きるだろう。
「お前、帰ったのか?」
オークレーン侯爵が聞いてきた。
「ああ、用事は終わったよ。で、この状況は?」
「儂と娘は食事のあと寛いでおる。が、何だあの王でさえ食べることが叶わないような肉やコカトリスの卵という滅多に手に入らない食材が普通に並ぶ食事は? 食事が美味くて王子などお代わりをしておった」
「肉はゼファードのダンジョンで手に入れたサイクロプスの物じゃなかったかな? コカトリスの卵は毎朝コカトリスが届けてくれる。俺んちではあれが当たり前だ」
「しかし、マールと言う娘の紅茶は美味いのう。それにこの菓子。お前が作ったらしいな。紅茶とよく合う」
憑き物が落ちたようなオークレーン侯爵が居た。
「マールと言う娘には悪いことをしたな。儂が欲を出したばっかりに……。『お陰でマサヨシ様に会えました』と聞いたときにはお前に負けたと思ったよ。そう女に思わせられる男なんだな」
「私もアイナと言う娘に『お陰で……』と言われました。今、聖女は笑っているそうです。悔しいですが負けですね」
苦笑いのアビゲイル様。
「王子様は?」
「アイナと言う娘とエリスと言う娘と遊んでおる。あんな顔で遊ぶ王子を見たことが無いな。常に周囲を気にしないといけなかったせいか」
オークレーン侯爵が言った。
コカトリスとでも遊んでいるのかな?
「で、儂はどうなる?」
「朝言った通り、貴族籍の剥奪と死刑じゃないかな?」
「何とかならんか?」
オークレーン侯爵が伏し目がちに聞く。
「命乞いですか?」
「いや、貴族には未練はない。国にもな。ただ、ここで暮らしたいと思ったのだ。一から街を作っているのだろ? それが面白そうでな」
まっ、マールもアイナもこだわっていないようだから、別にいいとは思う。そのうちヘルゲ様もここに来るから抑えになるだろうしな。ただ、ノーラが嫌がるかもしれないな。
「そうだなぁ、俺は別に来てもらってもいいですよ。ただ、それを決めるのは王だ。結果、王があなたを助けたとしても息子は助からないかもしれない。そういう可能性があることも考えておいて欲しい」
「それは覚悟している」
「だったら、王様と交渉してください」
「お前が『ここに来ていい』と言っていたと、王に言ってもいいのか?」
「実際に言いましたから、今更『言っていなかった』とは言えません」
「で、いつ王都に戻る?」
「わからないので、早速ヘルゲ様を呼んできましょう」
俺は扉を出しヘルゲ様の部屋へ向かった。
俺の移動をオークレーン侯爵に見られたが気にしない。
そういや、何か声が聞こえていたな。
ヘルゲ様の部屋の扉をノックすると、
「マサヨシか、入れ」
とヘルゲ様の返答があった。
「俺だとよく気付きましたね?」
「お前の場合は扉の前に直接来るから足音がしないんだ」
よく観察してらっしゃる。
「で、オークレーン侯爵はどうなった」
「家で紅茶飲んで寛いでいますが」
「なっ、なんでだ? なぜ今の状況で寛ぐ」
さすがにヘルゲ様も驚いていた。
「さあ? 美味いものを食わせただけだしなぁ……。それこそオークレーン侯爵をどうすればいいですか? というか、王様の判断はどうなったんでしょうか?」
「追って沙汰を出すとは言っていたが、決まっていないようだ」
ヘルゲ様は言った。
俺、貴族籍の剥奪と死罪って勝手に言ってたけど……大丈夫かね?
まあ、何か言われたらその時だ。
「ヘルゲ様も俺んち来る? 飯ぐらいは出すけど……。ついでに心変わりをした理由を聞いてみたら?」
「オークレーン侯爵と食事か……。面白そうだな」
「じゃあ、早速」
そう言ってヘルゲ様と俺んちのリビングに戻った。
「ただいまっと」
俺は再び扉を開けるとそこにはオークレーン侯爵とアビゲイル様が居た。
寝てたクリスは居ない。
監視が居ないってどういうこと?
「邪魔するぞ」
ヘルゲ様も扉から出る。
「お主はヘルゲ、なぜここに」
「舅が娘婿になる者の家に来てはいかんか?」
「くっ、そう言えばそんなことを言っていたな。儂を笑いに来たか?」
渋い顔をするオークレーン侯爵。
「儂はそんなに暇ではないよ。儂はマサヨシに誘われこの家に夕食を食べに来たんだ。マサヨシが言う美味い食事をな」
「ああ、ここの食事は美味い。王宮でも屋敷でも食べたことのない美味さだった。素朴なんだがな、でも美味いんだ。こんな状態じゃなければ、料理人を引き抜くところだ」
サラの飯はそこまでなのか?
というか、俺の家の料理人を引き抜かないように。
「そんなに美味いのか?」
オークレーン侯爵の話す美味さに反応するヘルゲ様
「儂は昼食も食べたからな。お主は夕食からだろ?」
「そう言えば、ラウラも館で食事をとらなくなったな」
うちの飯の事で話し合うオッサン貴族。
片方は沙汰待ちなんだが……。
俺はそんなオッサン二人を置いて、調理場へ向かう。
「サラ、お疲れさん」
俺がそう言うと、
「ああ、マサヨシ様お帰りなさい」
サラは料理をしながら振り向いて言った。
「おお、そう言えば。今日孤児院用の料理道具を買いに行ったんだ。そん時の土産」
そう言って俺はミスリル製のフライパンを出した。
「あっ、フライパン」
料理のキリがいいのか鍋を魔導コンロから外し、手を洗うとエプロンで手を拭きながら作業台の方へサラがやってくる。
「ミスリル製らしいぞ。王宮の料理人が欲しがるものらしいから使ってみて」
サラはフライパンを持つと縦や横に振ってみたりして使い勝手を確認していた。
「これ軽いですね。今使っている物はこれより少し小さいですが重さは一緒です。一度油になじませないといけないので、使うなら明日からになると思います」
「悪いな、女の子にフライパンって言うのも変かもしれないが」
「いいんです、気にされていることがわかるだけでも嬉しいです」
サラはフライパンを抱いていた。
ふと、俺の体から精霊が抜ける気配。小さな精霊が飛び出していた。
ああ、オセーレでコンロ用についてきた精霊だな。
「マサヨシ様、精霊がコンロではなくサラ様につきたいそうです」
急にエンが話し始めた。
「サラは魔力が少ないから吸うわけにはいかないぞ?」
俺はエンに聞いてみた。
「そこに魔力が溜まっている物があるでしょう?」
エンに言われてふと見ると俺が作った魔導コンロがあった。
「ですから、魔力不足は問題ありません。それに元々精霊は自然から得た魔力で活動するのが普通なので基本は魔力を吸う必要はありません。今私たちがマサヨシ様に纏わりついているのは、魔力が美味しいのと居心地がいいからです。簡単に言えば我儘ですね」
はあ、我儘なのね。
「もしサラ様がこの子を宿らせれば、コンロをサラ様の思うような火力にできます」
「あの魔導コンロでも問題ない?」
「はい、十分です」
ということらしい。
「サラ、精霊がお前につきたいと言っているが?」
「精霊が……わたしに?」
びっくりするサラ。
「みたいだな、俺についている精霊がそう言っている」
「サラ様に名前を付けて欲しいそうです」
そうエンが言うので、
「……ということらしい」
とサラに伝言する。
「でしたら、『コンロ』でどうでしょう」
そうサラが言うと?
「あっ、何か居る。えっ、君がコンロ?」
名前とは見えない者が精霊を見るためのキーなのかもしれない。
小さな精霊が返事をするように点滅する。
すると精霊はサラの体に飛び込んだ。
「えっ、私の中に入った」
体を触り確認するサラ。
「これでサラが思う火力でこの魔導コンロが使えるようになるらしい。サラの料理がもっと美味しくなりそうだな」
「はい、頑張ります」
そう言って、サラは調理に戻った。
「マサヨシ様、あの精霊はまだ幼く形を成していません。ただ、今後サラ様と仕事をすることでホムラのような体を得るかもしれませんね」
エンが俺に呟いた。
庭を見ると、キングがアイナとエリス、そして王子を背に乗せて走っている。
おっ、本気の走りだ。後ろに雄を引き連れている。
「キング、やる」
「きゃはははは、キングはやいぃ」
アイナとエリスは慣れているからか普通に遊んでいる感じだが、
「早すぎますぅ、何でこんな事に……」
「あんな顔で遊ぶ」と言っていたが、その「あんな顔」は涙目の事?
王子様は引きずりまわされている感じだ。
んー、早くも女性に振り回されている王子様。
女難の相が見える。
俺と一緒だね。
精霊による力を得たサラの食事はオークレーン侯爵、ヘルゲ様、アビゲイル様、王子を大変満足させたようだ。
ヘルゲ様に至っては、「早く王都から引越しせねば」と言い出す始末だった。
俺も今までにない美味さに驚いた。
食事の火力って重要なんだな
褒められて嬉しいサラ。
尻尾がピコピコ動いていた。
そう言えばサラってネコ科獣人なんだけど「ニャ」って言わないよな。
今度聞いてみよう。
食事が終わり偉いさんも居るので、
「酒飲みます? ワインは無くて、火酒とエールになりますね」
と言うと、
「おー、いいな。火酒を頼めるか?」
ヘルゲ様が飲みモードに入る。
「そんなに美味いのか?」
なぜかオークレーン侯爵が食いつく。
「マサヨシの酒は美味いぞ」
「なら儂も」
「私もいいですか?」
追っかけでアビゲイル様まで……。
「僕は?」
王子様参戦。
「あなたはやめておきなさい」
うん、それはアビゲイル様が正しい。
「それじゃ」
俺はグラスを出し丸氷を入れて火酒を注いだ。
「摘みはジャーキーしかないですよ?」
そう言って皿にジャーキーを乗せて出す。
「んー、美味いな」
「冷えた火酒がこんなに美味いとはな」
「お酒ってこんなに美味しかったんですね」
ヘルゲ様、オークレーン侯爵、アビゲイル様が何かを吐き出すように言うと、三人で話を始める。
仕方ない、王子様用の物を作るか
俺は適当な椀を出し、そこに氷をてんこ盛りに降らせ、その上に蜂蜜と果実水をかけてかき氷を作った。
「王子様はこれをどうぞ」
そう言って俺はスプーンを出し王子様に渡した。
一口食べた王子様が固まる。
「美味しいですか?」
コクリと頷く。
「全部食べていいですから」
そう言うと、王子は、ガツガツ食べ始めた。
「あっ、そんなに食べると」
定番の「キーン」を食らったようだ
おでこを押さえて耐える王子。
「しばらく待っていると治ります。少しづつ食べればいいですから」
王子は頷いた。
そんなことを言っていると、小さな気配が二つ。
「マサヨシ、私のは?」
「お父さん、私のも」
「はいはい、つくりますよ」
結局二人前追加した。
既に食事が終わっている女性陣からの視線が……。
目が合いニッコリ笑うノーラ
俺が女性陣に火酒の瓶を見せると、ウンウンと頷く。
果実水の瓶を見せると、ウンウンと頷く。
ジャーキーを見せると、ウンウンと頷く。
メレンゲ焼きを出すと、更にウンウンと頷いた。
何でも食うんかい!
俺が頷いたものを机に置くと、女性陣は各々にグラスを持って並ぶ。
それぞれに丸氷を入れると、嬉しそうに飲み始めた。
「ほどほどにな」
俺は女性陣から離れた。
多分、皆潰れてノーラだけが残っているんだろうな。
「マサヨシよ、忙しそうだな」
ヘルゲ様が俺に話しかけてきた。
「俺は宴会にするつもりはなかったんですけどね。女性陣は放っておけば何とかなるでしょう」
するとオークレーン侯爵がヘルゲ様に話しかけてきた。
「ヘルゲ、お前はここに来るのか?」
「儂は、お前の事が終わったら此処の孤児院の院長をする予定だ」
「羨ましいな。儂もここに住みたいのだがそうはいかんかな? 儂はそこのマサヨシから『貴族籍の剥奪と処刑になる』と聞いたがやはりその通りになるのか?」
「お前は王の暗殺を企てただろうに? 普通はそうなるぞ」
「普通じゃなければいいんだな? マサヨシに『ここに来ていい』と言われたんだが、そういうのは有効にならんかな?」
「儂には決められん。王に聞いてみろ。明日連れて行ってやる」
「そうだな、明日聞くか」
おっと、二人の予定が決まったようだ。
「あとは気にせず飲むぞ」
「おう、飲もう」
ヘルゲ様とオークレーン侯爵が盛り上がる。
「マサヨシ飲むぞ」
「えっ、俺もですか?」
「家の主が付き合わんでどうする」
「はあ、しかたないですね」
中年貴族たちに回されてしまう俺。だが、精神年齢的に言うと俺のほうが上なんだがなぁ。
さて、アビゲイル様はと……
あっ、女性陣に混じってる。
まあ、同性のほうが話しやすいか。放っておこう。
そして中年貴族二人と飲み始めた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




