買い出し3(寝具を買おう)
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
俺は腕を引かれ通りを歩く。
よく考えれば護衛もなしで、町を出歩いてもいいのかね?
よく許すな、国王。
「イングリッド、護衛は要らんの?」
「マサヨシさんと行くなら大丈夫だそうです。ウルフ兄様は『護衛なしで買い物に出かけるなど危険です』とお父様におっしゃったのですが、お父様が『マサヨシより強い者が居るか? あいつなら軍隊を連れてきても何とかするぞ』とおっしゃり、ウルフ兄様の意見を跳ねのけました。ということで、マサヨシさんと一緒なら、護衛は無しです。私はそのほうがいいですけどね。護衛に遠慮なく甘えられますから」
「そういうことですか」
「はい、そういうことです」
イングリッドは嬉しそうに言った。
「マサヨシさん、ここです」
俺は、イングリッドに引っ張られて店に入る。
「いらっしゃいませ殿下。今日はどのような御用でしょうか?」
恰幅のいい店員が出てくる。店長かな?
「こんにちは店長。今回用があるのはここに居るマサヨシさんです」
俺を見た店長は、俺がどういう存在なのか測りかねているようだ。
見た感じはただのうだつの上がらないデブなんだが……。
「この者は?」
店長はイングリッドに聞いた。
「私の婚約者に内定している人ですよ?」
信じられなかったのか一瞬唖然としたが、すぐに取り繕い、
「これはこれは、マサヨシ様。この度はどのような御用件でしょうか?」
と聞いてきた。
おお、態度が変わる。
「ああ、寝具を買いたいんだ」
「殿下とマサヨシ様のベッドでしょうか? でしたら最高級の物が入荷しております」
憶測で物を言うタイプか……ちゃんと話を聞いてほしいな……。
「いやいや、勘違いしないでくれ。イングリッドと俺のベッドは今は必要ないんだ。子供サイズのマットレスと敷布団に掛布団のセットを七十セット、毛布とシーツは替えを込みで二百十セットを買いたい。ここで買うとして、いつ頃揃う?」
「そのような物は、取り扱っておりません」
「なぜ」
「私共が扱うのは貴族や王族が使うような高級な寝具ですから」
「一般的な寝具は取り扱えないと?」
「はい、ここはそういう店です」
おお、言い切ったね。確かにそういう店もあるのだろう。
イングリッドが焦りだした。
「マサヨシさん、すみません。店を間違えたようです」
店長の前でイングリッドが謝る。
「殿下、なぜこんな見栄えも良くない男に謝るのですか? まさか嫌々婚約するとか?」
本当に憶測で物を言う店長だな。言わなくていいことを言っていることにも気づいていない。よく店長になれたな。
イングリッドが今度は青くなる。
「あなたは外見でしか人を判断しないのですね。あなたが『こんな見栄えが良くない男』と言った人に何度も私は助けられました。パルティーモで襲われそうになった時も、何十という盗賊に襲われた時も、万単位というゴブリンに襲われた時も、ふと現れて助けてくれました。私が好きになって婚約してもらった相手です。その相手にあなたは『見栄えが良くない』と言ったのです。このマサヨシさんが着ているクロースアーマーが二度と手に入らないマジックワームの物であることを、今着ているローブがホーリードラゴンの物であることをあなたは知っていますか?」
イングリッドが怒ってくれたことで、俺のイライラもなくなるが、店長は何を言っているんだろうと言う感じだ。
「このように言われてマサヨシさんは怒らないのですか。私は好きでマサヨシさんと一緒になりたいのに……」
次は俺に来た。
「いいじゃないか、俺はイングリッドが好きでイングリッドは俺が好きなんだ。王も認めているし他の者が何を言おうと関係ないだろ? まあ、俺も外見を隠しているし、誤解されるような格好をしているしなぁ」
「でも……」
若干涙目なイングリッド。
「怒ってくれてありがとな、イングリッド」
そう言って頭を撫でる
「店長、あなたは『この高級寝具店に子供用の普通の寝具を買いに来るのは間違いだ』と言いたいんだな」
「そういうことです。そういう寝具を扱う、一般のところで買うのが筋かと……」
「イングリッドが俺の要望に合う店だと思ってここを紹介して違っていたのは確かだ。そして、要望に合わなかったことも確かだ。けれども、そこで店長が俺の容姿や婚約の件をどうこう言うのは間違っていると思うんだがね」
俺がそう言うと、
「そうですか?」
という感じで店長が首をひねる。
「多分イングリッドも俺から話を聞いた国王や貴族たちもここで寝具を買うことは無くなると思うよ。俺が『買うな』って言うから」
「またまた、人族が魔族にそんなに知り合いがいるはずがないでしょう」
店長が言う。
こいつ頭が悪いな。俺がイングリッドの婚約者だと聞いただろうに。
「それに、高級寝具は魔族側の窓口がここしかありませんから。ここで買わざるをえません」
ニヤリと笑う店長。
「ああ、仕入れなら俺がするから大丈夫」
俺は収納カバンを出すとそこら辺にあったデカい寝具をカバンに入れ。すぐに出した。
「何なら、現地で購入して持って帰るから」
「そう言えばマサヨシさんはドラゴンライダーでしたね」
イングリッドが思い出したように言う。
「ああ、だから何か月もかかるようなところを数日や数時間で行けるからね。仕入れも簡単だ」
店の強みをすべて潰されてしまい焦る店長。
俺には関係ない。
「まあ、そういうことなんで、俺はこの店から買う気は失せた。行くぞイングリッド」
そう言って二人で店を出るのだった。
「すみません、マサヨシさんに不愉快な思いをさせてしまいました」
シュンとして俺に謝るイングリッド。
「ん? 別にいいぞ? イングリッドに『私が好きになって婚約した』と言われたから満足だ」
「あれは悔しかったので……。でも、ちょっと恥ずかしいですね」
今度はモジモジか……忙しいな。
「さて、どうしようか。どっちにしろ寝具は欲しい」
「ノーラさんに聞いてみては?」
「そうだな、ノーラのところに行ってみるか」
俺たちは扉でノーラの所へ向かった。
「ノーラ、居るか?」
そう言って執務室の扉をノックする。
「あなた、いらっしゃったのね。ちょっと待って」
そう言うと、ノーラが扉を開けた。
「あら、イングリッド殿下も一緒だったのですね」
ノーラ、ちょっとがっくり?
「ノーラさん、急に押しかけてすみません」
謝るイングリッド。
「オセーレで寝具を買おうと思ってイングリッドに頼んだんだが、王宮の御用達の店では取り扱ってなくてな。そこで、ノーラに頼りに来たってわけだ」
俺はノーラに事の成り行きを説明した
揉めたことは言わない。
「寝具ですか? 何が必要なのでしょう?」
「孤児院で使う子供サイズのマットレスと敷布団に掛布団のセットを七十セット、毛布とシーツは替えを込みで二百十セットが欲しい」
俺の言葉を聞いてノーラが考える。
「馬車を用意しますので、セリュックの寝具店に行ってみますか?急な用件ですぐに対応できるかどうかはわかりませんが……」
「ノーラ頼めるか?」
「では、馬車を準備してきますね。ロビーで待っていてください」
そう言って、ノーラは部屋を出ていった。
俺たちはノーラが準備した馬車に乗ってセリュックの店を目指す。
そう遠くはなかったようでしばらく走ると馬車が止まった。
「あなた、ここです」
ノーラに続き俺とイングリッドは馬車を降りた。
そこにはオセーレほどは大きくはないが、それでも立派な寝具店。
ノーラは近くに居た店員に声をかけると、店員は店の奥へ行く。
すると中から恰幅がいい結構歳をとった爺ちゃんのような人が現れた。
「ノーラ様、この度はどのような用件でしょうか?」
「ハリス、先に紹介しておきます。私の後見人でありノルデン侯爵家に婿入り予定のマサヨシさん」
「これは初めまして、私はこのセリュックでノルデン侯爵の御用達として寝具を扱っているハリスと申します。お見知りおきいただければ幸いです」
「ご丁寧にありがとうございます。ノルデン家の後見人をやらせてもらっているマサヨシと申します。こちらこそお見知りおきください」
「ハリスも知っているでしょう? イングリッド殿下です」
「なぜ殿下がここに」
「お恥ずかしながら、マサヨシさんは私の婚約者でもあるの」
驚き俺を見るハリスさん。
ハリスさんと俺、そしてイングリッドの顔合わせが終わると、
「用件と言うのは、このマサヨシさんの事なんです。マサヨシさんは孤児院を作ろうとしているのですが、その孤児院で使う寝具を探しています。オセーレでは手に入らず、私に頼ってきたのです」
ノーラが大まかな説明をしてくれた。
「どの位の量が必要なのでしょうか?」
ハリスさんが聞いてくる。
「子供サイズのマットレスと敷布団に掛布団のセットを七十セット、毛布とシーツは替えを込みで二百十セットあれば……」
「結構な量ですね。まず必要な量としてはどのくらいあればいいのでしょうか?」
「現状では子供が五十人ほど来る予定になっています。ですから五十は欲しいですね。あと毛布とシーツは洗い替えですから百五十セットでしょうか?」
腕を組み考え始めるハリスさん。
「三日あればマットレスと敷布団、掛布団のセットは五十揃えられます。毛布とシーツは百セットでどうでしょう。それで何とかしてもらって、毛布とシーツについては二週間もあれば、マットレスと敷布団掛布団は三週間でしょうか。それだけあれば揃えられると思います」
と提案された。
「あなた、二週間後には毛布とシーツが、三週間後にはマットレスに敷布団と掛布団が入るということですから、もしも乾かせない時は一時的に洗浄魔法で洗っておけばいいのではないですか?」
ノーラからもフォローが入る。
そうだな、洗浄魔法を使えば何とかなるか……。
「ハリスさんの提案に乗りたいと思います」
俺がそう言うと、
「わかりました、直ぐに準備にかかります」
従業員を呼ぶハリスさん。そして指示を出すと一人の従業員が馬に乗り走っていった。
「すみません、ハリスさん。もしあるならば、ベッドの大きさの調整にマットレスだけでも渡しておいてもらえますか?」
「ああ、それなら在庫はあったと思います」
再び別の従業員を呼ぶと指示を出す。次は倉庫に行ったようだ。
暫くすると、一回り小さいマットレスが届いた。
俺はそのマットレスを収納カバンに入れるとハリスさんは驚き収納カバンをじっと見る。
「あっ、これは俺専用の物なので、他人は使えないんですよ」
一応言っておこう。
「そうですか、そのカバンがあれば仕入れが楽になりそうなんですが残念ですね」
ハリスさんは本当に残念そうだった。
「それでは代金を払いたいのですが、いくらになりますか?」
「マットレスと敷布団、掛布団が一セット五百リルで、三万五千リル。あと毛布とシーツの一セットが五十リルで一万五百リル。ですが、キリよく四万五千リルでどうでしょう?」
「俺としては、準備してくれるだけでも助かります。ですから、言い値で問題ありません」
そう言うと、俺はハリスさんに代金を渡した。
「ノーラ、助かったよ」
「あなたのためですから、気にしないでください」
ノーラは当たり前のように言う。
それに反してしょんぼりのイングリッド。
「私は何の役にも立てなかった」
「そうか? 食器は手に入ったぞ?」
「でも、あれもマサヨシが何とかしたから……」
「じゃあ、今回は失敗でいいんじゃないか?」
「失敗でいい?」
不思議そうな顔でイングリッドは言った。
「だって成功ばかりなんてありえないだろ? そりゃ成功するほうがいいが失敗があって当然じゃない? だから次頑張ってくれよ。また頼らせてもらうからさ」
「また頼ってくれるんですか?」
ちょっと元気になったかな?
「よく考えてみろ、校舎だって寄宿舎だってイングリッドが居たから手に入れられたんだ。イングリッドに頼らなきゃいけないことはいっぱいあるからね」
「はい、頼ってください」
嬉しそうにイングリッドは頷いていた。
「あなた、私にも頼ってくださいね……一番に……」
おっと今度はこっちか。
ん、ノーラの背後から黒いオーラ。
嫉妬って奴かな?
「今回は、ノーラは仕事だったからな。近くに居たら頼らせてもらいます」
「必ずですよ」
「はい、必ず」
口には出せないが、
「うわー、めんどくせー」
そう思いながら返事をする俺だった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




