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買い出し2(食器を買おう)

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

「さて、エーリクも居なくなったことだし、二人で食器を買いに行こう」

 さっきの金払いのせいか、他の店主の揉み手が凄い。

 さあ「次はどの店を選ぶ?」って思ってるのかね? 

「はい、やっと二人っきりです」

 俺の腕を抱くイングリッドの力が強まる。

 うーん、別の柔らかさもあるのでちと困る。

「ここにも食器は有るんだろ?」

 俺はイングリッドに聞いてみた。

「この辺にもありますが、私は王室御用達の店にしようかと思っていました。マサヨシさんは銀食器でもいいと言っていましたから」

「王室御用達」という言葉を聞いた店主たちががっかりする。

「確かに割れないほうがいいということで銀食器でもいいと言った。ただ銀食器は重いぞ? 小さな子供が使うとなれば、木製で軽いほうがいいとも思えるんだ。金属製は熱伝導率が高いからヤケドとかもしそうだしな」

 俺がそう言うと、店主たちの揉み手が復活。

 俺たちの会話に一喜一憂する。

「軽さならばミスリルがあります」

「軽くても熱伝導率の事はどうする? 子供がヤケドするのでは意味がない。それにいい値段するんだろ? フライパンも高かったしな」

「いいモノは高いのです。でも、御用達の店なら融通が利きます」

「ここでも融通は利くんじゃないのかな?」

 チラリと店主たちを見る俺。

 ウンウンと頷いている姿が見える

「まあ、強度的には金属に負けるだろうけど、軽いから木製の物にするぞ?」

 ちょっと不服そうな顔をしたイングリッドだが、

「わかりました」

 と同意した。


 木製と決まった瞬間、

「うちの食器なんかどうかな?」

「いや、うちのだろう、うちは食器専門だぞ?」

「待て待て、俺の店も食器専門だ。これを見ろこの皿の薄さ」

 それぞれの店主が俺に自分の商品を見せてくる。

「イングリッドだったら、どんな食器が使ってみたい?」

 イングリッドに聞いてみた。

「私でしたら、余計な臭いがしない、持ちやすい、軽い、落としても割れない、そんな食器がいいですね」

「ということらしい」

 と、俺は店主たちのほうを見て言った。

「とりあえず、自分の店の皿を一枚持ってきてもらえる? それで試験してみようよ。まずは強度、同じ高さから落として割れないものを選ぶ。次は軽さ。上位三つを選ぶか。その次は匂いがしないものを選ぶ。最後は残った中からイングリッドが気に入ったものを選ぶかな。持ちやすさは人によって違うだろうから、イングリッドに任せる。さて、どのくらいの皿にしようか……」

 近くにある適当な皿を見つけると。

「この大きさぐらいの皿を持ってきて。この試験で残った店でコップ、フォーク、ナイフ、スプーン、スープ皿と普通の皿、お椀、それを乗せるトレイも要るかな? まあ、そこら辺を七十セット買うから」

「おぉ……」

 安くても量がある。

 売り上げが見込めるためか店主たちから大きな声が上がる。

 そして、俺の孤児院で使用する食器一式納入権争奪テストが始まった。


 十数人ほどの店主の中に混じる小さな男の子。

「おう、レス。お前の店は開店休業だろ? 母ちゃんが病気でお前が店番。オヤジさんは仕入れに行ってて帰ってない。七十セットも大丈夫なのかよ」

 男の子はレスと言う名らしい。

「できらい! お前たちが悪さして売れなくしたから、幸い在庫は余ってるんだ。父ちゃんが持ってきた食器は質がいいんだ。お前たちが適当に仕入れてきた食器とは違うんだい!」

 元気だねぇ。

 そして、試験が始まる。俺が手を伸ばした位置から皿を落とすと意外と割れる。結果七枚が残った。

 七枚の中で持った感じ軽いものを判断する。

 そして三枚になる。その三枚の皿を嗅ぐと若干異臭がするものが一枚あった。その皿を外す。

 残り二枚になった皿をイングリッドに渡すと、手触りや持ちやすさを確認し始めた。

「私が使うなら、これですね」

 イングリッドが俺にその皿を手渡した。

「やったー、うちの皿だ! お前たち俺をバカにしやがって。うちの父ちゃんの食器は一番なんだい!」

 ほう、男の子の持ってきた食器だったのか。

「くっ、負けた」

 男の子に嫌味を言った店主ががっくりとうなだれる。

「お前の店の商品の場所がわかるのか? 母ちゃんは寝たきりだろ? わしの店に泣きついてくるのが楽しみだ」

 まあ、色々あるのだろうが相手にする必要はないな。

「じゃあ、レスと言ったっけ?  店に連れて行ってくれ」

 俺はイングリッドと共に店に行った。


「ここがうちの店です」

 レスが連れてきた店は開いていなかった。

 店の前の入口から店内に入る。

「休業中?」

 俺はレスに聞いた。

 木戸が閉まった店内、中に食器が並ぶのはわかったが薄暗かった。

「母ちゃんが病気なんだ。俺一人では店は開けられない」

「食器をどうする? その前に母ちゃんどこに居る?」

「母ちゃんをどうするつもりだ! 美人だからって手籠めにするつもりか!」

「手籠め」なんて言葉どこで聞いたのやら。

「お前、俺、婚約者連れてここに居るんだぞ? そこまで鬼畜なことはしない」

「マサヨシさん。私が居なければ手籠めにするつもりだったのですか?」

 イングリッドが俺に聞いてきた。

「手籠めなんてするはずないだろ」

 俺は反論すると、

「さっきの仕返しです」

 と言ってニッコリ笑うイングリッド。

「二人の仲がいいのはわかるけど、俺の前でイチャつくなよ」

 レスが俺に言う。

「おお、悪かった。で、お前の母ちゃんの病気は?」

 イチャついたつもりはないんだがなぁ。

「母ちゃんは回復魔法のキュアーで回復させれば大丈夫らしいんだけど、そんな魔法を使える人が近くに居ないんだ。結構上位の司祭じゃないと唱えられないらしいし」

「神聖魔法ってキュアーでいいのか? まあ、それに近い魔法は使えるが……」

 レスは驚き俺のほうを見た。

「本当か? 本当なのか? オッサン、そんなことできるのか?」

「多分な」

 存在する魔法なら、俺は使える。まあ、問題ないだろう。

 俺とイングリッドがレスについていくとそこにはベッドに横になる女性が居た。食べられないのか痩せている。レスにはこんな女性を襲うような鬼畜に俺は見えたのだろうか。

「こんなふうなんだ、最近は目を覚ますこともないんだ」

 手を握りしめ、涙を流すレス。

 まあ、とりあえず魔法を使ってみるか、ダメならアイナ先生の登場だな。

 俺はレスの母ちゃんに近寄ると「病気治療」をイメージして魔法を使った。

 レスの母ちゃんが輝き始め、そして光が収まった。

 ん? なんか違和感。何かおかしい。

 レスの母ちゃんの体に何か残っている。

 これって……王様を解呪したときの物よりは弱いけど呪いだね。

「解呪」をイメージして魔法を使うと、呪いは消えた。というか呪いが術者に戻った。

 誰が使ったのかは知らないが、術者は病気になりそうだね。

 とりあえずレスの母ちゃんに「回復魔法」も使っておく。

 すると、見違えるように肌の色が良くなり、苦しそうな寝息が落ち着いた寝息になった。

「さすがマサヨシさん」

 イングリッドが褒めてくれた。

「レス、お前の母ちゃんはもう大丈夫だ」

「兄ちゃん、ありがとう。いや、ありがとうございました!」

 ペコリと礼をするレス。

「さて、ここからは商売だ。お前が持ってきた皿はお前では管理できないという。どうやって俺に納めるつもりだ?」

「そっそれは……」

 口ごもるレス。


 その時

「お-い、帰ったぞ! 誰か居ないのか? レス、何で店が開いていない」

 髭を生やしたオッサンが帰ってくる。レスのオヤジさんのようだ。

 仕入れに行っていると言っていたが、丁度よかったな。

「あっ父ちゃん、母ちゃんが……」

「えっ、どうしたんだ。アンナ、何で寝てる?」

 レスが事の成り行きをレスの父ちゃんに話す。

「どなたかは知りませんが、妻の病気を治していただいたようで、本当にありがとうございます」

 レスと、レスの父ちゃんはシンクロしてペコペコしている。

「ああ、そんなにペコペコされると、こっちが恐縮する。俺は食器さえ手に入れば問題ないんだ」

 俺はレスが持っていた皿を出し、

「この系統の食器類ってある? コップ、取っ手がある奴がいいね。フォーク、ナイフ、スプーンは木製とはいえちゃんと用途として使えるもの。あとはスープ皿と普通の皿、お椀、それと乗せるトレイ、全部で七十セット。準備できるかな?」

 レスの父ちゃんは腕を組みしばらく考えると、

「できます」

 そう言って倉庫へ走っていった。

「これがコップ、取っ手付き。だったらこれでいいはず。フォークとナイフ、スプーンはこれ。スープ皿、普通の皿、お椀はこれでいい。小さめの皿もつけておいたほうがいい。あとは、トレイ……」

 レスの父ちゃんは再び考え始めた。

 再び倉庫へ走ると、木製のトレイを持ってきた。

 そして、そのトレイを置きその上に食器を配置する。

「こんな感じでどうでしょうか?」

 白に近い木製のトレイの上に、同じく白に近いコップと皿が並ぶ。フォークとナイフ、スプーンは焦げ茶色。明るさの差が綺麗に見える。

「フォークとナイフ、スプーンは固めの木を使ってます。あとナイフは刃の部分がギザギザになっているので、木とはいえ肉もちゃんと切れるようになっています。コップや皿、トレイはフォークのような固い木ではありませんが、それでも強度が高いものを選んでいるので、思いっきり投げてぶつけたりしない限り割れたりはしません」

「どう思う? イングリッド」

「はい、コレなら私が使ってもいいと思います」

 合格らしい。

「じゃあ、このセットを七十セット準備してもらえるかな?」

「わかりました、すぐに準備します」

 すぐに注文した物が入った箱が何個も並ぶ。

「あと、盛り付け用の大皿も二十枚ほど欲しいんだが」

 そう言うとレスの父ちゃんは再び倉庫に行って、大皿を持ってきた。

 これも、食器に合わせた白に近い色だ。

「これでどうでしょう」

 俺もこれなら文句はない。

「じゃあ、コレをすべて買うよ」

 そう言うとおれはレスの父ちゃんが提示した金額……相場よりだいぶ下げられた金額を払う。

 母ちゃんの治療費を引いてくれたようだ。

 そして、俺とイングリッドは荷物を仕舞うと店を離れた。


「マサヨシさん、可愛い食器が揃いましたね」

 イングリッドはさっきの食器を気に入ったようだ。

「そうだな、子供が使うにはちょうどいいかもな。さあ、次は寝具だ。これはイングリッドお勧めで頼む」

「わかりました、さあ行きましょう」

 そう言うと、イングリッドは俺の腕を引っ張るように進み始めるのだった。



ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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