賭けに負けた者
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
「ただいま」
そう言いながら扉を開けると、そこにはオッサンと着飾った女性、あとアイナより少し小さい子供が居た。
起きたのね、オークレーン侯爵一族。
んーすごく空気が重い。
ただ、いきなり扉が出てきて、そこから人が出てきたので
オークレーン一族は驚いたようだ。
「マサヨシお帰り」
「おお、主よ帰ったのじゃな」
「お帰りなさいませ、マサヨシ様」
「ん、お帰り」
リビングに居た四人が答えた。
「とりあえず私とリードラ、マールとアイナで監視中」
クリスが俺に報告する。
「飯は?」
「マサヨシ様、食事は出しましたが手をつけませんね。『毒が入っているかもしれない』と言っていました」
マールが俺に言った。
面倒臭いから、そんなことはしないんだがな。
俺は皿の上のものを摘まんで食うと、サラの料理は冷えていても美味かった
「こんなに美味いのにもったいない」
そう言うと、王子はゴクリと唾を飲み込む。
「王子が腹を空かせてるんじゃないのか? 俺はヘルゲ様に『生かして連れてきて欲しい』と言われてるから、毒なんて使わないぞ?」
俺はオークレーン侯爵の方を向いて話した
「ヘルゲを知っておるとは、お前は何者だ?」
オークレーン侯爵が俺に聞く。
「ああ、ヘルゲ様は俺の舅になる予定なんだ。ラウラって娘が居ただろ? その婚約者が俺」
「二十歳になっても男の気配がない『鋼鉄の処女』と言われた娘がおったな。その婚約者ということか」
「そういうこと。だからあんたの邪魔をさせてもらった。まあいろいろ因縁もあったしね」
「最近何をやっても阻止されたのはお前のせいだったのか……」
オークレーン侯爵は苦々しい顔で俺に言う。
「そうかもしれない。ヘルゲ様への何度かの襲撃と拉致は阻止した。そういえばフォランカの手前でイングリッドを襲ったのも阻止した。その前のパルティーモでもイングリッドを襲撃したんじゃない? まあ阻止したけど。王様への呪いを解いたのも俺だね。よく考えると結構邪魔してるな。ついでに言うと、あんたの悪事の証拠を持ってきたのも俺だ」
「お主の、お主のせいでこの国を牛耳ることができなくなった!」
顔を歪めるオースプリング。
「要は悪いことして無理に力を得ようとして失敗しただけだろ? お前の娘が生んだ子供が第一王子なんだから王が死ぬまで我慢すれば、自動であんたには力が入ったはず。あんたじゃなくても息子に入ったはずだ。それを無理して急いだからこうなっただけだと思うんだが」
「儂は国を動かしてみたかったのだ。王が死ぬまで待ったとしても、その頃に儂はおらんだろう。それでは遅い。だから無理をしてでも進めたのだ」
「その欲を押さえることができれば、オークレーン侯爵一族はもう少し長く続いたかもしれないな。まあ、もう結果は出た。お前は貴族籍の剥奪と死罪。そのせいで、王子は廃嫡になるかもしれない。後ろ楯になる者が居ないのだから無理だろうな」
「もう少し……もう少しだったのに……」
オークレーン侯爵は両手を握りしめ呟く。
「あんたは国を手にするために命を賭け悪事を働いた。そしてその賭けに負けたんだ。だから命は胴元に払わないとな」
俺がそう言うと、オークレーン侯爵はがっくりと肩を落とした。
俺の目がオークレーン侯爵の娘に行く。
「アビゲイル様、あんたはアイナの母親。つまり聖女を殺す指示を出したな」
俺が聞くと、
「ええ、あのときは悔しかったのよ。私にできなかった子供があの娘にはできた。『王にとって私が一番だったんじゃなかったの?』って思ってしまった。自分より先なのが許せなかった。自分を止められなかった」
泣きながら言った。
「アイナを殺さず隷属化してドロアーテの町に放り出したのはなぜだ?」
「『聖女を見つけ殺害と子供の捕縛が終わりました』と手の者から連絡があったとき、私は既に王子を産んでいた。子を生む苦しみを知ってしまっていた。そして喜びも。小さな我が子が笑っているのを見ると殺せなかった。『殺さないようにして。あなた達にあとの事は任せるけど、経過が監視できるといいわね』と指示を出したの。その命令に沿って手の者は子供を隷属化して町へ放り出した。でもあの歳で町に放り出される……ある意味一番残酷だったかもしれないわね」
そう言って下を向いた。
「生きていくのが辛かったけど、もうどうでもいい」
さらりとアイナが言う。
「えっ私を憎んでいないの?」
アビゲイル様が驚いてアイナを見た。
「あなたのお陰でマサヨシに会えた。姉や妹ができた。だから私はあなたの事はどうでもいい」
「私もお父様と同じ……急ぎすぎたのね……」
アイナを見ると、そう呟き、アビゲイル様は下を向く。
床に涙の跡ががポツリポツリと増えていった。
「お母様、泣かないで下さい。僕が頑張りますから!」
王子が抱き着く。
「いいの、頑張り過ぎてお爺様も私も無理してしまったのだから、あなたは焦らずゆっくりと人生を生きなさい」
「お母様……」
抱き合う二人。
「マール、サラに言って温かい食事を三人分、もう一度用意してもらえないか?」
マールに言うと、
「かしこまりました」
と言ってマールは調理場へ向かう。
「どんな時でも食事は基本だ。毒なんて入ってないから温かい飯を食うように」
俺はオークレーン侯爵とアビゲイル様に言う。
「王子もたくさん食べてくださいね。おかわりはあります」
そう王子に言ったあと三人から離れた。
「クリス、イングリッドは?」
奴隷ではないイングリッドがリビングに居ないのは当然なので、今どこに居るかクリスに聞いてみた。
「さっきオセーレへ行ったわよ。そういえば言われてたんだ。『私の部屋へ来て欲しい』だって」
「了解」
俺は扉を出しオセーレのイングリッドの部屋へと行った。
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