不安
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
短めです。申しわけありません。
俺が馬車と一緒に帰ると、中からクリスが出てきた。
「あー、マール。マサヨシに寄り添って……羨ましいわね」
マールはクリスに言われて無意識で俺の腕を持っていることに気付いたのか、パッと手を離した。
「で、なによコレ、どこから持ってきたの?」
オークレーン侯爵の四頭立てのデカい馬車を指差して驚いていた。
「おう、クリス。これオークレーン侯爵の馬車。で、中にオークレーン侯爵とその娘と孫が入ってる。絶賛気絶中。ちなみに、娘はアビゲイル・オースプリング、つまり人の国の王の正妻だ」
「って事は、孫って……」
「そう、第一王子」
「なによそのびっくり箱!」
「言い得て妙だな。確かにでかいびっくり箱。中身はオークレーン侯爵はマールに傷をつけた奴ね。ああ、あとイングリッドを狙った奴。娘がアイナの母ちゃん殺した奴。敵と言っても問題ない相手が入ってる。孫については知らんけどな。」
「で、この一族をどうするつもり?」
クリスが聞いてきた。
「俺がどうこうする事じゃないよ。あとでヘルゲ様に渡して国に裁いてもらう」
「あとっていつ?」
「まあ、フィナとドロアーテ行って、イングリッドとオセーレ行って、帰ってきてからかなぁ」
「夜じゃない!」
「そう、夜になるだろうね。そういえばクリスいい所に来た。マールと一緒に三人の監視よろしく。リードラやアイナ辺りにも頼んでいいから」
「えっ、私?」
不意に言われたせいか、驚くクリス。
「何か用事あるの?」
と俺が聞くと、
「えーっと、特には無いけど。面倒臭そうじゃない?」
「ほう、クリスはアイナやマール、イングリッドが絡むことに手伝う気はないと?」
ジト目で見る俺。
「マサヨシ、それは意地悪な言い方ね……。はあ、仕方ない。どうやって監視すればいいの?」
意地悪な言い方をしてしまったがクリスはやってくれるようだ。
「牢屋みたいな適当な部屋があればいいんだが、そんな建物ないしなぁ。まあ、気が付いたらリビングにでも連れて行けばいいんじゃない? ここからドロアーテに行こうと思っても三日はかかる。反撃されても逃げられても俺たちならどうにかなると思うし。とりあえず奴隷じゃない者はリビングに行かないようにしておけば大丈夫だろう」
「わかったわ、あとは任せておいて」
クリスが胸を張る。
「腹が減ったらイライラするだろうから飯ぐらいは食わしてやってね」
「サラに頼んでおくわ」
思い出したのだろう。
「そう言えば、フィナと猫族の二人、あとタロスにテロフ、冒険者たちとエルフだっけ? ドロアーテに行ったわよ?」
クリスが俺に教えてくれた。
「おう、俺もドロアーテ行ってくるわ。じゃあクリス、あとは任せたぞ」
そう言って俺が扉を出すと、クリスが後ろから抱きついてきた。
存在感のある胸が背中に当たる。
「次は私よね」
不安そうな声だ。
「ああ、次はクリスだよ。一番最初に会ってるのに最後まで待たせて申し訳ないと思ってるんだ」
俺はクリスの手に俺の手を重ねる。
「ありがと」
クリスから感謝の言葉が出るとは思わなかった。
「ん? なんでだ? 何でありがとう? 怒られても仕方ないと思うけども」
「それはね、なんだかんだと私の事気にしてくれてるじゃない。私の事が最後になりそうなのも気にしてくれてたんでしょ?」
「そりゃお前の事好きだし。気にするのが当たり前だろ?」
俺がそう言うとクリスの体が熱くなるのがわかった。
クリスが静かになる。
暫くすると、
「でもやっぱり出来るだけ急いでよね。私も早くあなたの妻になりたいんだから」
ぼそりとクリスが言う。
その時、更にクリスが熱くなったような気がする。
「後ろ向いていいか?」
真っ赤なクリスが居るんだろうな。
「いいえ、恥ずかしいからダメ。こんな顔見せられないから……」
「俺は見たいんだけどなぁ。」
俺が、後ろを振り向こうとすると
「絶対ダメ」
と否定する。
「仕方ないね、わかったよ、ドロアーテに行ってくる」
「うん、いってらっしゃい」
そう言うとクリスの手が外れた。
俺は扉を開けドロアーテに向かうのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




