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逃げる貴族

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 ヘルゲ様(オヤジさん)の部屋をノックし「マサヨシです」と言うと、

 いつも通りヘルゲ様の「入れ」と言う声が聞こえた。

 部屋の扉を開け中に入ると、既に準備が完了したヘルゲ様が居た。

「おはようございます。ヘルゲ様(オヤジさん)お待たせしましたか?」

「いや、儂も今準備ができたところだ。して、そのダークエルフの娘は?」

 そういえば、ヘルゲ様はマールを知らなかったな。

「ああ、マールです。オークレーンに傷つけられた仲間ですね」

「ヘルゲ様、お初にお目にかかります。マールと申します。マサヨシ様の下でメイドをしております」

 マールは自己紹介をすると頭を下げる。

「そうか、その者がオークレーンに……」

 その時、部屋の扉がノックされ、

「玄関に馬車の準備ができました」

 とヘルゲ様(オヤジさん)に声がかかる。

 するとヘルゲ様(オヤジさん)

「マサヨシよ、お主はどうする? わしと馬車に乗るか?」

 と俺に聞いてきた。

「俺たちは一応護衛ですからね、馬車の外を走りますよ」

 ヘルゲ様(オヤジさん)にそう答えておく。

「馬を準備してあるのだがな」

 ヘルゲ様(オヤジさん)が気を利かせてくれたのだろう。

 しかし俺は馬に乗れない。

「すみません、俺馬に乗れないんですよ。ですから走って付いていきます」

 それを聞いたヘルゲ様(オヤジさん)

「マサヨシにも苦手なものがあったのだな」

 そう言って笑った。


 ヘルゲ様(オヤジさん)とミスラは馬車に乗り王城へ向かう。俺とマールは数人の護衛とともに馬車に付いていった。

 王城の城門でミスラは馬車の窓を開け城門を守る騎士に対し、

「オークレーン侯爵は来ているのか?」

 と聞くと、

 騎士は敬礼をして、

「ミスラ長官、おはようございます。オークレーン侯爵は来ておりません。その取り巻きの貴族も来てないです」

 と、城の入口を守る騎士は答えた。

 俺はレーダーで王都内にオークレーン侯爵を探したが光点は表示されなかった。

 俺はこの登城命令が「王様」に従うかどうかの振り分けのためのだと思っている。来ないということは、オークレーン侯爵が王に背く気なんだろうな。


 王城に着くとそこには多くの馬車が並ぶ。

 ヘルゲ様(オヤジさん)が馬車を降りると、見たことのある女性……密偵が近づき、耳打ちをした。

 それが終わると、ヘルゲ様(オヤジさん)は俺の方へ近寄り、

「オークレーン侯爵が今朝早く開門とともに病気療養と言って馬車で王都を出た。王が回復したのを知らなかった誰かが許可を出したらしい。あと、アビゲイル様と王子も一緒のようだな。まあ、オークレーン侯爵領へ逃げたのだろう」

 俺にわざわざ情報を教えるヘルゲ様(オヤジさん)

 嫌な予感しかしない。

「儂はできれば戦争と言う形になってほしくない。何とかならんかな?」

 と急に聞いてきた。

「えーっと、何とかするというのは、生かして何とかするって事でいいのですか?」

「そうだ、闇に葬るのは儂としても好きではない。闇に葬って王に変な噂が立つのも良くないだろう。オークレーン侯爵は証拠を表に出し罪人として正当に処分する形にしたい」

「オークレーンだけを捕らえればいいのですか? 他に従うものがあればどうします?」

「アビゲイル様と王子、できればこの二人も連れて帰って欲しい。王が悲しむ」

「あとは?」

「好きにすればいい。とはいってもお前は殺しはしないのだろうがね。儂は王のもとに行く。後は任せたぞ」

 そう言うとヘルゲ様(オヤジさん)は城の中へ入った。


 唖然としながらヘルゲ様(オヤジさん)の後姿を俺は見送る。

「あーっ、ヘルゲ様め! こんなの無茶振りだろ? 昼飯ごろにドロアーテに行かないといけないのに」

 文句を言いながら頭をポリポリと掻く俺。

「マサヨシ様、時間的に無理があるのでは?」

 マールが心配げに言う。

 確かに既に結構な時間が経っている。

 昼までなんてそんなに時間があるわけじゃない。

「無理はあっても、何とかするよ。でないとフィナにも、ミケやクロ、子供たちにも悪い。後に待ってるイングリッドにもね」

「でも方法があるのですか?」

「少々強引になるけどやってみるさ」

 俺はさっそく扉を出し城門の外に出るとレーダーのレンジを広くした。

 そこにオークレーン侯爵の光点を見つける。

 俺はお姫様抱っこでマールを抱き、

「あっ、マサヨシ様……」

 と言う声が聞こえたが、その声を無視して光点に向け俺は本気で走りだした。

 蹴るたびに地面が抉れる。

 後に聞いたのだが、街道が大きく抉れ陥没していたため、怪物が出たと大騒ぎになったらしい。足跡が途切れたところに騎士が倒れていたことで、余計騒ぎになったということだ。

 俺がどのくらいの速度で走っているのかわからないが、しばらく走ると十人ばかしの騎士を護衛に連れた馬車が見えた。鞭を入れ全速力だ。その馬車の位置にオークレーン侯爵の光点があった。

 とにかく急いでいるのだろう。

「追い付いたね」

 俺はマールを抱いたままぼそりと言った。

「俺は今からあの集団を無力化する。当然オークレーン侯爵が居る。もしマールがオークレーン侯爵を殺したいほど憎んでいるのなら、殺しても俺は構わない」

 とマールに言った。

「でもマサヨシ様、ヘルゲ様は生かして連れて来いと言っていましたが? その約束をたがえることになりますが、よろしいのですか?」

「俺がオークレーンを潰そうと思ったのはマールのためだからね。マールがオークレーンを殺したいならそれでいい。ヘルゲ様に何か言われても何とでもするさ」

 マールは俺を見て黙り込んだ後、

「私はオークレーンの記憶との決別に来たのです。だから……殺す気は有りません。マサヨシ様が私のために動いてくれただけで十分です。」

 と言い切ったのだった。

「じゃあ、その方向で動くぞ? 段取りとしては今からあの集団を精霊を使って無力化する。その後はあの馬車を家の前に持って行く」

「かしこまりました。扉で家へ移動させるのですね」

「そういうこと」

 そう言った後、

「フウ、後ろから馬込みで気絶させていってもらえるかな? そのあと馬車をやる前に俺が行くまで待ってて」

 と頼んだ。

 全体の数は多くない、風の精霊であるフウだけで大丈夫だろう。

 フウが抜ける感覚のあと一番後を走る馬がいきなり崩れる。その勢いで騎士が放り出されて地面を転がると動かなくなった。

 後ろで大きな音がしたことで、護衛の何人かがこちらに近づくが、その馬も急に崩れた。そして騎士たちが放り出され転がる。立ち上がろうとする者も居たが、急に力が抜けるように倒れた。

 フウが気絶させたのだ。

 俺は全力で走る馬車に近寄ると、

「フウ、まずは馬車の中の人を気絶させてくれ。そのあと御者を何とかしてくれるか? 馬車は俺が何とかするから。馬車の馬は気絶させないでくれ」

 フウは頷くと馬車へ向かう。

 暫くすると御者が馬を鞭で打つ音が聞こえなくなる。

 御者が気絶したのだろう。

 御者が居なくなり、馬車が揺れ始め暴走を始めたが、俺はその馬車をステータスに物を言わせ強引に止める。

「止まったね」

 引き返してくる騎士が居ないのを気にしていると、

「他の護衛も動かなくした」

 フウが俺に報告してきた。

 前を覗くと馬と騎士が倒れている。

「ありがとな。もう戻ってもいいぞ」

 俺がフウの頭を撫でるとくすぐったそうにするフウ。

「戻る」と言って体に纏わりついた。


 馬車の扉を開けると、オッサンと女性と子供が倒れていた。オークレーン侯爵とアビゲイルそれと王子らしい。特に怪我をした様子はない。それでも一応回復魔法を使っておいた。

「あの権勢を思うままにしたオークレーン侯爵がこんなふうになるのですね」

 マールが、気絶し倒れているオークレーン侯爵を見おろしながら言った。

「栄えるものもいつかは滅ぶってことだろ?」

「でもマサヨシ様がその原因を作りました。私なんかのために……」

「そうか? 俺はマールが笑って暮らせるなら出来ることは何でもするけどな。さあ、マール、帰るぞ。フィナを待たせてしまいそうだ」

 マールは無言で俺のそばに近寄る。

 俺はデカい方の扉を出すと家の前に繋ぎ、馬車を引いて家に帰った。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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