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訣別への朝

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 今回は玄関の前に移動する。

「さあ帰ったぞ。アイナもありがとな。部屋でゆっくりしてくれ」

 俺はアイナをねぎらうと、

「ん、寝る」

 アイナは家の中に入っていった。

 ん?ニャンコ姉弟は?

 二人を見ると、

「こっ、こんなに大きいお屋敷にご主人様は住んでいるのニャ……」

「姉ちゃん、マサヨシ様ってすごいね!」

 家を見て驚いていた。


「じゃあ、俺についてきてくれ」

 俺は二人を連れ使用人用の建物に入る。中の倉庫から寝具一式を取り出すと空き部屋に敷いた。

「じゃあ、ここで寝てくれ。疑われたら『マサヨシが連れてきた』って言えば皆納得するだろう」

「それでこの家の人は納得するのニャ?」

 ちょっと疑っているかな? 

「『ああ、そう』って言われて終わりだろうな。俺、今回のミケみたいなこと多いから多分納得すると思うぞ?」

「姉ちゃんこの布団フカフカだ。こんなところで寝たことない」

 クロがベッドで飛び跳ねる。

「もうやめるのニャ! 恥ずかしいのニャ!」

 真っ赤になってクロを注意をするミケ。

 仲のいい姉弟だ。

「まあ、今日はゆっくり寝てくれ。食事はさっきの家に行けば貰えるようにしておく。わからなければ近くに居る者に声をかけてくれれば問題ないだろう」

「私の仕事はどうなるニャ?」

 ミケが聞いてくる。

「それはミケとクロの生活の準備ができてからだ。服も靴も必要だろ? ああ、そういえば、今日、おばちゃん所に服を買いに行くのか……。家に行けばフィナという女性が居るから、一緒にドロアーテに行けばいい。フィナには言っておく」

「分かったのニャ」

「それじゃ、おやすみ」

 そう言って、ミケたちの部屋から離れた。


 俺は玄関から入りリビングに行くと、

「マスターお帰りなさい」

 そう言いながらアグラが飛んできて俺の肩に止まる。

「ただいま」

「首尾は?」

「ああ、王様は治ったよ。褒美ももらった」

「さすがマスターです」

 俺の肩でぴょんぴょん飛び跳ねるアグラ。

「まあ、アイナのお陰だけどね。ところでアグラ、お願いがある。聞いてくれるか?」

「何でもおっしゃってください」

「ちょっとここで寝るから、明るくなってきたら起こしてもらえないかな?朝一でヘルゲ様のところに行くんだ」

「わかりました。お任せください」

 アグラはソファーの背もたれに止まる。

 俺は毛布を持ち込み、そのソファーをベッド代わりに横になった。


 コツコツと耳を突っつかれるくすぐったい感じがする。

 それが終わると

「マスター、起きてください! 明るくなってきました」

 と言うアグラの声が聞こえてきた。

「ん、ああ、ありがとうアグラ」

 俺は体を起こし伸びをする。

 周囲は薄明るくなっていた。

 あー、体がだるい。ベッドで寝てないのと寝不足の両方だな。

 もうサラとマールは起きているようで、調理場から音が聞こえてくる。

 俺はアグラを肩に乗せ調理場に行った。


 調理場からはいい臭いがしてくる。

 マールとサラは並んで調理中か。

「おはよう」

「「おはようございます」」

 二人は振り向き挨拶をしてきた。

「凄いんですよ、最近はサラがほとんどの食事の準備をやってくれるんです。私は手伝い程度になっています」

 マールがサラのことを誉めるとサラは顔を赤くした。

 確かに見ていると、サラが手際がいいのがわかる。

「木漏れ日亭にも行って、いろいろ教えてもらっているのよね」

「マサヨシ様が美味しいものを食べさせてくれたから、もっと美味しいものを作ろうと思ったんです」

 と嬉しそうにサラが言った。

「俺のお陰って言うならうれしいね。サラは最近は俺より美味いものを作ってる。その辺の食堂よりは、格段に美味いからな」

「あっ、ありがとうございます」

 俺が誉めるとサラはもっと赤くなった。


「忙しいとこ悪いんだが、マール、二名分の食事を追加できるか?」

 俺は頼む。ミケとクロの分だ。

「はい、いつも十人分は余計に作っていますから、問題ありません。ドワーフたちの分を減らせばいいでしょう」

 ドワーフどんだけ食ってんだかね。

「あと猫族が二人ほど増えたから、ウロウロしていても気にしないように。名前は女の子が『ミケ』男の子が『クロ』だ」

 女の子と聞いたときにマールがピクリと反応する。

「今は使用人の部屋に入れてある。『この家に来れば食事はある』と言ってあるから、来たら食事を出してやってくれるかな。あと、フィナに『猫族二人を連れてドロアーテに行って、子供たちと一緒に服と日用品を買うように』と伝えておいてくれるか? これがその代金だフィナに渡しておいてくれ」

 マールに金貨と銀貨の入った袋を渡した。

「フィナさんが出かけるまでに猫族が起きていなければどうすればいいですか?」

 マールが聞いてくる。

「その時はノックでもして起こしてくれないか? 決して怒ったりはしないように。食事が終わるまで待ってやってくれ」

「畏まりました」

 マールが深々とお辞儀をした。


「マサヨシ様はどうなさるので?」

 気になったのか、再びマールが聞いてきた。

「俺は、オークレーン侯爵の件で登城するヘルゲ様の護衛に行く」

「オークレーン侯爵の件なら私も一緒に行ってもいいでしょうか?」

「俺と一緒に来るのか? なぜ?」

「マサヨシ様、私はオークレーン侯爵に傷つけられ奴隷にされました。今でもその時の夢を見ることがあります。いくら口では『マサヨシ様の元に来たから大丈夫』とは言ってもやはり怖いのです。だから、この目で見て私の中にあるオークレーン侯爵にかかわる記憶と決別がしたいのです」

 マールは強い意思が籠った眼で俺を見る。

「決別か……」

 俺はそう言うと肩に居るアグラに向かって、

「アグラ、お前、俺がマールに言ったことを覚えているか?」

 アグラはどういう意図で俺が聞いたのか汲み取ったのだろう、

「フィナさんに猫族たちの事を言うのですね? マスター大丈夫です」

 そう言ってドンと胸を叩いた。

「マール、袋を返してもらうぞ」

 俺はマールからお金の入った袋を受け取るとリビングの机の上に置く。

「じゃあ、アグラ、お前がフィナに伝言しておいてくれ。リビングの机の上にお金は置いておくからな」

「マスター、了解です!」

 胸を張るアグラ。

「サラも人手が少なくなるしネコ族に食事を出してもらわないといけない、大丈夫か?」

 俺は料理を続けるサラに聞いた。

「マサヨシ様、今の私ならどうにでもなります。だからマール様をよろしくお願いしますね」

 サラは振り返りニッと笑う。

「……と言う事らしい。マール、準備してこい! 早くしないとヘルゲ様を待たせてしまう」

 マールは頷き、自分の部屋へ駆けて行った。

「今日はラウラの護衛はいいからな」

 フウに声をかけると、

「ん、わかった」

 と返事があった。


 しばらくするとマールは

「準備できました」

 と言って二階から階段を降りてくる。

 その姿はゼファードのダンジョンを攻略した時の格好である。

「護衛ですからこれでいいですよね」

 ブレストアーマーにスカート、腰には短刀が二振り、肩には愛用のダークエルフの弓と矢筒。

 マールのフル装備。

 備えあれば患いなしとはいえ、ちょっと大げさだな。

 まあ、邪魔なら収納カバンに入れればいいか。

「マールその恰好でいいぞ。じゃあ行こうか」

「はい!」

 俺とマールは扉でヘルゲ様の部屋の前に移動した。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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