治療
誤字脱字の指摘、大変助かっております
俺が先に扉を開け王様の寝室の中に入る。
一応誰も居ないように見えるが天井裏に誰かが隠れている。これはフウに言って気絶させた。
「さて、誰も居なくなったぞ。アイナおいで」
アイナはトタトタと寝室の中に入ってきた。
「ヘルゲ様も入るか? 意識が戻ればそのまま証拠渡してもいいし」
いきなり手順をすっ飛ばすわけだが……ヘルゲ様はどうするかな?
「儂も行こう。しかしこの猫族はどうする?」
「そうだなぁ、ミケ、お前はそこで留守番できるか?」
「はい、ご主人様を待っています」
「ミケ、その部屋を出たら殺されるかもしれない。だから絶対出るんじゃないぞ」
「はい!」
ミケは尻尾をピンと上げ。緊張しながら返事をした。
まあ、殺されると言われたら、そうなるだろう。
「こんな感じで大丈夫そうです。何かあったら俺が責任を取りますよ」
そう言って扉を閉じた。
「じゃあ、アイナ頼むよ」
アイナは法皇の杖を掲げ
「キュアー」
と唱えると王様の体が光に包まれた。
アイナの顔が苦痛にゆがむ。
「ん? どうした?」
「どうした?」
俺とヘルゲ様がアイナの異変に気付き声をかける。
「多分、毒の中に呪いが込められていたのだと思う。毒を解毒できる高位の『キュアー』で治療をしようとしたときだけ発動する呪い。今は私の魔力で防いでいるけど、向こうの術者の能力も高いから返せないの。このままじゃ私の魔力が尽きて王様は呪いで殺される」
治そうとしたら発動する呪いとは趣味が悪いな。
「どうすればいい?」
「マサヨシがリムーブカースを唱えて解呪すればいい」
「了解だ。魔法自体があるのなら使えるはず」
俺は、呪いの解除をイメージし「解呪」と唱えた。
王様は煌々と輝き始めそして元の輝きに戻った。
「マサヨシ、王様の呪いは解けた。お陰でやっと私の魔法も効いたみたい。術者は死んだかもしれない。呪いは解呪されると術者に返る」
アイナがそう言うと、王様の光は収まる。
そこには血色の良くなった王様が寝ていた。
王様を観察していたアイナが
「フルヒール」
と突如唱える。
「どうした?」
「体の組織が毒に破壊されてるから治す」
光に包まれた王様の痩せていた体が筋骨隆々の体になった。
「王の姿が……。病に倒れる前の姿に……」
いろいろ言っていたが王様を心配していたのかな?
ヘルゲ様が泣いていた。
「んっ、ん……。ここは? お主たちは何者だ!」
おっと、王様が目を覚ましたね。
俺とアイナを見て警戒する王様。
「王よ!落ち着いてください」
ヘルゲ様が王様の前に進み出る。
「お主は、ヘルゲ。なぜ儂の寝所に居る!」
そりゃ、疑うよな。
「王よお聞きください!王は毒を盛られ昏睡状態になっていたのです。今のお姿に戻ったのはこの二人の魔法のお陰なのです。覚えておりませんか? 体調が悪くなり、ベッドからも出られなくなりそこで執務をしていたことを。その後昏睡に陥っていたのです」
王様は腕を組み考える。
「そうだ、儂は体調がすぐれずベッドで執務をしていた。しかし今はすっきり目覚め昔の体に戻っておる」
「王よ、あなたは一か月ほど昏睡に陥っていたのです。徐々に弱らされ死も間近でした。それを救ったのがあの者と少女です。少女に何か感じませんか?」
まじまじとアイナを見る王様。
しばらく沈黙が続く。
そして、何かに気付いたのか王様は目を見開いた。
「カミラの子か? 聖女の子か?」
「そうです、聖女カミラ様のお子です。そしてあなたの子でもあります。アイナ様よろしいでしょうか?」
おっとヘルゲ様が、アイナに敬語になっている。
「ん、いいよ」
アイナはそう言うと、ヘルゲ様の意図を汲み、王様に自分のうなじを見せた。
「うなじに並ぶ十字星……。これは、王家の者にのみある印……。儂の子に間違いない」
王様はふと考え、
「カミラは? カミラは生きておるのか?」
とヘルゲ様に聞く。
「残念ながらカミラ様は正室アビゲイル様の追手によって亡き者にされたようです。そしてアイナ様は奴隷に……」
アイナは隷属の紋章も見せた。
愕然とする王様。
アイナに付く隷属の紋章の意味も知っているのだろう。
「急にカミラが居なくなったのはアビゲイルの……。済まぬ、儂がちゃんとしておれば、カミラを守っておれば……」
後悔に顔が歪む王様。
「私はいい、マサヨシに会えたから」
俺を優しく見て言うアイナ。王様は俺を見る。
「マサヨシと言います。アイナの主人ってことになるのかな?」
「主人」という言葉が出た瞬間王様の気配が変わる。
「マサヨシは私を助けてくれた、食べ物も無くさまよっている私に食べ物をくれた。服も靴も住む場所も……。そして、所有者の変更も。奴隷と言っても、何か命令されることもない普通の暮らし」
ヘルゲ様は、
「マサヨシはオークレーン侯爵の悪事の証拠を押さえたり、そのせいで起こった私の館への襲撃を防いでくれたりと、手を尽くしてくれております。また王の毒による暗殺、証拠を見つけたイングリッド殿下の暗殺、これもマサヨシにより防いでおります。オークレーン侯爵の全ての証拠はこちらにあります。王よ見ていただけないでしょうか?」
と言って、ヘルゲ様持ってきていた証拠を王様に差し出した。
証拠を受け取り目を通す王様。
「儂を病死に見せる事も入っていたのだな。王子にあとを継がせ、後見人として口を出すか……」
「その件に関してはオークレーン侯爵の息子からも証言がとれています」
「更にはレンノ子爵を使って裏社会も手中に収めようともしていたのか」
「はい、その通りです」
「オークレーンめ……」
王様は苦い顔をして呟く。
しばらく王様が証拠に目を通すと、
「わかった、あとは儂がやらねばならんことだな。オークレーンは国として潰さねばならんようだ」
一応これで俺の出番は終わりかな?
「してマサヨシとやら、お主はこのあとどうするつもりだ?」
「特になにもしませんよ、あとは王様がやることです。私は家に帰ります」
そう俺は答えた。
「褒美は?」
「要らないですね。ああ、でも、アイナがこの国とは関係ない者として私の元で暮らすことを許してもらえませんか?」
俺が王様に言うと王様はアイナを見た。
アイナは俺に近づき、腕をギュッと持つ。
王様はおもむろに立ち上がると机に行って引き出しを開けた。
「フン、儂に聖女との子はおらぬ。二人の冒険者よ、その方の働き見事であった。そこで少女にはこの短剣を褒美にやろう。いざという時はこれを見せればいろいろ融通が利くだろう」
金銀の装飾に彩られた、握りから鞘の先まで三十センチメートルほどの短剣。そこには大きく紋章が描かれていた。
ヘルゲ様が驚いている。
後で聞いてみるかな。
「マサヨシよ、お前は何も要らんと言うておったな。だがお主も王を治した男だ、それ相応の褒美をせねばならん」
「だったら、私の開墾する予定の土地を私の自治領にしてもらえませんか。私は今、ドロアーテの辺境で土地を開拓し孤児院を作り、産物を作ろうとしています。できればそこに町を作りたい。そこは国の影響が少ない賑やかな場所にしたい。種族で差別されないような場所に……。だから、私の開拓した場所で自治をさせてほしいのです」
俺が言うと、王様は紙を取り出し、何かを書き印璽を押す。
王が書いたって印ね。
「『お主が開拓した土地をお主の領土とする』と書いた。つまり、お主が開拓した土地はお主の物だ。税金は払わんでもいい。ドロアーテの辺境は森林だけの場所だったはず。好きなだけ開拓すればいい。ただし、ギルドへの申請はしてくれ、どこまで開拓したかわからんのでな」
俺は書類を受け取った。
大盤振る舞いだが大丈夫なのか?
俺の特異性を知らないから言ってるんだろうが……。
まっいいか。王様も一度言ったことを反故にはできないだろう。
書類もあるしね……。
「これで二人に褒美を渡すことができた」
満足そうに国王は頷いていた。
「ヘルゲよ、今日はもう帰るのか?」
王様はヘルゲ様へ聞く。
「はい、王の元気な姿も見れましたので帰ります」
「それでは、朝もう一度来てもらえるかな?」
「承知しました。王よあなたの元気な姿に驚く皆の姿が楽しみですな」
ヘルゲ様は本当に楽しそうだ。
「それでは、王よ失礼します」
ヘルゲ様のその言葉を聞き、俺は扉を開けた。
「マサヨシよ、それは?」
王様が聞いてきたが構わず、
「それでは私どもも失礼します」
と言って、ヘルゲ様の部屋に戻った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




