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襲撃

誤字脱字の指摘、大変助かっております。

 ノックをし、「マサヨシです」と言うと。

「入れ」

 ヘルゲ様(オヤジさん)から返事があった。

 俺たちが中に入ると、珍しくヘルゲ様(オヤジさん)が執務用の机に座っている。

「珍しいですね、その机に座っているなんて」

 俺はニヤニヤしながらちょっと嫌味っぽく言った。

 まあ、原因は俺なんだろうけど。

「お前が忙しくしているんだろ?  お前のお陰で、オークレーンの息子も取り巻きからも証言が取れたわけだが……。あとは王さえ意識が戻れば、オークレーンは潰されるだろう。でな、一つ聞きたいんだが……」

 ヘルゲ様(オヤジさん)は俺をジロリと見ると、

「王の寝所に行っただろ?」

 と聞いてきた。確信があるのか言い切っている

「えーっと、王の寝所と言うと王様の寝室でいいんですよね」

 ヘルゲ様(オヤジさん)は頷く。

 俺は宙を見上げ頭を掻きながら、

「行きました。はい、行きましたとも。俺の扉は一度行かないと使えませんから」

 と答える。

「やはりか……。天井裏に居た奴を気絶させただろ?」

 ああ、おれが「精霊で無力化させられる」ってのを密偵から聞いたかな? 

「はい、無力化しましたけど」

「お陰で王が殺されずに済んだ。捕まった刺客は毒を所持していたからな」

「はい? ああ、あれ、刺客だったのですね。無力化はしましたが放置していたので……」

 俺は再び頭を掻きぺこりと謝る。

「まあいい、お陰で助かったのは間違いない。刺客は明るくなって逃げようとしたところを捕らえたようだ。明るくなって黒服は目立つだろうからな。下も着ていたようだが、王宮内では似合わない民の服だったようだ。本来は闇夜に紛れて王城を出て街に逃げる予定だったのだろう」

 効果的に紛れ込めなかったわけか……。

「刺客は誰に依頼されたので?」

「オークレーン侯爵の手の者だと証言している。儂が証拠と息子を確保したことを知って早急に王を消そうとしたのかもな」

 ん? 何でだ? 

「不思議そうな顔だな。王の後継ぎは、オークレーンの娘が産んだ子だ。王が死ねばその子が跡を継ぐ。そして後見人としてオークレーンが立てば、悪事などもみ消すことができるだろ?」

「そんなもんですか?」

「そんなもんだ。まあ、権力を持っている者が力を使えばどうにでもなるって事だよ。お前と一緒だな」

 ヘルゲ様(オヤジさん)は俺を見てニヤリとする。

「お前も、自分に降りかかるものは力で排除できる」

「えー、俺とオークレーン侯爵が一緒ですか? 出来るだろうけどしませんよ?」

「ラウラや儂を助けておいてよく言う」

 ヘルゲ様(オヤジさん)ニコニコなのはなぜ? 

「あれは、急ぎでしたからね」

「力で何とかしただろ?」

 ああ、おれを弄って楽しんでいるのね……。

「はいはい、その通りです」

 俺は諦め、苦笑いしながら同意した。


 すると、アイナが威圧を使う。

「ぐっ」

 ヘルゲ様(オヤジさん)が顔をしかめる。

「マサヨシをいじめるな」

「アイナ、いいんだ。ヘルゲ様のちょっとしたイタズラだ。苦笑いで済む」

 アイナが威圧をやめると、

「王の血筋の印もあるのだな。王女の威圧か……。現王のものよりも格段に強い。もし、この国をこの子が継ぐなら儂は喜んで仕えるだろう」

 わざわざ、アイナの前にヘルゲ様(オヤジさん)は行き、控えた。

 ああ、回り込むときに印を見たのね。

 アイナ捜索時に誤魔化した印も既に復活していた。

「この子はやらないぞ。それに、王様も死んでないだろ? 生きている間に良い世継ぎになるように教育すればいい」

「私はマサヨシの妻になる」

 二人で否定する。

「残念だな」

 ヘルゲ様(オヤジさん)が言う。

「残念で結構。俺がアイナの居場所を作るからいいよ」

「マサヨシから離れない」

「まあ、儂はもう引退していることになっているから、儂がお前のところに行ってもいいのだがね」

 おう、爆弾発言。

「んー、だったら、孤児院の先生になってもらおうかな? 読み書き剣術」

 冗談で言ってみたのだが、

「おぉ、それは楽しそうだ。予約しておこう」

 嬉しそうにに答える。

「えっ、本当にいいんですか?」

「お前のお陰で、王都も少々静かになりそうだ。ミスラでも何とかするだろう。久々に子供を相手するのも楽しそうだしな」

「はっ、はあ……。予約って……」

「だから早く終わらせないと……お前も、王女も、儂も……」

「まあ、そのつもりですがね」

 俺は頷く。


「ヘルゲ様、治療が終われば一度ここに戻ったほうがいいんだろ?」

「その方が助かる。お前らの報告の後、儂は王への謁見の申請をする。謁見が叶えば証拠と証言の提示を行う」

 ヘルゲ様(オヤジさん)はやる気なのだろう、真剣な顔だ。

「護衛は? 付いていこうか?」

「頼めるか?」

「義理のオヤジになる人に手は惜しまないよ」

 ヘルゲ様(オヤジさん)は嬉しそうだ。

「それじゃ頼む。王女も一緒に行こう」

「マサヨシと一緒なら行く」

 アイナがそう言った時、バストル家の周りに光点が近寄る。結構多い。五十は越えている。

「ん? ああ、また襲撃のようだ、ヘルゲ様の殺害か、オークレーンの息子を助けに……または、殺害に来たかな? なりふり構ってられないようだね」

「マサヨシ、それは本当か? お前はなぜわかる?」

 ヘルゲ様(オヤジさん)は驚いていた。

「そんな事よりヘルゲ様、俺は外に迎撃に出るよ」

「わかった。儂は家の者を集めて防御に努めよう」

 ヘルゲ様(オヤジさん)が部屋を出ると、家令を呼ぶ声が響く。

「アイナはヘルゲ様に付いての護衛」

 俺がアイナを見て言うと、

「わかった」

 と答え走りはじめた。


「さあみんな、出番だ」

 俺が言うと纏わりついていた精霊たちが俺の目の前に現れた。

「賊の生死は問わない。一つはヘルゲ様とアイナを含む館の人間の護衛。もう一つはオークレーンの息子を含む捕えた者たちの護衛。できれば家の物は壊さないでね」

 頷く精霊たち。

「配置はスイが館の人間のところで待機。俺は捕えた者たちが居る牢屋に行く。残りは庭で迎撃、生死は問わない」

「「「「わかりました」」」」

 そう言って、精霊たちが散る。


 光点はすでに敷地内に入っていた。

 俺が牢屋の入口に行くと、そこでバストル家の鎧を着た騎士が戦っていた。

 襲撃者のほうが身動きがよく、苦戦しているようだ。

 俺は銃をイメージし襲撃者を撃つ。

 頭が爆ぜ、崩れるように襲撃者は倒れた。

「お前、大丈夫か?」

「誰だ、お前!」

 おお、痩せた俺は知らないか……。

「俺はマサヨシ。ここの防衛に来た。館の中でヘルゲ様が防衛線を張っている。そっちに向かってもらえないか?」

 居ないほうが助かる、足手まといだ。

「あっ、鋼鉄の……。えっと、ラウラ様の婚約者! わかりました館の護衛に回ります」

 そう言って館へ向かった。

 あいつ絶対「鋼鉄の処女」って言うつもりだったんだろう。


 んー続々と敵が……来ない。暇だ……精霊たち頑張ってるみたいだ。

 とはいえ、一匹変なのが来たな。

 視覚では見えないが、精霊が見える俺には風の精霊に包まれた何かが見えた。

「おい、そこの……」

 と声をかけたが、反応はない。

 漫画の世界だと、汗のマークがついてるんだろうな。

 俺がじっと見ていると、更に汗のマークが増えたような気がする。

 さらにじっと見る。

 我慢できなくなったのか、

「ニャッ!ニャンで私の姿が見える!」

 精霊が消えて獣人が現れた。三毛猫? 細く長い尻尾だ。

「ニャ? ああ、猫の獣人? でどうした、ここに居るって事はオークレーンに雇われたのか?」

 猫の獣人は「ニャ」って言うんだ……銀狼族のフィナは「ワン」とは言わないけどなぁ。

「そうニャ! お金が欲しかったから仕方なかったのニャ。私はお姉ちゃんだから、病気の弟にお金が欲しくて……。私はたまたま風の精霊と仲が良かったから、隠れるのが得意だったからこの仕事に雇われたのニャ。『騒ぎを起こす間に息子を助けろ』って言われたのニャ」

「マサヨシ、危ない!」

 そう言って、クレイが石つぶてを飛ばす。ちょうど猫の獣人に当たる位置だ。

「ひいっ……」

 体を丸め防御する猫の獣人。

 俺はさっと動いて石つぶてを掴んだ。

 結構痛いぞ、これ当たったら死ぬ奴だろ? 

「クレイ、この子はいい。ところで周りの状況はどうだ?」

「館の中に入った襲撃者は居ないわね。庭に居るのも全部死んでるか行動不能。ああ、その子のように精霊を使っている者もいないから安心して」

 おっと、ちょっとドヤ顔

「ありがとう、エンとフウに声をかけてヘルゲ様のところで護衛しておいて」

「わかったわ」

 クレイは去って行った。


「悪かったな、怖かっただろ?」

「あっあなたは……」

 恍惚としながら、猫の獣人が体を摺り寄せてくる。長い尻尾がフワリフワリとゆっくり動く……。

「何やってんの?」

「はっ、無意識に……」

「無意識?」

 猫の獣人は真っ赤になりながら俺に言う。

「猫族の本能なのニャ。気に入った人に体を摺り寄せるのニャ」

「えっ、気に入ったって事?」

「嫌ですか? 猫の獣人はあまり好まれませんから……」

 こういう時は普通の戻るのね。

「いや、スタイルもいいし、女性としては十分だろうが……」

「でしたら……」

 猫の獣人はグイグイ来るが、俺は他にあるだろうと思う。

「まあ、それよりも? 弟の病気だろ? それを忘れちゃいかんだろう?」

「あっ……」

 こいつ忘れてたぞ……。

「とりあえず名前を教えて。猫の獣人って呼ばれたくないだろ?」

「産まれてから名前なんて無いニャ。『猫の獣人』か『そこの女』で呼ばれるニャ。どうせ私のような獣人は道端の石みたいにみられるニャ」

 人種差別もあるようだ。

「でさ、名前が無いと呼び辛いから適当な名前を付けていいか?」

「お願いしますニャ」

 キラキラさせ期待の目で俺を見る

「だったら、『ミケ』だな。俺の住んでいたところのそんな毛色を表す言葉だ」

「ミケ、ミケ、ミケ……」

 何度も名を呼び確かめる。

「ミケでいいニャ。ミケなのニャ」

「よし、ミケ! 今は無理だが後で弟の病気は治してやる。だから、この家に居ること。家主には俺が話すから」

「ありがとうなのニャー!」

 ゴロゴロと喉を鳴らしながら俺にすり寄ってきた。

 猫族は人よりも若干猫寄りなのかな? 


 俺は館を探すが、ヘルゲ様もアイナも見えない。

 マップで確認し、ミケを連れヘルゲ様の部屋へ入った。

「マサヨシ、聞くまでも無いのだろうが大丈夫だったか?」

「ええ、大丈夫です。ヘルゲ様の方は?」

「儂も問題ないな。配下の者には庭の掃除を任せた」

 動きが早いねヘルゲ様(オヤジさん)

「で、気になるのだが、後ろの猫族の者は何者だ?」

「ああ、襲撃者の一人ですね。元々敵意があったものではありませんからご安心を」

「敵意の無い襲撃者とはどういうことだ?」

 不思議そうな顔でヘルゲ様(オヤジさん)が聞いてきた。

「オークレーンの息子を助けるだけの仕事だったようです。ミケ、隠れてみて」

 ミケは

「精霊さん、私に力を貸してニャ」

 と言う。すると、ミケの姿は精霊の陰に隠れ見えなくなった。

「このように隠れる能力が高かったため、襲撃者の陰に隠れてミケがオークレーンの息子を助ける予定だったみたいですね。ミケ戻っていいよ」

 ミケがスッと現れた。

 そして、喉をゴロゴロさせながら俺にすり寄ってくる。

 アイナ登場。

 ちょっと怒ってらっしゃるかな? 

「マサヨシ、その子どうするの?」

 ちょっと強めの声。

「ああ、ミケの弟が病気らしいから、治療して俺の孤児院で手伝ってもらおうかと……。人手足りないだろ?」

「本当?」

「私はご主人様の妾になりたいのニャ。猫族の妾は多いのニャ。ザラザラした舌がいいって聞いたことがあるのニャ」

 おっと、ミケからの爆弾発言。

「マサヨシ、話が違う!」

 アイナが反応!

「ミケ、俺は妾になれなんて言ったことないぞ?」

「私がなりたいのニャ!」

「妾にはしないからな! 孤児院で働け!」

 ミケはしょぼんとすると

「わかったのニャ!でも諦めないのニャ……」

 不穏な言葉を言わないように。

 アイナがピクリと反応する。

「修羅場、修羅場」

 ヘルゲ様(オヤジさん)がニヤニヤ俺とアイナ、ミケのやり取りを見ている。


 話を逸らさなくては……。

「そう言えばミケ、今が本来の姿なんだが、いつもは違うんだ。みんなおいで」

 そう言うと精霊が俺の体に戻る。あっという間にメタボ出来上がり。

「ご主人様がデブに変わったのニャ。匂いでわかるけど別人に見えるのニャ」

「そう、いつもはコレだから。間違えないでね」

「わかったのニャ」

 ミケが頷く。


 揉めている間に夜が更けてきた。

「ところでヘルゲ様、王宮に行っている間このミケを預かってもらえない?」

「別にいいが、一応襲撃者だ。部屋へ監禁する形になるが、いいか?」

 そりゃ、いきなり信用する訳にも行かないだろうな。

「それでいいです。いいな、ミケ。俺はアイナと用事があるから、この屋敷の部屋で待っておく事!」

「わかったのニャ。私は聞き分けのいい女だからちゃんと待っているのニャ」

 いい女アピールをするミケ。

「私だっていうことは聞く」

 アイナが割り込む。

「はいはい」

 俺はパンパンと手を叩きながら言う。

「じゃあ、アイナ、そろそろ行くぞ」

「ん」

 俺は扉を出して王様の寝室へ繋ぐのだった。


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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