怒られた
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
「じゃあ、今夜な」
そう言ってアイナの部屋から出る。
すると、
「マスターーー、発見しましたぁーー!」
凄いスピードで突っ込んでくるアグラ。
ひょいと避けると、アグラは廊下に突き刺さった。
「マスター、酷いですぅ……」
ヨヨヨヨって感じでしなだれた態勢でアグラが言ってくる。
フクロウのくせに器用な奴だ……。
俺はアグラを両手で持ち上げ、
「悪い悪い、勢いが凄かったんでな。無意識に避けたみたいだ」
そう言いながらアグラの頭を撫でる。
「グスッ。マスターは意地悪です。マスターが起きた時、起こしてくれたらいいのに……」
アグラはプイと顔をそむけた。
「と言うか、朝お前が起きなかったのが原因だろ? それに気持ちよさそうに寝ていたぞ?」
「それでもです!」
んー、困った。
菓子をやってみるか……。
「そういや、アグラって食事取ってないよな」
「はい、私には食事は必要ありませんから。魔力があれば問題ありません」
何でそんなことを聞くのだろうって感じかな?
アグラは首を傾げながら答える。
「でもその格好からして食事は可能?」
「はい、食事自体は可能かと……」
「これ食ってみるか」
俺は収納カバンからメレンゲ焼きを取り出す。
「何ですかこれ?」
不思議気にメレンゲ焼きを見るアグラ。
「お菓子だ」
「お菓子? 人が食べる嗜好品ですね。それを私が?」
「そうだ、食ってみろ。今、俺とアグラが頑張っている理由がわかる」
コツコツと啄みながら、メレンゲ焼きを食べる。
「なっ何ですかコレ! 止まらないです」
そう言いながらメレンゲ焼きを啄み続ける。
「俺たちはこれを上回るものを手に入れるために頑張っているんだ!」
「はい! でも、できればもう一ついただければ」
俺はもう一つメレンゲ焼きをやる。
ふう、避けた件は忘れたな……。
「さっきのこと忘れてると思ってるでしょ?」
いきなりアグラが俺に言う。
お前はエスパーか!
「いっ、いやぁ、そんなつもりはないけどねぇ」
「まあ、いいです、許してあげます。ですから私にもお菓子くださいね」
優しげな声に戻って、アグラが言った。
「ああ、マスター、レッドヴェッチとホワイトヴェッチが結構な量ドロップしてますから、そろそろ回収しておいた方が……」
「そう言えば、依頼してたけど……。あんまり日が経ってないぞ?」
「マスター、レッドヴェッチとホワイトヴェッチのドロップ率上げてますから。狩ればドロップされると思ってください」
アグラなぜドヤ顔?
「どのくらい出てそう?」
「一万は越えてるんじゃないでしょうか? 一応千粒ほどを紙袋に入ってドロップするようにしてありますから、一千万粒?」
おぉ、出来るフクロウ、アグラ。計算バッチリ。
「じゃあ、後でカリーネのところに行ってみるか」
今日はゼファードのカリーネの家の前へ扉で行き、そこから冒険者ギルドへ向かう。
いつもギルドマスターの部屋へ直通で行くのも問題ありな気がするからだ。
たぶん職員には「ギルドマスターのいい人は変な奴」と思われているんじゃないだろうか……。
いつもの両開きの扉を開け俺はギルドに入る。
ギルドの職員は俺がカリーネのいい人だと知っているので対応が丁寧だ。空いている職員が「いらっしゃいませ」と呼んだ。
ただ、冒険者にとってメタボが登場するのはいじりがいがあるようだ。
「ここはデブが来るようなところじゃないぞ?」
冒険者の声が聞こえた。
心の中で思う。俺はデブではない。それに今はメタボでもない。
まあ、言わないけど。
「擬態しなきゃいいじゃない」とクリス辺りに言われそうだなぁ……。
そして俺の周りをパーティーが囲む。
「ここはデブが来るようなところじゃないって言っただろ?」
リーダーらしいごっつい男が俺を威圧してくる。
「依頼を出していたもので……その依頼物の回収に来ました。それでは受付けの方へ向かいますので……」
俺の目的を言い移動をしようとすると、冒険者の一人が俺を躓かせようと足を出してきた。
んー、下手に出て終わらせたいんだけどなぁ。
ちょっとイラっとしてくる。
その足を軽く踏み折った。
「ボキッ」という音がすると、足を出した男が、
「いてぇーー」
俺を躓かせようとした冒険者は足を抱え片足で跳ね回る。足は変な方向を向いていた。
跳ねるほうが痛いと思うのだが……。
「あっすみません」
とわざとらしく謝っておく。
気に障ったのか、他の冒険者が武器に手を添えようとした。
その時、この騒ぎに気づいた男性ギルド職員が、
「マサヨシさん、冒険者のパーティーをからかわないでください! あーあ、一人の足を折っちゃって……」
と止めに入る。
「んーでも、冒険者って舐められたら終わりって聞いたことがあるけど、それでもダメ?」
「ダメです、格下過ぎます」
「えー」
「いくら『ゼファードのダンジョンを踏破』して、『ギルドマスターのいい人』だとしてもダメです」
男性ギルド職員が「ゼファードのダンジョンを踏破」と「ギルドマスターのいい人」を強調している。
わざとだな……。
その話を聞いた冒険者たちの顔が変わった。
「えっ、マジか」
「リーダー、どうするよ?」
とか、声が聞こえる。
すると、騒ぎを聞きつけたカリーネ登場する。
「まーさーよーしー。何やってんの!」
受付けの向こう側で腰に手を当て仁王立ちである。
「レッドヴェッチとホワイトヴェッチを回収しようと思って、久々に入口から入ったら絡まれてね」
俺が正直に話すと、
「あなた、今の状態じゃパッとしないんだから、気をつけないと。冒険者って弱いと思ったら絡みたくなる者も居るんだから」
んー、メタボな俺ってパッとしないのか。
「俺のせい?」
「そう、あなたのせい。痩せた格好なら多分絡まれなかったわよ」
痩せただの太っただのと、周りは訳がわからんだろうな。
「はいはい、俺のせいですよ」
不貞腐れながら俺が足を折った冒険者に近づくと強めの回復魔法をかけてやった。すると折れ曲がっていた足が元に戻る。
「痛くない、痛くないぞ!」
大喜びする冒険者。そのあと、
「バカにしてすみませんでした」
と冒険者たちは素直に謝ってくる。
「見た目に騙されないように。俺みたいに力を見せていない冒険者も居るんだから……」
俺が上位者からの教訓めいたことを言ってごまかすと、
「あなたの場合はやりすぎ」
チクリとカリーネに注意された。
「あなた、こっち来て」
俺はカリーネにギルドマスターの部屋へ連れて行かれる。
「もう、気にしなくていいから直接ここに来て!」
プンスカ怒るカリーネ。
「すみませんでした」
俺は素直に謝っておく。
「で、レッドヴェッチとホワイトヴェッチの種だったっけ?」
カリーネから怒気が消える。
「そう、引き取りに来た」
「あれは、低レベルの冒険者の懐を温めるのに役立ってるわ。ありがとう」
「いえいえ、俺も集めてもらえるんだから助かる」
扉がノックされると扉が空き男性ギルド職員が大きな箱を持ってくる。
「そこに置いて」
カリーネが応接セットの机の上を指差すと、男性ギルド職員は箱を置いた。
「今どのくらい集まってるの?」
「七千五百二十五袋だったと思います」
「ありがとう、あとはこっちでやるわ」
「わかりました」
そう言うと、男性ギルド職員は部屋を出ていくのだった。
「まあ、そんな感じで集まってるわ。後はお金を払ってもらえればあなたのもの」
「えーっと銀貨七十六枚でいいか? お釣りはいつでもいい」
俺は銀貨を出す。カリーネはそれを受け取る。
「わかったわ、それじゃこれ仕舞っておいて」
とカリーネが言ったので、俺は収納カバンにレッドヴェッチとホワイトヴェッチの種を仕舞った仕舞った。
「それじゃ、俺、帰るわ。早速種も撒きたいし」
「そう……。今度はちゃんとギルドマスターの部屋へ来てね。騒ぎは勘弁よ!」
「すみませんでした」
俺は謝ると扉を出して家に戻った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




