初めてのお使い?3
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
領主先導で俺とイングリッドは物件へ向かう。
三階建ての建物と二階建ての建物の間に立つと領主は説明を始めた。
「こちらが取り壊し予定の建物でございます。この三階建ての建物が学校として、ちょっと離れたこれよりも幅の狭い三階建ての建物が寄宿舎として使われていました。築三百年程度です」
建物を見ると窓にはガラス、構造は木の柱で作られており壁は漆喰のような物で真っ白に塗られている。まだ綺麗だと思うのだが……。
「マサヨシさん、中に入ってみましょう」
俺はイングリッドに引っ張られるように学校の中に入った。
三十人から四十人は入れそうな教室がずらりと並ぶ。一階で三部屋。職員室と校長室っぽいので五部屋。
二階や三階に上がろうとすると階段がギシギシと音がした。
古いから腐食が激しい部分もあるようだ。
三階の教室の中にはシミ。
雨漏りということだった。
この学校、二階に上がると六部屋、三階も六部屋、この建物だけで十七部屋ある。各階の両端にトイレ完備。十分な大きさだ。
「これで老朽化しているの? 手を入れれば使えるだろう」
俺がぼそりというと、
「魔族では、目立って修理というものをしませんね。外側が綺麗だったらいいという傾向があります」
とイングリッドが言った。
「外壁は綺麗にするが、中身はあまり手を入れない?」
「はい、そういうことになります。『魔族が作る建物は堅牢であり不具合など起こるはずがない』という考え方があり、特に貴族や金持ちは新築以降外壁以外は手をつけません。不具合ではなく別の意図で改造することは有りますが……。基本、館や家に不具合が出始めると建て替えるのです」
「そう言えば、この建物も『三百年経った」と言っていたな。木造で内装に手をつけず三百年間問題ないなら魔族の建築技術は凄いんだろう。ただ俺が求める建物としてはちょっと物足りない、調理をするような場所も同時に食事できるような場所も無いからな」
「そうですね、勉強をするには問題は無いようなのですが。食事に関してはあまり考えられていません。この建物は勉強専門と考えたほうがいいでしょう」
「まあ、ドワーフたちだったら、アウグストの件を言えば必死になってやりそうだがね」
悪い顔をしているんだろうなぁ……。
「アウグスト? 建築家の?」
イングリッドが俺の言葉を聞いて反応?
「ああ、ドワーフの大工の棟梁、ベンヤミンって言うんだけど、こいつがイングリッドを上回るアウグスト好きでな」
「フンフン」と頷きながらイングリッドは聞いている。
「クリスの母ちゃんの館があった場所にあるはずの外壁と庭にあったものを全て持って帰ってくれというわけだ」
「えっ、そんなものまで残っていたのですか? なぜ回収しなかったのですか!」
イングリッドの圧が凄い。
「なぜって言われても、価値を知らなかったしなぁ。クリスの母ちゃん絡みじゃなきゃ、あの館でさえ回収しなかったぞ?」
「ああ、すべてが揃ってこそのアウグスト様の建築なのに……。外壁、庭、建物、家具全てが揃ったものなど見たことがありません」
イングリッドの目の焦点が合っておらず、ちょっとヤバい。
こいつもベンヤミン並みだ。
「おーい、戻って来い」
俺が声をかけると、イングリッドの目に光が戻る。
「ハッ、私は何を……」
「アウグストの……」
「アウグスト様の……」
再びモードに入りそうなので
「おい、ちょっと待て!とりあえず寄宿舎のほうを見てみるか」
イングリッドは元に戻り。
「はい!」
と言って、再び俺の腕に抱きついてきた。
俺は「アウグストの話はしない」と心に誓うのだった。
寄宿舎側に行くと、さすがに調理場は整備されていた。食堂もあったが座れても百人はいかないな。部屋は四人部屋が一階に四部屋、二階三階には四人部屋が四部屋に、個室が十部屋。総勢で七十人程度のようだ。
「なぜこの寄宿舎を取り壊すのですか?」
領主に聞いてみると。
「既に新しい校舎の近くに新しい寄宿舎があります。寄宿生についても新しい寄宿舎に移動しております。古い寄宿舎は不要になりました。残しておいて倉庫のように使おうという話も出ましたが、不具合が出ているあの校舎と同年代に作られていることから、不具合が出る可能性が高いと考ました。そこで、校舎と同時期に取り壊そうということになったのです」
「では、この二つの建物は要らないと?」
領主に聞くと、
「そうですね。この学園都市としては必要ありません。王にも報告してあります」
そう教えてくれた。
「イングリッド、この二つに決めようと思う。いいかな?」
「マサヨシさんがいいと思うならどうぞ?」
「もう、この建物を撤去してもいい? 国王には俺の方から言っておくから」
「わかりました。でもどうやって撤去を?」
不思議そうにする領主。
「俺は魔法使いなんですよ」
そう言って、寄宿舎に収納カバンを向けると。寄宿舎が光り俺のカバンに入る。そこには基礎の分だけ凹んだ土地が残った。
唖然とする領主。
続いて、校舎もカバンに収納する。
再び唖然とする領主。
「じゃあ、いただいていきます。イングリッド、国王のところに戻るぞ」
そう言って、俺とイングリッドは固まる領主を置いて馬車の方へ戻った。
国王とウルフは馬車の前で俺たちを待っていたようだ。
ウルフは俺と目が合うと目をそらした。
「マサヨシ、イングリッド、どうだった?」
俺とイングリッドを出迎える国王。ウルフは嫌そうな顔をしていた。
「古いけどいい感じだったよ」
「お父様、いい物件を探していただきありがとうございます」
俺とイングリッドの二人が気に入ったってことで、国王はニコニコである。
「建物は勝手に回収したけど、問題なかったかな?」
俺が国王に聞くと、
「回収? 元々建物だけとは聞いていたが、なぜだ?」
国王は不思議そうに聞いてきた。
「それは、建物だけ貰って俺んちに移設しようかと……」
「どうやるんだ、解体しないと運べないだろう?」
国王はさらに不思議そうな顔をする。
「イングリッド、オッサンにはカバンの事は言ってある?」
「いいえ、お父様にはまだ言っていません」
イングリッドは答えた。
「カバン?」
国王は再度聞いてくる。
「この収納カバンは俺の魔道具です。結構大きなものまで入るので、校舎と寄宿舎はこの中に入れました」
「またまたぁ、マサヨシ、そのカバンにそんなものが入るはず……が……」
イングリッドの目が笑っていないのを見た国王は
「イングリッド、マサヨシの話は本当なのか?」
とイングリッドに聞く。
「私もカバンの中からアウグスト様が作った館が出てきて驚きました」
あれ? ちょっと話が逸れた?
「何、アウグストだと?」
えっ、国王も反応。
「そうなんです、外壁も庭も残っているらしくて、完全に復元できそうなんです」
「おまえ、そんな貴重なものがマサヨシの家に?」
ああ、イングリッドのオタクな部分は国王譲りか……。
「盗賊が根城にしていたのを討伐してカバンに仕舞っていたらしいです。館の修復はまず、孤児院ができてから……だから、もう少し待たなければいけません」
おっと、話が戻った。
「マサヨシ、孤児院で何か手伝うことはあるか?」
俺の肩を持ち国王が俺に聞いてきた。
「急に何を?」
「孤児院ができればアウグストの館の修復が始まる。急がせるなら手伝うのが一番だろう?」
「そうですねぇ。料理人が居ると助かりますね」
元々依頼しようと思っていたところだったから助かる。
「五人か? 十人か?」
「ああ、とりあえず一人でいいですよ? うちで料理をする者だけでは人手が足りなくなってきただけなんで」
「わかった、早急に手配しよう」
んー、アウグストって影響力あるのね。
「ああ、校舎と寄宿舎の代金はいくらぐらいに?」
俺は国王に聞く。
「要らんよ、どうせ金を払って解体する予定だったものだ。お前にやる」
「それは助かるけども……」
「早く孤児院を始めてアウグストの館を完全修復してくれ。その時は儂も見に行きたい」
結局それなのね。
「だったら、ありがたく貰っておくよ」
こうして、中古ながら孤児院に仕えそうな建物を手に入れることができた。
「イングリッド、どうする? とりあえず、俺は帰るつもりだが?」
「そうですね、私もマサヨシさんの依頼が終わったので、用事は無いのですが……」
「えっ、帰るのか?」というような悲しい目で国王とウルフはイングリッドを見ていた。
「お父様とお兄様が悲しそうな眼をしているので……。今日は二人と一緒に居ます」
「そうしてやってくれ。俺は家に帰る」
「私も明日には帰りますね」
「わかったよ。待ってるぞ」
そう言って俺は扉を出すと家に繋ぐ。そして家に帰るのだった。
結局昼は何も食べなかったな。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




