ドワーフたちの引っ越し2
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
最初の投稿後、ちょっとキリが悪かったので追加してあります。
俺はベンヤミンの家の前に着く。
家の前にはのこぎりや金づちなどいろいろな道具が並んでいる。家の奥からも音がするので、まだまだ道具は要るみたいだな。
「おはようさん」
俺が入口から声をかけると。
「おう、旦那待ってたぞ? 思ったより遅かったな」
ベンヤミンが家から出てきた。
顔色が良くない。二日酔いかな?
「約束通り、呼び捨てさせてもらうよ?」
「飲み比べに負けたんだ、仕方ねぇ」
「じゃあ、ベンヤミン。ちょっと俺の前に来てくれる?」
「何だよ、旦那」
そう言いながらベンヤミンは俺の前に来た。
俺は二日酔い用の魔法をベンヤミンにかける。
「おっ、おお、旦那! 気持ち悪さが無くなって体が軽くなる。ドワーフが二日酔いってのも情けなくてな、我慢してたんだ」
意地を張ってたか。
「弟子たちも呼んできてもらえる?」
「ああ、ちょっと待ってな。おーいお前ら旦那の前に並べ、二日酔いを直してくれる!」
弟子たちが俺の前に揃うと二日酔い用の魔法をかけてやった。
弟子たちは体を触ったり、飛び跳ねたりして自分の体調が戻ったのを確認すると、
「「「「ありがとうございました」」」」
と礼を言って準備に戻った。
ベンヤミンの家の前に更に道具が積まれる。
ベンヤミンとその弟子たちは手に着替えなんかを入れたようなカバンを持っていた。
「旦那、これだけ道具があればどうにでもなる。で、どうやって運ぶんだ?」
「ああ、俺が運びますよ」
俺は道具を収納カバンに入れた。
「えっ、旦那、このカバンは……」
「俺の魔道具、収納カバン。一応、俺専用。他の人は使えないから」
本日二度目の説明。
「おっ、おお。で、どこに行けばいいんだ?」
「俺んちまで行ってもらいますのでちょっと待ってもらえる?」
俺は扉を出し飯場の前に繋ぐ。
扉を開けると向こう側には飯場が見えていた。
「あそこがベンヤミンたちが住む飯場ね」
あんぐりと口を開ける師匠と弟子のドワーフ。
「だっ旦那……」
「ああ、俺の魔道具『どこでも行ける扉』。ただし『一度は行ったことがある』場所じゃないと行けない。これも俺専用ね」
これも本日二度目の説明。
「じゃあ、行こうか」
俺はさっさと扉を通った。
「おう、行くぞ。こんなんにビビってたらドワーフが舐められる」
「「「「はい、親方」」」」
ドワーフたちは気合を入れて扉を通った。
「ここに暫く暮らしてもらいます」
俺は飯場の扉を開け、中に入ってもらう。
「一応、生活するのに十分なようにはしてあります。何かあったらこの辺にいる誰かに話をしてもらえれば対応しますね」
ベンヤミンと弟子たちは家の中をウロウロする。
「水は?」
「外に井戸があるから、そこで汲んでもらえるといい。食事はこっちで準備するから。ここで食べてもらえる?」
俺はテーブルを指差す。
「これならずっと住んでも問題ないな」
だったら住んで欲しいのだが、今は言えない。
「道具はどこに置いてくれるんだ?」
「ああ、ここから納屋に入れる。ここに置こうと思ってるんだけど?」
納屋の中をぐるっと見回すベンヤミン。
「ちゃんと棚まであるじゃないか。コレなら道具も整理できる。この広さなら製材も可能だろう。旦那、至れり尽くせりだな」
ベンヤミンは顎髭をいじりながらニヤニヤしている。
「じゃあ、早速道具を出すから整理しておいてもらえる?」
俺が言うと、
「お前ら、旦那の前に並んで道具を受け取るんだ」
ベンヤミンが指示を出した。
カバンから道具を取り出すと、弟子たちはテキパキと棚へ置いていく。配置はベンヤミンが指示していた。
道具の整理が終わると、
「で、旦那。俺たちが改造する家ってのはどれだい?」
あっ……忘れてた。
「悪い、まだ改造する家は無いんだ。ただ、手が空いている間に修理して欲しい舘はある。あれだ!」
俺が指差すと、ベンヤミンが固まった。
「おっお前、これアウグスト作じゃないのか?」
リアクションがイングリッドと一緒。
「俺の仲間がそう言ってたけど……凄いの?」
「旦那、アウグスト作の館なんて、今どんだけ金積んでも手に入らないんだぞ?」
「そんなことは知らない。元々、この館を孤児院にしようと思ったんだが、仲間に反対されてな」
「当たり前だ! これを孤児院なんかにしたら傷んでしまうだろう」
これもイングリッドと一緒。
「そういうわけで、孤児院用の建物は今はない。だから、この館の修理をお願いします」
両腕をわなわなと震わせながら、
「任せろ、俺の技術のすべてをぶつけてやる! 火酒といい、アウグストの館といい、何てやつなんだ旦那は!」
とベンヤミンが叫ぶ
と言ってもなぁ……。
「アウグストの館は、フォランカの近くを根城にしている盗賊が使ったのをカバンに入れてきただけだぞ」
俺は経緯を説明する。
「旦那、外壁は? 外壁はどこだ?」
「そのまま置いてきたけど……」
「旦那、建物だけじゃだめだ。外壁も庭も必要だ!」
「えっ、全部?」
「そうだ、館、外壁、庭も含めてアウグストの作品なんだ! だから要る。頼む回収してきてくれ!」
オタクだ……。イングリッドを上回っている。
「今すぐじゃないがいいか?」
「いい、ここにアウグストの作品が集まるのならいい」
ベンヤミンは涙を流していた。
「じゃあ、この館はやってくれるんだな?」
「ああ、やる。言われなくてもやる。というかやらせてくれ」
ベンヤミンの圧が凄い。
「おっおお、じゃあ頼んだ」
圧倒されてひるんでしまった。
そしてベンヤミンは弟子の前に行くと、
「お前ら、気合入れろ! こんな作品に会えることは無い! 寝ずにやるぞ!」
腕を上げて弟子たちに叫ぶ。
何のデスマーチだ。
「ちゃんと休養取って作業する事。徹夜なんてしてたら他の大工に頼むからな!」
「旦那ぁそれだけは……」
「休養無かったら、良い仕事もできないだろ? ベンヤミンが無理言ってたら、俺に言う事」
「「「「ハイ」」」」
弟子たちは大きな声で返事する。
弟子たちに盛大に裏切られ、ベンヤミンは両ひざをつく。
愕然とするベンヤミンに
「木はこれで行ける?」
と聞いてみるが、精神的ダメージが大きいようで固まったままだ。
「館、直すのやめる?」
俺がそう言った瞬間。
「それはダメだ、俺がやる」
と言ってベンヤミンが俺にしがみついてくる。
「だったら、この木でできるか教えてくれ」
やっとベンヤミンが復旧。
「ああ、この木なら十分使える。ただこのままでは使えないぞ、乾燥させないと」
当然の意見だろうな。
「わかった、何とかしておくから、今日は館の状況の確認でもしておいてくれ」
そう言って、ベンヤミンの元から離れた。
「お前ら、今日はこの館の調査だ! 気合入れろ」
そんな声が聞こえる。
弟子たちに休養はあるのかね……。
そんなことを考えながら荒れ地へ向かう。
俺はベンヤミンに出した木を乾燥する方法を考える。
今はフウが居ないので、スイかエンかクレイに頼む必要がある。
水分を抜くというのなら、スイだろうな。
「スイ、この木の水分って抜ける?」
「ええ、簡単ですぅ」
スイは俺の前に立ち両手を伸ばす。すると木から煙のような物が発生し手に集まりだした。
すると、木に残っていた葉は落ちはじめ、皮も乾燥して反り返る。
煙は水蒸気?
スイの両手にはソコソコな大きさの水球ができていた。
「マサヨシ様ぁ、この水はどこへ?」
「ああ、池にでも入れておいてくれ」
「はぁーい」
スイが水の塊を投げるとフワフワと漂い、池の上で弾けた。
「スイ、これって結構魔力使う?」
「ただ水を抜くだけなんでぇ、そんなに魔力は使わないんですぅ。少なくなってもマサヨシ様に抱きつけば魔力回復ぅ」
「じゃあ、コレも頼む」
俺は伐採した木を十本ほど出した。
「じゃあ、やりますねぇ」
スイは再び水分を抜き始めた。そこには二倍以上の直径になった水球が浮かぶ。
そして、その水球も池の上で弾けた。
「完了ですぅ」
「ありがとな」
そう言ってスイの頭を撫でた。スイはニコリと笑うと俺の体へ戻る。
「さて、この木をあいつらの飯場の前に置いておくか」
邪魔になりそうだが、ドワーフたちの飯場の前へ乾燥した木を置くのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




