ドワーフたちの引っ越し1
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
相変わらず眠い。やっぱり眠い。相当眠い。
ヘルゲ様、人使いが荒いよ……。
まあ、まだ夜が明けそうでないだけマシか。
ふと見ると肩で眠るアグラ。
こいつ、なんだかんだ言ってずっと肩に居た。こいつのバランス感覚ってどうなの?
昼間眩しいと言いながら、朝に起き夜に寝る生活をしている。
俺は自分の部屋の中に入り、ベッドの横に行くと
「おい、アグラ。俺は寝るからここに居てくれ」
「うっうーん」
とアグラは眠そうな声を上げ、渋々ヘッドボードに止まる。
それを確認すると俺は下着姿になりベッドへ潜り込んだ。
ん? 人肌……。
中を覗き込むと、アイナとエリスが寝ていた。
「なぜに二人……まあいっか……」
俺は少し体を寄せ、ベッドで寝た。人肌の温かさが心地よくすぐに眠りについた。
「ドン!」俺は衝撃で目を覚ます。
ベッドから落ちたようだ。
「なんだ?」
よく見ると、アイナとエリスがベッドの端まできていた。
まあ、エリスは別としてアイナは力あるからなぁ。
二人にジワジワと押し込まれてベッドから落ちたようだった。
周りを見ると明るくなってきている。
あまり良い寝起きではないが目覚まし代わりって事で……。
脱ぎっぱなしの装備に洗浄魔法をかけて綺麗にすると。それを装備した。
俺が起きたのを感じたのかアグラが肩に乗ってくる。
「おはようさん」
「マスターおはようございます。結構大きな音がしましたけど大丈夫ですか?」
「ん? 特には」
いろいろ体を動かして確認するが特に痛い所はない。
「まあ、マスターのステータスなら空から落ちても大丈夫そうですけど……」
「かもしれないなぁ」
頭を掻きながら手すりをもって二階から降りる。
リビングには……誰も居ない。今日は静かなものだ……。
ただ調理場からは包丁やナベ、フライパンの音が聞こえていた。
「おう、いつもありがとな」
「ああ、マサヨシ様、おはようございます」
サラが俺に気付いてあいさつしてくる。
「俺、もう出るから。何か軽く食べられるものある?」
「ああ、それなら」
ロールパンに切れ目を入れ、野菜とオムレツ一切れ、そしてマヨネーズを少しのせ、
「フィナさんから教わったホットドッグというものをちょっと変えてみました」
タマゴサンドっぽい奴だな。マヨネーズよりケチャップってところだが、トマトっぽいのが無いんだよなぁ……。
「おう、ありがとう」
ここで牛乳が欲しいのだが、そうはいかないか……。今後の農場の発展に期待。
サラにもらったタマゴサンドを頬張り調理場を出た。
口をもぐもぐと動かしながら、俺は扉を出しドロアーテのミラウ武器店の前へ繋ぐ。
フウにはラウラの護衛のために家に居てもらう。今日も騎士団に向かうだろう。
口の中のものをゴクンと飲み込み店の前へ行くと、ミラウ武器店はすでに開いており中に人の気配がする。
「おはようございます。迎えに来ました」
俺が声をかけると珍しくドランさんが出てきた。
「おう、待ってたぜ。メルには店を開けてもらわないといけないから俺が対応する。今日引っ越しなんだろ? 何もしなくていいとも聞いてるんだが、大丈夫なのか?」
片付けも何もしなくていい引っ越しなんて初めてだろうな。
ドランさんが疑いの目で見てくる。
「まあ、大丈夫だと思いますよ」
「で、そこに居るのは何だ?」
「私はマスターの相棒です」
おぉやるねぇ。「ダンジョンコア」とは言わないんだ……言葉を選んでる。
「このフクロウ喋るのか?」
「知能が高く人の言葉を理解します。ゼファードのダンジョンで仲間にしたんです」
んー、嘘は言ってないよ……な。
「お前、こういう魔物を下手に表に出してたら欲しがられて襲われることもあるから気をつけろよ」
ドランさんから忠告された。
盗賊が出る世界だ、治安がいいとは言えないよな。
「心しておきます」
「じゃあ引っ越しだな。ちょっと裏に来てくれ」
俺は、店の裏側についていく。
「どうすればいい?」
ドランさんが聞いてきた。
「生活に必要な施設を教えてもらえると助かります」
すると、
「ここが、店の在庫と素材を入れておく倉庫。これが俺の鍜治場……一応火は落としてある。これが住居……と言っても台所と居間、寝室だけの小さな家だがね。この三つは生活に必要だ」
ドランさんが指差し俺に教えてくれる。
俺的には「店と続きになっていなくて良かった」とホッとする。
「じゃあ、仕舞いますね」
「ん? 仕舞う?」
俺は収納カバンを倉庫に近づけると。スッと倉庫がカバンに入って消える。
鍜治場、住居と収納カバンに入れた。
「お前……何それ?」
俺のカバンを指差しながらドランさんが聞いてくる。
「俺の魔道具、収納カバンです。容量は知らないんだけど、貴族の館ぐらいは入りますね。あっ一応、俺専用ですから……」
「そういえばこの前、ワイバーンの皮もそれから出してたな。カバンの容量に見合わない大きさだったが興奮して気にしてなかった。今にして思えば『この店がいっぱいになります』って言ったのも、それがあるなら頷けるな」
「あの場で素材を出していたら、店がいっぱいになっていたでしょうね。はい、コレで引っ越しの準備は終わりました。それじゃ、俺ん所行きますね」
俺は扉を出し引っ越し予定地に繋ぐ。
その様子をじっと見ているドランさん。
俺が扉を開ける。
「おっ、お前、これも」
家とは違う風景が広がっていることに驚くドランさん。
「俺の魔道具『どこでも行ける扉』です。ただし、『一度は行ったことがある』場所じゃないと行けないんですけどね……。これも俺専用です。じゃあ、俺んち行きましょう」
俺とドランさんは飯場予定の建物の横に居た。ドランさんが固まって動かない。
「ドランさん。ドランさん!」
「おっおお。昔、転移の魔法があったとは言っていたが。自分がその魔法を使って転移するとはな」
「転移の魔法かぁ。そんなのは意識したことは無かったんだけど……」
元々、猫型ゴーレムが使っていたものをイメージしただけのものだ。転移の魔法など考えたことが無い。
転移の扉についても、単純に使えるようにしただけである。
「マスター、制御は難しいですが転移の魔法は有りますよ?」
「そうなんだ……アグラ、今度魔法について教えてくれるか?」
「はい、その時は私に言ってください」
まずは、引っ越しを終わらせないと……。
俺は倉庫、鍜治場、住居を元の配置でカバンから取り出し置いた。
基礎から収納しているのでやはり入口が浮いている。
「クレイ、悪いんだがいつも通りやってくれる?」
「はいはい」
クレイが目の前に現れると、嫌そうな言葉で嬉しそうにドランさんの家を丁度いい高さに調整した。
「ありがとう」
と俺が言うと。
「また、面倒ごとを押し付けて……」
と言って笑いながらクレイは俺の体に戻った。
出番があるから嬉しいくせに……。
そう思うのだが、言うと反発がありそうなので言わない。取扱注意である。
「ドランさん、一応中を確認してもらえますか?」
「おっおう、お前あれは地の精霊様じゃないのか?」
焦ったドランさんが俺に聞いてきた。
「見えるんですか?」
「うっすらとだがな。ドワーフは地の精霊に近いと言われている。だから見える時があるんだ」
「さっきのは地の精霊ですね。クレイと言います」
「クレイ様か……。精霊様の近くで住まうことができるなんて……お前のお陰だな。引っ越しして良かったよ。じゃあ、中を確認してくる」
ドランさんは内部の確認に行った。
さてと、俺は転移の扉を作るかな? 繋ぐなら倉庫と繋いだほうがいいかもしれない。在庫とか確認するのに便利だろうし……。
俺はドランさんちの倉庫に入り扉を作り始める。
結構いろんな素材や装備が転がっていた。
魔石に座標を魔力とともに流し込んだ。中程度の大きさの魔石を出すと蓄魔池を作り魔力を充てんする。魔石で線を作り蓄魔池と転移の扉を繋いだ。
転移の扉は邪魔にならないよう壁に接するように置く。その横に蓄魔池。
扉を開けるとイメージしていた試着室の横の壁の辺りに出た。
「これでヨシと……」
中身を確認していたドランさんが扉を開ける。
「おうっ、お前居たのか……。誰も居ないと思っていたから焦ったぞ」
「ああ、驚かせてすみません」
一応謝っておく。勝手に入ってるしね……。
「で、どうでした?」
「何も変わっていない。ドロアーテの生活がそのままここに来た感じだな」
「それは良かった。それじゃあ、ドロアーテに戻る方法を教えますね」
「えっ? ドロアーテに戻る?」
「俺がいつも扉で送り迎えするわけにはいかないので、店と直通の扉を作りました」
俺が転移の扉を開ける。
ドランさんは向こう側にいつもの店が広がっていることに驚いていた。
「じゃあ、向こうに行ってドランさんとメルさんの使用登録をしましょう」
俺はドランさんを促し店へ行く。
「メルさん大丈夫ならここに来てもらいたいのですが」
俺が呼ぶと、メルさんがエプロンで手を拭きながら現れる。
「この扉を使うと倉庫と店を行き来できます。それには登録が必要なんです。それじゃ、ドランさん俺の手を持って」
そう言うとドランさんは恐る恐る俺の手を持つ。そして俺はドアのノブを持った。
「はい、登録完了」
俺は扉を閉め、
「ドランさん開けてみて」
ドランさんが再度恐る恐るドアを開けると、そこには倉庫が広がっていた。
「おぉ、これなら便利だ」
「メルさんも、俺の手を持ってくれますか?」
同じ手順で登録しメルさんにも扉を開けてもらうと倉庫に繋がる。
「これで、お二人が転移の扉を使えるようになりました。ただ、倉庫側の扉の横に魔力を溜めておくための魔石があります。この魔石に溜まった魔力でこの扉を動かしています。この色が黄色になったら残り魔力が少ないということになりますので、俺に連絡してください。赤い時は使わないように。足りない魔力をドランさんとメルさんの魔力から取ろうとしますから。魔力不足になる可能性があります」
「わかった。魔石が黄色くなったらお前に言えばいいんだな」
「そうです。クリス、フィナ、アイナ、マール、リードラでも問題ないと思います」
「了解した」
「これで、ミラウ武器店の引っ越しは終わりです。何か不具合があったら誰にでもいいので言っておいてください」
「あっという間だねぇ」
「こいつが凄いんだ。地の精霊様もいる、いい土地だったぞ?」
「えっ……地の精霊様」
ドランさんが俺んちのことを話し始める。長くなりそうだ。
「じゃあ、俺はベンヤミンさんのところに行きますね」
そう言ってミラウ武器店から離れた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




