冒険者ギルドの依頼方法
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
クリスが離れ、エリスとホムラが話せないなりになんとかコミュニケーションをとろうと楽しそうに頑張っていた。
「話は終わったのですね」
「ああ、終わったよ」
アグラが俺の肩に戻ってきた。
「マスターは今からどうするのですか?」
「んー、カリーネを迎えに行くついでに冒険者ギルドに依頼を出しに行こうかと……」
「あっ」って感じ……気付いたかな?
羽を人差し指のように立て
「レッドヴェッチとホワイトヴェッチの種の依頼?」
と聞いてくる。
アグラは変に人間っぽくなってきてるんだよな……。
「そういうこと」
そう言って扉を出す。
ギルドマスターの部屋に行くと、そこには応接セットのソファーでお茶を飲むカリーネがいた。
「いつもながら突然ね。どうかしたの?」
いい加減慣れたのか驚きもしない。
「冒険者ギルドに依頼をしたいんだ」
「あなたが依頼なんて……」
そりゃ不思議だろうなぁ、何も言ってないし。
「魔物に蜜を集めさせるための花が要る。それをゼファードのダンジョンの一階、二階でドロップさせることにした。それを買い取りたい」
ピクリとカリーネの耳が動く。
「そういえば、あなたダンジョンマスターだったわね」
思い出したらしい。
「買い取るのはいいけど報酬は?」
んー、報酬かぁ。考えてなかったな……。
「ただの種だからな、銅貨一枚ぐらいで良いんじゃない? 俺以外使い道がある奴も居ないだろうし……」
「わかったわ、種一つにつき銅貨一枚ね」
サラサラとカリーネが紙に何かを書き始めた。
「えーっと、依頼人は私の名前にしておくわね。そのほうが集まりがいいでしょうから……。それといつぐらいまで集めるの?」
「マスターどうしましょ?」
頭をくるりと回しアグラが聞いてきた。
「まあ、最初のうちは種をがっつり出して畑で使って、その後は程々出して足りない分の補給でいいかな? アグラできる?」
「レッドヴェッチとホワイトヴェッチの出現率を変えればいいだけですから問題ありません」
眼鏡を押さえるようなジェスチャーをして返事をするアグラ。
お前は秘書か!
「できるらしいから、できればずっと依頼しておきたい」
「なら、常時依頼でいい?」
「常時依頼?」
俺が理解していないのにカリーネは気づくと
「ああ、時期に関係なくずっと依頼しておくって事」
と教えてくれた。
「だったら、そういうことで頼む」
「安いけど、低レベルの冒険者の稼ぎになるから助かるわ」
おっと、冒険者ギルドのギルドマスターらしい言葉。
そして腕を組み、急に真剣な顔になるカリーネ。
「で、ギルドへの依頼料なんだけど……、一件一か月掲載につき銀貨一枚。常時依頼だと年間の料金を貰うから十二枚。ギルドマスター経由って事で十八枚」
「ギルドマスター補正? 一・五倍じゃないか! だから、カリーネがわざわざやるって言ったのか?」
「ギルドの仕事よ」
カリーネ流のイタズラ成功らしい。ニコニコしている。
まあ、銀貨十八枚なら問題ない。
「はいはい」
俺は応接セットの机に銀貨を十八枚置いた。
「まいどありー」
カリーネが鈴を鳴らすと、職員が入ってきた。
居るはずのない俺が居る事に驚いている。
「ギルドマスターの依頼って事で、これを掲示板に張っておいて」
と、カリーネが言うと、職員は紙と銀貨を受け取り出ていく。
「一緒に帰るか? 仕事は?」
「仕事が終わってくつろいでいたところ……あなたが仕事を持ってきたのよ?」
「そうか、申し訳ない」
俺はポリポリと頭を掻く。
カリーネはニコリと笑うと、
「いいのよ、来てくれて嬉しいんだから」
俺の体に抱きつくカリーネ。
「まあ、依頼のついでなんでしょうけどね……」
「よくお分かりで」
皮肉込みだ。
「あなたの家に行くなら、一度私の家に帰ってからね……」
「なんで?」
「あまりギルドマスターの部屋から直接あなたの家には行きたくないの。普通、部屋から直接家に帰る人なんていないでしょ? それに私はこのギルドの長だから見本にならないとね」
「そりゃそうか……」
やっぱカリーネはギルドマスターなんだな。
とはいえ、俺の腕に抱きついて冒険者ギルドを出るのはギルドマスターらしい行為ではないと思うのだが……。
ギルドに居た冒険者や職員にチラチラならいいんだが、ガン見されてしまった。
冒険者ギルドでカリーネってどんな風に思われてるんだろ……。
「目立ってないか?」
「いいのよ、目立った方が変に声かけられないでしょ? たまに変な商人から声かけられるのよ。後添いにならないかとか……」
「後添いね……モテる女は辛いな」
カリーネは苦笑いだ。
「もうモテなくてもいいのにね」
そして、カリーネは職員の方を向くと
「じゃあ家に帰るわね、あとはよろしく」
帰宅の挨拶をした。
俺たちはカリーネに連れられてギルドを出て、夕闇が迫る中を二人と一羽で歩く。
「エリス以外の人と一緒に家に帰るのはホント久しぶり」
「男も居たのか?」
「居ないわよ?」
「そう……変な質問をして悪かった」
「居たって言ったほうがよかった? そう言えば妬いてもらえるかしら?」
そうカリーネに言われて俺も考える。
「出会った頃なら気にはしないだろうが、今だったら妬くかもな」
「エリスが気に入らない限り男は入れないつもりだったから……家に上げたことがあるのはあなただけ。扉を設置しに来た時が初めてだったの」
「二人に認められたわけだな?」
「嫌?」
「いいえ、光栄にございます」
俺が大げさに言うと、苦笑いをするカリーネ。
「そうだ、言っておかないと」
「えっ、何? キス? いつでもいいわよ?」
「いやいや、飛躍しすぎ」
からかわれたようだ。
「で、何?」
「エリスは精霊が見えるみたいで、俺が連れてきた火の精霊と仲良くなった」
「ああ、そういえば添い寝しているときにそういう話をしてた。『お父さん若い女の子を四人も侍らせてる』って」
ニヤニヤしながら言ってくる。
「エリスは精霊が見えるってことを知ってたのか?」
「知ってたわよ? でも『精霊と仲良くなるのはもっと先』って思ってたんだけど……。まあいいんじゃない? 何かあってもあなたとあなたの精霊が何とかするでしょ?」
「そりゃそうだけど、俺ってそんなに信用されてるの?」
俺がびっくりして言うと、
「当たり前でしょ? 信用できないような男と結婚しようとは思わないんだから」
当然の言葉で返された。
「俺も皆のことを信用している」
「そこは、私のことを信用しているって言って欲しいかな?」
「悪い」
「詰めが甘いのよ!」
カリーネに笑われた。
「エリスに『お父さん』と言われたよ」
「マサヨシの事『お父さん』って呼びたがってたの。私が告白されたのを聞いたあと『もういいよね』って言ってたから、『もういいんじゃない? 』って言っておいたの。迷惑だった?」
「いや、いつか言われるとは思ってたんだが、いざ言われると慣れないな。照れるというか、こそばゆいというか……」
「そのうち慣れるわよ」
「時間かかりそうだなぁ」
「エリスともデートするんでしょ? その時に慣れればいいんじゃない?」
「だといいんだけどねぇ」
「私もデートあるんだからね」
「覚えておきます」
そうこうしているうちにカリーネの家に着く。
「さあ、到着。お茶でも飲んでから帰る?」
「お茶だけで済まないような気がするから帰る」
迫られると困るからなぁ。周りに皆が居るほうが助かる。
「せっかく二人っきりなのに……」
拗ねて膨れるカリーネ。
「さあ帰るぞ」
「きゃっ!びっくりした」
俺はカリーネを抱え、強引に扉をくぐるのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。
※ご指摘により蓮華をレンゲソウ、ロータスからヴェッチに変更しました。
ご迷惑をおかけします。
2.16




