マールの故郷へ
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
昨日作った広大な土地が広がっていた。多少の起伏は有るが、まあ、問題ないだろう。
俺に気付いた、クリスとフィナとリードラが近づいてきた。
「クリスは今日もマールと一緒に館の掃除な」
「わかったわ、でも私たちは掃除ができても、修理はできないわよ?」
クリスが聞いてくるが、
「ドワーフの大工を頼んである。飯場のような物も作る必要があるだろうから、それができてからかな?」
「私たちも手伝う」
アイナとエリスが声をかけてきた。
「だったら館の掃除を手伝ってもらえるか?」
コクリと二人は頷く。
「アイナ、エリスは力が無いから、手伝ってやってくれ」
「わかった」
二人は館の方へ向かった。
「ご主人様、私とフィナは孤児たちに食事を届ければ?」
「そうだな、昨日のメンバーも一緒に連れて行ってくれ」
「わかりました」
フィナはタロスとテロフを探しにいく。
こうして、リードラ以外は館の掃除になった。
「主よ我は?」
「俺とお出かけだ。ヒヨーナに行きたい」
「ヒヨーナ?」
リードラが顎に手を当て考える。
「ああ、マールの家があるところか……」
思い出したかな?
「そう、場所がわかるから何とかなるだろう」
マールからヒヨーナという言葉が出た時にマップに表示されている。
「欲を言えばエルフの国の王都に行きたいかな?」
「場所はわかるのか?」
「エルフの誰かから聞けば大丈夫だろ? 王都なんだから。最悪マップに表示させてリードラと動けば、すぐに辿りつけるしな」
「じゃな」
俺としては、とりあえずマールとクリスの故郷ぐらいは行けるようにしておきたかったのだ。
「ヒヨーナは、位置的に人の王都寄りだな」
俺は扉で王都の近くへ行く。
リードラは森に隠れてドラゴンになり、その背に乗って俺は飛んだ。
王都から出るとヒヨーナまではそんなに距離は無かった。
リードラの速さなら三十分かからないだろう。普通は一週間位かかるぐらいなんだろうがね。
最近は、ホーリードラゴンのローブを上に来ているから、俺の姿は見えづらくなってるんじゃないかな?
などと考えていると、
「主よ、あれを……」
リードラに言われた。
リードラの首の横から地上を覗けば、馬車が襲われている。
荷馬車の周りを馬が走り攻撃を受けているようだった。
先頭に小綺麗な馬車、その後ろの荷馬車には荷が満載されている。あれ狙いかな?
荷のせいで速度が出ないようだ。荷台には冒険者?
「あれは定番の盗賊だな。とりあえず助けないと」
「そうじゃな。でどうする?」
リードラが聞いてくる。
「そうだな、ここから急降下して荷馬車の直前で止まってもらおうか……。そうすれば衝撃波で周りがびっくりして止まるんじゃない? あとは行き当たりばったりで……とりあえず殺さないでね」
「わかったのじゃ」
リードラは翼を畳み荷馬車に向けて落下していく。周りから聞こえる風の音が大きく高くなっていく。
そして衝突直前での急制動。リードラの羽がバッと大きく開き一気にゼロ速度まで減速すると周囲に衝撃波が広がった。
荷馬車の馬も盗賊たちの馬も棹立ちになる。
そりゃ、いきなりドラゴンが降ってきたんだ、馬が驚いても仕方ないだろう。
盗賊たちは馬から振り落とされないようにするのに必死だ。
俺は暴れる馬に四苦八苦している盗賊たちに当て身を入れて無力化した。
小綺麗な馬車から太ったエルフ……。金ぴか飾ってるから金持ちなんだろうな。
エルフにもメタボは居るんだな。
俺はちょっと嬉しい。
「この度は私共を助けていただきありがとうございます。私の名はミカル。エルフの王都ストルマンにて商売をしています」
ミカルが自己紹介してきた。
おっと、ストルマンがマップに表示される。
「そこに居るのが今回護衛をしてくれていた冒険者のパーティーたちです」
エルフの冒険者たちは俺が無力化した盗賊たちを縛り上げていた。俺に会釈をしてくる。
戦士、戦士、戦士、シーフ、魔法使い、僧侶の六人?
「お礼を受け取ってもらいたいのですが……何がよろしいでしょうか?」
ミカルから提案されるが、
「お礼? べつに要らないぞ?」
と断る。
「それでは私の気が収まりません。お金でも何でもおっしゃってください」
言わないと次へは行けなさそうだな。
「んー小屋が欲しいかな? 五人程度が暮らせる程度の……ボロい奴でいいから」
「小屋ですか?」
「ああ、今度俺んちを修繕するのにドワーフの大工を呼ぶんだ。その飯場にする小屋が欲しい。土地は要らないぞ? 小屋があれば問題ない」
「小屋だけと言うのも珍しいですな」
不思議な顔をするミカル(メタボエルフ)。
「ところで、どちらまでの予定で?」
「とりあえずヒヨーナだね」
すると紙を出し何かを書きだした。
「これをヒヨーナにある私の店、ミカル商会というんですが、その支店の支店長に持って行ってもらえれば、あばら家を紹介してくれるでしょう」
おっと、支店を持っているとは大商人?
「おう、助かるよ」
「このあとの護衛を頼むわけには……」
探るように聞いてくるミカル(メタボエルフ)。
「それは、あの冒険者たちの仕事を取ることになってしまうからね。それに俺も今日中に家に帰りたいから急いでいるんだ」
「わかりました。護衛の件は諦めましょう」
「もう出発するつもりなんだが、盗賊の始末は任せても?」
「はい、こちらに任せてもらえれば責任をもって犯罪奴隷として販売いたします」
「そういうことか、奴隷の売買免許も持っているんだな?」
「その通り。馬も手に入りましたからボロ儲けでございます」
揉み手のミカルである。
「じゃあ、あとはよろしく」
「命を助けていただき、ありがとうございました」
ミカル(メタボエルフ)は深々と頭を下げた。
俺はリードラに乗ると再び空を飛ぶ。
「何が貰えるのじゃろうな」
「小屋だろ? 多分……。まあ、過分な物なら金を払って帰るさ」
俺たちはヒヨーナへ向かった。
ヒヨーナに着くと、再びリードラには人化してもらった。
ちゃんと入街税を払って街に入る。昼でもない夕方でもない中途半端な時間のせいか、町に入る人は少なかった。
「ドラゴンが出たらしいが、お前ら大丈夫だったか?」
門番に聞かれたが、
「おかげさまで、何もありませんでした」
と誤魔化しておく。
マップを見るとミカル商会ヒヨーナ支店も表示されていた。
話を聞いたときに表示されたようだ
街の中を歩く。
エルフが多いな……。まあエルフの国なんだから当然か……。
「主よ、これを見るとクリスがそこら辺のエルフより美しいのが分かるな」
リードラが言う通り、確かにエルフたちはイケメンや美女ぞろいだが、それを差し置いてクリスのほうが美しく感じるのだ。
「王家の血って奴かもなぁ……知らんけど」
「興味ないか?」
「興味ないね」
マップを参考にミカル商会へ向かうが大通りの一等地と呼べるようなところにドンと居座っていた。
用心棒っぽい冒険者が店の入口を挟んで立っている。
「すみません、ここの店長さんに用事なのですが?」
用心棒に取次ぎを依頼したが。
「お前のような物がこのミスラ商会の支店とは言え店長に用事があるはずがない!」
と取り合わない。
「じゃ、これだけでも持って行ってもらえる? それでここの支店長が出てこないなら帰るから」
おれは、ミカル(メタボエルフ)にもらった手紙を冒険者に渡した。
暫くすると、一人のエルフが飛び出してくる。
「すみませんこの店で支店長をしている者です。この冒険者たちが何か粗相をしていませんでしたか?」
ハアハアと息をしながら俺にそう言ってくる。
冒険者たちがバツが悪そうに俺を見ていた。
「取り次いでもらえましたから問題ありませんよ」
「会頭から『建物を紹介しろ』と手紙で指示を受けました。こちらへどうぞ」
支店長が俺たちを応接室に誘導し俺たちをソファーに座らせた。
俺たちの前に飲み物が届く。
「俺らこんなに過分な事されるつもりじゃないんだけど?」
正直早く建物を回収して帰りたいのだ。
「いいえ、手紙に書いてありましたから……」
「んー、じゃあ目的は知っているんんだな?
「飯場に使う建物を探しているとか?」
「わかっているなら先に建物見せてよ」
ちょっとイライラする。こりゃ王都まではいけないかな?
「馬車を回しますので少々お待ちください」
支店長は近くにいた店員に声をかける。
しばらくすると店員が戻ってきて支店長に耳打ちした。
「馬車の準備ができました。こちらへ」
支店の入り口にはミカル(メタボエルフ)が乗っていたような小綺麗な馬車が止まっていた。扉が開けられ乗るように促される。
そういや馬車なんて乗ったことなかったな。
馬車に揺られて物件へ向かう。
微妙な揺れに不快感を感じる。
「リードラに乗る方が何倍もいいな」
「当然じゃ」
胸を張るリードラ。
支店長が建物の説明を始めた。
「今回紹介する建物は、さるお方の別荘として作成されたものです。築年数は経っておりますが、しっかりとした建物になります。ご家族に使用人、護衛としっかり暮らせるような作りになっておりますので使い勝手はいいかと……」
そんな話を聞いているうちに目的の場所に着いたのか、馬車が止まる。
門を入ると、スッゲー広い庭。玄関まで何十メートルあるんだ? 建物もクリスの母ちゃんの館とまではいかないが、その半分以上の広さである。
館の陰に隠れて倉庫と繋がった使用人用の建物?
引き寄せられるように俺は向かった。
「何でそんなところに」
という支店長の声も聞こえたが、無視する。
倉庫を覗くと、十メートル×二十メートル程度の土間になっていた。
結構広いね。
「倉庫もあるし、五、六人が寝る場所もある。調理もできるようになってるし、これでいいな。支店長、これを貰うよ」
そう言うと、勝手に収納カバンへ建物を入れた。
一瞬で建物がなくなることに支店長は焦ったようだ、唖然としている。
とはいえすぐに復旧し、
「このままでは、私が会頭にしかられます」
「なんで?」
「『儂の命に見会う建物を用意しろ』と手紙に書かれていましたので……」
泣きそうな顔をする支店長。
「面倒だね。そうだなあ、あんたの見立てであの建物の値段は?」
「金貨三枚ですか……」
「じゃあ、金貨三枚を渡しておくよ」
不思議そうに金貨を受けとる支店長。
「私はどうすれば?」
「ミカルさんには『ヒヨーナには会頭の命に相当する物がありませんでしたので、マサヨシさんが本当に欲しがっているものを売っております。次回お会いになったとき、会頭が思う命相応の物をお渡し下さい。機会を見て王都に立ち寄ると言っていました』って言えばいい。この館が会頭の命相応ではないだろうに?」
少し考えると、
「はっはい、そうします」
と支店長は言った。
「じゃあ、俺は行くぞ?」
「えっ」
支店長が再び固まるが、俺は扉を出しヒヨーナの外に出る。
人気のないところに行くと再びリードラにドラゴンになってもらう。そして次はエルフの王都に向かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




