夕食のあと
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
「とりあえず帰宅」
リビングに帰ると、
「お帰りなさいませご主人様」
おっと、メイド喫茶?
見るとフィナが帰っていた。
アグラも飛んできて肩に止まる。
「孤児たちはどんな感じだった?」
「ご主人様が作ったホットドックというパンを作って皆に食べさせました。今回集まったのが大体四十人ぐらいです。タロスとテロフ、あとエルフの少女で配りました」
あのエルフの少女も手伝ったのか……。
「冒険者の三人は?」
「一応護衛としてついてくれました」
三人も仕事が無いなりにやってくれているようだ。
「明日も頼むよ、孤児院ができるのは、もうしばらくかかりそうだ」
「はい、ご主人様。明日も昼頃行くようにします」
一度外に行き、
「マール、食事にするか? 今日はここまでだ」
と連絡する。
「はい、皆に言って食事にしますね」
最近はメイドというよりも料理人と言ったほうがいいくらいに料理の腕が上がったサラ。
夕食はサラが作ってくれていた。
食事が終わるとリビングで雑談をする。するとカリーネ、ノーラ、ラウラの順番に仕事組が帰ってきた。
皆に「お疲れさん」と声をかけておく。
カリーネは
「あー疲れた」
と大げさに言った。
エリスが「おかえりー」と言いながらカリーネに抱きつく。
「今日ねぇ…………」
と話をしているから、石拾いや館の掃除のことを話ししているようだ。
そしてカリーネが俺を見て笑うと、
「今日ねぇ……」と話し出す。
その話を聞いてエリスがガッツポーズ。
ああ、話したのね……。
ノーラは、
「大丈夫です。でも政務って疲れるんですね。お父様を尊敬します」
と言っていたがまだ慣れていないのか疲れてるな。
「今日も泊っていいですか?」
「ああいいぞ? 食事もあるみたいだ」
ノーラは食事を取りに行った。
ラウラは、
「イングリッド殿下の書類を提出し任務は完了しました。しかし、マサヨシ殿に言われた通りオークレーン侯爵の息子、第三中隊の隊長に嫌味を言われましたね。『部下を死なせて一人だけ帰ってくるとは情けない。なぜ隊長にしておくんだ!』と……。悔しいですね。この鎧は目立ちますね。周りから声をかけられました。『ゴブリンの群れに襲われた時助けてくれた男性に貰った』と言ってあります。『あの鋼鉄の処女が処女じゃなくなった』って話題になってますね。まあ、処女なんですけど……」
ちらっと俺を見るラウラ。
「ちら」でアピールしないように
「あぁ、あと父上から『もうしばらくかかりそうだ』と言われています。話によると『証拠としては十分だが国内でのオークレーン侯爵の力が強く潰すまでにはいかないかもしれない。もう少し何かあれば』という話をしていました」
そういやクリスの母ちゃんの家で何か手に入れたよな……。
ふと思い出した手紙を取り出し見直してみた。
「ラウラ、レンノ子爵って知ってる?」
「ちょっとわかりませんね」
「オヤジさんは?」
「多分わかると思います」
「ちょっとオヤジさんのところに行ってくる」
そう言うと、
例の扉でオヤジさんの部屋の前に行く。
ノックをすると、
「誰だ」
という声がした。
「マサヨシです。ちょっと聞きたい事があって来ました」
相変わらず、二人控えているようだ。
「入れ」
扉を開け中に入ると、
「当たり前のように我が家に入るとはな。まあ、お前には警備など関係ないんだろうが……。ところで聞きたい事とは何だ?」
「レンノ子爵を知っていますか?」
「またクソが出てきたな。国内で闇の部分を仕切っていると言われている。オークレーンの部下でもあるらしい」
「証拠があれば、レンノ子爵を潰せます? そこからオークレーン侯爵とのつながりも出てきませんかね?」
「証拠にもよるな」
ヘルゲ様に俺は手紙を渡した。
それを見て目を開く。
「おいこれ……イングリッド殿下の襲撃依頼じゃないか!イングリッド殿下の移動予定、襲撃位置まで指定されている。レンノ子爵の印璽もある。これをどこで」
「ああ、ある盗賊の館からです。イングリッドは実際に襲われていました。実際俺が助けたので事実なのは間違いないですね。位置はフォランカの手前」
「これを儂が預かっても?」
「俺が持っているよりも、ヘルゲ様が持っているほうが効果的に使えると思ってますが?」
ニヤリと笑ってヘルゲ様を見る。
「任せておいてもらおうか。ただ慎重に動かねばならん。時間はかかるかもしれないな」
「じゃあ、俺はこれで」
「用が済んだらすぐに帰るか?」
「そうですね、居ても仕方ないから帰ります」
「連れないのう……儂もお前の義理の父になるんだ。酒の相手でもせんか?」
酒かぁ、そういや飲んでないな。あの家で飲む勇気ないし……。まあ、飲んでもほとんど酔わないんだけど。
「わかりました。相手させてもらいます」
ヘルゲ様は戸棚を開けるとワインボトルとグラスを出す。
「これは儂のとっておきのワインだ。なかなか美味いぞ? つまみはないが一緒にやろう」
「そこに座ろうか」
そう言って応接用だろうか、机の上にワインボトルとグラスを置く。
対面で座るとグラスにワインを注ぐと俺の前に差し出した。
俺は収納カバンからオムレツと焼き肉を出す。
カバンの中では時間が止まるようで出来たてだ。
ちょっとバランスが悪いな、まぁいっか。
「便利だな、そのカバン」
「はい、便利ですね。助かってます。出来たてのままですから食べてみてください」
「これは卵?」
「ああ、オムレツです。コカトリスの卵で作ったものですね」
「お前、そんな高級な……」
おっと驚いているねぇ。
「私の家ではコカトリスを飼っていますから」
「この肉は」
「ああ、サイクロプスの腕の肉ですね。この前食べた時の余りです」
「お前何者だ?」
ヘルゲ様に見据えられた。
「えっ……」
不意の質問に俺は固まる。
「何者とは?」
「これだけの能力を持っている者が未だ無名で在野に居るのが考えられない。何らかの事柄を成して表に出ているはずだ。ただ、最近になって急に頭角を現しだした……」
言っておくか。
「んー、転移という言葉はわかります?」
「転移?」
考え込むがわかってはいないようだな。
「別の世界から他の世界に移動することです」
「別の世界? そんなものがあるのか?」
「ありますね。私は昨年の秋、その別の世界からこの世界に来ました。さしずめ転移者と言えばいいでしょうか? 能力の高さについては原因はわかりません。と言っても、どんなに能力があろうがラウラを含む伴侶候補に尻に敷かれてますけどね。どこに居ても俺は人です」
「お前は国に敵対しない人か?」
「そうですね……攻撃されない限り敵対はしません。ただし敵対されれば全力をもって国でも潰します」
「潰せる自信があると? その体で?」
「ヘルゲ様でも見抜けないのですね」
それだけ、精霊たちの擬態が見事なのだろう。
擬態を解除する俺。若いよく締まった体の線が現れる。
「お前、その体」
「ああ、普段は舐められておいたほうがいいと思いまして太った体で居ます。さっきの国を潰す自信ですか? 当然ありますよ? もしラウラがオークレーン侯爵に手を出された時には侯爵を即潰します」
「ではなぜ今やらない? お前の仲間の一人が傷つけられたのだろ?」
「仲間に入る前にやられたというのが正しいですね。マールにしろアイナにしろ。まだ俺がこの世界に来る前のこと、だからヘルゲ様に任せました。証拠を提出して正式に潰す。それが正しいと思ったから。回りくどいですけどね。ただ今後、俺の仲間に手を出した奴には遠慮しません。即行動します」
ヘルゲ様はニヤリと笑うと、
「怖いことを言う」
と言った。
「俺は平穏無事がいいんです。みんなとのんびり暮らしたい。だから、手を出さない限り牙を剥いたりしませんよ」
話しているうちにワイングラスが空く。
「私が持っている火酒を飲みますか?」
「火酒だと? なかなか手に入らないものをよく……」
小分けにしてある瓶とロックグラスを取り出し、ロックグラスには魔法で作った丸氷を入れる。
そしてその氷の上を滑らせながら火酒を注いだ。
ヘルゲ様は火酒を飲む。
「うむ、美味い。この飲み方はいいな」
気に入ったようだ
「俺はヘルゲ様を気に入っています。ラウラも当然気に入っています。ミスラは……どうでもいいか……」
「ミスラも気に入ってくれればいいのだがな」
苦笑いのヘルゲ様。
「まあ、だから何かあったら全力で守りますよ」
「儂にもこの歳になってやっと守ってくれる存在ができたのだな。婿殿よラウラをバストル家を頼むぞ」
表情が柔らかくなるとヘルゲ様は静かに飲み始めた。
「美味いな、美味い」肉や卵を摘み酒を飲むたび、そう呟きながら俺と差し向かいで飲み続ける。
どのくらい経ったのだろう、ヘルゲ様が潰れた。
「なっ、ヘルゲ様が酔い潰れるなど……」
天井裏から声が聞こえる。
「まあ、降りて来いよ。俺がヘルゲ様を寝室に運ぶわけにもいかない」
すると、女の密偵が降りてきた。
「こんなになるまで飲んだヘルゲ様を見たことがありません」
「そうなの?」
「はい、ヘルゲ様は公の場でも一人の時も酒はほとんど飲みませんから。あなたとワインを飲みだしたところで驚いていました。差し向かいで飲み、更に潰れるなど見たことがありません。安心したのかもしれませんね、あなたのような婿殿がバストル家に入りましたから……」
「んー、俺で安心できるのかね? わからんけど」
「今日はこちらでお泊りに?」
「知ってるだろ? 俺が帰れること……家に帰ろうと思ったんだが、何か来たね」
あの位置なら壁を越えたぐらいだろうか、赤い光点が十数個。
「ヘルゲ様が証拠を見つけたのに気付いたかな? ちょっと早すぎるような気もするが……。スイ、フウ前みたいに窒息させて無力化して!クレイは足止め。エンは、殺しちゃいそうだから俺に纏わりついて待機」
「「「「はい」」」」
エンだけしょんぼりだ。
「お前、能力高すぎなんだよ。出番は必ずあるから拗ねるな」
「はぁーい」
力ないエンの返事が聞こえた。
何が起こったのかわからないうちに窒息させられ気絶したんだろうな。
俺が館の外に着くころにはすべての侵入者が転がっていた。
この襲撃の監視人だろうか、この場から離れる光点が一つ。
俺は壁を飛び越えるとそいつを追った。
すると、大きな館が現れる。
俺は誰の館なのかは知らないので、とりあえずその館の裏口から入ろうとした瞬間に監視者らしい男を当身で気絶させ、担いで館に戻った。
館の場所は後で言えばいいだろう。
「これどうする?」
侵入者と監視者込みで十五人。
女の密偵に聞く。
「ヘルゲ様が起きるまでは何もできないでしょうね。とりあえず縛り上げ猿轡をして牢屋へ入れておきましょう」
テキパキと女の密偵は縛りあげていく。
俺も侵入者を縛り上げ牢屋に入れるのを手伝った。
「情報収集は我々にお任せください。慣れておりますから」
女の密偵はサディスティックな笑顔でそう言った。
あなた、そう言うの好きなの?
人の性癖には文句は言わないけど。
「もう夜が明けそうだ」
空が白んできた。
「結局寝られなかったな。まあ、仕方ないか……。じゃあ、俺、家に帰るよ。ヘルゲ様によろしく言っといて」
そう言うと。目を覚ました鳥が鳴く中、俺はバストル家の庭から家に帰るのだった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




