はじめてのお使い?
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
館を覗きに行く。
イングリッドが唖然としていた。
「これは、エルフの建築家アウグスト様のものではないでしょうか?」
「クリス、アウグストって何者?」
「ああ、希代の建築家と呼ばれたらしいわね。私、興味ないから知らないの」
同じ王女でも大きな差。
「何か変なこと考えたでしょ?」
「いえいえ、何にも」
そんな話をしていると、クリスが知らないことが気になったのか、
「何で知らないんですか!五百年ほど前に亡くなって、作品がほとんど残っていない。エルフの王宮でさえ少ないのに……。この階段、何てきれいな曲線……この家具も……あっ、ここにアウグスト様のサインが掘られています。ああ、何でこんなところに」
心の叫びを言うイングリッド。
「イングリッドって、家具大好き?」
クリスに聞いてみるが、
「そんなの知るはずないじゃない!」
当然の答えだな。
「ちなみにイングリッド、この館を孤児院にしようと思うんだが……」
イングリッドの背後からオーラが立ち上る。
「ダメです!絶対ダメです!痛みます。だったら私が住みます、住まわせてもらいます!」
あとの二つは願望だろ?
「住みたいんだな?」
頷くイングリッド。
「じゃあイングリッドが何とかしろ。建物は俺が運ぶから、孤児院に適当な建物を探してこい。じゃないと俺の目的が果たせない」
「えっ?」
イングリッドは固まる。
「だって住みたいんだろ?」
「はい」
「だったら自分で何とかしろ。父ちゃんや兄貴に頼ってもいいから。何とかしろ」
イングリッドは少し考えたが頷き、
「やったことはありませんが、やってみます」
と言った。
「百人程度が寝食できる建物だ。部屋数があればそれを相部屋に改造する手もある。全員が座れる広さの食堂。その人数が食べる食事を作る調理場。少々の改造は大工に頼むからいい。勉強できる部屋もあるといいな。あとはトイレの数は多い方がいい。風呂も必要。そんなとこだ。できるか? 明日から三日待つから探すんだ」
俺はオーダーを出しておく。
「はい、でもお父様のところに行くには?」
「オセーレ行きの扉を作ってやる」
「今から行ってもいいですか? マサヨシさんも一緒に来てください、まだ行ったことはないはずです。私の部屋とこの家を繋ぎたいので……」
「クリス、ちょっと行ってくる」
そう言って俺は扉を出すと王様の部屋の前に移動する。
「マスターは凄いです。こんなに簡単に目的地に繋ぐなんて」
肩に乗っているアグラが驚いていた。
「こちらへ」
イングリッドのあとに付いてイングリッドの部屋へ向かう。
広い王宮内をしばらく歩くと、
「私の部屋はこちらになります」
そう言ってイングリッドは部屋の扉を開けた。
天蓋のついたピンクのベッドにふかふかの布団が見える。
ソファーもピンク? ピンクで統一されてるな。
家具は言うだけあって高そうなものが並ぶ。ただ、ちょっとラブホを思い出して吹き出してしまった。
「なぜ笑うのですか? 子供っぽい?」
「いいや、可愛いからイングリッドらしいなと……」
「それならいいのですが……なにか違う気がします」
鋭いなイングリッド。でも、
「気のせいだよ」
と、言って誤魔化した。
俺は扉を作る。魔石を取り付け座標を魔力と一緒に流し込む。自立した扉を開け家の扉の部屋に繋がったことを確認した。今度は蓄魔池にちゃんと繋いでおく。
「さて、登録だ」
イングリッドの手を持ちノブに触った。これで登録完了。
「イングリッド、開けてみて」
イングリッドが恐る恐る扉を開けると、そこは扉の部屋だった。
「これでオセーレに行き来できるな。今日は王宮に泊まる?」
「はい、マサヨシさんにできる所を見せます!」
「あんまり気負わなくていいから。じゃあ俺は家に帰るぞ」
「がんばりますね」
「おう、がんばれ」
そう言って俺は家に戻った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




