家の周りを開拓しよう1
誤字脱字の指摘、大変助かっております。
ダンジョンマスターの部屋からアグラを連れ庭に戻ってみると……特に何も無し。というかダンジョンマスターである俺がダンジョンから離れているのだから問題ないのだろう。
「簡単に出られたな」
「簡単でしたねマスター。ただ、地上は眩しいのですね。目が開けられません」
「そりゃ、お前フクロウだろ? 夜に行動する鳥だから、普通昼間は寝ているはず。昼間動くのは苦手かもしれないな」
「フクロウの特徴なのですね。知りませんでした」
「ところで、ダンジョンの管理は大丈夫なのか?」
「ダンジョンの情報は逐一私の頭に入ってきていますから、何ら問題ありません」
「ならいい。ダンジョンコアって有能なんだな……」
「はい、有能なんです」
アグラは胸を張った。
さて、どうやって開拓するか。
俺の農場の周りは正直、森だらけ。切るか燃やす。
「おーい、スイ、お前、木を切れる?」
「ウォーターカッターで切れますねぇ」
「俺も地割の剣を使うかな」
牧場の端まで行くと、キングたちが付いてくる。
「お前らにはあとで手伝ってもらうからな」
「手伝う?」って感じで首を傾げるキングたち。
「僕は、どうすれば……」
エンが聞いてきた。
「お前、火を薄くして木を切れる?」
「切れますけど、切り口から炎が……」
「この森を火事にするわけにはいかないから、とりあえずエンは待機」
「わかりました」
エンは渋々という感じで返事をした。
俺が剣を一振りするとその周りの木が半円で切れる。スイのウォーターカッターだと幅で三十メートル、長さで十メートルほどだろうか面で木が切れる。
「マスター、凄い力ですね。あなたのステータスが高いのは重々承知ですが……」
若干引き気味のアグラ。
「本来は剣じゃなくて斧なんだろうけどな」
「道具の問題じゃないです、マスター。その剣は耐久が高いから大丈夫ですが、下手に薄い剣では折れているかもしれませんね」
「まあ切れるからいいだろう。切り株が残るが、後でリードラあたりに引き抜いてもらうか……」
そうアグラに返していると、スイが指をさす。
「マサヨシ様、あそこに精霊がいますぅ」
言われた方向を見ると確かに精霊が居た。茶髪で色黒?
ん? 俺が精霊をちらっと見て目が合うと、プイっと顔を逸らす。
「あれは、地の精霊みたいですぅ。マサヨシ様が開拓し始めたことで、魔力が拡散したのかもしれないのですぅ」
「そう言えば、俺この辺まで来たことないな。いつも家の傍の柵でキングと話しているだけだし。家から離れて森に入ったことで、魔力が森の中に拡散されたわけか?」
「そうですぅ。マサヨシ様の魔力は濃いですから私たちが吸っていても漏れているのですぅ」
「で、何であいつ俺に怒ってるんだ?」
「さあ?」
わからないというふうなスイ。
直接聞いてみるか。
「おい、そこの精霊!」
俺が声をかけると、
「ビクッ」として振り向く。
「何で怒っているんだ?」
「なっ、何でもないわよ。『何をしているのかな』って覗きに来ただけ」
「でも怒ってるだろ?」
「怒ってないって!」
声を荒げる精霊。
「怒ってるじゃないか」
「…………」
精霊は黙ってしまう。しかし、数瞬の後。
「だって悔しいんですもの。あの子たちより私の方が先にあなたを見つけてたのに……ここに来たころから知ってるのに」
「俺が精霊を見えるようになったのは最近でな、気付いてやれなくてすまん」
俺は頭を下げる。
「えっ、何で?」
「ん? 俺が気付けなかったからだろ? だからすまん」
「えっ、でも、私が近寄らなかっただけだし……」
「じゃあ、なんで?」
「あの子、仲間に入りたいんじゃないですか?」
エンが出てきた。
「そうなの?」
「えっ、ちょっと苦労してそうだから、てっ手伝ってあげようかと……」
図星だったのか動揺が凄い。
「じゃあ、手伝ってくれる?」
ぱっと明るくなる精霊。
「仕方ないわね、手伝ってあげるわ」
嬉々として何かをしようとしたので。
「おーい、何するつもりだ?」
「えっ、木が邪魔なんでしょ? 引き抜こうかと? そこの木でやってみようか?」
「ああ、頼む」
精霊が魔力を纏うと、木が揺れ地面がむくむくと動く。そして木が根が全部見えるところまで持ちあがるとコテンと倒れた。
「おお、根っこの処理が要らない。凄いな!」
「でしょう? 私が居ると便利なのよ。任せて! ここら辺全部抜いておくから」
おぉ、胸を張ってるぞ?
「おいおい、ちょっと待て!区分けをしてからだ」
俺はスイ、精霊と大体の枠の相談をし、アントたちの蜜用の畑、小麦用の畑、グランドキャトルの牛舎と放牧用の平原、居住用の平地を大体で割り振り畑の周囲には防風林として木が残るようにした。
精霊に声をかけられた。
「あの子って『スイ』って言うの?」
「そうだが? 『水の精霊』って呼び辛いだろ?」
「私は『精霊』って呼んでるけど……呼び辛くないの?」
「ん? 大丈夫」
「そう……」
名前が欲しいのかな?
「名前付けてやろうか?」
そう言うと、精霊は俺をチラチラと見る。
「えっ、あっあなたがどうしてもって言うなら、名前を貰ってあげるわよ!」
「要らないんならいいけど?」
「えっ、要らないって言ってないでしょ? あなたは私に名前を付けたいんじゃないの?」
「いや、精霊でわかるから、別に要らないかなと……」
あっ、やばっ、ちょっと涙目。
「名前ちょうだいよ!羨ましいのよ!」
顔を伏せ、泣きながら言う精霊。
素直に言えばいいのに……。
「『クレイ』でいいか?」
ぱっと顔を上げ、精霊は俺を見る。
「名前……くれるの?」
「ああ、やる。『要らないのか?』って言ったらお前また泣くだろ? 女の子の涙は苦手だ」
「じゃあ意地悪しなきゃいいのに……。でも、ありがと」
そう言って抱きつく。そして地の精霊の名はクレイになったのだった。
開拓は順調に進む。
予定の範囲内、一部防風林として残してはいたが、ほぼ全域から木が無くなり、石や岩そして土だけに変わる。
クレイが引き抜いてくれた木を俺は広々とした土地に集めたのだが。
うず高く積まれた木を見て、
「これどうするかなぁ……一応カバンに収納しておくか……」
収納カバンに入れておく。
量が半端ないね、後で製材しておくか……。
空を見上げると日も高くなっていた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




