戦いの後の朝
誤字脱字の指摘、非常に助かっております。
夜が明け目が覚める。いつもより少し時間が早い。
俺はさっさと風呂に入って寝たので清々しい寝起きではあるが、一階ではどんな戦いがあったのだろう……。服を着替え恐る恐る降りてみた。
上からリビングをのぞいてみるとリードラが潰れている。
「おっおはよう……」
そこに残る女性を見て少し恐れを感じてしまった。
「あなた、おはよう」
最後まで残っていたのはノーラだったのだ。十六歳がリードラに勝った……。そういえば前にイングリッドもリードラとともに起きていたから魔族というのは酒が強いのかもしれない……にしてもだ。
「ノーラ、お前酔ってないの?」
「そうですね酔っていますが前後不覚になるほどではないですね」
リードラが薄目を開けた。
「主よ! そ奴はザルじゃ! 火酒の樽を半分空けよった!」
そう叫ぶと再び目を瞑った。
あーあ、リードラが潰れたら俺しか運ぶ奴いないだろ……。
「まだ飲む?」
ノーラに聞くと、
「このお酒が美味しかったので、ずっと飲んでいました。でももう夜も明けましたから、仕事に支障が出てもいけませんので止めますね。こっちの片づけは私がやりますから、あなたは潰れた人を寝室に連れて行ってください」
おぉ、ノーラができる女に見える。いや、実際できる女なのかもしれない。
「ノーラ、ちょっと来い」
ノーラが俺の前に来る。
目を瞑って待つ……。
「ノーラ、違うぞ? キスではない」
「えっ、違うのですか?」
酔いがあるのか? そんな期待をされてもな。
俺は、二日酔いからの回復魔法をかける。
「あっ、ダルさがなくなった」
「本当は二日酔いの防止用なんだが酔いにも効くみたいなんでな。今日仕事だろ? 頑張ってな」
ワシワシと頭を撫でた。
そう言えば潰れている人数が足りない。
「ラウラとカリーネは?」
「明日に差し支えてもいけないからとある程度飲んで、部屋に行きました」
「二人はえらいな」
俺がそう言うと、
「私は負けたくなかったので飲んでしまいました。お酒の強い女は嫌いですか?」
「いいや? 潰れないだけで酔うんだろ? だったらいいんじゃないかな?」
ノーラはほっとした表情で
「良かった」
と言った。
「で、誰が一番に潰れた? クリスあたりかな?」
「正解です。なぜわかるんですか?」
「ああ、クリスは意地っ張りだからな。酒も弱いけど張り合っちゃうみたいだ。ついでにジャンケンも弱い。あんまり運のいい女じゃないな。だから、気になるんだろうね」
「私は? 気になりませんか?」
ノーラがシュンとする。
「気にならなければ後見人など受けないよ。刺された時から気にはなってた」
俺はニヤリと笑う。
「それは言わないでください……意地悪です。もう……」
プクリと膨れる。
「まあ、そんだけ気になるんだよ」
そう言うとノーラから離れ、潰れた者たちを寝室に連れて行った。
六人というと結構時間がかかったが、ちゃんと二日酔い回復魔法もかけ眠らせる。
それぞれを寝かせ、一階に降りてきたとき
「おはようございます。話は聞いております。まずは起きそうな方の分だけを作りますね」
サラが声をかけてきた。
「そうだな、温かい食事のほうが良いだろうから、手間だろうが起きたら作ってやってくれ」
「わかりました。マサヨシ様では何名分作りましょうか」
「俺、アイナ、カリーネ、エリス、ラウラ、ノーラの六名だ」
「わかりました、しばらくかかると思います。リビングでお待ちください」
サラが調理場に向かった。
俺はリビングのソファーに座る。
先にサラに会ったのかな、片づけを終えノーラはソファーで仮眠をとっているようだ。
可愛い寝顔を見てしまう
横顔を見ていると、視線を感じたのか目が開いた。
「私を見ていたのですか?」
「ああ、寝顔が可愛くてね」
顔が真っ赤になり、ソファーの背の部分に顔を埋める。
「言い訳になりますが、館の外で寝室以外の場所で寝たりするのは初めてです。それだけ居心地がいいんだと思います」
ノーラは顔を埋めながらそう言った。
食材が切られる音やフライパンや鍋の動く音、そして準備される皿の音が聞こえる。
その音に誘われるように、カリーネ親子、アイナ、ラウラが起きてきた。
「おはようさん」
「「「「おはよう(ございます)」」」」
「さて、誰が最後まで残ったのかしら?」
カリーネがニヤニヤしていた。
「なんと、ノーラだったよ」
「まあすごい、リードラを破るとはなかなかね」
「皆さんに負けたくなかったので……」
ちょっと恥ずかしそうなノーラ。
「カリーネは早々に退出していたらしいが?」
意地悪く言ってみたが、
「私は大人の女でしょ? 仕事も考えるのよ。考えなくてもいいように結婚退職させてくれる?」
カリーネのほうが一枚上手のようで、うまく返される。
「そうだなぁ、結婚はクリスのことが片付いてからかな」
「婚約は?」
「今日覚えてたら仕事終わりごろ、夕方ごろかな? ギルドに行くよ。そん時かな? 忘れてたらすまん」
「えっ、今日。って、忘れるかもしれないのが前提なんてひどいわね」
カリーネの口角が上がる。
「でも二人だけの時のほうがいいだろ?」
「ほっ、本気で今日なんだ……」
「遊びだと?」
「えっ、でも……まぁ、待ってるわね」
ちょっと取り乱したようだった。
朝食を終えたあと、
「ラウラ、これ渡しておくぞ。ローズシルバーだったっけ?」
俺はリビングの机の上に鎧を置いた。
「本当にこれをもらっていいのですか?」
「それ着て王都騎士団で目立ってもらおうか。ただ、お前は部下を殺された身だ、オークレーン侯爵の息子からいろいろ言われるかもしれないが無視しろ。第三中隊なら逆に『この前強請られた』って言ってやれ」
「はい」
「それで手を出してきても俺が何とかする。捕まっても何とかしてやる」
「わかりました、安心して囮になります」
「囮のつもりはないんだがね。まあ、何があっても何とかするさ」
とは言ったものの……。
「フウは移動能力が高いと思ってるんだけど、どのくらいの速さで動ける?」
「音を追い越すことはできないけど、それよりちょっと遅いくらい。マサヨシの精霊の中では一番」
「音は追い越せないか……でもそれに近いなら扉が無くても俺の所まですぐ来れるな」
フウはコクリと頷く。
「フウ悪いんだが、しばらく騎士団に行くときはラウラの護衛に付いていてもらえないか? 何かあったら俺の所まで報告に来てくれ。何とかするから」
「ん、わかった」
こっそりフウにラウラの護衛を任せておく。
俺はラウラが鎧に着替えバストル家に行くのを見届けた。
「じゃあ、待ってるわねぇ~」
とカリーネも冒険者ギルドへ出勤。
「私も執務してきます」
ノーラは館へ。
「エリスちゃんあそぼ」
「はい」
アイナとエリスは外へ。
そして俺は一人になった。
さあ、何をしよう。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




