とりあえずやりたいこと
誤字脱字の指摘、助かっております。
「さて、自己紹介も終わったので、今俺がしたいと思っていることを話したい。いいかな?」
「ああ、さっきの話じゃな?」
リードラが聞いてきた。
「そうだ、まだ聞いていないのは、カリーネとノーラか……。他のメンバーにも全部言ったわけじゃないから最初から言うぞ」
皆が頷く。
「まず、この屋敷と牧場の周辺を開拓する許可をもらった」
「確か、『孤児院を作りたい』って言ってたわね」
クリスが言う。
俺は頷くと、
「今日、ドロアーテに行ったときやっぱり孤児が多かったんだ。去年はサラ、タロス、テロフの三人を手伝いとして家に入れたが、今の家の状態では子供を入れることができない。ゴブリン討伐でこっちに来た冒険者やエルフも使用人用の部屋に入れたからな。それでも足りないんだけど……。だから周囲を開拓して孤児院としての建物そして職業訓練用の施設を作ります」
「職業訓練をするとして、先生はどうするの?」
「カリーネ、とりあえず鍛冶職人のドランさんとメルさん夫婦が来る予定。ドランさんはそのまんま鍛冶だな、メルさんには店での接客なんかを教えてもらおうかと思ってる」
「建物は?」
と、イングリッドが言う。
「クリスに悪いんだけど、クリスの母ちゃんの屋敷を改造させてもらおうかと思ってる。盗賊の根城になっていたやつだ。後出しみたいになったけど、クリス使わせてもらっていいか?」
「いいわよ、どうせあのまま放っておいても、朽ちるか再び盗賊の根城になるだけだったんだから。有効活用して」
「ありがとうクリス」
「イングリッド殿下に聞いたのですが、美味しいお菓子ができるかもしれないとか」
ノーラが手を上げて発言した。
「その件か。お菓子は、結果そうなるかもしれないってところだね。まず、この孤児院は善意で作るつもりはないんだ。俺は読み書き計算と職業に触れる機会を提供して、その代わりに働いてもらう。当然給料は出すぞ? 一人前になった時、金がないんじゃ仕方ないだろ? 一人前になれば外に出てもいいしそのまま、働き続けてもらっててもいいと思ってる」
「はい、それはいいことだと思いますが、それとお菓子がつながりません」
「そうだよな。でだ、ノーラ、イングリッド、通夜で出したあの菓子、どうだった? 美味かったか?」
「サクサクして手が進みましたね」
「はいマサヨシさん、今まで食べたことのないお菓子でした」
目を輝かせるノーラとイングリッド。
「売ってたら買う?」
「はい、私は買います。少々高くても並んで買うんじゃないでしょうか? 材料がコカトリスの卵ですから余計かもしれませんね」
イングリッドが顎に手を当て考えながら言った。
「希少性のある材料を安価で手に入れて製造すれば安く作れる。それを高く売れば孤児院が自活できないかね」
「あっできる。あなたならこの家で作ったものを、欲しがる人が多い場所、つまり王都へ持っていくことができます」
「だから、マサヨシさんは作り方を教えなかったのね」
二人が驚く。
「そういう事……と言いたいところだが『お金になるかなあ』と思っていただけだ。孤児院のほうがあとだね。でも甘味の材料をこの農場周辺で作ることができれば、それこそ扉なんてなくても楽ができるし、材料の数が増えれば同じものでももっとおいしいお菓子になったり別のお菓子ができたりする。そうすれば収入が増える。そうやって最終的には俺が手を入れなくても勝手にやってくれる孤児院になってくれればいいと思ってる。小麦粉と卵はあるから、あとはグランドキャトルの乳と砂糖が必要だ」
「もっとおいしいお菓子と新しいお菓子……グランドキャトルの事はお任せください、私が手に入れます」
イングリッドが胸を張る。
「あなた、侯爵領にもグランドキャトルが居ると思います。イングリッド殿下に声をかけてもらえれば、探しますよ? ですから、新しいお菓子を……」
二人ともやる気満々。お菓子のため? 俺のため? どっちなんだろ。
「あとは砂糖なんだよなぁ……糖分の高い植物があればいいんだが、見つかりづらいだろうし……。みんな何か知らない?」
「マサヨシ様、よろしいでしょうか?」
マールが手を上げる。
「何かある?」
「アリ系のモンスターの中に、ハニーアントという蜜を集めるものが居ると聞いたことがあります。ハチ系よりも癖がないそうです。その蜜を使ってみてはどうでしょうか?」
「マール、物知りだな」
「えっええ、お父様に聞いたことがあります」
ちょっと照れたかな?
「そんな蟻が居るのなら隷属させられないだろうか?」
「可能です。女王アリを隷属させてアリに働かせ蜜を採集させることができるはずです」
「だったら女王蜂を隷属させるのもいいかもしれない。両方の甘味料が手に入る」
「そうですね、味の種類ができると幅が広がりますから」
マールが同意した。
フィナが手を上げる。
「しかしご主人様アリは巣が必要ですよ? その辺はどうしますか?」
「その辺は考えてなかったけどまあ何とかするさ」
「あと、花畑も必要です。蜜を集めなければいけませんから」
「意外と難しいんだな」
「そうですね」
「巣かぁ、当然地下だろうな。花畑は地上か……。ん?」
ふと考えがよぎった、これは後でチェックだな。
カリーネが手を上げる。
「どうしたカリーネ」
「マサヨシ、冒険者ギルドと連携して親の冒険者がなくなった場合引き取り手が無ければ、ここにあずかるという流れにしたらどう?」
「それはいいと思う。ただな、まだ孤児院自体が成功したわけじゃない。信用がない所に子供を預けようと思わないだろうな」
「そうね、まずはここで成功させなければいけない訳か……」
「そう、成功させ軌道に乗せる。『ここに預ければ』とか『ここに来れば』安心という雰囲気を作る。冒険者ギルドと連携するのはそれからでいいと思う。だからといって、孤児になった子を受け入れないってわけではないけどね」
「わかったわ、その時になったら言って、ギルドと繋ぐから」
「おう、その時は頼む」
「とりあえず今やろうと思っていることはこれぐらいかな?」
「これぐらいって言うけど結構な量があるわよ? まあ、マサヨシならやっちゃいそうだけど」
やれやれという感じでクリスに言われた。
「何もしないよりはいいだろ? というわけで明日から開拓を開始します。仕事がある者は仕事に行く事。イングリッドはラウラの書類を忘れないようにな」
「はい、ラウラさんに既に渡してあります」
「はい、貰ってます」
封がされた書類を出すラウラ。
「以上だけど何かある?」
特に誰も意見しなかった。
ん? 何かを待っている?
「じゃあ、皆始めようか」
カリーネが仕切りだした。
やっぱり姐さんじゃん……。
ああ、宴が始まる。
俺は火酒を一樽と冷やしたエールを出す。
机の上にはジャーキーなどのつまみ。
「アイナ、エリス、一緒に風呂に入って寝るぞ? お前らはまだ早い」
俺が一緒に入ると聞いて、アイナもエリスもいそいそと付いてくる。
「屍は俺が拾ってやる。みんな程々にな」
そう言って、アイナとエリスと三人で風呂に向かうのであった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




