今更自己紹介(ラウラ、イングリッド、ノーラ)
誤字脱字の指摘、助かっております。
「次は私です。名前はラウラ・バストル。二十歳。ヘルゲ・バストル伯爵の娘。王都騎士団の第一中隊中隊長です。」
緊張しているのかな?ちょっと手が震えている。
「普通の貴族の娘は十二歳で成人すれば婚約、十五歳には結婚、そして出産という流れがありますが、父上はあまり気にしていなかったようです。そのせいか『二十歳になっても浮いた話さえ無い』ということで鋼鉄の処女と言われていました。私がマサヨシ殿と出会ったのはフォランカへイングリッド殿下を護衛していた時、盗賊に襲われていたのを助けてもらったのが最初です。リードラ殿に乗ったマサヨシ殿が助けてくれました。フォランカで再び出会ったのですが、私の態度に気を悪くしたマサヨシ殿は私が脅しに使っていたレイピアを折り、そのまま去っていく……その時『この人には勝てない』と思いました。騎士団でも、父上以外で私に勝てる者は居なかった。そしてその強さに惹かれ始めた……。そしてゼファードで試合をしましたが何もできずに負けです。その後『俺が折ったレイピアの代わりだから』と私にミスリルのレイピアを渡してくれたのですが、もうダメでしたね。男に免疫がなかったのかもしれません。でも『この人じゃないと……』って思ってしまいました。その後ヒューホルムでのゴブリン襲撃時に私のすべてを見られた……。バストル家の『バストル家の女子は夫となる者以外の男子に裸を見せてはならない』という家訓を盾にこの家に転がり込みました。もう、父上にも結婚の許可をもらっていますので、そのまま妻になります」
「ラウラよ、お前の自己紹介なのに、ラウラが主に惚れていく過程を話してどうする?」
「えっ、ああ、はい……」
リードラが突っ込みを入れると真っ赤になるラウラ。
進まなくなったので、
「じゃあ、ラウラへの質問は?」
と俺がフォローしておく。
「では私が」
ノーラが手を上げる。
「ラウラさんは二十歳になるまで気になる男性に出会うことは無かったのですか? その容貌なら声がかかることも多かったと思うのですが……」
「私が気になった男性は全て私より年上それも三十近くでした。剣の腕が良く私より強かったですね。それは剣の腕にあこがれたということだったんだと思います。倒してしまうと興味がなくなりましたから……。好きという感情を感じたのはマサヨシ様が初めてですね。私の理想は父上でしたから、マサヨシ殿はそれに近かったんだと思います」
「あなたもお父様が好き?」
ノーラが食いつく。
「はい!父上が好きです!」
ラウラが即答で返す。
こいつもファザコンだったか……。
「お父様いいわよねぇ……」
「そう、あの威厳が……」
などと同種同士の会話が弾む。
「おーいラウラ、俺が『ヘルゲ様に近い』と言っていたが、どこがだ?」
ハッと気づいて
「そうですね、恰幅の良さ、強さ、そして優しさですね」
とラウラは言った。
あっ、忘れてた。
「ああ、言い忘れていたが、俺、擬態しているから……。これ本当の姿じゃないからな」
俺は精霊たちに離れるように言う。
すると、メタボリックな体から脂肪が消え昔の鍛えていた頃の姿が現れた。黒髪に普通の顔はあまり変わらないかな?
見たことのないラウラ、イングリッド、ノーラの三人は固まる。
「今まで接してきた人たちが俺の痩せた姿を知らないんだ。だから擬態して通してきたんだが……。もっと早く見せておけば良かったかもしれない」
「あなた、これは? この筋肉は何!」
ノーラが詰め寄ってきた。ペタペタと俺の体に触る。
「んー、元妻に呪いをかけられてこの世界に来たって言ったよな」
「はい、聞きました」
「その時、元妻が俺だってわかるために付けた条件が太っている事だったんだ。結婚したときはさっきみたいな太った体型だったからね。そして元妻を倒して呪いが解け二十二歳の時の俺の体に戻ったんだ」
「こんな体なのに、隠すのですか?」
「見せて楽しむ趣味もないしな。『近しい人が知っていればいい』と思った訳だ。それに太っているということは能力が劣るって考える人が多い。冒険者には顕著だね。だから、わざと太っていることにした。敵じゃないと思われるためにね」
「もったいない。ということは、この姿を見るのはご褒美なのですね」
「ご褒美?」
なんだそりゃ?
「これほどの筋肉……惚れなおしました……」
意味が分からない。
ペタペタと触る。
それほどでもないと思うが……
「お前、筋肉好き?」
「えっ、いや、筋肉が好きというわけではなく……昔お父様もあなたのように鍛えられておりまして……よく触らせてもらっていました。私が好むのはガチガチの筋肉ではなく、良く絞られ必要最小限の無駄のない筋肉です。マサヨシ様の姿はお父様に近く……」
語りだすノーラ。
筋肉フェチなファザコン……フィリップ、要素が増えたぞ。
「これはお忍びで動く時には便利だと思うので口外しないで欲しい」
そう言って精霊を呼び寄せ元に戻る。
「ご褒美がぁ……」
泣きそうな顔をするノーラ。
大丈夫かお前……。
大分逸れたな。
「ゴホン、次は私です」
イングリッドが話し始める。
「私は魔族の国の王女イングリッド・レーヴェンヒェルム。十六歳です。気軽にイングリッドと呼んでください。えーっと、私がマサヨシさんに会ったのは去年ですね。まだ成長期が来ていなかったので小さな女の子だった頃です。私が何者かに追われていた時に助けてもらいました。その後はフォランカ、ヒューホルムで助けてもらってます。お父様にも婚約の許可を貰いましたからここで住みますね。何か質問は?」
「私が言うのも何だけど、何の権力もない男に王女なんて大丈夫なの?」
そう聞くクリスに
「それは問題ありません。お父様の『勘』がそう言っているそうです。お判りでしょうが、下手な国に嫁ぐよりも、マサヨシさんの方へ嫁ぐほうが私としても国としてもいいと思いませんか?」
イングリッドが答えた。
「まあ、そうね、下手な国家よりマサヨシのほうが強いしね」
クリスも同意する。
「そうそう、そういう事」
二人で話が弾む。
俺って国家より強い……かもしれないなぁ……。
「最後は私ね、一番の新参者ですが負けませんから」
何の勝負だ?
「私の名前はノーラ・ノルデン侯爵。十六歳。私の父は魔族の国への罪で自害しましたがその際、マサヨシ様が後見人になる事とその後侯爵家への婿入りが決まりました」
「ご主人様が婿入りするのが決まったとはどういうことですか?」
フィナが聞く。
「ああ、魔族の国では罪人が自害など死刑になる際に願いを一つ聞くの。その最後の願いでマサヨシの後見人と婿入りが決まったって訳」
イングリッドがフィナに解説した。
「マサヨシ様、優しいですから……仕方ないですね」
フィナがため息をつきながら言う。
「そう。葬儀の手際が悪く私が恥をかきそうなところを助けてくれた。『お父様との約束』だとは言うけど当たり前のように優しく包んでくれる。だから私は父の遺言を受け入れた。私がマサヨシと一緒に居たくなったから」
ノーラが恥ずかしそうに言う。
「全部の話聞いたけど、マサヨシが悪い」
急にアイナがしゃべりだす。
「何でだアイナ?」
「マサヨシは優しすぎる」
アイナが俺を見上げながら言った。
「俺が優しいのは気に入った奴だけだぞ?」
「でも、マサヨシ、優しいことした女性のその後は気になるでしょ?」
「まあ、そりゃな……」
「気になったら手助けして、もっと気になるでしょ?」
「ふむ、そうかもしれない」
「結局、気に入った奴になる」
「そう言われてみればそうか……」
「で、その女性もマサヨシの事が好きになる」
「そう?」
俺が皆を見ると、大きくウンウンと頷く。
「だからマサヨシが悪い」
「そうなるか? ならアイナ、俺は皆に優しくしないほうがいいって訳だな?」
俺は意地悪に言ったつもりだったが、
「それはダメ、マサヨシは私たちにそう思わせた『責任』を取らないといけない。だから優しくする」
アイナに「責任」を強調され上手く返される。
おっと、ほかの皆も頷いてるし……。
「要はお前らには優しくしろって事?」
「そういう事」
「俺、お前らに優しくしてないか?」
俺が首をかしげて聞くと、
「本当はね優しいから今まで通りでいいよ」
そう言うと、アイナはイタズラが成功した嬉しそうな顔で笑った。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




