前説
誤字脱字の指摘、助かっております。
ギルドマスターの部屋に入ると扉を閉める。
「マサヨシ、何しに来たの!」
ギルドマスターの机で椅子に座っていたカリーネ。
椅子を蹴飛ばし立ち上がった。
「ちょっと逃げてきた」
カリーネはちょっと怒った顔をすると、
「私の部屋を逃げ場にしないように」
と言った。
「すみません……」
「で、何があったの?」
「いろいろ……だな」
「まあ、主に女絡みなんでしょうけど……」
鋭い……。
「反論できません……」
「私に言っておくことは無い?」
「一人増えます。ノーラ・ノルデン侯爵」
「マサヨシだから仕方ないわね……」
ヤレヤレって感じだね。
「『俺だから』って理由で終わるんだ……」
「だって、私もそのうちの一人だし……。ちゃんと気にしてくれてればいいわよ」
「ありがとう」
「何で? ありがとう?」
不思議そうなカリーネ。
「いや、『俺の事見てくれてるんだなぁ』って思ってね」
「見ないはずないじゃない、見てないと皆に負けるんだから」
そういう事なのね。
「まあ、好きじゃないと見ないけどね」
椅子に座りながらサラリと言った。
「でさ、カリーネ」
「ん? 何?」
「一度全員揃えて、自己紹介しようかなと……」
「いいわね、お酒出るんでしょ?」
カリーネが手でお猪口を作ってクイッとやる。
「出さないといけない?」
「当然出すでしょう? 本音出ないじゃない」
「潰れた者の後始末は?」
「あなたとリードラが居るでしょ」
「俺は始末係かね?」
「飲みに関わりたくないくせに……」
お見通しですな。
「火酒とエール、果実水ぐらいは準備しておきますかね……」
「後、ジャーキーもね」
「はいはい……。こりゃ徹夜だな」
「当たり前でしょ? 本性を知りたければ飲むに限る。あのイングリッドも豹変したんでしょ? リードラから聞いたわよ?」
「こわっ。そこら辺は情報共有できているんだな」
「ふふっ」笑うカリーネだった。
「ノーラ・ノルデン侯爵だったっけ? 行ってあげて」
「えっ」
「今日呼ぶんでしょ?」
「まあ、呼ぶけど……」
「あの八人に囲まれる……んー、威圧感半端ないね。カリーネ込みで」
「私は入れなくていいのよ、いいお姉さんの位置に行くんだから」
位置なんだ……。
「姉さんと言うより姐さんだな……」
俺はボソリという。
「姐さんじゃない! お姉さん! 早く行ってきな!」
「やっぱり姐さんじゃないか!」
そう言うと、扉でノーラの部屋へ移動した。
おっと、誰も居ないね。
急に俺がノーラの部屋から出てきたらただの変な奴なので、ノルデン侯爵の館の前に場所を変えた。
俺は玄関をノックし人を呼ぶ。
すると、家令が俺に近づいてきた。
「マサヨシ様、何か用事でも?」
「悪い、ノーラ居るか?」
「ノーラ様なら、執務室に居られますが」
「今会える?」
「大丈夫だと思います」
俺は家令に付いて執務室へ向かった。
家令はノックすると
「何か?」
というノーラの声が聞こえた。
「マサヨシ様がいらっしゃいましたが、どうしますか?」
ガタン、と音がすると、
「入ってもらって」
ノーラが家令に返す。
俺は扉を開け、執務室の中に入った。
黒いビジネススーツのような服を着たノーラが居た。
できる女性若社長?
「予定より早く来たんだけど……」
「何かあったんですか?」
「今晩だが、俺の家に来ないか?」
「えっ、夜ですか?」
頬を染めるノーラ。
「いやいや、何もしないから。仕事が終わったころに皆で集まって自己紹介しようって話になっただけだ」
「何もないのですか……残念。でも、候補の方たちと話し合うのも必要ですね。負けてられませんから」
何の勝負なんだ?
「俺としては仲良くやってもらえれば問題ないかな。あっ、自己紹介のあとは朝まで飲み会になるから覚悟しておいてもらえれば」
「飲酒ですね、任せておいてください」
変な自信を感じる……。
「今日の仕事は?」
「そうですね、この書類にサインをしたら終わりです」
書類の束が机の上にあった。
「じゃあ終わるまで外に出ているよ」
「はい、わかりました」
執務室を出て館の中を歩いていると、
「マサヨシ様、お帰りになるので?」
家令が現れた。
「いや、書類のサイン待ち」
「そうですか」
「そうだ、一つ聞いていいか?」
「何でしょうか?」
「要らない扉ってある?」
「扉ですか? 何に使うのでしょう?」
「ノーラのために作りたいものがある」
「ノーラ様のためですか……でしたらこちらへ」
家令に連れられ倉庫らしき所へ行くと、そこには、数十枚の扉が転がっていた。
「これは三代前の当主が館を建て替えた時に要らなくなった扉だそうです。『扉の造形が素晴らしく使えそうだから』と残したと聞きます。めったに無い事ですが、扉が壊されたときの代用としても使えますから……」
家令が言う通り扉には見事な装飾が施されていた。今の奴よりいいモノもありそうだ。
「これは使っていい奴なのか?」
「はい、建て替えなど、百年程度は無いでしょう。その時には今の扉が取り外されてここに入ることになると思います」
「じゃあ、十枚ほど貰うな」
俺は収納カバンに扉を入れた。
「はい、十枚と言わず全部でもいいですよ」
俺の事を聞いていたのか、収納カバンにノーリアクションな家令。
「ノーラには言わなくていいのか?」
「マサヨシ様から言っておいていただければ……今晩は色々あるようですから……」
なんだその意味深な言い方は……。
「俺は何もしないぞ?」
「またまたぁ」
そのニヤニヤをやめろ。
「まあ、今日は、ノーラを俺の家に連れて行くから、帰りは明日の朝になると思う」
「はい、この家の者一同で期待してお待ちしています。来年にはお子の顔が見れますかな?」
「何もしないって」
「またまたぁ」
またニヤニヤだ……。
あっ、ループしてる。
「マサヨシ様」
「えっ、おお、何だ?」
メイドがやってきた。
「ノーラ様がお呼びです」
無限ループ脱出成功。
「貴方のお陰で助かりました」
俺が礼を言うと。
「?」メイドは意味が分からないようだった。
「それじゃ、ノーラのところに行ってくる」
俺が執務室に向かおうとすると、
「期待してますよぉ」
と家令の声が背後に聞こえたが無視をした。
俺は執務室をノックし中に入る。
「待たせたな」
「こちらこそお待たせしました」
机の片づけをしているノーラが居た。
「お前の部屋に行っていいか?」
「えっ、今からですか……。湯浴みもしてませんし……心の準備も……」
頬が赤い。ん? リアクションが違う。
「いやいやいや、ただお前の部屋に行きたいだけで、何もしないぞ?」
「えっ」
更にノーラが赤くなる。
「でっでは、私の部屋へ行きましょう」
モジモジしながら前を進むノーラに俺は付いていった。
ノーラの部屋に入ると、
早速扉を出す。
おお、さすが侯爵家の扉、重厚だ。
俺は魔石を取り付け座標を魔力と共に注入した。
「あなた、何をやっているのですか?」
「ああ、俺の家との直通の扉を作ってた」
「えっ、いつでもあなたの家に行けると?」
「そういうこと。使用者の登録は必要だけどね」
「はい、できた。開けると……扉の部屋だね。じゃあ登録」
俺はノーラの手を持ちノブに触る。
「はい、登録完了。開けてみて」
恐る恐るドアを開けるノーラ。扉の向こう側には俺が作った三枚の転移の扉が並んでいた。
「あなたは凄いのですね。転移の魔法は聞いたことがありますが、魔道具にするなど……。ただ、私の魔力がごっそり吸いとられました」
「あっ悪い。蓄魔池に繋いでなかったから、ノーラの魔力を使ってしまったんだな。すまん」
俺は扉の部屋に行くと早速魔石で線を作り扉と蓄魔池とを繋ぐ。
「これで、ノーラの魔力なしでも開くだろう」
「ちょっとフラフラしますね」
俺は、ノーラをお姫様抱っこで抱き上げる。
「えっ」と驚くノーラ
嫌がってはいないようだ。
リビングにつくと、皆に見られる。
「あら、良いわね。お姫様抱っこなんて」
クリスがちょっと嫌味を言う。
小姑かお前……。
「俺のミスだからあまり言うな。転移の扉を蓄魔池に繋ぐのを忘れていたんだ。扉を使った時に魔力を吸い取られて、魔力欠乏状態になった……」
そう言いながら、ソファーへ寝かせた。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。




